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第69話 閑話 意図

 ミレイたちが立ち去り、部屋にはボイドやシュレイたちが残っている。先ほどの笑顔がある温和な雰囲気と違って真剣な表情をしている。


「で、どうだった彼奴らは?」


 ボイドが実際に戦ってどう思ったのかを試験官を務めていた三人に聞いた。


「私の戦ったメアって子は強かったわ。これからもっと強くなるでしょうね。現状でもCランクのチカラは持っているわね」


「俺の相手も強い。実際負けたしな」


 二人が自分の戦った相手の評価をする。

 そして次はシュレイの番。


「私の戦ったアレクさん、彼は別格ですね。私では勝てる気がしません。あれはAランクのチカラを持っていますね。本気は見せなかったのでそれ以上かもしれませんが」


 シュレイがそう言うとラルフとイングリットは目を大きく見開いた。二人の戦いを見ていて強いとは思っていたようだが、Bランク冒険者であるシュレイが勝てないとは思っていなかったようだ。

 ボイドは最初から分かっていたのか特に驚いた表情はしていないが。



「——だそうですよ、侯爵」


 ボイドがそう言うと隣の部屋からアキンドー侯爵が姿を現した。シュレイら三人は直ぐに膝をついて頭を下げる。ボイドはギルドマスターとして貴族に頭を下げる必要はないが会釈をした。そして侯爵は彼等に立つように言ってボイドに言葉を返す。


「ああ、予想どおり、いや予想以上の強さを持っていたな」


 侯爵は先ほどの戦いを思い出しているかのように目を瞑った。その様子を見ていたシュレイは侯爵に質問をした。


「彼等は何者なのですか?」


 それを聞いた侯爵は少し間をおいて言う。



「……他言は許さんぞ」


 アキンドー侯爵は大貴族特有の威圧感を出して、この場にいる者たちに他人には話すなと言う。冒険者である三人にはもちろん、ギルドマスターであるボイドにも口を閉ざしておけと言う。

 ボイドとシュレイは当然のように頷き、ラルフとイングリットは冷や汗をかきながら遅れて頷いた。



「おそらく彼等はエルドラン王国の盾、フリーデン元伯爵家の者たちだ」


 侯爵の口から出た隣国の大貴族の名を聞いて驚愕の表情を浮かべる。フリーデン伯爵家と言えばエルドラン王国において帝国との国境を守る武人の一族、この国の冒険者たちの中にも尊敬する者は多い。


 実はラルフもその一人、遠い過去にいたフリーデン家の大剣使い、その物語に憧れて自らも大剣使いになったのだから。



「あれが……家名がフリーデンだと知っていたが、まさか本人だとは」


 ボイドも驚いている。とんでもない新人が現れたとギルドマスターとしては喜んでいたのだが、有名な大貴族だとは思いもしなかったようだ。

 それもそのはず、この国にはフリーデンという家名の者は多い。彼等はエルドラン王国のフリーデン家に憧れて同じ家名にしたのだ。なのでボイドたちはフリーデンという家名に大した違和感を感じていなかった。



「彼等が何を目的にしているかは知らないが良い関係でいたいからな」


 侯爵がそう言うとチラッとボイドを見た。

 威圧感のある視線、ボイドは表情は変えないがはその視線の意図に気付いたようだ。


(背中に汗をかいちまった)


 侯爵はガコザのことを言っているのだろう。

 自分がこの街で冒険者になったらどうかと勧めたにも関わらず起こった冒険者とのいざこざ、リーダーであるアレクが怒っていたとの報告を受けていた侯爵は頭を悩ませていたのだ。



「彼等はロンドールに用件があるみたいだが、この街を気に入れば再び来ることもあるだろう。変なちょっかいは出さないようにしてくれ、では今日はご苦労だったな」


 そう言って侯爵は去って行った。


 今日はご苦労だったなという言葉はおかしな感じがするが、今日の試験官を高ランクの者にして欲しいと依頼したのはボイドではなく侯爵だった。

 フリーデンの強さを実際に見ておきたかったという目的があったのだろう。



「今の話は外ではするなよ、ラルフ、イングリット」


「もちろん、アキンドー侯爵を敵に回すほど私は馬鹿じゃないわよ」


「……冒険者として話しかけるのは良いだろうか?」


「それは構わないが、珍しいなラルフがそんなことを言うなんて……」


(フリーデンの血筋の者と出会えるとは——是非ついて行きたい)


 表情を変えないラルフ、しかし内心では物凄く感動していた。どうにかして彼等について行く手段がないかを目を瞑り考え始めた。その様子を見てボイドは首を傾げる。



「マスター、今日は選んで頂いてありがとうございました。良い経験になりましたよ」


 シュレイは今回の件で試験官として選ばれたことを感謝しているようだ。ボイドに頭を下げている。


「そうか、さっさとAランクになって俺の名を上げてくれよ」


「ええ、分かってますよ」



 ◇



 一人、自分の部屋に戻ってきたボイドはイスに深く座り、何かを考え始めた。先ほど知ったフリーデン家のことについてだろう。


(まさか、フリーデン家の者がこの国に来ているとは、出会った時からただ者ではないとは思っていたが……)


 ボイドは出会った時について思い出していた。

 苦手な書類仕事を終え、用意してもらった朝食を食べようとしたら、床から斧やら剣やらが貫通してきて朝食を台無しにしてくれた。


(初めて会ったとき、アレクが正論で攻めてきてくれて助かった。騒ぎを起こしたと両者を処罰していたらどうなっていたか……。良い判断だった」


 アレクの言い分をしっかりと受け止めた自分を褒めるボイド、あの時は本当にキレる寸前だったようだ。自画自賛しながらもホッと胸をなでおろしているのが表情で分かる。

 しかし突然、拳を握りしめて眉間にシワが寄る。怒りの表情が浮かぶ。


(ガコザの野郎、相手の実力も測らないで朝から酔っ払って突っかかりやがって、元はと言えばあいつが悪い。今日もまた邪魔しやがって、街中の掃除をさせてやる)


 ミレイの実力も見ておきたかったがガコザが乱入してきたことによりそれが出来なかった。侯爵の依頼は実力を見たいとのこと、依頼も中途半端になってしまった。


 ガコザを試験官として許可した理由は変に騒ぎを大きくしないようにするため、普段はDランク冒険者が試験官を務めるが、まれに高ランクの冒険者が務めることもあるため、周囲におかしいと思われることもなく依頼を終える予定だったのだ。


(侯爵は何も言わなかったが、おそらくミレイの実力を見ておきたかったのだろうが……それにミレイのあの顔、どこかで……)


 そんなことを考えているとドアがノックされ、受付嬢であるアニスの声がした。入室を許可する。


「マスター、アレクさんたちDランクになったんですね」


「……ああ、この街の最速記録だな、しかも四人一斉にだ」


「流石はアレクさんたちですね。戦っているところを見たかったです。先輩は凄かったって言っていましたけどマスターも見ていたんですか?」


「ああ、別室でな。凄かったのは確かだな、アレクなんてシュレイと張り合っていたぞ」


「シュレイさんと!? す、凄いじゃないですか! このギルドの看板冒険者が増えますね!」


 Bランク冒険者と対等に戦うほどだとは思っていなかったのだろう、アニスは驚きと喜びの声を上げる。


「それなら良かったんだけどな、奴らはそのうちロンドールへ行くそうだ」


 アレクたちが別の街に行くと聞いたアニスは一瞬、魂の抜けたような表情をしてから覚悟決めたような表情に変わり、大きな声を出した。


「ロンドール……マスター!」


「何だ突然大声を出して?」


「私をロンドールへ移動させて下さい!」


 恋する受付嬢アニス、本人の前では気持ちを表には出来ないが、意外とやることは大胆のようだ。


「いやいや、待て、今そんなことを言われても困る。人手が足りていないのを知っているだろう!?」


 依頼のことで頭がいっぱいだったボイドは受付嬢の突然の発言に驚き、何とか引き止めようと焦る。

 優秀な受付嬢はギルドにおいて重要、おいそれと辞めてもらうわけにはいかない。アレクに惚れていると気付いていたが、まさか移動を申し出るほどとは思っていなかったようだ。


 自腹をきってアニスが行きたいと言っていた菓子店の高級菓子を買って何とか説得に成功する。


(余計な出費を……クソッ、ガコザのせいだ)


 この件はガコザには関係がないのだが、ボイドはガコザのせいにした。


 翌日から、街中の清掃を行うガコザの姿が見られるようになった。文句を言いながらもサボることなく掃除をした。

 サボったら除名すると言われ仕方なくだが。それによりDランク冒険者としての評判がさらに落ち、笑い者になったガコザだったが、清掃のおじさんとして意外にも街の者たちに慕われるようになり、本人の性格も穏やかになったとさ。


 めでたしめでたし。


お読みいただきありがとうございますm(_ _)m

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