第82話 冒険者も色々
「すいません。昨日、ジュエルベリィを採集依頼を受けた大樹の槍の者なんですが」
ジュエルベリィの採集依頼を行った翌日、ヨン爺さんに言われた通り、依頼報酬を受け取りに冒険者ギルドの受付にやって来ました。
「冒険者証の方の提示をお願いします。はい、確認いたしました。こちらへどうぞ」
犬人族の受付嬢さんに案内されて受付近くの部屋に案内されました。
「ジュエルベリィにはかなりの値がついたようで、他の冒険者の方の目につかない方が良いかと思いまして、報酬は金貨五枚になります」
「そんなにですか?」
ヨン爺さんが報酬を期待していろと言っていましたがまさかこれほどとは。金貨一枚で数ヶ月は暮らすことが出来ます。
「高貴な方が全て競り落としていかれたのでかなりの値段になったようです。会食か何かで食されるとかで、ギルドからの大樹の槍への評価はかなり高いようですよ」
「そうですか、良かったです」
Dランク冒険者が手にする報酬としては破格の大金をあまり人目につかないようにと気を使ってくれた受付嬢さんにお礼を言って部屋を後にします。
「報酬はもちろんですが、ギルドからの評価が高いというのはありがたいですね」
「そうねメア、これもルルのお陰、さてと今日はどうしましょう」
「Cランクの依頼を見てみましょうか?」
メアと話し合ってCランク依頼が張り出してある掲示板に向かい依頼を探します。何やら近くにいる冒険者の方達が私達のことを見ているようですが、今は依頼を何にするかに集中しないと。
討伐対象となっている魔物は流石に強いものばかり、ブラッドティグルの討伐依頼もありますね。あの魔物とは一度戦いましたがお父様の助けがなければ殺されていましたから、前回のリベンジに受けてみるのも良いかもしれませんが——
「メア、これはどうでしょう?」
「クリープマンティスの討伐ですか、鎌のような腕が特徴の甲虫型の魔物ですね」
「森を通る際に人を襲うそうなので早急に解決した方が良いかなと思って」
「分かりました。これにしましょう。大樹の槍のリーダーであるミレイが決めたことですから」
大樹の槍のリーダーと言われると気恥ずかしいですが、メアも納得してくれたので早速依頼を受けに行きましょう。
「嬢ちゃん達がCランクの依頼書を持ってどこに行く気だ?」
依頼書を掲示板から剥がして受付に行こうとすると先程こちらを見ていた一人の男性が話し掛けてきました。茶色の髪をした体格の良い方で銀色の重厚な防具を纏っています。
しかし鎧などの防具は傷だらけ、最近魔物の討伐依頼を受けたのでしょうか?
「見ての通り、受付に行ってこの依頼を受けようかと」
「おいおい、それはCランクの依頼だぞ。ペットを連れた遊び気分の女如きがこなせる依頼じゃねえんだよ!」
男性冒険者が大声を出すと賑わっていた冒険者ギルド内は静まり返りました。皆さんこちらに注目しています。
ルルは馬鹿にされたことに頭に来たようで威嚇しています。
会ったことはもちろん話したこともない冒険者の方が何を怒っているのか分からず困惑しているとそれを見かねたようでメアが一歩前に出ました。するとその前に酒場でお仲間と話していた男性が声を上げました。
「——止めておけリーゲル、みっともない。同じ依頼を受けて失敗した八つ当たりか?」
話によるとどうやらこの方達は私達が選んだクリープマンティスの討伐依頼を受けて失敗してしまったそうです。
「何だとっ!?」
「Cランクの依頼を受けるということは最低でもDランク冒険者ということだ。男だろうが女だろうが関係ない」
飲み物を飲みながら怒鳴る彼に背を向けて話し続ける男性、
「それにお前より強い女性冒険者なんて幾らでもいる。ほら見ろ、ウチのリーダーが相手をしてやっても構わないそうだ」
背を向けて話す男性の前に座る女性が口元を緩めてかかって来いとでも言うかのように人差し指を前後に動かし笑みを浮かべて挑発しています。
それを見たリーゲルと呼ばれている男性は顔を歪ませました。どうやらあの女性は相当な実力者のようです。
「それにしても馬鹿な奴だ。『女如き』なんて言って、お前はここにいる女性冒険者を敵に回してしまったな」
辺りには彼に対して殺気を放っている女性冒険者の方達が大勢います。どうやら女如きという言葉に怒っているようです。それを見てリーゲルさんのお仲間は顔を青くして後退りをしました。
「——チッ! 行くぞ!」
彼は舌打ちをすると凄い形相で私を睨んでから冒険者ギルドを後にしました。
エデンスでガコザさんに恒例の行事をしてもらったのとは少し違いましたね。ガコザさんは酔っていましたし、今回は自分達が失敗した依頼を私達のような若い冒険者が受けようとしたのが気に入らなかったようです。
しかしあれだけ正面から敵意を向けられても何ともありませんね。貴族のように表では良い顔をして裏で手を回して周りの人達を傷付けたりしていないからでしょうか、冒険者の方は良くも悪くも正面から向かって来てくれる方が多いですから。
騒ぎを起こしてしまったので周りの方にも頭を下げました。すると皆さんは手を上げて大した事ではないと合図をしてくれてまた楽しそうに会話を始めました。
さてと、私を助けてくれた方にお礼を言わなければなりませんね。
「助けていただきありがとうございます。Dランク冒険者のミレイと申します」
「気にするな、煩かったから注意しただけだ。あいつは面倒な性格だからな。俺はBランク冒険者のマグナスだ。それにしてもお前さん貴族みたいな話し方をするな」
「そうでしょうか?」
「まあ、貴族は冒険者に対してそんなに丁寧には接しないがな。さっきのことは気にするな。プライドだけ高い奴らは多いからな。そんな事よりもウチのリーダーはその白いのに興味津々みたいなんだが」
マグナスさんに言われて向かい側に座っている女性リーダーさんを見るとルルを凝視していました。ルルはマグナスさん達のテーブルの上に降りて私達の話を聞いていたのですが、強い視線に困惑しているようで女性リーダーさんに背を向けています。
「この子の名前は何て言うの?」
すると女性リーダーさんは私に声をかけてきました。余程ルルのことが気になるようです。
「ルルと言います」
「キュ!」
紹介するとルルは片手を上げて挨拶をしました。それを見て笑みを深くしました。
「あら、可愛いだけじゃなくて頭も良いのね。私はAランク冒険者のレイラよ。宜しくね」
レイラさんは私達に挨拶をしてくれました。美しい金色の長い髪で少しつり上がった力強い赤い目をしたカッコいい美人さんです。腰に二振りの太刀を差しているのが印象的です。
Aランク冒険者、だからさっきの方は顔を歪ませたんですね。そんな方に目を付けられたらどうなることか。
しかし流石はロンドールの冒険者ギルド、Aランク冒険者と早速会えるなんて、今日は依頼を受ける前に少しのんびりしていた所だったとか、レイナさんはマグナスさんを含めて五人でパーティ紅蓮の華を組んでいるそうです。
「貴女誰かに似ているような……」
ルルの次は私をじっと見つめてくるレイナさん、知り合いに私と似た方がいるみたいです。昨日ヨン爺さんにも同じような反応をされましたが、もしかしたらレイナさんもお母様の事を知っているのでしょうか?
「……気のせいね。もう亡くなったはずだから。何か困ったことがあったら相談してくれて構わないからね。行くわよ」
小さく何かを呟くと寂しそうに笑って首を振りました。そして私達に手を振ると依頼へと出掛けて行きました。
「私達も依頼を受けに行きましょう」
先程の寂しそうな表情が印象的だったのでレイナさんの後ろ姿を眺めているとメアに声をかけられ受付に向かいます。
「すいませんこれをお願いします」
「はい、クリープマンティスですね。こちらの依頼はCランク対象ですが構わないですか?」
「はい」
「かしこまりました。……先程は手を出さずに申し訳ありません」
先程気を使ってくれた犬人族の受付嬢さんに依頼の受注をお願いすると受付嬢さんは頭を下げて謝ってきました。しかしそんなことをしてもらう必要はないので直ぐに止めます。
「いえ、ギルドは基本的にああいった事には干渉しないと聞いていますので、それに特に何もありませんでしたので」
私がそう言うと受付嬢さんは「大物ですね」と微笑みました。
普通なら格上の冒険者に恫喝されると怖がって言う通りにするものだと言われました。確かにそうかもしれませんが普段一緒に居る兄様達の方がリーゲルさん達よりも格段に強いでしょうから怖いと感じることはありません。
実際には私よりも強いかもしれませんが恐怖するほどの差はないでしょうから。
「それではお気を付けて」
受付嬢さんに情報をもらい、挨拶をしてから冒険者ギルドを出ます。予想外のことが起きましたが気を取り直して頑張りましょう。
お読み頂きありがとうございますm(_ _)m