第89話 医者探し
「ミレイちゃん、今日も依頼に行くのかね?」
クリープマンティスの討伐依頼を終え宿に戻るとお祝いにとヨハンさんが沢山のご馳走を作ってくれました。その翌日、まだ疲れは残っていますがゆっくりと食事をしているとヨハンさんが質問をしてきました。冒険者は一つ大きな仕事をこなすと英気を養うために休みを入れるのが普通なのに連続で依頼をこなしているので少し心配してくれているようです。
「……まだ決めていないんですが、どうしましょう?」
メアの方を見てどうするかと反応をうかがうと一度頷いただけ、私の決めたことに従ってくれるようです。まだ怪我も完全には治っていませんし……でもCランクになるために依頼はこなしたいですし……
「ミレイ、今日は休むといい」
悩んでいると兄様が声をかけてくれました。しかし兄様たちは今日も信頼できる商人を探しに行くのに私達だけのんびりとしているわけには。
「そうだな、DランクのパーティがBランクに近い魔物を倒したんだ。かなりの評価をもらえているだろう。お嬢のことだからギルド員からの評価も高いだろうしな、時間はまだある、休めるときにしっかり休んでおかないとキツくなるぞ……本当は俺も休みたい」
マクスウェルさんも休んだほうが良いと言ってくれます。最後に何かをボソッと言いましたがよく聞こえませんでした。隣にいる兄様が呆れたような顔をしたので何を言ったのかは想像がつきますけど。ネイナさんも大好物の魚料理を食べながら頷いてくれています。
「……そうですね、最近ずっと依頼続きだったので今日はゆっくりしましょうか」
「キュイ」
「そうかそうか、それがええ」
「頑張ってくれているからな」
「そうにゃ、ご飯が美味しいにゃ!」
「キュイ」
ネイナさんとルルは私たちの話はそっちのけで食事に夢中、ヨハンさんの料理は美味しいので分かりますが何とかいうか……いえ、ヨハンさんとロナさんが嬉しそうな顔をしているのでよしとしましょう。
それにしてもルルはクリープマンティスとの戦闘で怪我をしていたのにすっかり毛並みが良くなっているように見えますね……美味しい食事をしたからでしょうか?
「兄さんたちの方はどうですか?」
「そうだな、流石は商王国だけあって商人の数が多いからな、まだまだといった感じだろうか」
「俺もだな、露天なんかをやっている者も見ているが中々な」
「私はいい魚屋さんを見つけたにゃ、彼は良い商人に間違いないにゃ」
兄様たちの話を聞いていたネイナさんは丁度ご飯を食べ終えるといい魚屋さんを見つけたと笑顔で言いました。それを聞いた兄様は苦笑いを浮かべました。
「出来れば魚屋に限らずに探して欲しいんだがなネイナ」
「分かっているにゃ、手始めにといった感じにゃ!」
「そうか……さてと、では私たちは行ってくる。じゃあなミレイ、また後で」
朝食を食べ終えて準備を済ませると兄様たちはいつものように出かけていきました。片付けを手伝ってから私も部屋にもどるとしましょうか。
「さてと、今日はどうしましょう」
部屋に戻りベッドに腰掛けて今日は何をしようかと考えます。最近は依頼ばかりやっていたのでこのままゆっくりしているのもいいのですが、やはり時間がもったいない気もします。
メアは買い物をしてからヨハンさんに料理を習うそうですが、私は……そうだ、ティナさんに頼まれていた医者を探してみることにしましょう。ヨハンさんとロナさんにこの辺り良いお医者さんが居ないかを聞いてみましょう。
「お聞きしたいことがあるんですが」
一階に下りるとヨハンさんとロナさんが話をしていたので聞いてみます。
「なんじゃ?」
「この辺りにお医者さんはいらっしゃいますか?」
「医者? どうしたんだい? 怪我でもしたのかい?」
お医者さんが居ないかと尋ねるとヨハンさんとロナさんは心配そうな顔をして私の方を見ました。無用な心配をさせてしまいました。言葉足らずでしたね。
「いえ、故郷の村にお医者さんが居なくて困っているので誰か来ていただけるような方が居ないかと思いまして」
「ああ、そういうことか……。どうじゃろう……大都市じゃから医者も多いが……はて、良い医者はいたかのう?」
「そうですね。開業している方が多いですからね。ここを出ていくとなると……」
理由を説明すると二人はいい医者がいないかと考えてくれていますが中々いい人はいないようで悩んでしまっています。
「やっぱりそうですよね」
「とりあえず医者がいる場所を教えておこう。直接話をしてみればもしかしたら行きたいという者もおるかもしれん」
「ありがとうございます」
ヨハンさんが知っているお医者さんがいる場所の地図を書いてくれたのでそれを頼りに話を聞きに行こうと思います。ルルも暇だったのか付いてくると言うので二人?で街に繰り出します。街はいつも通りに賑やか、人通りは日に日に多くなっているように感じます。
「いや、すまないがこの街を出るつもりはないよ。長年この街にいるからね」
「そうですか、お話を聞いていただいてありがとうございます」
ヨハンさんたちに教えていただいたお医者さんを訪ねてみたのですがやはり首を縦に振ってくれる人はいません。それも当然ですね、生まれた国を出るのは嫌でしょうし、馴れ親しんだ患者さんがいるでしょうから。
ですが困りましたね。これではティナさんの頼みを聞いてあげることが出来ません。村にはお医者さんが必要なんですが……
「ふう、やっぱりいないですね」
「キュイ」
教えていただいた全員に尋ねましたが誰も答えは一緒、やはり村へ来てくれると言ってくれた方はいませんでした。
ティナさん……ゴメンなさい。
「あら、ミレイちゃんじゃないの」
「え? あっ! シーナさんにジャンさん、こんにちは」
村に来てくれそうなお医者さんが見つからずに少し落ち込んでいると私の名を呼ぶ声が聞こえたので振り向くそこにはお腹がふっくらとしたシーナさんと沢山の荷物を抱えているジャンさんがいました。
「ああ」
「こんにちは、それより聞いたわよ。白い動物を肩に乗せた若い女冒険者がCランク冒険者が失敗した依頼を成功させたって、それってミレイちゃんのことでしょう?」
「ええたぶん、私と仲間で何とか倒しました」
「やっぱり! そんなに凄い冒険者だったなんてね。こんなに可愛らしいのに」
「そんなことは」
「謙遜しないの、凄いのは間違いないんだから、街の商人たちが感謝してるらしいわよ」
「そうですか、良かったです。今日はお買い物ですか?」
大きな荷物を軽々と持つジャンさんに目を向けて質問をします。
「ええ、新しい料理を作るために食材はよく見に行くのよ。ミレイちゃんは今日は何をしているの? 大きな依頼を成功させたっていうのに何だか少し落ち込んでいるように見えたけど」
「その、実は……」
落ち込んでいたのをシーナさんに見破られてしまいました。お二人も誰か知っているのではないかと思いこの国を出てお医者さんをしてくれる方を探していると説明します。
「自分の村に来てくれる医者をね〜。まあ、生まれ故郷から出るのは中々難しいわね」
「そうですよね」
私の話を聞いたシーナさんは口元に手をやり首をかしげながら誰かいいお医者さんがいないかと考えてくれています。しかし話に出てくるのはやはりヨハンさんたちに教えてもらったお医者さんたちでした。
「ん〜、誰かいないかな?」
「……あいつはどうだ?」
「あいつ? ……ああ、でもあいつはね〜」
やはり村に来てくれるお医者さんはいないのかもしれないと思った時、ジャンさんが声を出しました。誰か心当たりがあるのか『あいつ』と言うとシーナさんも誰のことを言っているのか分かったようてすが直ぐに顔をしかめました。
「誰か心当たりがあるんですか?」
「一応あるにはあるんだけどね……」
「教えてください!」
「んん〜、オススメは出来ないよ。凄い変わり者の医者でね。周りの住人から怖がられているんだけど……まあ腕は良いみたいだし……それでも良い?」
「はい!」
「そんなに言うなら仕方がないか、分かったわ住んでいる場所を教えてあげる」
「ありがとうございます!」
シーナさんそのお医者がいる場所を教えてもらいます。まだこの街に来て間もない私でも見つけやすい場所に住んでいるそうです。
「じゃあまた唐揚げを買いに来てね」
「はい! ルルも食べたいみたいなのでまた買いに行かせて頂きます」
「キュイ!」
「え? この後、直ぐに食べたいようなので後で伺いますね」
「ふふっ、待ってるわね」
えっと……
「この辺に住んでいるそうなんですけど」
シーナさんとジャンさんと別れて教えてもらった辺りに来たんですがそこは街のはずれ、外壁近くで人通りもあまりない場所です。話に出てきたお医者さんが住んでいる家はボロボロだから見れば分かると言われたんですが……
「……ここですかね?」
「キュ?」
そこにはシーナさんたちが言う通りボロボロの少し大きめの家がありました。人の気配がまるでしない……まるで廃墟のようです。窓ガラスも割れていて雨風をしのぐためなのか板が打ちつけてあります。シーナさんが変わり者で住人から怖がられていると言っていましたが……
シーナさんたちの言葉を疑うわけではないんですがこんな所に本当にお医者さんが住んでいるのでしょうか?
投稿が遅くなり申し訳ありませんm(_ _)m