第9話 閑話 動き出した王国
「——陛下、奴はあれほどの事をしたのです! これは明確なエルドラン王国への反逆、すぐにでも追ってを差し向けて討たねばなりません!!」
「あれから数日経ちました。早くしなければ奴等は国外へと逃亡してしまいます!」
フリーデン家は逆賊だと訴えそれに同調する貴族達、レオンが謁見の間で暴れる原因になった者達である。
国政を担う者達であり、軍務大臣や財務大臣などの要職に就いている。
彼等は吹き飛ばされてきた近衛兵が当たり国王と同様に意識を失っていた。
怪我もあり気が付いたのは王よりもだいぶ後の事だが。
彼等はすぐに討伐の為の軍を差し向けようと進言した。だがそれよりも先にやる事があると国王にそれを止められたのだ。
「今はフリーデン伯爵の……いや元伯爵の後を任せる領主を誰が務めるのかを決めるのが先だ!」
「——ですが!?」
「言うな! 彼処は重要な地域、王国軍だけではカバーすることの出来ない場所だ」
「……」
「それに北には魔の森がありそこから現れる凶悪な魔物も討たねばならぬ。それらを見過ごせば王国全土に被害が及ぶ!」
普段の王であれば自分達が意見を言えば特に反対する事などなかった為、初めて見るその剣幕に押し黙る。
国王は怒っていた。自分を良いように操ってきた貴族達に、そしてそれに気付かなかった自分自身にも。
レオン・フリーデンが謁見の間で暴れ、目を覚ましてから宰相に様々な話を聞いた。
信じられないことばかりで耳を疑った。
しかし騒動を聞きつけ王城に駆けつけた王国軍の将達を集め話を聞くと、宰相と同じ意見を言う者が多くいた。
それに何度かそういった話を自分で見聞きした事があった。
その話を信頼していた側近達に話せばそれは嘘ですと言われ、話した者やそういった報告書を上げた者を何度処分したことか……
信じたくはなかったのだろう。臣下ではあるが友だと思っていた者達が嘘を言っていた事を。
彼等の中には前国王、つまり現国王の父親の代より支えてきた者もいる。
血筋として考えるならフリーデン伯爵家と同じく初代国王の時代からこの国を支えてくれている者達だったからだ。
「宰相、新たに領主となれる良い貴族はいないだろうか?元フリーデン伯爵領の領民達とも上手くやれそうな者だ」
「はい、陛下……ルドルフ・フォン・スレイド伯爵の縁者の中から探すのがよろしいかと、スレイド卿の一族は領地運営の能力にも優れ、武勇にも優れていると聞きます」
「そうか……スレイド卿に王都へ来るよう報せを出せ、彼の意見も聞きたい」
国王の命令を聞いた宰相はすぐに報せを出すために動く。しかしそれを聞いていた貴族達は目の色を変えた。
「我々も! 我々からも推薦したい者がおります陛下!!」
「いや今回は私が決める。そなたらは口を出すな」
「ですが! ……かしこまりました」
◇
「……宰相、あれで良かっただろうか?」
「はい陛下、ご立派で御座いました」
国王はフリーデン家の真実を宰相に聞き、また側近の貴族達が様々な不正を行っている事を知り、これからどうすればいいのかを話し合った。
そこで少しづつ彼等の力を削いでいき、優秀で誠実な者達を集めていくことにしたのだ。
「だが、奴らをこのまま国の要職に留めておくというのは……」
「陛下、一気に事を進める事は出来ません。国が揺らいでしまいます。そうすればいくら現状こちらに手をつける暇のない帝国であっても即座に攻めてくるでしょう」
「そうだな」
「それに今回の出来事で誰かに責任を取らせることは出来るでしょう……陛下、堪えてください。もっと長い間……堪えた者達がいます」
「……ああ、分かってる」
◇
夜中、とある邸宅にて数人の者達が話し合っている。
「——何故だ!! 陛下は今まで我々の意見に従っていたではないか!!」
豪華な装いをしたその男は薄暗い部屋の中、怒りに満ちた表情をして怒鳴る。
「そうだな……あの宰相が何か口添えをしたのではないか?」
「あの子爵上がりの宰相が? 今までは大人しくしていたではありませんか」
「だが奴しかいまい、それに第三王子の婚約者にフリーデンの娘を勧めたのは奴だ」
「……嫌な予感が致します」
「考えすぎではないか? あまりの出来事に怒っていらしたではないか、それにあの場所が重要地なのは事実だ」
「これからどう動きますか?」
「……我々の信頼が失われた訳ではあるまい。陛下は我々無しでは何も出来ないはずだ」
「くそっ!! これも全てあの一族のせいだ。彼奴らのような下賤の出が我々に歯向かうような真似をするから面倒な事に!! だが侮辱されたまま黙っている訳にはいかない!!」
「だがどうすれば? 陛下には追ってを出すなと言われております」
「我々の兵だと分からなければいい、闇の家業の者でも使えばいいではないか」
「——奴ら無事では済まさんぞ」
◇
「——今回の件で、デレク・フォン・コリンズ侯爵の軍務大臣としての任を解く」
「な、何故ですか陛下!!」
本人は驚愕して声を上げた。彼と親しくしている貴族達も突然の国王の発言に驚きを隠せず声も出せない。
「何故だと? 分からないのか? そなたは軍務大臣だったのだ。近衛師団の人選はそなたの仕事。今私が生きているのはレオン・フリーデンに我々を殺す気がなかった為だ」
「そ、それは」
「彼等は三人だった、たった三人だ。彼等は優能だったのかもしれない。だがどれだけの人数で彼等を制圧しようとした? 勝てなくとも我を逃がす程度の働きができない者に王城の警備をさせていたそなたにはその責任がある」
「……ですが彼等も命がけで」
「そうだな確かに私の為に彼等は戦ってくれた。その忠誠心は認めよう」
「……」
「だが忠誠心だけでは近衛師団には相応しくない。よって現在の近衛師団の中でそれに相応しい力量を持たない者は国軍への移動を命じる。そして国軍の中から新たに近衛兵を選ぶものとする」
「陛下それでは近衛師団の品位が落ちてしまいます!」
軍務大臣を庇いたいが国王の発言に異を唱えるにたる瑕疵が見当たらない。
だが財務大臣がなんとか近衛師団については撤回させようと発言する。
それもそのはず彼等の子弟の多くがその職に就いているのだから。
「財務大臣よ、確かに王城に勤める者には品位は必要だ。だがそれだけの者はいらない。それに王国軍にも貴族出身の者はいる。国の中心を守る者がただの飾りでいいはずがない、そうではないか?」
「……その通りです陛下」
「そうであろう、そなた達の大事な命を守る事にもなるのだからな」
「コリンズ卿、軍務大臣としての任を怠った罪は重い。そなたは自領で謹慎、追って厳しい沙汰があるものと覚悟せよ」
今回の件は彼の仲間であっても助けようがない失態であった。
普段の彼等ならばよく考えれば分かり対策のしようもあったかもしれないが、レオン・フリーデンの件に目がいってしまっておりそれを考えつかなかった。
彼は一度仲間達を見るが、悔しそうに目を瞑っており自分の処分が変わらない事を知る。
そして俯きながら去っていった。
「陛下、軍務大臣の地位を取り戻せたのは大きいです。王国の為に命を懸けて働く彼等を適正に評価し、彼等の為に報いることが出来れば……今回のような事はもう起きないでしょう」
「そうだな……早くにこう出来ていれば彼等は今もこの国にいてくれただろうな」
今までの仕打ちにも関わらず彼はこの国を出る前に、王国が立ち直る機会を与えてくれたというのか、……レオン・フリーデン、なんという男なのだと国王は思った。
◇
国王がレオンを心から賞賛していた頃。
「——ハックション」
突然のくしゃみに驚くミレイ。
「お父様、風邪でもひかれたのですか?」
長旅になるというのに体調でも崩したのではと心配するミレイ。
一方、レオンは唸りながら首を傾げている。
「いや、誰かに物凄く褒められた気がする」
「お父様ったらもう、なんでそんなこと分かるんですか?」
「それもそうだな」
笑い合う二人、その話を聞いていた周りの者達にも笑いが起こる。
深読みをした国王のフリーデン家に対する評価はうなぎ登りだった。
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