第98話 炎と共に
「あ、貴女は!?」
炎が消えると辺りを煙が覆いました。その中から現れたのは両手に太刀を持つ赤い目をした見覚えのある女性、紅蓮の華のリーダーでありAランク冒険者のレイラさんでした。
「久しぶりね。こんなタイミングで貴女たちに会えるなんて。さてと、話はまた後でね。うるさいのを倒しちゃうから」
そう言うとレイラさんは突然何が起こったのか分からずに混乱している様子のゼルウルフに向かって駆け出して行きました。炎を纏った太刀の一振りで一匹ずつゼルウルフの息の根を止めていくレイラさん、その姿は美しく舞っているようにも見えます。
「リーダーが急に走り出したと思ったらお前らか」
命を失うことを覚悟した中での突然の出来事にぼんやりと戦うレイラさんの姿を眺めていると背後から誰かの声がしました。
「……マグナスさん」
「ボロボロだな、相手はゼルウルフか……Dランクのお前らにはまだ荷が重いな」
「……どうしてここに?」
「依頼の帰りにリーダーが突然走り出してな、慌てて追いかけてみればお前らがいたという訳だ」
「そうですか……くっ」
どうやら私達は助かったようです。
チカラが抜けてしまいました。
それと同時に背中から鈍い痛みを感じます。戦闘の緊張感で痛みも我慢出来ていたんでしょうが、レイラさん達が来てくれた安心感からチカラが抜けたようでその痛みが今になってやって来たようです。
「お前らDランク「マグナス、そんな話より手当が先でしょう。全く、女の子の扱いがなっていないんだから」
マグナスさんと話をしていると側にいた紅蓮の華の女性冒険者ルネインさんが呆れた顔をしてマグナスさんに声をかけました。そういえば皆傷だらけでした。
「メアとルルからお願いします。それよりもレイラさんお一人で大丈夫でしょうか?」
「ああ、リーダーなら問題ない。ほら、噂をすればもう帰って来た」
マグナスさんが指を指す方向を見ればそこには何事もなかったように帰って来るレイラさんの姿がありました。私のような駆け出しの冒険者がAランクの冒険者を心配するなんておこがましかったようです。
「で、Dランク冒険者の貴女たちが何であんな魔物と戦っていたの? 貴女たちが馬鹿だとは思えないから追いつかれて戦わざるを得なくなったのかもしれないけど」
「それは——」
血の匂いで他の魔物が現れるかもしれないと簡単に治療をしてもらってから移動するとゼルウルフと戦闘することになった理由を聞かれました。
今さら彼等のことを秘密にしておく義理もないですし、同じようなことで冒険者が犠牲になるのは防がなくてはならないので正直に話すことにします。
依頼の帰りに魔物の気配を感じて逃げていると正義の薔薇の面々に遭遇、追いつかれて戦わざる負えない状況になり共闘することになりゼルウルフと戦闘を開始、ふと振り返って正義の薔薇を見てみると戦うことなくこちらに背中を向けており、シルナさんから自分達は逃げるからそれまで足止めを頼むと言われ、そのまま私達を囮にして逃げて行ったと。
「正義の薔薇? ……ああ、彼等か」
「チッ、期待していたがそんな屑だったとはな。これは冒険者ギルドに報告する必要がある」
「女の子を囮にするなんて……騎士みたいな格好しておいてカスね」
「おそらくお主らが死んでいると思って逃げてはいないじゃろう。今回の件は処罰に値する……だが囮にして逃げたという明確な証拠はないのう」
「そんな!」
彼等が私たちを囮にして逃げ出したという証拠がなければ処分がされない可能性があると言うとメアは声を上げてそれに抗議しました。
レイラさんたちが来てくれなければ私達は間違いなく死んでいたでしょうから。ルルは戦闘の疲れと怪我のせいかレイラさんに撫でられたまま眠ってしまっています。ルルがまだ会って二度目の人達の前でこのようになってしまうほどの状態になってしまう原因の一因である彼等に怒りが込み上げてきました。
「落ち着け、今回の件を知らせれば少なくとも奴等は冒険者ギルドに居られなくなる。お前らから動かなくても向こうから仕掛けて来るのは間違いないと思うぞ」
「……そうでしょうか?」
「おそらくな、お前らは平然と冒険者ギルドに顔を出してみろ。その時のあいつらの顔を見てみたい」
「それは……私も見てみたい気がします」
という訳でこれからの事をレイラさんたちと相談してまずは冒険者ギルドに今回の詳細を伝えてその後に彼等の行動を監視、私達に手を出して来るようならその場を抑えて捕まえるということになりました。
でも今回の事を兄様達に伝えたら彼等は直ぐに消されそうな気がします。
◇
それからレイラさん達がロンドールまで私達に同行してくれることになりました。その間の魔物との戦闘も請け負ってくれて紅蓮の華の皆さんとお話をして仲良くなりました。
リーダーのレイラさんはゼルウルフと戦っていた時に見た通り火魔法が得意で装備している太刀も火に相性抜群の魔剣なのだそうです。なので森の中での戦闘はあまり得意ではないらしいですが木々に燃え広がる前に燃え尽きるので広域に燃え広がってしまうなどの影響はないそうです。
副リーダーのマグナスさんは長剣使いでその戦い方は騎士のような正統派の剣技でディアスさんやエマさんと似た戦い方です。しかし盾は使用していないので攻撃主体という感じ、自由に行動するレイラさんに振り回されながらもパーティとして成り立たせるためにいつも四苦八苦しているそうです。
女性のルネインさんは魔導弓使いで後方から敵を射るスタイルみたいです。魔石を使って無尽蔵に矢を放つキールさんとは違い自分の魔力と属性によって敵を倒すみたいですね。 知り合いに弓の達人がいると言うと是非紹介して欲しいと言われました。魔力を矢にして放つと言っても基礎能力は必要らしいです。
大きな盾と槍を背負った男性グラストさん、彼は紅蓮の華の盾役としてパーティ全体を守っているそうです。盾自体にも棘のようなものがありそれで圧殺することあるとか、同じ槍の使い手として色々な話をしましたが勉強になりました。
そしてもう一人は年配の男性フールさん、水と土魔法の使い手だそうです。このパーティの知略を担う方で落ち着きがあり私達の話を色々と聞いてくれる優しい方です。
「それにしてもお主ら、リーガルに絡まれたりシルナに絡まれたりついてないのう」
「……ええ、自分でもそう思います」
「おっ、ロンドールが見えてきたぞ」
「……生きてロンドールに戻って来ることが出来るなんて思いもしませんでした。本当にありがとうございます」
「いいのよ。次は貴方達に助けられるかもしれないしね」
そう言って笑うレイラさん、何かあった時に助けられるようになりたいです。
すれ違う人達が増えて来たので私達が傷だらけで帰って来たという話が正義の薔薇に伝わらないようにマントを深く被って私達だと気付かれないようにします。
「冒険者ギルドに行くのは明日にするといい、疲れただろう。奴等も今日は動かないだろうしな、お前らが生きていると知った時の奴等の驚く顔が楽しみだ」
「はい、ありがとうございました。またお礼に伺わせていただきます」
「じゃあね」
私達が泊まっているヨハンさん宅近くまで送ってもらいました。兄様達に紹介したいのでレイラさん達も寄って行きませんかと誘ったのですが冒険者ギルドに報告することがあるのと正義の薔薇の様子を探って来るとからと行ってしまいました。
◇
「ど、どうしたのミレイちゃん、メアちゃん! そんなに傷だらけになって! ああ、ルルまでそんな」
家に入るとロナさんがボロボロの私達を見て驚愕の声を上げて目を丸くしています。そしてその声を聞いて何かあったのではないかと思ったのか慌てた様子でヨハンさんも出て来ました。
「どうしたんじゃロナ! ってどうしたんじゃミレイちゃん、メアちゃん!?」
「どうか落ち着いて下さい。命に別状はないので」
「そうは言っても鎧までボロボロじゃし、というか何じゃその爪で切り裂かれたような痕は!?」
慌てた二人は中々落ち着いてはくれません。
何とか落ち着いてもらおうと声をかけているとそれを見かねたのかメアがメイドのスキルを発揮してさっとお茶を入れて二人に出しました。それを飲むと二人は何とか落ち着いてくれました。
「そうか、予定外の魔物に襲われてしまったのか。それであの有名な【炎鬼】に助けられたと、本当に良かった。運がよかったのう」
「全く……寿命が縮んでしまったよ。二人とも気を付けないと」
「すいません」
「アレクさん達も帰って来たら驚くじゃろうな、そうしたらもう少し詳しく話しておくれ」
ヨハンさんの言う通り、兄様達も私達の姿を見たら驚くでしょうね。それに本当の理由を知ったらどうなるか……。
「にゃ、にゃんでそんにゃに包帯でグルグル巻きにされているにゃ!」
最初に帰って来たネイナさんは私達を見るなり目を丸くしてにゃんを多めに叫びました。
「おいおい、また何かやったのかよ」
次に帰って来たマクスウェルも私達を見て目を丸くしていましたが、こちらはどうやら何かしでかしたのではないかという疑いの目線。心配して欲しい訳ではありませんが失礼な! 私達はいつも何か問題を起こしている訳ではありませんよ! ……多分。
「……説明しなさい」
そして最後に帰って来た兄様は意外にも冷静……というか怒ったような表情をしているようです。心配を通り越してしまった感じがします。
「——という事なんです」
今回のことはヨハンさんとロナさんにも伝えておくことにしました。どうなるかは分かりませんがもしも明日以降、その事実を噂で知ることになったら嫌な気持ちにさせてしまうかもしれませんから。
真剣な表情をする皆さんの前で私の口から今日何があったのか、その全てを話しました。兄様とマクスウェルさん、ネイナさんは表情を変えずに、ヨハンさんとロナさんは私の言葉に憤ったような声を上げながら聞いていました。
「話は分かった。消そう」
「ああ、消そう」
「今すぐ消すにゃ」
「うむ、消すのが一番じゃな」
「ええ、消した方が世のためですね」
そしてその結果、全員が同じことを言いました。
あの穏やかなヨハンさんとロナさんまでもが消すのが一番だと言っています。ヨハンさんとロナさんは何となく話しに乗ってしまっている感じがしますが兄様達は真剣そのもの、武器を取り出して整備を始めてしまいました。
「いや、その待って下さい。冒険者ギルドで対処してもらった方が良いのではないかと思いまして」
「いや、ギルドは動きが遅いだろう。私達が動けば一瞬で事が済む。それが世のため人のため、そして私のため」
いや、私のためって兄様!?
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