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第77話 大樹の槍

「行こうか」


 兄様を先頭に冒険者ギルドへと向かいます。扉を開けて中に入ると物凄い数の冒険者の方達がいて賑やかです。

 常設された酒場は広くて二階まで席が用意されています。掲示板に貼ってある依頼も数え切れないほどあります。


 エルドラン王国の王都にある冒険者ギルドには行ったことが無いのでどのような感じなのかは分かりませんが、一国の首都にある冒険者ギルドともなればこのような規模が普通なのでしょうか。


 周りにいる冒険者の皆さんは私たちに視線を向けてきますがすぐに視線を逸らしてまた知り合いとの会話を続けています。声を掛けてくる人はいません。それだけ外部から冒険者がやって来るということでしょう。

 もしかしたらエデンスのギルドであったように誰かがあの恒例の行事をしてくるかと思いましたがその様子はありません。


「すいません。エデンスから来ましたアレクと申します。ここにいる四人でパーティ登録をしたいんですが」


 受付嬢さんは兄様に声を掛けられると顔を赤くしました。「チッ!」すると周りから舌打ちの音が聞こえました。兄様の方を怖い顔をして見ている冒険者の方が沢山います。

 固まったままの受付嬢さん、しかし隣のベテランに見える受付嬢さんが咳払いをすると慌てたように返事をしました。


「う、承りました。冒険者証をお預かりします」


「どうぞ」


「全員Dランク冒険者ですね。——えっ!?」


 冒険者証を受け取り何かの作業をしていた受付嬢の方は驚いたように声を出しました。周りの冒険者の方達が受付嬢さんに注目しました。

 やってしまったというように口を押さえて周りの人達に頭を下げています。



「申し訳ありません。驚いてしまって、皆さん冒険者登録されて間もないのにDランクなんで凄いですね」


「そんなことはありませんよ。依頼が上手くいったので」


「それでは四人のパーティ登録を行います。リーダーは誰方が?」


 それは当然兄様がリーダーでしょう。

 私達の中では一番実力がありますし王国軍で隊を率いていた経験もありますからね。

 ネイナさんは……ちょっと違う気がしますね。凄く強いですけど。メアは周りを立てようとするので絶対にやらないでしょう。

 もちろん私は論外です。


「ミレイでお願いします」


「えっ!? どうしてですか兄様?」


 そんなこと一言も……


 この中で一番実力の劣る私がリーダーなど出来るはずがないです。そう思って二人を見るとネイナさんには「問題ないにゃ」と言われ、メアの方を見れば「ミレイなら出来ます」と言われてしまいました。


「お前は今後も冒険者を続けるかもしれないだろ? だったらその方が良い」


「そうかもしれませんが……」


 もう兄様は、事前にそうするつもりだと教えてくれれば良かったのに、私が断るのを見越して黙っていましたね。


「ではミレイさんがリーダーということで、パーティの名前はどうなさいますか?」


「ミレイ、お前がリーダーだ。良い名前を付けるといい」


 パーティの名前……


 私達と関係の深い物からパーティの名前を付けることにしましょう。エル・リベルテにそびえるあの大樹、私達の村の象徴であるあの御神木とあとはフリーデンの象徴である槍から名を付けることにします。


「そうですね……大樹の槍でお願いします」


 ……そのままになってしまいましたが、兄様たちを見ると頷いているので大丈夫みたいです。


「はい、では登録させて頂きます」


 冒険者証を返してもらうとそこには大樹の槍という記載がありました。私がリーダーというのは違和感がありますがとりあえず頑張りましょう。村に帰るまでの期間の仮のリーダーですから。


 パーティー登録するメリットは依頼をこなすと評価がパーティー全体の評価とされること、それに個人で任せてもらえない大きな仕事が受けられる場合があるそうです。デメリットは個人で受けた依頼を失敗した場合もパーティの責任になること、それは問題ありませんね。無理をするつもりはありませんから。


「さてと、今日は依頼をするつもりはないから買い物をして帰ろう。お世話になる御夫婦のために何か良い物を買わないとな」


「魚が良いと思うにゃ」


「そうだな、魚は体に良いしな」


 兄様がそう言うとネイナさんは飛び上がって喜びました。市場によって様々なものを買っていきます。美味しそうな肉に新鮮な野菜、見たことのない食材が沢山あり普段冷静なメアも目を輝かせています。料理が得意ですからこのように沢山の食材や調味料などがあって嬉しいのでしょう。

 今回は料理を作る機会も沢山ありそうなので張り切っているようですね。


 ネイナさんは魚屋さんの水槽で泳ぐ魚を張り付いて見ています。隣で同じようにしている子供がいますね。だけど子供が眺めるのとは少し違ってよだれを垂らしているので楽しんでいると言うよりは美味しそうな魚だと思っているみたい。


「只今帰りました」


 御夫婦の家に戻ると二人が優しい顔をしてお帰りなさいと言ってくれました。

 メアは既にやる気満々、お爺さんに厨房に案内してもらって料理を始めようとしています。買ってきた食材をテーブルに出すとお爺さんは驚いたように目を見開いていました。二人で協力して夕食を作ってくれるそうです。


「私も手伝おうかな」


 料理は楽しいですから、食べてもらって喜んでもらえるのはとても嬉しいです。


「……いえ、ミレイ。この旅の最中は私が食事については責任を持つようにと父からきつく言われているので任せて下さい」


 メアに大丈夫だと言われてしまいました。セバスの言いつけなら仕方がありません。仕事を奪うわけにはいきませんから。食材を収納してくれるだけで凄く助かると言われました。


「良い匂いがしてきたな」


 お婆さん——ロナさんと色々な話をしているとマクスウェルさんがやっと起きてきました。メアとお爺さんが作る料理の匂いに誘われて目が覚めたようです。


「そういえば冒険者ギルドにはもう行ったのか?」


「ええ、大樹の槍というパーティを組みました。……私がリーダーになってしまいましたが」


「良いじゃないか、リーダーとして好きに動いたらいい。俺がリーダーだったら睡眠時間を最低十時間という決まりを作るな。リーダーの言うことは絶対だから。……エルザ様と組んでた時は大変だったな」


 昔を懐かしむような表情をするマクスウェルさん。その顔には楽しかったと言うより大変だったという哀愁が漂っています。マクスウェルさんは昔、働き者で言うことをよく聞いてくれたけど今は寝てばかりで文句も多いとお母様はいつも言っています。


 お母様との旅は大変だったのでしょうか、性格が変わってしまうほどに、やらなきゃいけない時はしっかりと動いてくれるので根本は変わっていないようですけど。少し目が潤んでいるようです。


 まあそれは置いといて、


 メアとお爺さんが料理を作って持ってきてくれました。美味しそうです。


「さてと、私たちのリーダーであるお嬢に乾杯の音頭を取ってもらいましょうか」


 マクスウェルさんが無茶振りをしてきました。昔の素直だったという姿に戻って欲しいです。


「……えっと、宿が見つからずに困っていた所を助けていただき本当にありがとうございます。ヨハンさんとロナさんとの出会いに乾杯」


 私が乾杯の音頭をとると食事が始まりました。メアとヨハンさんの作った料理はとても美味しいです。メアはヨハンさんの作る料理を見て勉強になったそうで、ここに泊まる間に色々なことを学ばせてもらうそうです。


 二人との出会いには本当に感謝しないと、街の中でテントを張ることなんて出来ないでしょうから、あのままだと街の外で野営をすることになっていたかもしれません。


 ルルは肉料理を食べたいと私の服を引っ張るのでお皿に沢山盛ってあげました。ネイナさんは食べたことのない魚が沢山あるということで幸せそうな顔をしています。メアはそんな皆さんの表情を見て満足そうにしています。


 ヨハンさんとロナさんも久しぶりに賑やかな食事だと喜んでくれているようです。食事が終わると二人には先に寝てもらいました。片付けぐらい私たちがやらないと、ヨハンさんは最後まで抵抗していましたがロナさんがこう言ってくれているのだからと笑顔で「行くわよ」と言うと「はい」と頷いて後は頼むと部屋に行きました。仲の良い夫婦で憧れますね。


「さて、明日からは早速本来の仕事を始める。前にも言ったが基本的には私、マク兄、ネイナは信頼できる商人を探す。ミレイとメアは依頼をこなしてくれ、二人では厳しい依頼の場合はもちろん手伝う」


「分かりました」


 村の皆んなのために頑張らないと。

 依頼を受けていればもしかしたら信頼できる商人と出会う機会もあるかもしれませんからね。それにティナさんとの約束も守らないと。


お読みいただきありがとうございます。

フリーデン家の主たる武器に槍、ミレイ達の住む村近くの湖の中心に大樹がある設定にしました。そんなに内容は変わりませんがそれに伴い少しずつ手を加えていきます。

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