第93話 村の医者候補
「あの、すいません。パラケルさんいらっしゃいますか?」
翌日、依頼を行う前にパラケルさんの自宅を訪ねることにしました。今日は依頼をする予定なのでメアも一緒、昨日の話のせいか辺りを警戒してピリピリしているようです。
「……もしかして、昨日のことが原因で倒れていたりして」
何度声をかけても返事がないので段々と心配になってきました。一般の方が魔物を倒してしまうルルのパンチをまともに受けてしまったんです。怪我をしていない方がおかしい。やっぱりあのまま放って置くべきではなかったんのではないでしょうか……
「キュイ?」
「えっ、様子を見てこようかって?」
うーん。ルルだけで行ってしまうと昨日の二の舞になってしまう可能性があります。ここは行かせない方が賢明でしょう。
「いえ、もう少し待って出てこないようでしたらパラケルさんに会うのはまた今度にして依頼に行きましょう」
それから少しの間待っていたのですがパラケルさんが家から出てくる様子はありません。
「そろそろ依頼に行きましょうか?」
「キュイ」
何の反応もないため今日は出直してまたの機会にお話をと考え冒険者ギルドに向かいます。
◇
ミレイが冒険者ギルドに向かって頃、ギルド内にある酒場の席でとある冒険者たちが会話をしていた。
彼らはここロンドールで活動するベテランCランク冒険者、悠久の凪のメンバーである。依頼を決めてこれからの予定を立てていた時、最近ギルドで話題の冒険者たちの話になった。
「しかしあいつらの活躍は凄いな」
「あいつらって?」
「あいつらと言えばあいつらだよ。最近話題の大樹の槍の連中だよ」
「ああ、確かにな。DランクなのにCランク冒険者たちが失敗した依頼を成功させたりな」
「しかもメンバーは四人のはずなのに二人だけで依頼をこなしてよ。若い奴らが自分たちのパーティに誘おうかってよく話してんぞ」
「まあ、あれだけの容姿だからな」
大樹の槍の活躍はギルド内でも話題になっていた。将来が楽しみな若手のホープ、たった二人でBランクに匹敵するかという魔物を倒した。そして何よりも注目されているのはその容姿、ミレイ、メア共にまだ若いが整った容姿は将来が楽しみという感想を誰しもが持っていた。
人外のチカラを持つ魔物と戦う冒険者と言ってもただの人、本来ならば実力を持った若い冒険者が突然現れればやっかみがられて嫌がらせもされるのが普通ではある。しかしミレイらの物腰の柔らかさ、凛とした雰囲気、そして何よりも冒険者内でも評判の悪いリーゲルというCランク冒険者にも臆さない態度が気に入られ周りの冒険者たちから受け入れられていた。
もちろん中にはミレイたちに対して邪な考えを持った冒険者や嫉妬している者もいるがそれは少数と言えた。そしてその態度を表に出す者はいない、それはAランク冒険者レイラがミレイを庇ったことも影響していた。
「俺らも若かったらそこらで噂してる馬鹿みたいになってたんだろうな」
「だろうな」
「姫なんてあだ名のつく冒険者なんて滅多にいないからな」
彼ら以外にもミレイたちのことを話している者は多い、その多くは年頃の若い冒険者、いつの間にかベテランの域に入った悠久の凪のメンバーは若者たちを見て昔を思い出していた。そして姫と自分が恋に落ちたらどうしようと話す若い冒険者を、鏡を見てから出直してこいと暖かい目で見ていた。
◇
「おっ、噂をすれば姫さんたちじゃねーか」
「え? 噂、姫さん? えっと〜〜」
冒険者ギルドに入ると突然話したことのない冒険者の方が声をかけて来ました。姫さんとは? 目線の先は確実に私、何となくですが見覚えはある気がしますが今までに会話をしたことはありません。
メアは昨日の殺気のこともあり警戒した様子です。しかし冒険者ギルド内で何かされる可能性は少ないですし、リーゲルさんのように私たちを敵視する人が増えて欲しくはないのでメアに目で合図をします。
「こんにちは?」
「ああ」
「あの、すいません姫と言うのは一体?」
もしも私がこの冒険者さんが言う姫だった場合、無視すると失礼かもしれないのでとりあえず挨拶をすると返事を返してくれました。どうやら姫というのは私のことで間違い無いようです。
「ああ? ああ、すまんすまん。若い奴らがあんたのことを姫だ姫だと呼んでいたからついな」
「そうなんですか、私は姫ではないのですが」
「いや、まあ、そうだろうが、呼び名なんてそんなもんだろ。深い意味はないから気にするな」
「そうですね」
「ああ、紹介が遅れたが俺たちは悠久の凪っていうCランクパーティだ」
「こちらこそ、私たちはDランクの大樹の槍、ミレイと申します。こっちはメア、まだこの街に来て間もないので何か失礼をしてしまうかもしれませんがよろしくお願いします」
「冒険者なんて無礼な奴ばかりだ。お前さんみたいな礼儀正しい奴なんてそういねえよ。面倒な奴らに目を付けられたみたいだが頑張りな。さてと、あんまり引きとめても迷惑だろうからそろそろ行きな」
「はい、では失礼します」
突然の話しかけられて驚きましたがいい方達のようで安心しました。リーゲルさんたちと雰囲気が悪くなってから他の冒険者の方とはあまり話す機会もなかったですから。
「おやっさん、姫と何を話していたんですか!?」
「ズルいですよ!」
「いい歳して俺たちの姫に手を出す気ですか!?」
「うるせーぞ小僧ども、俺はおやっさんって歳じゃない! それにあんな若いのに手を出すわけないだろうが!」
「「「……」」」
「……何だその目は」
「だっておやっさん……依頼を受けると直ぐに夜の街に繰り出して全部使っちゃうし」
「う、うっさいわボケ!」
「い、痛いっ! 本当のことなのに」
私たちが悠久の凪の皆さんと話を終えると比較的若い冒険者の方達が悠久の凪の皆さんの元へと駆け寄って行きました。何を話しているかは聞こえませんが何やら楽しそうな雰囲気、慕われているようです。
「メア、私たちに好意的な方もいるみたいですね」
「ええ、何やら気の良さそうな方達でしたね。ベテラン冒険者といった風貌でしたし、ああいった方ばかりだと良いのですが」
「ええ、さてと今日の依頼は……これにしましょう」
「頑張りましょう」
「キュイ」
今日は無理をせずにDランクの依頼を受けることにしました。目的地は南西の緩やかな山岳地帯、特討伐対象の魔物はクリープマンティスの時とは違いすぐに発見することが出来たので直ぐに依頼は終了しました。
「すいませーん」
翌日、再びパラケルさんの家に来ました。昨日と同じようにいくら声をかけても何の反応もありません。本当に何かあったのでしょうか?
「今日も反応がありませんね。そろそろ依頼に行きましょうかミレイ」
「仕方ありませんね。勝手に家に入るわけには行きませんね」
「キュイ」
残念ですが仕方がないですね。昨日も他のお医師さんをあたってみたのですが良い返事をくれるお医者さんはいませんでした。肩を落として冒険者ギルドへと向かいます。
「——誰か私を呼びましたか?」
歩き出して暫くすると背中から誰かの声が聞こえました。振り向くとボサボサ頭の汚れた白衣のような物を来た人の姿がありました。あれはパラケルさんに間違いありません。
良かった、どうやら無事だったみたいです。
あまり気配も感じさせずに家から現れたパラケルさんに警戒した様子を見せるメア、彼がパラケルさんだということを伝えて警戒を解いてもらいます。ルルはパラケルさんにあまり近付かない方が良いと判断したのかメアの背に移動しました。
「すいません。私ミレイと申します。こちらは仲間のメア、お話がありまして昨日も伺ったんですが」
「一昨日? 一昨日は何故か記憶が曖昧でして、申し訳ありません。目覚めると頬が火のように熱くなっていて何が何だか」
「そ、そうなんですか」
どうやらパラケルさんはルルに一撃を入れられた後遺症で記憶を一部失っているようです。これは何という好都合な……いえ、不幸な事故なのでしょう。
それにしても一昨日は腫れ上がって元の顔が分からなくなっていたのですが今は腫れた様子は見られません。すっかり治っているみたいです。一日で治るものなのでしょうか?
「おや……そこにいるのはオコジョではないですか?」
不思議に思い少し考え事をするとパラケルさんは私の斜め後ろにいたメアの方を見て口を開きました。どうやら様子を伺おうと背中から少しだけ顔を出したルルに気が付いたようです。
「え、ええ、ルルという私の仲間なんです」
「——解剖したい」
「え?」
今……解剖という言葉が聞こえたような……いえ、気のせいでしょう。
「おっと、いえいえ何でもありません。それよりも話とは何でしょうか?」
「……パラケルさんはお医者さんだとお聞きしました」
「ええまあ、自分ではそう思っています。街の人からは医者だとは思われていないようですが」
笑いながら自分が街の住人からよく思われていないと言うパラケルさん、その表情には落ち込んだ様子は微塵も見受けられません。本当に気にしていないようです。
「突然の話なんですが私の村にはお医者さんがいなくて、それで村に来てくれるお医者さんを探していたんです。この街に来て良くしていただいている方から他の方も紹介してもらったのですが中々良い返事はもらえず困っていると知っているお医者がいると紹介していただきまして」
「なるほど、ちなみにどなたに私の名前を?」
「シーナさんとジャンさんです」
「ああ、あの二人ですか。彼女たちには良くしてもらってますからね。詳しく話を聞いてもよろしいですか?」
「はい、ぜひ!」
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