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第75話 閑話 とある若き冒険者

 突然の殺気に俺たちは固まってしまった。そして立ち去る彼等を呆然と見送ることしか出来なかった。


 俺たちのリーダーであるダグルスさんが声をかけてくれたことで俺を含め子爵様や兵士たちが我に返った。

 仲間の中で固まってしまったのは俺だけのようだ。彼等が去るまでダグルスさんが声を掛けなかったのは兵士たちに余計なことをして欲しくなかったからだと思う。


「何という事をしてくれたのだ!」


 そして我に返った子爵様が先ほどの冒険者たちに無礼な態度をとった兵士を怒鳴る。


「閣下、しかしあの者は「馬鹿者! 彼等は我々を救ってくれたのだぞ」


 そう彼等に俺たちは救われた。

 突然現れた五人組の冒険者たちに、


 俺の名前はレイト、Dランクの冒険者だ。


 俺たちはBランク冒険者のダグルスさんをリーダーとした五人組のパーティだ。同じくBランクのビスケさん、Cランクのリストさんとナエさん。俺が一番の下っ端だ。

 俺たちは子爵様をエルドラン王国から商王国トルネイまで護衛する依頼を受けた。

 何の用があって商王国に行くのかなどの話は一切ない。

 何やら重要な要件があるらしい。

 ギルドマスターからの頼みだったからかなり重要な依頼なのだろう。本来ならAランク冒険者たちに頼みたかったそうだが急だったこともあり、Aランク冒険者たちが長期依頼に出ていて連絡がつかないという事で俺たちが引き受けることになった。

 因みに危険な任務になるかもしれないということでダグルスさんが報酬を釣り上げた。


 そんな俺たちはエルドラン王国を出てから商王国に着くまであと二、三日というところで黒尽くめの集団に襲われた。多勢に無勢、子爵様の兵たちは少しづつ倒れていった。俺たちは子爵様が乗る馬車を守るので精一杯で兵士の救援に行く余裕などなかった。敵のリーダーは中々の強さでダグルスさんも抑えられてしまっていた。

 そこに現れた彼等はまさに天の助けだった。彼等は強くあっという間に敵を追っ払ってくれた。

 だが誰も殺さなかった。不思議に思ったが善悪の区別もなく人を殺すのは嫌だったのだろう。それに何故殺さなかったなどと言う資格などない。


 彼等の中には俺と同い年ぐらいの女性が二人いた。そして彼女たちは俺よりも間違いなく強かった。


 悔しかったがそれよりも俺は黒く長い髪を一つに束ねた女性に目を惹きつけられた。白い馬に跨り片手に長槍を持った美しい女性、凛とした雰囲気でまるで物語に出てくる戦乙女ヴァルキュリアのような。


 今までにあのような女性を見たことがない。じっと見すぎたのかこちらを見てきたので慌てて目を逸らした。

 顔が熱くなるのを感じた。恐らく俺の顔は真っ赤になっていたことだろう。

 しかし幸い戦闘の後、顔が赤くなっているのはおかしな事ではないから気付く人はいないはずだ。


 ダグルスさんがリーダーと思われる金髪の整った顔の冒険者に話しかけると彼等もロンドールへと向かう途中だと言っていた。

 そして特に礼金などを求めることもなく立ち去ろうとした。面倒ごとには関わりたくないという事だろうか?


 しかし兵士が減ったことで不安に思ったのか子爵様が彼等を呼び止めて雇おうとした。

 彼等はそれを断り立ち去ろうとすると兵士の一人が彼等を怒鳴りつけて剣を向けた。

 恩知らずにもほどがある。

 すると一人の男がその兵士の首元を掴んで持ち上げた。全く動きが見えなかった。

 そして仲間を助けようと他の兵士たちが剣を抜いて男の元へ走り出そうとした時、身の毛もよだつほどの殺気が放たれた。


 首元に剣の切っ先を突きつけられ一歩でも動けば命を奪われると錯覚してしまうほどの殺気、いつでも俺たちを殺すことが出来ることが分かった。


 怒らせてはいけない者を怒らせたのだ。

 リーダーらしき金髪の冒険者が止めてくれなかったら俺たちはどうなっていたのか分からない。


 殺気が消えると兵士たちは崩れ落ちた。

 俺もフラついてしまった。

 彼等が去っていくのをただ呆然と眺めている事しか出来なかった。しかしせっかく救われた命、ダグルスさんは直ぐに声をかけて辺りの警戒に戻る。



「……申し訳ありません」


 子爵様に叱られて肩を落とす兵士、


「ヴィッツ、そなたが私に忠誠を誓ってくれているのは分かる。友を失って気が動転していたのかもしれん。だが貴族の権威を闇雲に振りかざせば奴等と同じではないか、そうであろう?」


 奴等とは誰のことだろうか?

 貴族なんて大体同じだと思うが、


「……はい、閣下」


「だが先ほどはよく戦ってくれた、感謝しているぞ」


 子爵様は叱りつけるだけでなく命懸けで戦った礼も言った。これを人心掌握術と言うのだろうか、その兵士は目を潤ませている。


 あの時、直ぐに子爵様が止めていればとも思うがどうやら兵士の突然の行動に驚いているうちにあの恐ろしい男が兵士の首元を掴んで殺気を放ったようだ。

 自分の兵士の中にあのような態度を取る者がいるとは思っていなかったのかもしれない。確かにあの時声をかけようとしていたような気がする。


「……ありがたきお言葉」


 亡くなってしまった兵士は次元収納を使える兵士が全員収納した。帰ったらエルドラン王国内で葬式をあげるそうだ。貴族は兵士を使い捨てると思っていたがこの子爵様はそんなことはしないみたいだ。


 俺たちは再びロンドールへと向けて出発した。あと二、三日で到着するのだから、あの冒険者たちがいなくても何とかなるだろう。襲撃者たちの多くは何処かを怪我していたから再びの襲撃はほぼ不可能なはずだ。


 俺たちは先ほどの襲撃者たちが去っていった後方で警戒している。

 先ほどのことが気になった俺はダグルスさんに彼等について聞いてみた。


「ダグルスさん、さっきのあの殺気を出した冒険者はどれだけ強いんですかね?」


「……さあな、だが間違いなく俺よりも強いだろう。冷や汗が止まらなかった。リーダーと思わしき金髪の彼が止めてくれなかったら我々は死んでいたかもな」


 ダグルスさんよりも、ということはAランクぐらいの力を持っているということなのだろうか、


「全員強かったですね」


「ああ、お前と同い年ぐらいの女性もお前よりは強かったな」


「……」


 分かっているからそれは言わないで欲しい。何となく悲しい気分になってくる。

 ダグルスさんはそういうところをはっきり言ってくるな。気を遣ってくれてもいいと思う。視線を感じたので見るとビスケさんがこちらをじっと見ていた。


「何ですか?」


「レイト、あの黒髪の子に惚れた?」


「——えっ!?」


 急にビスケさんがそう言ってきた。

 驚いて声を出してしまい兵士たちに見られたので慌ててなんでもないと誤魔化す。

 なんで気付かれたんだ?


「ど、どうしてですか?」


「やっぱりね。あれだけ見つめていたら誰にでも分かるわよ」


 ……見ていたところを見られてた。

 かなり恥ずかしい。

 命のやり取りをしたばかりで何をしているんだと言われそうだ。


「確かにあの子も綺麗だったな、俺は銀髪の娘が好みだけど——痛っ!」


 リストさんがそう言うとナエさんに脇腹を小突かれている。二人は付き合っているから当然だ。リストさんは格好良いんだけどこういう所が駄目だ。尊敬出来ないというか何というか……


「冗談なのにさ、酷いぜ——グハッ!」


「馬鹿はさておきレイト、貴方とんでもない女に恋したかもね」


 ナエさんがもう一発リストさんを小突いてからそう言ってきた。とんでもない女?


「どういう事ですか?」


「あの若さであれだけ強いのよ。将来どれだけ強くなるか……そうなると彼女に釣り合う男ならそれ相応の強さを持っていないと駄目ってことになるでしょう。女に守られる男なんてゴミ以下よ」


 ナエさんは中々辛辣な意見を言ってくる。

 ゴミ以下なんて……ということは今の俺はゴミ以下じゃないか……。


「意地の悪いことを言うなナエ、こいつの才能ならいつかはAランクに届くだろう」


 気落ちして下を向いているとダグルスさんが俺の肩をもってくれた。そうだ。俺はダグルスさんに将来性を見込まれてこのパーティに入れてもらったんだ。頑張れば俺だってあの子に相応しい男になれるはずさ。


「まーね。才能だけなら私も認めているけど、あの子はその前にAランクになるだろうし、もしかしたらその先にも行くかも。ダグルスさんそれを否定出来る?」


 ナエさんはそう言ってダグルスさんに人差し指を突きつける。難しい顔をしたダグルスさん。先ほどの戦いから彼女の将来を想像しているみたいだ。


 言い返してくれダグルスさん。こいつならやれるって、


 するとダグルスさんは俺の方を向いて肩を叩いた。何か俺を奮い立たせてくれるような事を言ってくれるはずだ。そう思って言葉を待つ。


「……女なら山ほどいるさ、次の恋を見つけるんだレイト」


 諦めろと言われた。

 周りを見ると皆んな頷いている。


「……皆んなひでぇな」


「冗談はさておき、あの殺気を放った男はAランクの強さを持っているのは間違いない。あれを体感できて良かったな。Aランクから上は化け物だらけだ。お前もそこを目指すなら覚悟をしておけ」


 正直、Bランクのダグルスさんも十分化け物だと思うんだけど、


「……先は長いな」


「諦めればゴールは直ぐそこよ」


 ナエさん……

 俺が将来を思い悩む青年っぽい雰囲気を醸し出していたのにそんな身も蓋もないことを。


「彼等もロンドールに行くと言っていたから、また会うだろう。もし殺される覚悟が出来たら話しかけるのも悪くないと思うぞ」


 殺される覚悟って……あり得るかも。もしかしたらあの兵士と同じような奴だと思われている可能性もあるし、


「そういえばあの黒髪の子が誰かと付き合っていたらどうするんだ? 例えばあの金髪の男とか」


「えっ?」


 リストさんに考えもしなかったことを言われた。皆んながそれもあるなと頷いている。確かにその可能性もある。

 黒髪の子の方が若いように見えたけど、金髪の人は滅茶苦茶イケメンだったし、かなり強いと思う。まさに完璧な男って感じだ。


 ……あれ、俺の恋終わった?

お読みいただきありがとうございます。またまた閑話です。その関係で話の順番を少し変更しましたm(_ _)m

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