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第88話 髪は女の命?

 魔物に襲われることもなく街に到着してそのままギルドに向かいます。歩いているといつもよりも視線を感じました。見てみるもすれ違う人たちが私たちを気の毒そうな顔をして見ています。


「可哀想に」「やられてしまったんじゃな」「疲れているみたい」「泥で汚れて」「生きているだけで儲けもんじゃ」


 耳を澄ますと聞こえてきたのは哀れみの言葉、どうやら若い冒険者が依頼に失敗して冒険者ギルドに向かっている途中だと思っているようです。


 まあ確かに血や泥で汚れていますし、装備も傷が沢山ありますからね。


 依頼は成功しましたよと言っても仕方ないので居心地の悪さを感じながら冒険者ギルドに向かいます。



「お帰りなさい! ご無事だったんですね」


 クリープマンティス討伐の依頼を受注してくれた受付嬢さんが声をかけてくれました。

 受付嬢さんが立ち上がって私たちに声をかけたので周りの冒険者の方たちが話しながら私たちの方に視線を向けました。この間は目立ってしまったのでそのせいもあるのでしょう。


「ええ、何とか」


「心配していたんです。あっ、髪が……」


 受付嬢さんは私の髪を見て顔を曇らせました。やはり気になってしまいますか、後でメアに切り揃えてもらいましょう。


「大丈夫ですよ。髪が少し短くなっただけですから」


「ですが女性の髪は大事です。あんなに綺麗な黒髪が……」




「——その様子だと逃げ帰ってきたようだな」


 髪を触りながら受付嬢さんと話していると背後からどこか棘のある声が聞こえました。振り向いてみるとニヤニヤを浮かべたリーゲルさんの姿がありました。

 街の人たちと同じように依頼に失敗して逃げ帰ってきたと思っているようです。


 未だに私たちのことをよく思っていないようでその顔には悪意が浮かんでいます。メアとルルは彼らが何かをしてくるのではないかと思ったのか先程までの雰囲気が変わり警戒しています。


 しかし何度も騒ぎを起こすわけにはいかないのでここは冷静に、


「この間はどうも、ですがおかげさまでクリープマンティスの討伐は成功しました」


「!?」


 クリープマンティスの討伐に成功したと言うと驚いた顔をしましたがそのまま話を続けます。


「あれほどの能力とは思いもしませんでしたが何とか、髪を切られてしまいましたがね」


「嘘をつくな! あれはDランクの小娘が倒せる相手じゃねぇぞ!」


「そうだ! 逃げ帰ってきたんだろう!」


 リーゲルさんたちは声を荒げてクリープマンティスの討伐に成功したはずがないと言ってきます。しかし倒したのは紛れもない事実。


「ですが倒したのは事実です。回収もしているので見ますか?」


「何だと!?」


 少し挑発的な言い方になってしまったでしょうか? リーゲルさんたちは今にも襲ってきそうな雰囲気をしています。


「うるさいぞリーゲル」「みっともない」「それでもCランク冒険者か」「ランクが下の冒険者に噛み付くのはよせ」


 すると周りで私たちを見ていた方たちが口々に私を庇うようなことを言ってくれました。嬉しいのですがそれを聞いたリーゲルさんの顔は真っ赤になって震えています。かなり頭にきているようです。この間と同じような展開です。


「——リーゲルさん、もうよろしいでしょうか……報告の最中です。これ以上は上に報告することになります」


 この間のようにまた空気が悪くなってきたところで受付嬢さんが声を上げました。拳を握りしめて真剣な表情でリーゲルさんたちを止めます。


「チッ! 行くぞ!」


 リーゲルさんは受付嬢さんを睨みましたが怯まないのを見て舌打ちをして外に出て行きました。すれ違った時に殺気を発しながら血走った目で睨んできました。


 何かしてきそうな気がしますね。少し警戒しておいた方が良いかもしれません。冒険者ギルドは冒険者同士の争いには介入しませんから何処かで襲ってくるかもしれません。街中で襲う真似はしないでしょうから……依頼で外に出ている時に?


 ——いや、Cランク冒険者なんですからそんな真似はしないかもしれませんね。




「……ふぅーー」


 そんなことを考えながらリーゲルさんの出て行った方を見ていると受付嬢さんがホッとしたように息を吐いて椅子に座り込みました。

 本当はリーゲルさんを止めるのは恐ろしかったのでしょう。まあ女性が体格の良い男性、しかもCランクの冒険者に注意をするのは勇気がいりますよね。感謝しないと。


「すいませんご迷惑をおかけして」


「いえ、ミレイさんの所為ではありません。それよりも依頼、ご苦労様でした。証拠の品を納品所で確認してから依頼達成とさせていただきます」


「分かりました。あっ、それと……クリープマンティスを探す最中にこれを発見したのですが」


 納品所に移動する前にクリープマンティスを探していた時に見つけた冒険者証を渡します。


「これは……ひとつだけでしょうか?」


「はい、遺体と思われる骨も散乱していて」


「そうですか、報告ありがとうございます。これは行方が分からなくなっていた冒険者のものです」


 悲しそうな顔をした受付嬢さんはその冒険者証を見て亡くなった冒険者について教えてくれました。亡くなったのは四人、まだEランクの冒険者たちだったそうです。ギルド側に報告なく行方が分からなくなったのでもしかしたら他の街に行ったのかもしれないと考えていたそうです。薬草でも探していたのでしょうか、……残念です。




「ほお、またまた大物じゃな。今度はクリープマンティスか」


 納品所に行くとそこにはヨン爺さんの姿がありました。私たちを見ると手招きしてきたのでそちらに向かいクリープマンティスを出します。するとヨン爺さんは白い髭を触りながら嬉しそうに声を上げました。


「ギリギリの戦いでした」


「そうかそうか、確かお主らはDランクだったな?」


「はい」


「どんな戦いだったか話してみなさい」


 ヨン爺さんがクリープマンティスとの戦いの内容を聞いてきたので突然、背後から攻撃を加えられたことや見えなくなって泥をつけて何とか倒したことを話しました。


「ふむ、どうやらこのクリープマンティスは通常のものよりも強い個体だったようだな、確かCランク冒険者は失敗したとか、Bランク冒険者に任せた方が良い依頼だったのかもしれん」


「そうなんですか?」


「うむ、まあ何はともあれ良くやってくれたな。素材は様々なものに使えるし今回は緊急の依頼だったからな、報酬もたっぷりじゃぞ。それにCランク冒険者が失敗した依頼を成功させたのじゃ、ギルドからの評価も高いじゃろうな」


「本当ですか? 嬉しいです」


 さてと、報酬も頂きましたし、そろそろ帰ることにしましょう。兄様たちが心配しているでしょうし、流石に疲れました。



「あっ! あの時の!」


 ヨン爺さんに挨拶をして受付に戻ると男性の驚いたような声が聞こえたので振り向くと先日、何者かに襲われていた貴族を護衛していた冒険者の方たちがいました。どうやら一番若い男性の方が私たちを見て声を出したようです。他の方たちに頭を叩かれているので他の方はあまり私たちに関わりたくはなかったのでしょう。あのような形になったので仕方ないのかもしれません。


 問題は起こしたくないですし、特に話すこともないので頭を軽く下げてギルドを後にします。



「宿に帰りましょうか?」


「そうですね」


「キュ!」


「ご飯を食べてから? そうですね。そうしましょうか」


 ルルがお腹が空いたと言うので何か美味しいものを探しに行きましょう。



「ん? お嬢たちじゃないか」


 ギルドから出て歩き出すと直ぐに慣れ親しんだ声が聞こえたので振り向くとそこにはフードを被った怪しげな人がいました。


「あれ? マクスウェルさんどうしてここに?」


「ああ、あの時の冒険者たちがいたからちょっとな……」


 どうやらマクスウェルさんはあの冒険者の方たちをつけていたようです。おそらくエルドラン王国の貴族の方がどうして商王国にやって来たのか気になったのでしょう。しかも刺客と思わしき者たちに襲われながら、何か厄介ごとがあるのは間違いないでしょう。


「何かわかりましたか?」


 メアも気になっていたようで何か分かったことはあるかと質問しました。その目は真剣そのもの、私たちに剣を向けてきたのでメアは怒っていましたから。


「いや、特にない。泊まっている場所が分かったぐらいだ。あの貴族とは別で行動しているようだ」


 そう言うとマクスウェルさんは私たちを見て面白そうな顔をしました。


「それより中々厳しい依頼だったようだな」


「かなり厳しい戦いでした」


「そうか、良い経験になったな。後で詳しく聞かせてくれ。彼奴らの後を追っても大したことは分からないみたいだからそろそろ元の仕事に戻る……面倒くさいけどな」


 話もそこそこにマクスウェルさんはフードをかぶりなおすと人混みに消えていきました。捨て台詞は余計だった気がしますがお仕事は順調なのでしょうか?


 ——さてと、


 グゥ!


「ルルも我慢の限界みたいですから早くご飯を食べに行きましょう」





「ミ、ミレイ! ど、どうしたんだその髪は!?」


「あら!? ……綺麗な黒髪が短くなっているわ」


「本当じゃ! 昨日は腰の辺りまであった髪が短くなっておる!」


 ルルが満足するまで食事をして宿に戻るとちょうど兄様とヨハンさん、ロナさんがいて直ぐに髪が短くなっていることに気付かれてしまいました。髪を切ることなんて普通のことなのでそんなに気にしなくても良いと思うのですが……坊主になってしまった訳でもないのですから。


「ちょっと油断して魔物に切られてしまいました。後でメアに整えてもらおうと思います」


「何という無粋な魔物なんでしょう。全く、女性の髪を切るなんて魔物の風上にも置けませんね」


「……魔物に……許せない。……消してやる」


 おお、テーブルに置いてあったカップや辺りの物がカタカタと震えだすほどのオーラを兄様が出しています。何という……これほどのチカラを身に付けたいものです。それとロナさん……魔物の風上にも置けないってどういう意味なんでしょうか?



「ん、何じゃろう?」


「どうしたんですかヨハン?」


「このカップ揺れておらんか?」


 おっと、ヨハンさんがカップが不自然に揺れているのに気付いて不思議な顔をしています。そろそろ止めないとマズイですね。


「兄様! そろそろ髪を切ろうと思っていたので問題ありませんよ。それにその魔物はもう倒しました」


「……そうか」


 私が声をかけると兄様から発していたオーラは無くなりました。何とか落ち着いてくれたようです。まだブツブツ言っていますがとりあえず大丈夫でしょう。


「おや? 揺れがおさまった。気のせいかのう?」


 ヨハンさんも気のせいだと思ってくれたようです。兄様もお二人は威圧しないようにしていたようですが、あまりこういったことは気付かれない方がいいですからね。


「まだボケられたら困りますよヨハン」


「おかしいのう、確かに揺れているように見えたんじゃが……はあ……儂のお迎えも近いかもしれん」


 ロナさんが楽しそうに笑う横でヨハンさんは幻覚を見たのではないかと思ったようで落ち込んでしまいました。


 大丈夫、見間違いではありません。

 まだまだお迎えは来ません。


お読みいただきありがとうございますm(_ _)m

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