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第90話 廃墟から

「……本当にここでしょうか?」


 住宅が立ち並ぶ通りとは少し離れた外壁近くにあったボロボロの……古びた木造の家、貴族が住むような屋敷ほどではないですが一般の方が住むには大きい家です。しかし木材は腐りかけで苔が生えており人が住んでいるとは思えません。廃墟と言ってもいいかもしれません。しかしシーナさんは一軒だけボロボロだからすぐに分かると言っていたので恐らくここに住んでいるんだろうと思います。他にボロボロの家は見当たりませんから。


「すいません、どなたかいらっしゃいますか?」


 恐る恐る家に近付き壊れかけているドアをノックしてみます。


「あれ?」


 しかし何度ノックしても何の反応もなく人の気配もありません。出かけているのでしょうか? 目ぼしいお医者さんには全員に断られてしまったので出来ればお会いしたいのですが、これは待つしかないですね。



「……キュイ」


「え? 暇? ……そうですね。でも村のためにもティナさんのためにもお医者さんは探さないといけないですから」


 少しすれば帰ってくるかもしれないと思い一時間ほど待ってみました。しかしここに住んでいると思われるお医者さんは帰ってきません。その間、ルルは退屈を紛らわすために家の周りを歩き回ったり屋根に登ったりし始めました。


「キュ!」


「あっ、ダメですよルル勝手に」


 すると屋根の上に登っていたルルが中に入れそうな穴を見つけたそうで室内の様子を見てくると言って家の中に入って行ってしまいました。


「全くもう……」



 ◇



 雨漏りが酷そうな屋根から侵入したルルは薄暗い部屋をキョロキョロと見渡しながら進んでいく。


「キュ」


 ルルにはリビングと思わしき場所にあるテーブルの上に飛び乗って辺りを見渡した。

 室内は外観と同じく酷い有様でいつ掃除をしたのか分からないほど汚れておりルルの足の裏は真っ黒になってしまっている。

 当然ながら普段靴を履くことなく地面を歩いているルルの足が人が住む家の中で汚れるというのはよっぽどのことである。

 テーブルの上には様々な物が散乱しており、近くにある台所の流しには汚れたままの皿が何枚も重なっている。人が入ってきたら直ぐに逃げ出してしまうほど汚らしい。

 しかしルルはそういったことを気にした様子もなく辺りを捜索していく。自分の小屋はしっかりと片付けていたのだが他人の部屋のことには興味はないのかもしれない。おそらく自分と他人のテリトリーを分けて考えているのだろう。


「キュ?」


 時折する異臭に嫌な顔をしながらもルルは一部屋一部屋を捜索していく。するとある部屋から何かの血の匂いを感じたルルはその中に入って行く。


 部屋の中は廊下よりもさらに薄暗く辺りの様子が見えないためルルは魔法を使って辺りを見回す。部屋の中は他の部屋とは明らかに様子が違っていた。


 他の部屋に比べて内部は広く中央には銀に光る大きな台が置かれておりホコリやゴミなどもなくよく掃除されているのが分かる。辺りには棚が多くありそこには何らかの生物の眼球や臓器などが多く並んでいる。

 そして台座を中心にして何らかの生物の血の跡と思われる跡が残っておりその濃い臭いが残っている。人がこの部屋に立ち入ればその異常な様子から警備兵を呼ぶだろう。がやはり人とは感性の違うルルはいくつかの臓器などを見ると直ぐに興味を失ったようで次の部屋へと向かっていった。


 ある程度部屋を探検したルルは一部屋を除いて代わり映えのしない家に飽き、そろそろミレイの元へと戻ろうかと考えた時、まだ探していない奥の部屋から人の気配を感じた。


 ルルはその気配のする方へと向かい器用に扉のノブを回して部屋に入る。中に入り辺りを見渡せば先ほどの部屋を除いてだが他の場所よりはかろうじて生活感のある部屋であった。


「すぅ、すぅ」


 中に入ると部屋の隅にあるベッドから人の寝息が聞こえる。ルルは寝ている者に近付いていきベッドに飛び乗って寝ている者の横にいく。

 寝ている者は布団などは使わずに白いタオルだけを顔にかけていた。変わった寝方をしているとルルも思ったのか不思議そうに首をかしげる。


 そして白いタオルに手をかけ躊躇することなく取り払った。

 現れたのはボサボサの白髪の男、顔から見て二十代後半ぐらいだろうか? 未だ起きないがタオルを取られたことを感じたのか唸っている。



 それを見たルルは……



 何の躊躇もなくその男に……



 ビンタをした。



「——グハッ!」


 ルルのビンタをまともに喰らったその男はそのあまりの威力に意識が朦朧となりピクピクと痙攣をし始めた。左頬にはルルの小さな手の跡が赤くクッキリと残っておりその威力が分かる。

 そんな男の姿を見たルルはやり過ぎたと思ったのか一回頭を下げて謝罪した。しかしいつになっても目を覚まさないので起こすために再びビンタを始めた。


 もちろん先ほどの反省を活かして威力は調整している。ルルは失敗から学ぶことが出来るのだ。だが当然のことながら頬が徐々に腫れ上がっていく。



 暫くして男は目を覚ました。


「っ! な、なんだ頬が燃えるように熱い」


 男の頬は真っ赤に晴れ上がっており痛々しい姿をしている。しかしまだ痛みを感じていないようで不思議そうにしている。


「キュイ!」


 ルルは声をあげて自分の存在をアピールするように右手を挙げた。


「ん? なんだお前……ネズミ……にしてはデカイな……ああ、思い出した、オコジョか」


「キュ!」


 頬をさすりながら目の前の生物に気付いた男は不思議そうな顔をした。そして直ぐに目の前にいる生物を思い出したように手を叩いてオコジョと口にした。


「人里に下りてくるなんて珍しい、それに人がこんなに近くにいるのに怖がる様子を見せないなんて……誰かのペットか何かか?」


 なんでこんな所にオコジョがいるのか分からずに男は首を傾げる……ことは出来なかった。ルルがビンタをしたことで強制的に頭が動いたので首筋を痛めていた。その理由も思いつかないので男は寝違えたのかと納得した。


「しかしついているな、まさかこんな所にオコジョがいるなんてな……」


「キュ?」


「……解剖したい」


「キュル!?」


 男がボソッと呟いた言葉にルルは驚いて距離を取る。医者というのが人の怪我を治す仕事だと理解していたルルはこの男がミレイの探している医者なのかと疑い始めた。そしてこの男をミレイに会わせるのは危険なのではないかと感じここでやってしまった方がいいのではないかと思い始めた。そして先ほどのビンタは間違っていなかったと思い直した。



 ——するとその時、


「あの〜すいません、どなたかいらっしゃいまさんか〜? ルル〜?」


 男はルルの解剖を、ルルは男の抹殺を考えていた時にミレイの声が聞こえてきたことで両者の物騒な考えは一旦消えた。


「ん? 客か、珍しいな……まあ、今はそれどころではないが」


「キュイ」


「あっ、待て! 俺の実験体!」


 ルルは反転してミレイの元へと戻っていく。やるにしても勝手をすればミレイに迷惑をかけると理解していた。そしてその男は貴重な実験体が逃げてしまうと慌ててその後を追いかけていく。



 ◇



 ルルは何をしているんでしょう。

 時間がかかっているようですがやはり誰もいなかったのでしょうか? これは一旦出直した方がいいかもしれませんね。昼食の時間も近いですからルルが帰ってきたらシーナさんの所に唐揚げを食べに行きましょう。


「キュイ!」


 そんなことを考えているとルルが急いだ様子で戻ってきました。


「人の家に勝手に入ったらダメよルル」


「キュイ!」


「えっ? 変な奴がいて危険だから帰ろうって? それってお医者さんじゃないの?」


「キュイキュイ!」


 バン!


「え?」


 ルルと話していると突然家のドアが開いてその中から頬が異常に腫れた男性が現れました。ボサボサの白髪の男性、目が血走っており着ているのはまるで飛び散った血を浴びたような跡がたくさんついた白衣?。


 確かに怪しい……ルルのいうように変な人かもしれません。


「ほら実験体〜こっちに来ようね〜」


 突然現れた男性は私に目もくれずにルルの方を見て実験体と呼んでいます。一体何の実験体なのでしょうか、ルルと会ったのは初めてだと思いますが。


 怪しい……怪しすぎます。


 ルルも警戒して威嚇をしています。


「うりゃ!」


 私が思い違いをしているかもしれないので様子を見ているとルルを捕まえようと飛びかかってきました。しかし冒険者でもない人に捕まるようなルルではないのでそれを直ぐに避けました。それにこの男の人はどこかを痛めているのか動きがおかしいです。


「キュイキュ!」


 何度もそれを繰り返してルルは私の直ぐそばに着地しました。男性を威嚇するようにパンチを繰り返しています。


「すいません。止めてもらえませんか?」


「怖くないよ〜こっちに来ようね」


 私が声をかけても全く気にした様子がありません。そして再びルルの方に向かって勢いよく走ってきました。その先には私もいるのですがそのままこっちに向かってきます。


「こちらに来ないで下さい!」


 頬が腫れたがった怪しい格好の男性に近付いて欲しくはなかったのですがやはり聞こえていないのか止まる様子がありません。何かを持っているわけではないので武器は出しませんがこれ以上近付いてくるようならと考えて構えます。



「——捕まえグヘッ!」


 私の直ぐそばまで来たので私が対処しようかと思ったその時、ルルがその男性の顔付近に飛び上がって右手でパンチをしました。

 そしてその男性はルルがそんな動きをするとは思わなかったのか驚愕の表情を浮かべながら錐揉み状に吹き飛び家のドアを突き破っていきました。



「キュイ」


 男性を殴り着地したルルは何だかスッキリしたような表情をしています。……私のこの拳はしまっておきましょう。


 それにしてもあの男性……ピクリとも動きませんが大丈夫でしょうか?


「手加減したのルル?」


「キュイ」


 当然だろうと頷くのであの男性は死んではいないでしょう。ルルがやらなかったら私がやっていたでしょうから叱るわけにはいかないですし、もしあの方がシーナさんたちに紹介されたお医者さんだとしたら諦めた方がいいかもしれません。

お読みいただきありがとうございますm(_ _)m

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