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10.ストーカー、警戒する。

「……うーん」


 目の前で爆睡する王子様を眺めながら、ロゼッタは腕を組む。

 時刻は十三時。連日の忙しさを思えば無理もないが――少々、寝すぎである。


「まあ、ここ一週間、ほとんど休み無しだったもんね……」


 一週間、ラザラスをストーキングしてみたロゼッタだが、その恐ろしい程の多忙さに影に隠れているだけのロゼッタも目が回りそうだった。


 流石に毎日毎日違法組織を炎上させに行っているわけではないようで、彼のスケジュールの大半は『ALIA』としての活動だった。


 とはいえ彼はどちらかというと“アンジェ”という女性のサポートに徹していた。どうやらアリスは人前だと言語活動が怪しくなるアンジェのマネージャー的役割もしていたらしく、彼の仕事を出来る限り引き継ぐこととなったラザラスはそのままアンジェの引率もこなすようになったらしい。アンジェがただひたすらに申し訳なさそうにしていたので、これは間違いなさそうである。


 というより、引率以前にラザラスが過保護すぎるのだ。「何かあったら危ない、ジュリーに申し訳ない」としつこく繰り返していた辺り、彼自身がアンジェを放置出来ないのだろう。


(アンジェさんとジュリーさんは親友同士かな。女の子同士のカップルかもしれないけど)


 親友同士にしろ、女の子同士のカップルにしろ、そこに混ざるラザラスの異質感が凄いのだが、それは置いておこう。ジュリーに何かしらあったから彼女と親しい存在のアンジェに対して過保護になっている可能性もある。


 あとはアンジェに言っていた通りで、ラザラスは空き時間があればひたすら訓練をしていた。時々クィールやレヴィが訓練に混じり、夜であればアルビノ鴉種の男性――ユウも訓練に顔を出していた。


(……薄々、ラズさんのところにいるってバレてる気がするなぁ)


 クィールもレヴィもユウも、訓練の最中ラザラスの周辺を気にしている様子が伺えた。

 痕跡は残していないつもりだったが、何となく察されているのかもしれない。時々ストーカーやめといた方が良いかもしれない。ストーカーやめるつもりはないけれど。


 そのような疑いもあって、ロゼッタはラザラスに加えてクィール、レヴィ、ユウが使用する魔法についてもよく観察していた。


 ロゼッタの使う【隠影(いんえい)】は基本の闇魔法と空間魔法をベースに【魔法創造】で新たに作り出したオリジナルの魔法であるが、とにかく光に弱い。ラザラスの影に隠れたまま改善出来ないか色々と試してみたのだが、これだけは克服出来ないらしい。ただ不幸中の幸い、件の三名は光魔法の類は使えないようであった。


 三名の中で一番魔法の才能があるのはレヴィだ。普段は上手く隠しているようだが、保有魔力が多く、高い技術を要求される念力を極めている。念力以外にも色々使えるようで、高位氷魔法【即時凍結】や高位闇魔法【魔力拘束】、高位空間魔法【瞬間移動】が何の反動も無しに使える怖い子だった。


 もし、逃走に瞬間移動を使用していた場合は痕跡から彼女に気付かれていたに違いないとロゼッタは息を呑む。


(あの子、付与と魔法創造使えたらもっと活躍出来そうなんだけどな……ユウって人は付与だけを使いすぎだけど……)


 レヴィの弱点はどう見ても本人が非力なところで、そこを補うのが『脳筋』としか言い様がない魔法の使い方をするユウだろう。ユウはラザラス同様に付与魔法で身体能力を上げに上げて大鎌を振り回す怖い人だった。見た目との一致っぷりが凄かった。


 ただその大鎌は空間魔法で別空間から取り出していたり、頭の回転が速いようで魔法創造で咄嗟に新しい魔法を生み出したりと脳筋バトラーの癖に結構器用なことをしていた。


 そしてクィールはRPGのヒロインのような見た目に反して魔法の才能は皆無らしい。

 皆無なのだが、純粋な戦闘技能では彼女が頭一つ飛び抜けていた。キメラドールだから強いのかもしれないが、彼女に関しては軍隊とかそういうところにいた可能性がある。

 彼女はしなやかな四肢を利用した体術に加えて刀を振り回す怖いシスターだった……というより、どう見ても普通の女の子にしか見えないレヴィと死神にしか見えないユウ、殺戮シスター・クィールの組み合わせが怖い!!


 ちなみにラザラスはユウの魔法の使い方を教わった上で、クィールに体術を学んでいた。


 純粋な魔道士であるレヴィからも色々学んでいるようだが、可哀想なことにラザラスは魔法の才能がポンコツなようで、彼女から教わった魔法の十分の一も再現できていないのだ。

 魔法に関してはもうどうしようもない気がするのだが、諦めきれないのだろう。時間の限りひたすら訓練を繰り返す彼の気持ちを思うと、少し切ない気持ちになってしまう。


「多分、ラズさん含めた四人が戦闘員だよね。色々と注意しといた方が良さそう……」


 申し訳ないが、非常に鈍感そうなのでラザラスには絶対に気付かれない自信がある。そうなると今現在、ロゼッタが警戒すべきなのはクィール、レヴィ、ユウ、そして何故か気付きかけているアンジェだ。


 非戦闘員らしいエマとルーシオ、それからまだ確認していないが『子どもにしか見えないおっさん』の存在はとりあえず置いておくことにする。


「一次的にでも良いから、完全に姿消せるの欲しいよね……痕跡も残さないように……」


 ロゼッタは新たに魔法を創造しておくべきだろうと考え、頭を悩ませ始める。



 そんな時、玄関のドアノブがガチャガチャと動いた。


「!?」


「ラズー? 寝てるのー?」


 知らない女の子の声がする。しかも知り合いっぽい。

 だがラザラスは起きず、安心しかけたその瞬間に玄関の鍵が開いた。


(合鍵、だと……!?)


 色々と複雑な心境になりながら、ロゼッタはベッド下に隠れた。


「……寝てるね。お疲れ様」


 誰かが入ってきた。ベッド下から、ロゼッタはこっそりとその姿を確認する――15歳くらいに見える黒髪の猫耳美少女が尻尾を揺らしながらキッチンに向かう。そして冷蔵庫を開け、溜め息を吐いた。


「これは酷い……週一じゃ足りないかな。もうちょっと様子見た方が良さそう……」


 ラザラスの冷蔵庫の酷さはロゼッタも知っている。知っているのだが、この女は何なんだとロゼッタは奥歯を噛み締めた。五人が並んで写っていた集合写真のうち一人なのは分かっている。カメラ構えていた美少女だ。しかし、ラザラスとの関係が見えない。


(か、彼女……!?)


 猫耳娘は冷蔵庫の中を整理した後、テーブルの上にいくつか皿を並べている。全て料理が乗っていた。料理をせず、食生活もカオスなラザラスのことを知っているからこその行動だろう。


 そして少女は眠ったままのラザラスに「おやすみ」と小さな声で話し掛け、反応も見ずに静かに帰っていった――一体、何だったんだ。


(ラズさん、女の影多すぎませんかねぇ……)


 彼女どころか、『一人暮らし中の息子が心配過ぎて勝手に来るオカン』のようだ……ロゼッタに気付く気配は全く無かったのは良かったが、色んな意味で良くなかった。


 ここに来て登場した家庭的猫耳娘の登場に、ロゼッタはベッド下で頭を抱えたのだった。


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