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第68話 現れたのは……

「あれは ……誰?」


 斧を片手に何だか怒っているようにこちらに向かってくる見知らぬ人。


「この女の相手は俺にやらせろよ」


「キミは誰だい?」


「俺はDランク冒険者のガコザだ。つい最近こいつらにはお世話になってな、お礼をしないと、それに普通Dランクのランクアップ試験はDランク冒険者が行うはずだろ」


「……まあ、一般的にはそうだね」


 ガコザさん、ガコザさん……。

 つい最近お世話になったとは一体。

 冒険者で親しくなった人はいないはずですが。


「私は構いませんが……」


「仕方がない、ミレイさんも構わないそうだし、いいだろう」


 シュレイさんが目でどうすると聞いてきたので構わないと言うと、近くにいたギルド員さんにも許可を取って相手はガコザさんに決まりました。



「お前たちのせいで俺は散々な目にあった。ギルドでの評価もガタ落ちだ。あの兄貴には勝てないかもしれないがお前で腹いせをさせてもらう」


「はあ……そうですか、ではよろしくお願いします」


 何故か怒っているガコザさん、よく分からないことを言っています。私も槍を取り出して挨拶をし、顔を上げるともうこちらに向かってきて斧を振り上げていました。しかし動きがあまり早くなかったので簡単に避けることが出来ました。


「避けるんじゃねぇ!」


 そんな無茶な。寸止めをするようには見えないので避けなければ死んでしまいます。

 ガコザさんは大振りの攻撃を繰り返してきます。先ほどまでの緊張感のある戦いとは違い、動きはそこまで早くありません。


 やはり私もCランクの方と戦ってみたかったのですね。楽しそうに戦っていたメアとネイナさんが羨ましい。ですが今さら文句を言っても仕方ありません。Dランクの方も私よりは格上ですからね。油断することは出来ません。私だけ試験に落ちるのは嫌ですから!


「——せいっ!」


「ぐあっ!!」


 ずっと避け続けていたのですが反撃に転じるとガコザさんは私の攻撃をまともに受けて入り口の方向に吹き飛んで行きました。そのまま修練場の入り口のドアを破壊して姿が見えなくなりました。


「「やったー!」」


 ポコナちゃんとココロちゃん、それにネポロ村の人たちの声援は聞こえてきます。しかし、これで終わりではないでしょう。


 そう考えて待っていますが一向にガコザさんは姿を現しません。何をしているんだろうと考えていると試験を見守っていたギルド員の方がガコザさんの様子を確認しに行きました。



「気絶していました」


「えっ!?」


「しかし、大した怪我はしていませんでしたのでお気になさらず。既に救護室に運びました」


 どうやら泡を吹いて倒れていたそうです。

 怪我はなくて良かったですが。

 一撃で……チカラは込めましたが……

 んん、何と言えばいいのか……

 もう少し、メアたちみたいな戦いがしたかったです。




 ——あっ、思い出しました。


 初めてギルドに来たときにあの恒例の行事をしてくれた人です。メアにお腹を殴られて、兄様に武器を弾かれて指を痛めていた人……たぶん。あの時は酔っ払っていたようなので顔つきが少し違いました。


 ギルドマスターが一日牢屋に入れて反省させると言っていましたが、最初の台詞はそういう意味だったんですね。


 すっかり忘れていました。



「あのー、これで良いんでしょうか?」


「そうですね……彼もDランク冒険者ではあるし、実力の確認は出来たかな」


 試験がこれでいいのかと不安になった私はシュレイさんに質問すると困ったような顔をしました。おそらくガコザさんの怪我は完治はしていないでしょう、だからこそ一撃で気絶してしまったのかもしれません。



「不満はあるかもしれませんが、とりあえず貴女の試験は終了です。では次はアレクさん、私がお相手します」


 私の試験は終わりました。

 手応えはありません。

 受かった気がしません。


 次は兄様の番。

 Bランク冒険者シュレイさんと戦うようです。

 羨ましい。


 兄様は私とのすれ違いざまに肩を叩いて「良くやった」と言ってくれました。なんの手ごたえもないので不安でなりません。



「ミレイ、大丈夫、Dランク冒険者を一撃で倒したのですから問題ありませんよ」


「キュイーン」


 足取りも遅く、皆んなが待つ場所へ行くとメアとルルが大丈夫だと励ましてくれました。

 ネイナさんは「一発で吹き飛んだにゃ」とお腹を抱えて笑っています。観客席にいるマクスウェルさんの方を見るとプルプルと震えているのが分かります。どうやらネイナさんと同じく笑っているようです。笑わせようと思ったわけではないのですが。




「では、少し手違いもありましたが、アレクさんお手合わせお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 兄様たちは挨拶をして距離をとりました。

 Bランク冒険者のシュレイさんは青い髪、手に持つ武器は棍、身長は一七五センチくらいでしょうか、あまり大きな体格はしていません。整った顔立ち、そして丁寧な言葉遣い、まるでどこかの貴族のようです。

 それに年齢も若く見えます。兄様と同じくらいか少し年下くらいでしょうか。それでBランク冒険者とは凄い方ですね。


 それに棍使い、よく見て勉強しないと。



 先に動いたのはシュレイさん、消えるような速度で動き兄様の喉元を狙い攻撃を加えます。

 しかし、兄様はそれに当たることなく次々に避けていきます。それを見て辺りから驚いたような声が響きました。それもそのはず、シュレイさんの攻撃も、そして避ける兄様も残像が見える速度で動いています。


「流石、Bランク冒険者。鋭い攻撃だ」


「避けられていますがねっ!」


 二人が何かを話すとシュレイさんはひときわ早い突きを兄様に入れました。それを兄様は少し後ろに下がって避けました。が、後ろに下がった瞬間、今度は逆に足を踏み込んで一種で近付きました。


 攻防が入れ替わり、兄様の剣による攻撃をシュレイさんは棍でさばいていきます。


「攻撃も重たく鋭い、こんなEランク冒険者がいたのでは堪ったものではありませんね」


「最初は誰でも下位ランクからでしょう」


「それもそうだ」


 二人は楽しそうに何かを話しながら戦いを続けていきます。目まぐるしく攻防が入れ替わり、周りにいた人たちもこの戦いを静かに見守っています。

 ネポロ村の子供たちすら大きな声をかけ出さないで戦いを見守っています。


 ……いや、驚いて声が出ないだけのようです。驚愕したような表情を浮かべて口をポカンと開けています。


 メアたちはその戦いを見て闘気を滾らせています。これほどの戦いを見たらそうなってしまうのも無理はありません。特に私は少し、消化不良というか、そのような感じなので、二人を見ていると手に力が入ってしまいます。


「おや、妹さんが戦いたそうにしていますね」


「今日を楽しみにしていましたから、Bランク、Cランクの冒険者と戦えると思っていたようでね」


「それは申し訳ない。ではそろそろ」


 二人は一旦距離をとり、同時に駆け出してその中心で攻撃をしました。武器同士がぶつかり合い。大きな音が辺りに響き、空気が揺らぎました。

 土埃が舞い上がり二人の姿は見えなくなりましたが、どうなったでしょうか?


 土煙が晴れると、そこには互いの喉元に武器を突きつけ合う二人の姿がありました。その姿を見た人たちから歓声が沸き起こりました。


「スゲーぞ!」「良いもの見せてもらった」「金取れるぞ!」「アレクさん素敵!」「兄ちゃん凄ーい!」「凄ーい!」


 その歓声の中に、「アレクさん素敵」という男性がわざと声色を変えたような声が混ざっていましたが……あれはマクスウェルさんですね。兄様も呆れた顔をしてマクスウェルさんの方を見ているので間違いないでしょう。


「お手合わせ、ありがとうございました」


「いえ、こちらこそ。ではこれで試験は終了します。ギルド員の者が部屋に案内するのでそちらの方でお待ち下さい」



 ◇



「凄かったです兄様」


「そうかい? ミレイだって一撃で仕留めていたじゃないか」


「……まあそうですけど、ちょっと想像と違ったというか」


 兄様も間違いなく昇格出来るでしょうが、わたしは大丈夫でしょうか、そもそもの戦闘時間が凄く短かったですし、見所の全くない戦いだったような……


 話をしていると試験官の皆さんとギルドマスターのボイドさんが私たちが待っていた部屋に入ってきました。


「さて、予想どおりと言うかそれ以上のものを見せてくれたな」


「やはり、今回はギルドマスターが何かを仕組んでいましたか」


 兄様がそう言いました。


「仕組むってのはちと聞こえが悪いが、……まあそんな所だ。ギルドとしては少しはチカラの把握をしなければならないからな」


 どうやら今回はボイドさんが私たちのチカラを測るために試験官を選んだそうです。普段ならDランクの試験官はDランク冒険者によって行われるとか。

 確かにBランク冒険者がDランクへのランクアップ試験にわざわざ出てくるはずありませんよね。



「それにしても、予想以上だったな」


 ボイドさんは私たちを見回し、そしてシュレイさんたちを見ました。


「ええ、ギルマスに試験官をやらないかと言われた時は気乗りしませんでしたが、やって良かった。まさか、冒険者に成り立ての新人がこんなに強いとは」


「本当ね、楽しかったわ」


「良い経験になった」


 皆さん口々に良い経験になったと言っています。


「さて、試験結果についてだが、Bランク冒険者及びCランク冒険者と素晴らしい戦いをしたアレク、ネイナ、メアの三人は合格——」


 名前を呼ばれませんでした……

 やはり、私は駄目だったのでしょうか……


 周りを見れば兄様とネイナさんは特に表情を変えず、メアとルルは心配そうにこちらを見ています。

 ボイドさんの次の言葉を息を飲んで待ちます。



「そして——ミレイについても合格だ」


 良かった。

 合格しました。


「やりましたねミレイ」


「キュイキュイ!」


 ネイナとルルが喜んでくれました。

 安心しました。

 学園で行った様々な試験でもこんなに緊張したことはなかったです。



「ミレイについてはDランク冒険者が急遽、試験官を務めることになったが、攻撃を軽々と避け、一撃で意識を失わせることが出来るから問題ない」


 良かったです。

 他の人たちの戦いを見ていたので不安に思っていましたが、私の相手が通常の試験官とのことです。


 ちなみに乱入したガコザさんには罰を与えるとか、私があまり酷い罰を下さないようお願いすると街の清掃ぐらいだと笑いました。

 面目丸つぶれだからこれから少し真面目になるだろうとのことです。



「あとは……適正ランクの魔物を狩れるようになればな」


 ボイドさんがそう言うとワッと笑いが起こりました。

 恥ずかしい。

 ……ルルも笑っていますが、貴方も笑われている一因ですよ。


「さて、Dランクになったからには行動に気をつけてくれよ。まあお前たちなら大丈夫だろうがな。話は以上だ。お疲れさん」


 ボイドさんたちにお礼を言って部屋を出ます。今日は全員のDランクへの昇格のお祝いに美味しいものでも食べましょう。



お読みいただきありがとうございます。凄そうな誰かが登場を予想した方は申し訳ありません。ただの雑魚が登場しました。

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