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第95話 噂

「……その、ご愁傷様です」


 シルナさんたち正義の薔薇の皆さんと別れて依頼を探し、受付嬢さんに手続きをしてもらうために受付に行くと申し訳なさそうな顔をして受付嬢さんは話しかけてきました。

 受付嬢さんが気になさることはないのですが冒険者を管理するギルドの一員の彼女にも思うところがあるのでしょう。彼女にシルナさんたちについて聞いてみることにします。


「あの方はいつもあのような感じなのでしょうか?」


「いえ、あのような姿は初めて見ました。自意識過剰なところはあったんですが仕事はしっかりと行いますし、実力もあるので期待の若手というのは間違いないのですが……その評価は見直さなければならないかもしれませんね」


「そうですか」


 彼らは三年ほど前にこの街にやってきて冒険者を始めたそうです。珍しい騎士のような風貌で容姿も整っており実力もあることから将来有望な冒険者ということで女性に人気があったそうです。少し上から目線の言動はあったもののこれまで大きな問題を起こしたことはなかったそうであのような姿は見たことがなかったらしく大変驚いたそうです。


「……困ったものです。冒険者はその多くが男性ですから、どうしても女性は下に見られてしまうことが多いんですがああも明らさまに言われまうと。依頼者は女性も多いですから安心して依頼を任せることが出来ません」


「おい! あいつと一緒にしないでくれよ」

「あんなのは稀だぞ」


 受付嬢さんが現在の冒険者について話すと周りでそれを聞いていた方達からそんな事はないという否定の声が聞こえてきました。


 おそらくそれは間違いありません。ほとんどの冒険者の方は良くしてくれますから。


「分かっていますがミレイさんは同じようなことが続いていますので」


「……」


「ふう、レイラさんが先程の会話を聞いていたら彼の命はなかったかもしれませんね。いつ帰ってくるか分かりませんが、それが良かったのか悪かったのか……」


 受付嬢さんはおそらくリーゲルさんたちのことを言っているのでしょう。それを聞くと周りの皆さんは静かになってしまいました。


「大丈夫です。全員が彼らと同じ意見を持っているとは思っていませんので、では依頼にいってきます」


 気を取り直して依頼に向かいます。

 受付嬢さんと話した感じでは私たちに非があったとは思っていないようなのでどうやらギルドからの評価に影響はないようです。それが一番心配だったのですが安心しました。


 無事に依頼を終えて戻ってくると悠久の風の皆さんや私たちを知っている方々が正義の薔薇との話を聞いたようで心配そうに話しかけてくれました。



 ◇



「また厄介そうなのに目をつけられたな」


 ヨハンさんたちが眠りについた後に今日の出来事について兄様たちに報告します。すると兄様たちはまたかと呆れたような表情をしました。短期間に問題を起こしているので言い返す言葉ありません。


「ええ、ですけど今回の相手はまだDランク冒険者なので危険は少ないかと」


「そんな小物さっさと潰しちまえばいんだよ。エルザ様は一瞬でやっちまってたぞ」


 お酒を飲みながら私の話を聞いていたマクスウェルさんは物騒なことを言いはじめました。お母様は冒険者時代にどのような事をしていたのでしょうか?


「……殺っちまってたんですか?」


「まあ、本当に殺してはいないが……大体の奴らが冒険者としての自尊心をぶっ潰されてたな。男の冒険者なんて自分のチカラに自信のある奴が多い、それでエルザ様を侮った挙句に公衆の面前でボコボコにされるんだから特殊な奴等以外は大人しく田舎に帰っていったよ」


「……そうなんですか」


「母上だからな」


 どうやらお母様は冒険者時代に色々な問題を起こしていたようです。いや、もしかしたら単に絡まれてそれに対処していただけなのかもしれませんが……


「まあ、冒険者同士の争いには基本的にギルドは介入しないし、街や住民に被害がなければ大した罰もないからな。お嬢も二度と逆らえないように心を潰せばいい。難しかったら手足の一、二本折っちまえば自動的に引退するしな」


「でも心を潰すなんて」


「いや、ミレイ。ネポロ村を襲った盗賊の頭の心を見事に潰していただろう」


「え? そうでしたか?」


「……まあいい、しかし優秀な二人だからこそ次々と支障が出てしまうとはな。男手があった方が安心なのは確かだが私たちには重要な仕事があるしな」


「大丈夫です兄さん、出来るだけ争いたくはありませんがもしもの時は手心を加えるつもりはありません。それにメアもいますしルルもヤル気満々ですから」


「キュイ!」


「そうか、ならば三人?で頑張ってくれるか。重要なのはこちらの仕事だからな」


 出来るだけ兄様たちに心配をかけないように冒険者の仕事をしたいのですが相手がいるのでこればかりはどうにもなりません。仲良くしてくれる方々が増えたのも確かなのですが、


「それにしても冒険者には変わった人が多いですね」


「ああ……お嬢も変わってるけどな」


「え? 何か言いましたかマクスウェルさん?」


「いや、命を張る仕事だから少しは変わってないと務まらないのさ」


「なるほど、勉強になります」



 翌日、依頼を受けにギルドに向かうとそこには正義の薔薇の皆さんがいました。するとシルナさんが私たちに気付いたようで近付いてきます。


「おはようございますミレイさん、昨日はつい怒鳴ってしまって申し訳ない。お恥ずかしい姿を見せました」


「……いえ、気にしないで下さい」


 何を言ってくるつもりなのかと構えていると昨日の様子とは打って変わって笑顔で話しかけてきました。心なしか昨日よりも言葉遣いも丁寧になっているような気がします。誰かから注意されたかもしれませんが少し気味が悪いです。


「猫を被りやがって」

「姫に何かしたら俺が!」

「いや、お前Eランクだから無理だろ」


 周りの冒険者の皆さんから鋭い視線と罵詈雑言が聞こえてきますがシルナさんたちはまるで聞こえていないように表情一つ変えません。


「ありがとう。だが勧誘の件はまだ諦めていないのであしからず、では私たちは依頼があるのでまた今度話を」


 そう言うと彼らはギルドを後にしました。すると暫くて若い、と言っても私たちと同じぐらいの年齢の冒険者の方が塩のような物を入り口から外に向かって投げました。


「腐りきった性根を叩き直してから出直してきやがれってんだい! ……あっ」


 そんな彼を見ていると目が合いました。すると彼の動きが止まり、徐々に顔が赤くなって行きました。そして私から目線を逸らすとさっと走り出し仲間と思われる方たちの元へと戻って行きました。


「目が合っちゃったぜ、ぽっ!」

「ぽっ! じゃねえボケ!」

「聞こえない距離で格好つけやがって!」

「塩が勿体無いだろ! 買って来い!」

「このEランク冒険者が!」


 そして彼の仲間と思われる方たちから叱られて頭を叩かれています。冗談でやっているような感じですが中々大きな音が聞こえるので結構な強さで叩いているみたい、愉快そうな方々ですね。


「とりあえず何事もなくて良かったですねミレイ」


「ええ、反省したということでしょうか?」


「いえ、ああいった輩は簡単には変わりません。しかし状況判断は出来ると見えます。厄介かもしれません」


 メアはそういうと彼等が去っていった方向を睨むようにじっと見ています。確かに性格がたった一日で改善することなどありえません。気をつけておきましょう。


「さてと、行きましょうか?」


「……ええ」



 ◇



「聞いたわよミレイちゃん」


 依頼を終えてシーナさんたちのお店で唐揚げを食べていると何やら面白いことでも聞いたのかニヤニヤとしながら話しかけてきました。

 ちなみにメアは唐揚げのコツが以前から聞きたかったようで無理を承知で作り方を教えて欲しいと頼みました。しかし当然、商売の種を簡単には教えられないようで困った顔をしたジャンさんは少し考えて「盗め」と呟いたのでメアはジャンさんの仕事ぶりを見て勉強をしています。ルルは唐揚げに夢中で私達の話には興味がないみたい。


「何をですか?」


「また冒険者ギルドで話題になっているみたいじゃない」


 最近この街にやって来た例の美しい女冒険者が街の女性たちに人気のある騎士風の冒険者に勧誘されるが考える間も無く拒否、あまりに早い返事に唖然とし、普段冷静な騎士風の冒険者も頭にきたようで女冒険者の身をかけた決闘騒ぎに、という噂が流れているという話をしてくれました。


 昨日の今日でもう噂に、というか尾ひれがついて自分たちの話だとは思えません。


「いやいや、そんな大袈裟な話ではないですよ。確かに勧誘されて断ったのは確かですけど」


「そうなの? まあミレイちゃんが失礼な態度を取るわけがないとは思っていたけどね。それにしてもミレイちゃんは噂になるわね。この前も実力のあるCランク冒険者と口論をしてボコボコに、って噂が流れてたわ」


「えっ、そんな噂が!」


 通りでリーゲルさんたちが睨んでくる訳ですね。もしかしたら噂を流したのが私達だと思われているのかもしれません。だとしたら嫌われるのは当然です。


「それも真っ赤な嘘です」


「そっかそっか、嘘だって噂好きのおばさんに言っておくわ。そういえばパラケルのことはゴメンね。もしかしたらと思って紹介したんだけど」


「いえ、紹介してもらって良かったです。結果は残念でしたがシーナさんが言っていた通り話してみると良い方でしたし」


「基本は変だけどね」


 そう言って笑うシーナさん、色々な話をしてもらいました。ここは商人の国、だから利益になりそうな話と冒険者に関する噂は流れるのが早いそうです。


 冒険者は粗暴な方が多いので嫌う人が多いところもあると聞きましたが流石は商人の国、利益優先でどのような冒険者なのかは直ぐに知れ渡るそうです。


 それと冒険者に関する詳しい情報は売り買いの対象でもあるそうで人付き合いには気を付けた方が良いと言われました。悪い人にも情報はいくということみたいです。


 これからも応援しているからどんどん噂に出てきてねと言われましたが何となく良い噂が流れそうもないので話題にならないよう慎重に行動しないと。




お読みいただきありがとうございますm(_ _)m

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