第70話 食事会
「で、どうだった?」
ボイドさんの話が終わり、随行していたギルド員さんに新しい青い色の冒険者証をもらい部屋から出ました。それを見ながら歩いていると壁に背を預けて待っていたマクスウェルさんが話しかけてきました。
「見てくださいよコレ!」
マクスウェルさんに冒険者証を見せるとフードの下から見える口元を緩ませました。
「これでDランクか、順調でなによりだ。……お嬢の戦いはちょっと面白かったけどな」
マクスウェルさんはDランクになったことを褒めてくれたと思ったら、私の試験を思い出したようで笑い出しました。
確かに少し間の抜けた試験だったかもしれませんが酷いです。試験の時も客席で肩を震わせて笑っていましたし、そう文句を言うと「だって面白かったから」と悪びれることなく言われました。
調子に乗っていたDランク冒険者が一撃で吹き飛ばされたのも面白かったし、周りで見ていた冒険者たちの驚いた顔も面白かったそうです。
「あの女の子が一撃でDランク冒険者を倒すなんて」と驚く人が多かったそうです。
私の試験は他の皆さんより歓声も少なく寂しかったのですが、驚いてくれていたのなら悪い気はしません。
受付や酒場のある場所出ると皆さんは静かになりました。こちらをチラチラと見ながら小さな声で何かを呟いています。
先ほどの試験を見ていた人たちでしょうか?
面白がるような視線、妬むような視線、羨むような視線、射殺すような視線、様々な感情が伝わってきます。
「お姉ちゃん凄かった!」
「かった!」
冒険者ギルドを出るとネポロ村の子供たちが笑顔を見せながら駆け寄ってきました。どうやら話が終わるまで待っていてくれたようです。
フードをかぶったマクスウェルさんを見て子供たちがビクッと震えて年長の方たちの後ろに隠れ、顔を覗かせていましたが、マクスウェルさんがフードをとると何事もなかったようにまたワイワイと騒ぎ始めました。
ポコナちゃんとココロちゃんが先ほどの試合に興奮したようで見てみてと小枝を振り回し始めました。
兄様たちの真似をしているようですね。
次第に子供の遊びにしてはやけに高度なチャンバラごっこになっていきます。ピョンピョンと跳ね回りながら剣に見立てた枝を打ち合っています。
……獣人の身体能力とは恐ろしいものですね。
正直、少し羨ましい気もします。
周りに見物人が集まってきたところで年長の女性に注意されて二人は止まりました。怒られてしまったのが不満なようでほっぺを膨らませてムクれています。
「皆さんおめでとうございます」
「マールさんありがとうございます。この後、お祝いに食事でもと話していたのですが、ご一緒にどうですか?」
「いいんでしょうか?」
「ええ、私たちが泊まっている宿の方がお祝いをしてくれると言っていたので、人数は少し増えてしまいますが、食材を買って手伝いをすれば大丈夫でしょう」
兄様がネポロ村の皆さんを食事会に誘いました。
皆さんにも言っておかなければいけないこともありますし、ちょうど良いかもしれません。
「では、食材や料理などを用意しますので皆さんは家の方へ、——ミレイ、美味しそうな料理が売っていたら適当にこの人数分ぐらい買って来てくれないか?」
「はい!」
兄様に買い物を頼まれました。他の皆さんは食材を買って宿で手伝いをするそうです。子供たちがアンナちゃんのお父さんを見て泣き出さなければいいのですが……。
「ポコナも!」
「ココロも!」
すると二人がビシッと手を挙げて自分たちも買い出しに行くと言い出しました。私の方を見ていますが、それはマールさんに聞かないと。
「マールさん、いいでしょうか?」
マールさんは二人を見ながら少し考え込んでいます。二人は祈るような顔をして上目遣いでマールさんを見ています。あまりの可愛らしさに私ならすぐに良いよと返事をしてしまいそうですが、慣れているのでしょう。マールさんは微動だにしません。
「ご迷惑でなければ」
「——めいわくかけないよ!」
「——ないよ!」
ということで許可をもらって二人と買い出しに行きます。私たちの担当は露店などで買えるおかずを買いに行きます。「キュイーン!」とりあえずルルがいつもの串焼きを食べたいそうなのでいつもの屋台へ。
「おっ、嬢ちゃん、ランクアップ試験はどうだったんだ?」
私の顔を見るなり試験の結果を聞いてきました。ほぼ毎日串焼きを買っていたので世間話も沢山していたので今日ギルドで試験があること知っています。
「受かりましたよ」
「おっ、良かったじゃねえか」
「というわけで今日のオススメの串焼きを何種類か六十本お願いします」
串焼き屋のおじさんに串焼きを頼んで他にも美味しそうな物がないか探していきます。
「これ美味しそう!」
「そう!」
しっかりとした料理は用意してあると思うので簡単につまめるものをポコナちゃんとココロちゃんが美味しそうな食べ物の匂いを嗅いで選んでくれました。
何品かを買って戻ると串焼きの用意が出来ていたようですぐに渡してくれました。
グルゥゥゥウ
二人のお腹から狼の唸り声のような音が鳴りました。お腹をさすりながら、串焼きを見てヨダレを垂らしています。
お腹が減っているようです。
早く帰って食事にしましょう。
「祝いにオマケも入れておいたから食べてくれ、いつもありがとよ」
「こちらこそ」
手を振って二人と手をつなぎながら宿へと戻ります。
「お帰り、準備はもう出来たよ。始めようか」
すでに料理の用意などもされていたので、私が買って来た物もお皿に盛って食事会が始まりました。
ネポロ村の女性たちは元気そうで、子供たちもそれぞれ楽しそうに食事をしています。
ポコナちゃんとココロちゃんは口の周りを汚しながら串焼きを美味しそうに食べています。
それと意外にも子供たちはアンナちゃんのお父さんであるダントさんのことを怖がりませんでした。料理を華麗に作っていく様子を興味深げに眺めています。若い女性たちはダントさんが近付くと小さな悲鳴をあげていますが……。
その時のダントさんの背中が寂しげだったのが少し可哀想でした。
「さて、今日は皆さんにも聞いてもらいたいことがあります」
食事を始めてお腹が少し膨れてきたところでアレク兄様が話を始めました。
「私たちはそろそろロンドールへと旅立とうと思っています。冒険者としてのランクも多少は上がりましたし」
そう、私たちはそろそろロンドールへと足を運ばないといけません。マクスウェルさんが様々な商人を見て回ったのですが、その目にかなう方は居なかったそうです。
ネポロ村の皆さんのこともあり、ここに滞在することになりましたが、すぐにロンドールへ行く予定でしたから。
「そうですか……私たちが生きているのは皆さんのおかげです。本当にありがとうございました」
「いいえ、数ヶ月したらまた戻って来ると思いますので、何か困ったことがあったら相談して下さい」
数ヶ月後にはもしかしたら、ネポロ村を再建が進んでいるかもしれません。これからが大変かもしれませんが、何かあれば手伝えることもあるでしょう。
「どっか行っちゃうの?」
「の?」
ポコナちゃんとココロちゃんが私の手を引いて質問してきました。どこか不安げな表情をしているように見えます。親しくなった私たちが離れるのが寂しいのでしょう。両親との別れを経験したため、余計に人と離れるのが辛いのかもしれません。
「また会いにきますよ」
目が潤んでいますが、なんとか我慢しているようです。
「魔法の訓練はしっかりとしていて下さい。その時は見せてもらいますからね」
「「うん」」
元気よく返事をしてくれた二人、それ以降はまた楽しそうな顔をして食事を続け、お腹がいっぱいになった子供たちが眠ってしまう前に皆さんは帰って行きました。
「さて、出発は明後日にしよう。明日は買い出しと、それぞれ知り合いに挨拶をしておくんだ。侯爵にも挨拶をしておきたい所だが、忙しいだろうから会えないかもしれない。とりあえずロンドールへ向かう旨だけは伝えておこう」
料理の片付けを手伝って部屋に戻りました。
「メアとネイナさんはCランク冒険者の方と戦えて羨ましいです」
「今回は確かにミレイは付いていなかったかもしれむせんね。ですがレオン様やアレク様といつでも訓練が出来ると考えれば大したことではありませんよ」
そう言われて見ればそうかもしれません。
兄様はBランク冒険者と対等に戦っていましたし、全力で戦っているようにも見えませんでした。お父様は言うに及ばず、そもそも冒険者の枠に収まるのかも分かりません。
「確かに……、でもメアもセバスと訓練が必要出来るじゃないですか」
「二人は幸運にゃ、あんな凄い方たちといつでも戦えるにゃんて」
やはり周りから見たらそうなのですね。
今回は少し残念でしたが、また機会はあるでしょう。次に期待しましょうか。
お読みいただきありがとうございます。
自分で書いといて何ですが、王国を出てからどれだけの時間が経過したのか悩み中ですヾ(´ω`)




