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第65話 駆ける

「メア、私ちょっとユキの様子を見てきますね」


 朝早く起きるとメアは既に起きていたので少しの間外に出ることを告げ、ユキを少し走らせてあげたいと理由を話しました。


 ちなみにネイナさんは熟睡中——のように見えますが耳がピクピク動いているのでどうやら話は聞いているみたい。「ちょっと外に出て来ますね」と言うと返事をするかのように耳が垂れてまた元に戻りました。凄く便利ですね。でも耳をあのように使う猫人族は初めて見ました。



「私も一緒に行きましょう、ハヤテも走りたいでしょうから」


 メアも一緒について来てくれるそうです。メアが可愛がっているハヤテは馬車を引いていたので思いっきり走らせてあげたいそうです。魔物が現れた時のために軽装備を身に付けて始めました。街の近くを走らせるといっても万が一がありますからね。



「キュ……」


 まだ寝ていたルルを起こさないようにそっと部屋を出ようとしましたが、ドアを開いた音に気付いたようで眠りまなこをこすりながらこちらに視線を向けてきました。どうやら一緒に来たいようで私の体をよじ登ってきて肩の上に乗ってきました。



「ふふっ、ルルも行きたいようですね」


「まだ眠いなら寝ててもいいんですが」


 私の肩にいるルルは鼻ちょうちんを作っては目覚め、鼻ちょうちんを作っては目覚めるのを繰り返しています。


 そんなに眠いならベッドで眠っていても構わないのですがついてきたいなら仕方ないですね。



 既に起きて朝食の準備をしていたアンナちゃんの父親ダントさんに馬を走らせてくると伝え、馬小屋に向かます。

 中に入ると私に気が付いたユキは嬉しそうな声を出しました。ユキは早起きですね。ルルとは大違いです。


「ちょっと走りに行きましょうかユキ」


 そう話しかけるとユキは返事をするように頷きました。やはり頭が良いですね。


 私はユキを、メアはハヤテを馬小屋から連れて門の方へと歩いて行きます。

 事前に聞いておいたのですがエデンスは多くの商人たちが行き来することが出来るように一般的な街よりも朝早くから門が開かれるそうです。



「あれ、お嬢ちゃん達、こんなに朝早くにどこに行くんだい?」


 おや、昨日の依頼の時に話しかけてくれた兵士さんではないですか。


「馬を走らせてあげようと思いまして」


「ああ、なるほど、外に出るのはいいが気を付けてくれよ」


「はい、気を付けます」


 そう言って兵士さんと別れ、エデンスの街から出て首筋を撫でてからユキに乗りました。思いっきり走れることが嬉しいようで随分と機嫌が良いようです。私にも嬉しい感情が伝わってきます。



「メア、とりあえず街の周りを回ってきましょうか?」


「そうですね、そのぐらいなら朝食に十分間に合うでしょうし」


「行きますよユキ」


 そう声をかけるとユキは嬉しそうに声を上げ、少しずつ速度を上げて行き、全速力になりました。まるで風のよう。



「——キュ、キュウ!?」


 私の肩の上にいた半分寝ていたルルは吹き飛びそうになって必死に私の服を掴んでいます。眠気覚ましには少し強烈な速度でしたね。吹き飛びそうになったルルを助けてユキの背中に乗せてあげます。


「流石ユキは速いですね」


 そんな全速力のユキについてくるハヤテ、黒馬のハヤテはユキのお兄ちゃんです。


 血筋としては私たちの先祖がエルドラン王国初代国王陛下に出会う前から乗ってきた馬です。フリーデン家はユキ達に流れる血を受け継いだ馬に乗ってきました。過去には莫大なお金で譲って欲しいと頼まれたこともあったそうですが、頑として断り続けたそうです。


 私たちフリーデンの家紋は頭に立派な角の生えた馬が描かれています。それは馬の背に乗り槍を掲げる私たちの一族とユキ達の一族をモチーフにしたものになっています。私達のご先祖様も、ユキたちのご先祖様もその多くが戦場でその命を散らしてきましたがこれからはそんなことも少なくなるでしょうね。


 おや、そんなことを考えているうちに街を一周してしまいました。



「ミレイ、どうしますか?」


 メアがもう街に戻るかを聞いてきます。


「んん……「バルルゥ」よし、もう一周しましょうか、まだ走り足りないみたいです」


「分かりました。ハヤテも走り足りないようなのでもう一周してきましょう」


 もう一周走ることにするとユキとハヤテは嬉しそうに鳴き、先ほどよりも速度を上げて走っていきます。吹き飛ばされそうになっていたルルはもうすっかり目が覚めたようで今はユキの頭の上にいます。どうやってこの風の中でと思ったら風魔法を使って風圧を逃しているようですね。なんて器用なんでしょう。



「よし、そろそろ帰りましょう」


「満足そうですね」


 思いっきり走ったユキとハヤテは満足気に鳴いています。そろそろ人も多くなってきてユキを全力で走らせると驚かせてしまうのでエデンスに戻りましょう。


 先ほどの兵士さんに挨拶をして、宿に戻りユキを馬小屋に連れて行くと、ユキはお礼を言うように頭を私に擦り付けてきました。


「また走りましょうねユキ」


 そう声をかけて宿に戻ると兄様たちは朝食を食べていました。



「帰ってきたか、ユキ達を走らせてたそうだな、次は私も誘ってくれ」


「はい兄様、もうお腹が空いてしまいました。アンナちゃん私も朝食をお願いします」


「はーい」


 今日の朝食はオーク肉のサイコロステーキですか、ルルが目を輝かせていますね。美味しそうです。



 ◇



 今日も依頼をこなすためにギルドに行きます。周りの人たちは私たちが入ると静まりかえりました。どうやら私たちに——いや、兄様を気にしているようですね。小さな声で話し始めました。


「彼奴か」「例の奴らだ」「Dランクの奴を潰した新人」「あいつらには関わるな」「何だあの白いのは」「あの子可愛い」


 やはり警戒されているようです。

 ルルは自分のことを話す声が聞こえたようで、何故か威張っています。

 兄様とメアは呟いていた中の一人睨みつけていますね。よく聞こえませんでしたが。その人は震えています。


 ——あっ、気絶しました。



「こんにちは皆さん」


 受付嬢のアニスさんが声をかけてくれました。

 これだけの冒険者がいる中でも新人の私たちを覚えているのは流石——いや、新人なのにDランクの人を倒す人がいないからでしょうか、悪い意味で覚えられている可能性はありますね。実際、冒険者の方達はそうみたいですし。


 挨拶をして直ぐに掲示板を見に行きます。

 今日は討伐依頼を受けることにしましょう。Fランクで受けられるのは、ゴブリン討伐、イノブル討伐、レッドラピ討伐、モグモール討伐、この位ですか。


 やはり大した強さの魔物はいないようですね。ゴブリンと戦っていて群れに襲われたら話しは別ですが、ゴブリンは討伐部位を持ち帰るだけで一匹銭貨五枚、あのゴブリンキングの群れが依頼だったらいくらになっていたのでしょうか?


 さて……今回はイノブルにしましょう。討伐部位だけでも銅貨一枚、それに加えてイノブルは服の素材や食用にもなるので、ギルドや商店でも売れますからね。



「アニスさん、イノブルの討伐依頼を受けたいのですが」


「イノブルですね。畏まりました。討伐部位は右脚になります。もちろん体全体の持ち込みでも構いません」


「分かりました」


「それと最近、ボスイノブルの目撃情報があるので注意して下さい」


「はい、ありがとうございます」


 ボスイノブルですか、イノブルより体格が倍以上大きな個体ですね。イノブルを引き連れている場合があるとか、確かDランクの魔物ですね。それなら問題ないですね。


「さてと、ルル、今日も依頼が終わったらこの間の串焼きを買いに行きましょうか?」


「キュキュ!」


 そう言うとやる気満々になったルル、この間のオジサンにはサービスしてもらいましたから、常連として通い詰めましょう。ルルも喜びますしね。


 森に向かい歩いて行きイノブルを探します。

 イノブルは有名な魔物で畑を荒らし、人も襲うことがあるので経済的被害や人的被害を多く出すことが知られています。ですが、直線的な攻撃が多く、そこまで頭も良くないので大した危険もなく狩れるとか、学園の本で読みました。


 土を掘って薬草なんかの根を食べるが好きらしく土が掘り返されている場所の近くにいる場合があるとか、この辺りにはそのような跡はないですね。



「ルルはイノブルは知らないですか?」


「キュ?」


 ああ、そうですね。名前は知らないですよね。


 えっとー。


「下顎から牙が出ていて、額から大きな角が生えている魔物です」


 イノブルについて説明すると「ポン」と手を叩いてクンクンと辺りの匂いを嗅ぎ始めたルル、しばらくすると何かの匂いを感じたようで走って行きました。


 その後を追いかけていくとルルは木の上に登っていき枝の上である方向を指差しました。

 私もルルの隣の枝に飛び乗り、その方向を見てみると、そこには下顎から牙が生え、額に大きな角が生えた生物が穴を掘っている姿がありました。


「流石ですねルル、あれは間違いなくイノブルですよ」


 残念ながら一匹だけですが、これで依頼は完遂出来そうですね。小さな群れを作ることがあると本には書いてありましたが、はぐれイノブルみたいです。


「さてと、毛皮も売れるみたいなので気付かれないうちに倒してしまいましょうか、ルルはここで待っていて下さい」


「キュイ」


 私はイノブルに気付かれないよう大きく跳躍、槍を取り出して真上から突くつもりです。イノブルは何かに気付いたのか私の方を見ますが私は太陽の光の中、見えないはず、丁度頭を上げてくれたので口から槍を突きたてました。ぶるぶると震えるイノブル、少しして倒れました。


 ふう、何事もなく終わりました。



「キュイ!」


「気が早いですね」


 ルルは依頼も済んだことだし、さっさと串焼きを食べに行こうと言ってきました。

 まあ、ルルのおかげで時間も掛けずに依頼をこなすことが出来たのでそれもいいかもしれません。イノブルを収納して街に戻りましょう。


お読みいただきありがとうございますm(_ _)m

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