第81話 ルルの新居
ルルへのご褒美に唐揚げを買ってあげて、様々な屋台を見ながら宿に向かって歩いていると、頭の上で辺りを見渡していたルルが何かに興味を持ったようで声あげました。
「あそこに行きたいんですか?」
「キュイ」
ルルが興味を持ったのはどこにでもありそうな雑貨店、依頼も終えて急いでもいないので行ってみることにしましょう。
中に入ってみると沢山の商品を揃えたどこにでもある雑貨店でした。お皿や調理器具、子供用の玩具など商品は様々、しかし食料品などはなく特にルルが興味を持ちそうな物などなさそうなのですが何に興味を惹かれたのでしょうか?
「キュ」
ルルが指を指す方向を見るとウッドハウスのような見た目の小屋がありました。どうやらペット用の小屋のようです。入り口がスイングドアになっていてガラス窓のような物まであってしっかりとした作りをしています。
ドアからからルルが入っていき、中から窓を開けて顔を出しこちらを見てきました。
「これが欲しいの?」
「キュウ」
いつもは私の部屋で寝ているのですが自分の部屋が欲しいということでしょうか?
私達と出会う前、森の中では岩や木の穴に住んでいたみたいですからもしかしたらある程度狭い場所の方が落ち着くのかもしれませんね。
家の大きさはルルにぴったりで立ち上がっても頭ぶつからないサイズみたいです。
こんな事も珍しいのでルルの希望通りに小さな家を買ってあげましょう。
「他にも必要になりそうな物を買いましょうか、何が必要か言ってください」
そう言うとルルは布団やクッションになりそうな物などを指差しました。
それらを買うとルルはいつもよりも高く、そして見えないくらいの速さで回転して喜びを表現しました。店員さんが唖然とした表情でそれを見ています。食べ物以外でルルがこんなに喜んだことなどないので相当嬉しいみたい。
「ただいま帰りました」
宿に戻ると受付でロナさんがお茶を飲んでいたので挨拶をします。何でそんな所に座っているのかと聞いてみると受付はロナさんの憩いの場なのだそうです。長年そこにいたので落ち着くらしいです。旦那さんのヨハンさんも同じ理由で調理場が落ち着くとか。
良い匂いがするので奥を見るとやはりヨハンさんとメアが料理を作ってくれていたようで食卓の上に料理が並んでいます。ロナさんと話しているとヨハンさんが料理を運んで来ました。
「今日も美味しそうな料理ですね」
「メアちゃんは筋が良くて教え甲斐があって料理を作るのが楽しいわい」
「そうなんですか、あっ、そうだ。今日の依頼のお土産にジュエルベリィがあるんです」
「ほお、ジュエルベリィなんて久しぶりに見たの。こんなに取ってくるなんて大したもんじゃ。なあロナ」
「そうねヨハン、ミレイちゃん達は凄い冒険者だったんだね」
ヨハンさんとロナさんは感心したようにこちらを見て褒めてくれました。ですが今回は何もしていないですし、冒険者としても新米なので恥ずかしいです。
「いえいえ、そんな事はないですよ。まだ新米なんでこれからです」
「そうか、応援しとるよ。じゃあ、ジュエルベリィは夕食後に食べようか」
まだまだ料理の途中みたいなので邪魔にならないように部屋に戻ります。するとルルが先程買った小屋を出してくれと言うので部屋の奥に出します。
小屋以外のルルの為に買った物を側に出すとルルはそれを抱えて新居の中に入って行きました。
自分で住みやすいように家の中を整理しているようでガチャガチャと音が聞こえてきます。
何やら楽しそうな声や悩むような声が聞こえきます。窓には内側にカーテンのように布が付けられているので見ることも出来ないので何をしているのかは分かりません。
覗いて見たい気持ちが沸々と湧き上がってきますが止めておきましょう。ルルのプライベートな空間ですからね。
暫くすると兄様たちが帰って来たようで下から私を呼ぶ声が聞こえました。どうやら食事の時間のようです。
「ルル、夕食の時間ですよ」
私が声を掛けるとルルは正面の扉から出て来ました。まだ不満げな顔をしているので満足のいく部屋にはなっていないようです。
「満足のいく部屋が出来たらそのうち見せて下さいね」
「キュウ」
ルルは快く返事をしてくれました。
一階に降りるとやはり皆さん帰ってきていました。兄様たちに挨拶をして食事を始めます。
「今日の依頼はどうだった?」
「ジュエルベリィの採集依頼だったのですが、ルルが大活躍で大樹の槍の初依頼は大成功でした」
兄様に今日の依頼について聞かれたのでルルの活躍によってギルドから高評価が貰えそうだと伝えると兄様はルルの頭を撫でました。ルルも満足げで口を動かしながら踏ん反り返っています。
「そうかそうか、明日からも頼むぞ。私達の方は時間がかかるからな」
兄様たちは有名どころの商人たちから調べ始めたそうです。人となり、これまでにどのような仕事を行ってきたか、取引相手など詳しく調べて商売をする相手として相応しいかを判断するとか、中には貴族よりも力のある商人もいるらしく人選を誤ると利権の全てを奪いに来るかもしれないそうです。
私の知っている商人は良い人達ばかりなのですが、やはり貴族と取引のあるような商人は侮れないそうです。
「商人は親切そうなを顔して腹ん中では何を考えているか分からない奴が多いからな」
マクスウェルさんが言うには商人たちの争いは私達のように力の強い者が勝つという単純な物ではなくて圧力や賄賂などでドロドロしているそうです。
「そういえば信用出来る商人を探していると言っておったな。だが中には良い商人もいるぞいミレイちゃん」
そんな話を聞いていたヨハンさんは苦い顔をしている私を見て微笑みながら言いました。
「チカラある者には厳しく、弱き者には優しい商人もな」
ですよね。良かった。
そんなドロドロした人達を村には入れたくありませんから、
「ほらほら、難しい話ばかりしていないで、ミレイちゃんたちが持ってきてくれたジュエルベリィを食べましょう」
仕事の話をしているとロナさんが冷えたジュエルベリィを持ってきてくれました。
「そうですね」
難しい仕事の話は抜きにして料理とジュエルベリィの味を楽しみましょう。
「ジュエルベリィにゃ! 美味しそうにゃ!」
私達の話を聞きながら無言で魚料理をひたすら食べていたネイナさんはジュエルベリィを見て嬉しそうに声を上げました。
魚命のネイナさんですが普通の女性らしく果物などの甘い物も好きなので目を輝かせています。
「……美味しい」
ジュエルベリィを一粒食べてみると美味しくてビックリしました。昔食べたジュエルベリィよりも味が濃い感じがします。ただ甘みが増したという感じではありません。みずみずしくて、酸味があって……まあ、とにかく美味しいという事で。
ヨハンさんとロナさんはジュエルベリィを食べたのは数十年ぶりだそうです。昔も私と同じように泊まっていた冒険者が分けてくれたとか、懐かしそうに味わっています。
「はあ、美味しかった。ヨハンさん、メア、今日も美味しいご飯をありがとうございます」
今日も片付けは私達がやると言ってヨハンさんとロナさんには先に寝てもらいました。
「そういえばレオン様と対等に交渉をした商人もいたな」
それから片付けを終えるとマクスウェルさんがフリーデンと取引のあった商人たちの話をしてくれました。
商人たちの目当ては魔物の素材だったので手綱はお父様が取れたそうですがそれでも色々と注文をつけてくる商人は多かったとか、お父様とアンセラーさんを含めた伯爵家の中心メンバーの威圧感にも動じないで交渉をしてきた商人も何人かいたそうです。
お父様やアンセラーさん相手に交渉が出来るなんて凄いですね。普段から恐ろしい威圧感があるのに交渉となるとおそらく物凄い威圧感のはずです。
手綱を取れない力の弱い貴族は流通や生活の要である商人たちが自分の領地から出て行かないか気を使わなければならないそうです。
中々大変そうです。
私には出来そうもありません。
兄様たちに負担をかけないようにCランクを目指して頑張らないと。
「そういえば私のことを見て誰かと似ていると言うギルド員の方がいました」
「……どんな奴だった?」
「白い髪と髭が特徴的なお爺さんでした。ヨン爺と呼んでくれと言われましたけど、マクスウェルさんお知り合いですか?」
「ヨン爺か……どうだろうな、昔あったかもしれないが、とりあえずエルザ様のことは話さないようにしてくれ」
「はい、分かりました」
お母様とマクスウェルにここで何があったのでしょうか、気になるますね。
そのうち聞いてみましょう。
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