第63話 街の探索
「ルル、この後どうしましょうか?」
「キュ……キュキュ!」
アゴを触りながら考える仕草をしているルルは何かを思いついたのか「パチンッ!」と指を鳴らして街の探索に行こうと提案してきました。
「それは良いかもしれません」
兄様も当分はエデンスで活動するような事を言っていたので、この街のことを知るのも重要なことかもしれません。
「一通り見て回りましょう」
屋台が多く連なる通りを抜けて横道に入ります。
辺りを見れば住宅街、様々な種族の子供達が道で駆けっこをしたり、チャンバラごっこをしたりして遊んでいます。元気が良いですね。子供達が元気に外で遊べるのは良い街の証拠ですから、ゼレンさんが良い領主であることが分かります。
——カキン、カキン
石畳の道を進んでいると聞き慣れた音が聞こえてきました。どうやらこの辺りは鍛冶師などの職人達が多くいる通りみたいですね。様々な工房が見えてきました。
ドワーフ達が火で熱した鉄のような物を何度も叩いている姿や職人が家具を作っている姿が目に入りました。いいですね、職人の集まる通り、やっぱり一流の職人やそれを目指す方の姿は格好良いです。
親方のような方に怒鳴られている弟子の姿、小さな子供が一生懸命修行をしているのを見ながら、そこをしばらく歩き続けると先ほどまでの喧騒はなくなり、人気のない静かな住宅街に出てきました。
こちらの方は随分と寂れているというか、人の姿もなくて寂しい場所ですね。やはりこれだけ大きな街だとこういった場所は出来てしまうのでしょうね。
エルドラン王国の王都セルトラムにもありましたから、格差というやつでしょうか。ですがエルドラン王国よりは綺麗ですね。廃墟のような家はないようです。
「ここには人がいないですねルル」
「キュイキュキュ」
「そうですね。だいぶ街の中についてよく分かったので帰りましょうか」
ルルがもう色んな所を見ることが出来て楽しめたからそろそろ帰ろうと言うので宿に帰ることにします。宿を目指して歩いていると向こう側から三人組の男性が歩いてきました。この辺りに来てから初めて見た人ですね。
「こんにちは」
挨拶をして通り過ぎようとすると一人の男性がわざとぶつかって来ました。
「痛ってー腕がー」
「大丈夫か!?」
「嬢ちゃんよくもやってくれたな?」
何でしょうかこの人達は?
凄く下手な芝居をしているように見えます。
「私のような女性にぶつかって腕が折れるなんて随分と柔な方なのですね?」
「何だと!?」
「こいつは身体が弱いんだ!」
「ぶつかって来たのはそちらです」
「殴られる前に慰謝料払え」
「嫌です」
初依頼をこなしてもらった大事なお金を意味のないことに使いたくはありません。
「テメェー……やるぞ!」
腕が折れた方もやる気満々のようです。
折れた方の手に短剣を持っていますね。
せめて反対の手で持てばいいのに。
「肩はもう治ったんですか?」
「ウルセェ! 気合いで治ったんだ!」
気合いで骨折が治るなら医者はいりません。動きを見ているだけで分かりますが、この方達は大した方ではないようですね。
成人した男性が三人、私のような女は脅せばお金を出すと考えたのでしょう。
大根役者ではありましたが、やみくもに襲って来るのではなく囲んで来ました。
私が逃げられないようにしたのでしょう。何度かやった事があるようですね。
今後被害に遭う可能性がある女性のためにも懲らしめた方が良いかもしれません。
「キュ?」
「ルルが戦うとちょっとの痛い目じゃ済まなくなるかもしれないので見ていて下さい」
ルルが手伝おうかと言ってきてくれましたが、ルルの手を煩わせるような方達ではありません。
「うりゃ!」
背後にいた人が私を取り押さえようとしてきます。手にも短剣などの武器は持っていません。どうやら前の二人が短剣で怖がらせて後ろの人が、という作戦のようです。ですが私はその程度のことでは動じませんよ。
近付いてきた方に回し蹴りをすると、それに全く反応出来なかったようで側頭部に当たって吹き飛んでいきました。
……思ったよりも弱いですね。
大人の男性なのにこれは情けないですよ。
手加減していてよかった。
「お、おい、テメェ、怪我をさせないようにしてやろうと思ったのに! ホーアの敵討ちだ本気でやるぞジード!」
「分かったケヌマ!」
ヤル気になったようですが、
「「 死ねえ!」」
頭に血が上ったみたいでさっきよりも、もっと動きが分かりやすいですね。
「えい!」
「ぐはっ!」
「とりゃ!」
「ギャア!」
ちょちょいとやっつけてしまいました。
加減しながらパンチしてキックしただけです。
彼等は気絶してしまったようで目を回しています。
「キュ?」
近くでそれを見ていたルルは気絶した彼等をつついて何のために出て来たんだこいつらと首を傾げています。あまりに呆気なく気絶したのでルルには彼等の行動が理解出来ないようです。自分より明らかに強い存在には近付かないのが自然界では当然のことでしょうからね。ですが同じ生き物なのに何故か人はそういった能力が劣っています。
「こらっ! そこで何をしている!?」
人だって本来はそのような能力を持っていたはずなのにどうして、そんなことを考えていると声が聞こえてきました。振り向くと五人の兵士の方達が走って来ます。
「あっ、兵士さん」
ちょうど良かったです。しっかりと説明して彼等を連れて行ってもらいましょう。
「何の騒ぎだコレは!?」
兵士の方が事情を聞いてきました。
「あのですね「あれっ? 貴女は……」
おそらく一番階級の高いと思われる兵士さんに事情を説明しようとしたら、その隣にいた若い兵士の方が私を見て声をあげました。彼はどこか見覚えがあります。門にいた人ではないですし、どなたでたっけ?
「何だ彼女を知っているのか?」
「ええ、ネポロ村の方達を助けていただいた旅の方達のお一人です」
ああ、村に駆けつけてくれた方のお一人だったようです。そういえば村に知り合いのいた獣人兵士の方を慰めていた方ですね。
直接話していなかったので覚えていませんでした。
「なに? それは失礼な態度を、申し訳ない」
「いえ、構いません。騒ぎを起こしてしまったのは事実ですから」
「何があったのか聞かせていただけると助かります」
「はい、街を見て回っていたら、急にぶつかってきて、怪我をしたから金を出せと言われまして」
「なるほど……こいつらでしたか、最近この辺で女性に絡んで金を出せと脅す事件が多発しておりまして、おかげで捕まえることが出来ました。感謝いたします」
やはり他にも被害を受けた女性がいたのですね。もしかしたら私が狙われて良かったかもしれませんね。
「いえ、たまたまですので、失礼してもよろしいでしょうか?」
「あとはお任せ下さい」
兵士さん達に挨拶をして宿に戻ります。
◇
「あっ、お帰りなさいミレイさん、ルルも」
宿に戻るとアンナちゃんが宿の前の掃除をしていました。
「ただいまアンナちゃん、兄様達は帰ってきている?」
「はい、お部屋にいると思いますよ」
「ただいま戻りましたー」
「キュー」
部屋の中には兄様達が全員揃っていました。
何かの話し合いをしていたようです。
「遅かったな、これから探しに行こうかと相談していたところだった」
「心配しすぎですよ兄様」
「いや、お嬢はエルザ様の娘だから何かあるかと思うのは当然だろ、で、ギルドで一つ依頼をこなした後はどこに?」
マクスウェルさんが私はお母様に似ているから何かに巻き込まれたと考えるのは当然だと言ってきました。
失礼なっ! っと言いたいところですが、その通りなので何も言い返せませんが……
「ルルとお昼ごはんを食べてたらポコナちゃん達に会ったので話してから、街を歩いていました」
「何もなかったのか?」
ちょっと黙っていようかと思いましたが、おそらく兵士さんからゼレンさんに伝わってそのうち兄様達にも伝わる気がしたので正直に話すことします。
「……ちょっと絡まれましたが倒しました」
「ほら見ろ、俺の言った通りだ。エルザ様もそんな感じだった」
マクスウェルさんは私を指をさして、自分の言った通りだと言い、兄様はため息をつきました。
「お怪我はありませんかミレイ?」
メアが心配してくれますが、それよりも、仲間しかいない今も呼び捨てで呼んでくれました。これはこの旅に参加した収穫の一つですね。
「はい、相手の怪我も大したことはありせん。相手は女性からお金を奪おうとする不届き者でした」
「そうか……まあ結果オーライというやつだが、逃げた方がいい場合もあるからな」
「で? 今日の依頼はどうだった?」
「ルルと一緒に薬草を探して、銀貨三枚と大銅貨一枚、銅貨一枚になりました」
「「は?」」
「一回依頼を受けてそんなにもらったのか?」
「はい、ルルと頑張りましたから」
「凄いな、私は三つ依頼を受けて大銅貨五枚にしかならなかったが」
ネイナさんとメアも二件依頼を受けたそうですが大銅貨三枚ぐらいの依頼料だったそうで驚いています。私はたまたま今回は珍しい毒草を発見しただけなので自慢出来ることではありませんが。
依頼数をこなした方が凄いのでは……
「やっぱりエルザ様と理不尽なところがそっくりだな……将来が恐ろしい」
マクスウェルさんはお母様をどう思っているんでしょうか?
今度お母様にマクスウェルさんがそう言っていたと報告しておきましょう。
「あっ、駄目だぞ、エルザ様に何か告げ口しようと思っただろう?」
——鋭い、なぜ分かったのでしょうか?
仕方ありません。
報告するの止めておきましょう。
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