第80話 活躍のご褒美
帰りもルルが大活躍、嗅覚をいかして魔物が居ない道を案内してくれたお陰で何事もなく街へと戻って来ることができました。街に入るとそのまま冒険者ギルドへと向かいます。
「お帰りなさいミレイさん。お早いですが、依頼の方は上手くいきましたか?」
「ええ、運が良くてかなりの数を手に入れることが出来ました」
冒険者ギルドに入ると私達に気付いたサラさんが挨拶をしてくれたので依頼が上手くいったことを伝えて納品カウンターへと向かいます。
「新顔じゃな……だが見覚えがあるような」
空いているカウンターに行くとそこに居たのは白髪のお爺さん。太い眉や長い髭も真っ白で灰色のローブを身に纏っています。
挨拶をすると眉に隠れた目をグワッと開いて私を見て考え込むように白く長い髭を触り始めました。
「大樹の槍のミレイと申します。こちらはメア、この子はルルです。昨日こちらの街に来まして」
どうやら私の顔に見覚えがあったようです。しかし私は昨日この街に来たばかりですし、このお爺さんに会ったことなどないので他人の空似でしょう。
考え込むお爺さんに挨拶をして昨日来たばかりだと告げました。
「そうかそうか——んっ、まさかっ! ……いや、まさかな。……そんなはずはない。あやつからは二十年以上連絡はない。もう死んでおるはずじゃ、しかし瓜二つ……いや……」
私の言葉を聞いて顔を上げて勘違いだったかと頷いたお爺さんは突然何かを思い出したように大きな声を上げました。その声を聞いて周りの人達が私達に注目しています。今回はあまり目立ちたくはないのですが……
お爺さんはじっと私の顔を覗き込んできます。そして直ぐに何かを否定してぶつぶつと呟き始めました。
どうしたんでしょうか?
結構なお年に見えますし、もしかしてお医者さんを呼んだ方が——
「……すまんすまん気のせいじゃった。昔の知り合いに似ておってな。歳をとると突然昔のことを思い出したりするから困ったもんじゃ、さて今回の依頼品はジュエルベリィか、見せてもらえるかな?」
どうやら大丈夫みたいなので言われた通りにジュエルベリィをお爺さんの前に出しました。
「おおっ! すごい数じゃな。十房も獲ってくるとは、それに状態も良い。これは評価が高いぞい」
ルルの採集の仕方が良かったようで高評価を頂けました。ジュエルベリィは獲物を誘うために強烈な甘い香りを出して直ぐに獲った物が一番美味しいそうで、タイミングもベストだったようです。
またお爺さんが喜ぶので周りの人達の視線も集まってきました。
「どうやってこれだけのジュエルベリィを手に入れたんじゃ? まさか倒したわけではあるまい?」
「ええ、攻撃は全く加えていません。運良くお腹がいっぱいのジュエルトレントだったので」
「そうかそうか、だが運だけでは出来んことじゃ。実力もあるようじゃな」
「これは競りになる。明日にでもまた来てくれ、きっと良い額の報酬が受け取れるはずじゃ」
採集依頼の場合、物の状態を確認しなければ報酬の確定はされない場合が多いです。価値のないものを持ってきても仕方がないですから、今回はかなりの報酬が期待出来るそうです。
最近状態の良いジュエルベリィが流通していないらしく、商人ギルドから入荷があったら直ぐに連絡が欲しいと言われていたそうです。
「そういえばお爺さんのお名前は何と言うのですか?」
「儂か? 儂の名は……ヨン爺とでも呼んでくれ」
「分かりましたヨン爺。では明日また来ますのでよろしくお願いします」
「ああ、待っておる。期待しておくと良い」
ヨン爺に挨拶をして冒険者ギルドを後にします。振り向くとヨン爺さんがこちらを見ていたので手を振ると手を振り返してくれました。
「……まさかな」
◇
「もしかして……」
ギルドを出て直ぐにあることに気が付きました。もしかしたらヨン爺はお母様のことを知っているのではないかと、ですが死んだと聞こえたので勘違いかもしれません。
お母様はピンピンしてますから。
確認したいところですが、マクスウェルさんから何か重大な事が起こらない限りはお母様の事はギルド関係者に話すなと言われているのでそれは出来ません。マクスウェルさんはギルドにはあまり近寄りませんが、もしかして二人は昔何かしたんですかね?
困った時にギルドマスターが助けてくれるということはそんなに大したことではないと思いますけど……
まあそれはさておき——
「今日の依頼は無事に終わりましたね。私はこれからルルと買い物にでも行こかと思うんですがメアはどうしますか?」
「そうですね。夕食の準備を手伝いたいので一足先に帰らせてもらいます」
「分かりました。今日はお疲れ様、また後で」
宿へと戻るメアを見送って私達は屋台などが多く並ぶ通りへと向かいます。
「ルル、今日は凄い活躍だったので好きな物を買っても良いですからね」
「キュイーン!」
私がそういうとルルは喜んでバク宙を繰り返し始めました。すると周りの人達が指をさしてザワザワと話し始めたので少し恥ずかしくなり「ウギャ!」ルルを掴んで立ち去ります。冒険者の中には魔物を連れて歩く人もいるのでそんなに珍しくはないと思うのですが。
「キュ、キュイ!」
自分の扱いがぞんざいだと怒るルルに謝りながら歩いていると美味しそうな匂いがしてきました。
それにいち早く気付いたルルは先程までの怒りはすっかり収まったようで早く行こうと頭をポンポンと叩いてきます。
匂いのする方をルルが指差すのでそれに従って歩いていると大通りから逸れた路地に屋台がありました。
何でこのような場所にと思いましたが、これだけ屋台があるので場所がなかったのかもしれません。
屋台を覗いてみると唐揚げが並んでいて油がパチパチと跳ねる音が聞こえてきました。他に食べ物は無いのでどうやら唐揚げ屋さんみたいです。
「……いらっしゃい、お嬢さん」
野太い声に顔を上げると強面で体格の良い男性が店主さんでした。頭にタオルを巻いていてそこから見える目に迫力があります。冒険者としてもやっていけるんじゃないかという感じがします。
「——コラッ! 可愛らしいお客さんを怖がらせちゃ駄目でしょう!」
そんなことを考えて少し黙っていると店主さんの背後から女性の叱り付けるような声がしました。
誰だろうと後ろを見ると大きな店主さんに隠れて見えなかったのですが、店主さんと同じようにタオルを巻いた赤髪の女性がいました。左目の下にホクロのある美人さんです。
「そんなつもりはなかったんだが」
頭を掻いて怖がらせるつもりはなかったと言う店主さんの頭を背伸びをして叩きました。よく見ると細身なのにお腹が膨らんでいます。どうやら妊婦さんみたい。
「もう、顔が怖いんだから少しは愛想良くしなさいって言っているでしょう」
「お嬢さん、怖がらせて申し訳ない」
二人のやりとりは暫く続いて店主さんと思わしき男性が私に頭を下げて謝ってきました。
「怖くないので大丈夫ですよ」
私が大丈夫だと言うと女性の方だけでなく男性も驚いたような顔をしてこちらを見ました。
「あら、本当に? この人の顔を見て怖がらない人なんて珍しいわね。始めて見た人は悲鳴を上げて逃げてしまうことが多いんだけど」
「これでも冒険者なので本当に怖い人の気配は分かるんです」
確かに少し強面ではありますけど、言葉遣いも丁寧ですし、何より雰囲気が優しげというか何というか、見た目で損をしているようですね。
「私はシーナ、こっちは旦那のジャンよ」
「私はミレイと言います。こっちはルルです」
普段はシーナさんがお客さんとのやり取りをしているそうですが赤ちゃんがお腹にいるので体調が悪いときなどはジャンさんに店番から調理までやってもらわなければならないという事で接客の練習をしていたそうです。
こんな場所で屋台を開いていた理由はジャンさんが立つと常連のお客さん以外の人が逃げてしまって周りに迷惑をかけるからだとか、ジャンさんは普段調理を担当しているそうです。唐揚げ以外の料理も得意でいつか二人で店を持つために頑張っているとか。
路地で屋台を開いていてもジャンさんを見れば強盗などは逃げて行くので問題ないらしいです。こんな顔でも役に立つこともあると二人で笑っています。中々ヒドイ事を言っていますが仲が良いそうです。
「キュイ!」
静かに私達の会話を聞いていたルルですが、もう我慢できないようで声を上げました。
「あっ、ルルが早く食べたいそうなのでお勧めの唐揚げを五個頂けますか?」
「あら、待たせてゴメンね。これから一番美味しい唐揚げを食べさせてあげるわ」
ルルの頭を撫でるとジャンさんに指示を出して新しく鶏肉を切り分けて味付けをしてから揚げ始めました。良い匂いが漂ってきます。
「はい、出来たわ。サービスで二個入れといたから」
「ありがとうございます」
屋台の隣にテーブルと椅子が置いてあったのでそこに座って早速食べようと思います。
まだ熱いので息を吹きかけてからルルにあげるとまだ熱かったようで息を吹きかけて冷ましています。
そして何とか食べれる熱さになったようで一口食べると目を輝かせました。どうやら気に入ったようです。次々と口に運んでいきます。私も食べてみると衣がサクッとしていて中のお肉も柔らかく肉汁がジュワーっと溢れ出てきて凄く美味しいです。あっという間に食べ終わってしまいました。
そんな私達を嬉しそうな顔をして見ているシーナさん、ジャンさんは……笑っているのでしょうか、先程よりも凄みが増しています。
「美味しかったです。また買いに来ますね」
やっぱりルルの嗅覚は確かですね。美味しい店を発見してしまいました。兄様たちにも買って帰ろうと思いましたが、ヨハンさんとメアが作ってくれていると思うので今回は止めておきましょう。
お読み頂きありがとうございますm(_ _)m




