第67話 試験
エデンスに来てから冒険者ギルドの依頼をこなす日々が続いています。ルルと串焼きを食べ、ネポロ村の方たちの元へ遊びに行ったりと様々なことをして十日が過ぎました。
そしてその間になんとEランク冒険者にランクアップしました。冒険者証も綺麗な緑色に変わりました。何と鮮やかな色、翠色と言った方がいいかもしれません。ですがこの冒険者証とはもう直ぐお別れの予定です。
「結局、お嬢が一番早くEランクになったな。実力から言ってアレクからだろうとは思っていたがな」
「私は予想どおりだったな、流石はミレイだ」
そして何と一番早くランクが上がったのは旅の仲間の中で私が一番でした。その理由は褒められたものではありませんが……。
その理由は討伐依頼をしに行くと必ずと言っていいほど適正ランク外の魔物を討伐してくるからというもの。魔物が向かってくるから仕方がなかったのですが……。
そんな私たちは現在ギルドに向かっています。
何故かといえば、それはランクアップ試験を受けるため、Dランクの試験は戦闘能力を見るというもの、危険な魔物の討伐依頼が増えるためだそうです。
内容は試験官と戦うというもの、一昨日、申し込みを行い説明を受け、今日実施します。
どのような方が相手なのか、楽しみです。
「おはようございますアレクさんと皆さん。ランクアップ試験の用意は出来ているのであちらの通路を進んで修練場へ向かって下さい」
「はい、分かりました」
アニスさんに言われた通りに進んで行くと広い修練場がありました。その中心には三人の人影があります。修練場の周りは人が座れるように五段ほど椅子が置いてあり、そこには多くの人がいました。
その中にマクスウェルさんの姿もあります。私の視線に気付くと小さく手を振りました。
マクスウェルさんは冒険者ギルドにやって来ると必ずフードを被って気配を消していますが、誰か会いたくない人でもいるのでしょうか?
「お姉ちゃーん!」
「ちゃーん!」
可愛らしい声が聞こえて来たので目を向けるとそこにはポコナちゃんとココロちゃんの姿がありました。ネポロ村の方たちに今日試験があると教えていたので応援に来てくれたようです。
「頑張りますよ!」
手を振り返して、試験官と思われる方たちの方へと向かいます。
「貴方がたが試験官でしょうか?」
「ええ、私はBランク冒険者のシュレイと申します。それとCランク冒険者のラルフとイングリット、我々が今回の試験官をとなります」
兄様が話しかけると中心にいた青髪の男性が話し始めました。Bランク冒険者とCランク冒険者ですか……Cランク冒険者が試験官をするのは何となく分かる気がしますが、Dランクへのランクアップ試験にBランク冒険者が試験官としてやって来るなど良くあることなのでしょうか?
「よろしくお願いします」
「一人ずつ試験を行っていくのでチカラを見るだけなので勝ち負けに関わらず、緊張などしないように——いや緊張などしそうにはありませんね」
私たちの様子を見て言葉を訂正するシュレイさん、Dランクへのランクアップ試験にBランク冒険者の方が来てくれるとは思っていませんでしたが、戦ってみたいものです。
「ではそちらのメアさんから」
メアから試験を始めるそうです。
その相手をする試験官の方はイングリットさん、紫髪のカッコいい感じのする女性の方です。武器は短剣を二本持っていますね。どうやらメアと似たような感じみたいです。
「よろしくお願いしますイングリットさん」
「ええ、よろしく」
シュレイさんが試験開始の合図をして、メアのDランクへの昇格試験が始まりました。
先手はメアに譲るつもりのようでイングリットさんが笑みを浮かべながら手招きをしています。
「お先にどうぞ」
「では——行きます」
メアは静かに呟くと地面を踏み込み高速でイングリットさんに近付き、首元を狙って攻撃を仕掛けました。驚いたような顔をしたイングリットさんですが、流石Cランク冒険者、身体を反らして避けて、バク転をする形になって回転して距離をとりました。
周りでそれを見ていた人たちから驚きの声が広がりました。Eランク冒険者がこれほどの動きを見せるとは思っていなかったようです。
「驚いた、これでEランクなんて詐欺ね」
「お褒めいただきありがとうございます」
二人の攻防は続き、短剣で攻撃すると見せかけ、蹴りをしたり、短剣を投げて気を逸らせて懐に入り攻撃を加えようとしたりとかなり見応えのある戦いが続きます。
「面白い戦いですねルル」
「キュウ!」
ルルも面白そうにその戦いを見ています。
イングリットさんは楽しそうな顔を、メアは普段どおりの冷静な顔で戦闘を行っています。辺りの人たちは二人の攻防に歓声を上げています。
「そこまで!」
しばらく戦いが続いているとシュレイさんが試験の終了を告げました。
「凄かったわ、貴女」
「いえ、イングリットさんも流石Cランク冒険者という戦いをありがとうございます」
二人は握手をして、メアはこちらへと戻ってきました。辺りからは歓声と拍手が聞こえてきます。ポコナちゃんたちも大喜び、メアにもよく懐いていますから凄い戦いが見れて皆んな喜んでいますね。
「どうでしたか、メア?」
「面白かったです。イングリットさんはまだ本気ではなかったようなので、もう少し戦ってみたかったですね」
もう少し戦いたかったと話すメア、いい戦いでしたからね。その気持ちは分かります。あれだけの戦いを見せたのですから、合格間違いなしでしょう。
「次は、ネイナさん」
二人目はネイナさん、お相手はラルフさん。茶色い髪を短く切り揃えた大柄な男性、身長は二メートル近くありそうです。武器は大剣、身の丈ほどの大きさがありますね。
「宜しくにゃ」
「ああ、全力でな」
二人は先ほどと同じように握手をして、試験が始まりました。先ほどの戦いを見ていたからか周りの人たちはどのような戦いが見れるのかワクワクしたような表情をしています。
「先に行くぞ」
先ほどとは違い先に動いたのはラルフさん、その大きな体にも関わらず一度足を踏み込んだだけで自身の間合いまで進み、大剣を振るいました。
ネイナさんはそれを短剣を使い反らして、地面にぶつかる寸前で止められた大剣の上に乗りました。
「危ないにゃ」
それを見て観客の皆さんが歓声を上げます。まるで曲芸のよう、それを見たラルフさんは獰猛な表情で笑いました。剣を振り上げてネイナさんを空中に吹き飛ばします。それを追撃するようにラルフさんが跳び上がり、剣を振るいました。
ネイナさんはクルクルと回転して、空中で姿勢を整えて向かってきたラルフさんの剣を反らして蹴りを食らわせ吹き飛ばしました。土煙が上がりますがその中からすかさず出てきたラルフさんが大剣を高速で振り、ネイナさんはそれを反らし、避けて反撃をしていきます。
猫人族の特性である身軽さを活かした戦いを繰り広げていきます。ネイナさんは元斥候兵、セバスから教えを受けていたので戦い方が少しメアと似ています。ネイナさんはメアの姉弟子といったところでしょうか?
いや、逆の場合もありますね。今度聞いてみましょう。
そんなことを考えていると、
「そこまで!」
シュレイさんの声が響いて試験が終わりました。
ラルフさんが大剣を地面まで振り下ろし、ネイナさんが短剣をラルフさんの首元に突き付けているところで試験は終了。
「良い経験になった。感謝する」
「こちらこそ、ありがとにゃ、大剣使いとの戦いは最近していなかったから面白かったにゃ」
握手を交わして戻ってくるネイナさん、観客の皆さんはCランクの冒険者が敗れるとは思っていなかったようで目を見開いており先ほどのような歓声はありません。子供たちはCランク冒険者がどれほどの強さを持っているものなのかよく分かっていないのでしょう。無邪気に歓声を上げています。
流石ネイナさん、試験とはいえCランク冒険者に勝ってしまいました。
満足げなネイナさんは「もっとやりたいにゃ」と呟いてしきりに尻尾を動かしています。本当に楽しかったようですね。私もあのような大剣使いとは戦ったことがないので一度お手合わせしたいです。
ネイナさんも合格間違いなしでしょう。
「では次はミレイさん」
ようやく私の番がやって来ました。皆さんが素晴らしい戦いを見せてくれたので私も気合が入ります。
「キュウキュイーン」
肩にいたルルをメアに預けると頑張ってこいと小さな拳を上げて応援してくれまして。
「頑張ってー!」
「てー!」
兄様たちにも応援され一歩踏み出すとポコナちゃんとココロちゃんの大きな声援が聞こえてきました。手を大きく振って笑顔で返事をします。
流石にネイナさんのように勝てるとは思いませんが全力で戦います。期待には応えないといけませんよね。
少しだけ緊張しますが、楽しみです。
私の相手をする試験官はだれでしょうか?
「次は……「待てぇぇぇぇー!!」
シュレイさんが私の相手を言おうとすると修練場の入り口の扉が大きな音を立てて開かれました。私を含め修練場にいた全ての人々の視線が集まります。
そこには誰かの姿が——
「あれは……」
お読みいただきありがとうございます。
 




