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12.ストーカー、魔法の便利さに気付く。

 助けられた身ではあるが、本当に大丈夫だろうか――身体をぴったりと覆う黒の衣服で身を包み、腰に下げた二丁拳銃の確認をするラザラスを影から見守りながらロゼッタは息を呑む。


(竜人密売人専門の、戦闘員ってことかな……)


 数時間前、仕事を終えたばかりのラザラスの元に電話が掛かってきた。相手はルーシオで、「竜人絡みじゃないが出てくれないか?」という話……要は、出動要請だった。


 その言い方からして、ラザラスは竜人絡みでなければ基本的に動かないのだろう。

 ラザラスはまだこの世界に飛び込んでからの日数が浅いようであったから、周りが気に掛けてそのようにしている可能性が高い。事実、ルーシオは妙にラザラスの様子を伺っていた。


 つまり、ロゼッタがラザラスに助けられたのは、彼女が竜人であったからである……運命的なものを感じ、ロゼッタは顔を赤く染め、両頬を手で覆う。


(竜人で良かったって、初めて思ったかも……っ)


――幸か不幸か、ロゼッタはかなりのプラス思考であった。



「ラズ君、準備出来たかい?」


 ドアがノックされ、クィールが部屋に入ってきた。流石にシスター服では動きにくいのか、彼女もラザラスと同じ衣服に着替えている。こちらは刀を腰に下げていたが。


 黒装束、さらには武装と二人揃って間違っても一般の方には見えない外見になってしまったせいで、暗闇にでも紛れなければ非常に目立ちそうだ。職質待ったなしである。

 しかし、美男美女(?)コンビ故に妙に様になっていて怖い。そんな二人を眺めながら、ロゼッタは「ペアルック良いなぁ!!!」と凄まじくどうでも良いことを考えていた。


「ん……もうちょっと、かな。拳銃、片方詰まってる感じがする……?」


「見せて」


 ラザラスから拳銃を受け取り、クィールは慣れた手付きで拳銃をバラしていく。異物を取り除いた後、彼女は再び拳銃を組立ててラザラスにそれを返した。


「昨日、私は別所行ってたから訓練見てなかったんだけど……魔法弾、不発させたでしょ」


「はい……」


「やっぱりね。はは、これから行く先で不発させないように、頑張って?」


 クィールは見ていないが、ロゼッタはバッチリその様子を見ていた。


 魔法の飛距離不足を解消するためにラザラスは銃弾に炎魔法【火球】を付与させて撃つのだが、何故か銃弾が銃の内部で砕けてしまうことがあるのだ。「一体どんな付与をしたらそうなるのか」と皆が頭を抱える謎現象は、十回に一回くらいの頻度で発生する。


……結構多い気がするのだが、大丈夫なのだろうか。



「魔法付与しなければ、撃てるんだけどな」


「早く慣れてね……銃には異様な速さで慣れてくれたか良かったけど……」


 誰かのお下がりなのか傷が目立つゴーグルを首に下げ、ラザラスはベランダに出たクィールに笑い掛ける。クィールは落下防止の柵の外側で翼を動かしていた。


「じゃあ、早速行こうか……今回は上陸前に裏口に火球をぶち込んでもらうよ。ルーシオさんから裏口の警備が強固って聞いてるから、フェイントにね」


「はは、正面突破するのか。了解、了解……火球は、頑張る」


「頑張れ……」


 実はラザラス、ALIAの仕事が終わって帰る間もなく屋上でクィールに回収されて放送局近くの高層マンションの一室にやってきているのだ。


 キメラドール故かクィールは怪力で、ラザラスを軽々と持ち上げて大空を飛ぶことが出来るのである。


(ええと……この服装なら、ポケットがあるね!)


 ロゼッタはラザラスとクィールの意識が別の場所に向いているタイミングを見計らい、ラザラスの胸ポケット内部に飛んだ。


 クィールによる上空移動はロゼッタ的には極めて厄介で、影とラザラスが離れてしまうために小さくとも影になる場所を大急ぎで探さなければならないのだ――ちなみに行きは「背に腹は代えられないよね!」と謎理論でラザラスの服の中に侵入した。勿論ラザラスは気付いていない。


 ベランダの柵に上り、ラザラスはクィールに手を伸ばす。そして柵を蹴れば、全体重をクィールに預ける形で宙に浮かんだ。


 この一室は地上からかなり離れた場所で、落ちればひとたまりもない。しかし慣れているのか、クィールを信頼しているのか、ラザラスの心音は穏やかなものであった。そしてロゼッタも風魔法頼りで空を飛ぶことは出来るので、特に恐怖は感じていない。


(今回は一角獣さん、だっけ……一角獣さんも珍しいもんね。数が多いとかいう話してたなぁ……)


 機密事項が部外者のストーカーにダダ漏れなのだが、残念ながら今のところ誰も気付いていない。


 ロゼッタが外部に情報を漏らす人間ではなかったことが幸いしたようだ……こうなってくるとユウ達のセキュリティが怪しくなってくるのだが、ロゼッタが『規格外』なだけで、彼らは割と万全のセキュリティ体制を取っている。


 あくまでも、『ロゼッタが規格外』なのだ。


(それにしても、色んな魔法使えるって便利だなぁ。やろうと思えば大体のこと出来るみたいだし、魔法万歳って感じ)


 魔法を使う機会にそこまで恵まれなかった筈のロゼッタなのだが、【魔法創造】で色々やっているうちに、うっかり便利な魔法を生み出してしまったのだ――それが【魔法鑑定】である。


 魔法鑑定はロゼッタの目的に合わせ、使用出来る魔法、応用出来る魔法、魔法創造で生み出せる魔法を頭の中に浮かび上がらせてくれる便利な魔法である。


 魔法鑑定自体は比較的多くの魔法使いが創造して使っているのだが、困ったことにロゼッタは魔力量と能力がおかしいので、頭の中に浮かぶ内容で出来ないことの方が少なかったりする……これは明らかに、彼女ストーカーに与えてはいけない魔法であった。


(ポケットに入ってると、ラズさんの姿見れないんだよね……なんか、良い魔法無いかなぁ……)


「着いたね。じゃあラ……じゃなった。ジャレット、頼むよ」


「了解」


 凄まじくどうでも良いことをロゼッタが考えているうちに、目的地に到着したようだ。まだ上空であるが、ここで魔法を放つらしい。ラザラスはゴーグルを装着し、右手に拳銃を構える。


「【火球】!」


 ぼふん、と、拳銃の中で小さく何かが爆ぜる音がした――銃声は、当然の様に鳴らない。銃弾も、出てこない。


「……」


「ごめん……」


 嫌な予感が的中してしまい、ラザラスは拳銃を振るい、無残に砕けた銃弾をバラバラと落とした。まるで砂のようである。本当に、どうしてこうなるのだろう……。


「よし、詰まってるのは今ので取れてくれたな。じゃあ、気持ちを切り替えて……」


「最悪、火球無しで正面から乗り込むよ。気にしないで」


「いや……やるよ。次こそ、成功させる!」


 ラザラスが拳銃を構える。

 拳銃から感知出来る魔力が妙にふわふわしている……困ったことに、また失敗しそうな雰囲気であった。どうして確率十分の一を二回連続で引いてしまうのか。


(……。無詠唱でもいけるかな。イチかバチか、やってみようか)


 王子様の残念さに溜め息を吐き、ロゼッタは微かに魔力を放出する。


 ラザラスの【魔力感知補助】やクィールの研ぎ澄まされた感覚で発見されないか不安ではあったが、突入前からやらかしているラザラスを放置することはもう出来なかった。


(【魔力矯正】! それから……【魔法強化】!)


「【火球】!!」


 銃口が瞬き、炎を纏った銃弾が勢いよく放たれた。炎弾は空を切り、暗闇を照らす。まるで光の線を描くように直線上に飛び、そして刹那、地上に到達し、裏口を破壊するかの如く『爆ぜた』――。


「……は?」


(あ、やり過ぎた)


 ラザラスの火球は“悪い意味”でこんなものではない。地上では大きな混乱が起こっており、奇襲は大成功と言えるだろう。


 しかし、ラザラスの火球はこんな威力を出せる代物ではない――唖然とするラザラスを、クィールは無言で運ぶ。


「く、クィール……」


「やればできるじゃないか……と、言いたいんだけど、何か、違和感があった」


(!?)


「奇遇だな、俺も」


(!?!?)


 いくらなんでも気付かれてしまったらしい。

 ラザラスもクィールも、ここが空中であるにも関わらず周囲を酷く警戒している様子である。上陸するタイミングを見失ってしまっている。


「でもな……敵意は感じないんだよなぁ、誰か付与魔法使ってくれてたのか……?」


「付与使えるのはユウさんだけ、だよね。でもユウさんは対象を自分以外に切り替えられないって言ってたし、そもそも今日会ってないし……」


「怖いな……」


「だけど、私も、敵意は感じてない……気にはなるけど、せっかくの火球が無意味になっちゃうから……このまま、突入するよ」


「……了解」



 このまま、忘れてはくれないだろうか……。

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