第61話 初依頼
「色々とギルドについて説明しなきゃだが、今から下で話をってのも何だな、アニスここで説明してくれ」
現在のところ一階では先ほどの件で少し騒ついているそうなのでボイドさんが気を遣ってくれてこの場で説明をしてくれることになりました。
「はい、ギルドマスター、それではご説明いたしますーー」
◇
依頼はランクごとに掲示板に貼り出されている用紙を確認して自分に合った依頼を探し受付で受領してもらい依頼をこなす。
依頼を済ませた後は依頼書に署名をもらい、受付に報告する。
討伐依頼の場合はその魔物を討伐した証を提示する事で依頼料がもらえる。
依頼は自分のランクの一つ上までなら受けられ、
冒険者のランクはGランクから始まり、F、E、D、C、B、A、Sに分かれている。
ランクが上がるにつれ受ける事の出来る依頼も増えていき、中には指名依頼を受ける場合もある。
私がもらった冒険者証もランクが上がるにつれ色が変わっていく。
Gランクは初心者マークのウッド調、そこから黄、緑、青、赤、白、黒、銀と変わっていく。
Eランクまでは依頼を受けた回数と評価で自然とランクアップするが、Dランクから先は試験がある。
Dランク以下の者は長期間依頼を受けないと冒険者証を失効される。
他国との通行証にも使われる冒険者証を発行だけさせて他の目的で利用させる事を防ぐ目的がある。
Cランク以上の者は長期間依頼を受けなくてもギルド証が取り上げられる事はない。
冒険者証は貴重な魔具でもあるため、紛失したら再発行にはかなりの金がかかる。
◇
「そのくらいでしょうか」
なるほど勉強になりました。ですが私たちがもらった冒険者証はウッド調ではなく黄色なんですが……ミスでしょうか?
「ありがとうございますアニスさん」
兄様にありがとうと言われたアニスさんは照れたように顔を赤くして笑いました。
「ちなみに今回お前達はFランクにしておいた」
「Gランクからじゃないんですか?」
「Dランクパーティーを一人で軽く捻る連中をGランクから始めさせても仕方がないからな」
だから黄色の冒険者証をくれたんですね。
こんなミスする訳ありませんよね。
「なるほど」
「お前らならそれ以上でもいいんだが、ギルド本部の承認がいるから時間がかかる」
「Fランクからで十分です。ありがとうございます」
あまり高ランクからのスタートだと何だか自分のチカラで上がった気がしませんし、少しでも受けられる依頼がたくさんあるというのはありがたいです。
「さっさとBランク以上にでもなってくれると俺の評価が上がって嬉しい」
「ミレイが頑張って頂点に登りつめると思いますよ」
兄様がそう言うとボイドさんは値踏みするような表情をしながら顎を触り、こちらを眺めてきます。
「ほお、嬢ちゃんがな……期待していよう。これから冒険者として頑張ってくれ」
ギルドマスターに期待されたら頑張らないわけにはいかないですね。Sランクを目指して頑張りますよ。
「ではギルドマスター、お世話になりました」
「ああ、またな」
◇
「これからどうする? 早速依頼でも受けてみるか?」
「はい!」
一階に降りていくとマクスウェルさんが腕を組んで目を瞑って私達を待っていました。
「話は上手くまとまったか?」
「ああ、マク兄も笑ってないで助けてくれてもいいのに」
「恒例行事だよあれは、エルザ様なんて初めて入ったギルドでいつも絡まれて吹き飛ばしてたぞ、血は争えないなアレク」
「……」
マクスウェルさんはアレク兄様はお母様そっくりだと笑いました。それが不満だったのか兄様は不機嫌そうな表情を一瞬見せました。
それを見てまた笑ったマクスウェルさんはこれからの予定を聞いてきました。
「これから依頼を受けようと思うんですよ」
「そうか、じゃあ俺は例の仕事をしてくるから、初めての依頼を頑張るといい」
そう言うとマクスウェルさんは冒険者ギルドから出て行きました。
「私達は良いんでしょうか?」
「ああ、長い仕事になるからな、冒険者として少し動いておいた方が今後のためになる」
なるほど、じゃあ早くランクを上げないとですね。
掲示板に向かうと大きな街だからか様々な依頼がありました。
「低ランクの依頼はパーティーで動く必要もないから別々に動くか?」
「そうしましょう」
見たところ低ランクの依頼は危険がなさそうですね。お手伝いみたいな依頼が多いですね。
「ミレイ、一人で大丈夫ですか?」
「大丈夫よメア、ルルもいるから」
「キュイ」
メアが心配そうに聞いてきますが問題ありません。ルルもいますしね。
家具店ウッドルの荷運び、薬屋ミスティのポーション作成の為の薬草納品、家の片付け、引っ越しの手伝い、魚十匹の納品、子守……
たくさんあるので悩みますね。
「私はこれにするにゃ!」
何にするか聞いてみたら魚の納品みたいです。ネイナさんは魚釣りが得意ですからね。兄様達も依頼を受けてさっそく依頼主の元へ行きました。
【依頼主】
薬屋ミスティ
【内容】
チユシ草十束納品
その他薬草も買い取中
【報酬】
銅貨五枚
チユシ草以外の薬草を持ってきた場合、薬草の種類、数、状態を確認してから。
薬草なら探したことがあるし、貴重な薬草を見つける事が出来れば高評価をもらえるかもしれませんね。これにしましょう。
「アニスさん、この依頼をお願いします」
「はい、初依頼ですね頑張って下さい」
「ありがとうございます。行ってきます」
激励してくれるアニスさんにお礼を言って、ついに憧れの冒険者として初めての依頼を行います。
「ルル、初めての依頼は薬草探しですよ」
「キュイキュイ」
◇
「お嬢ちゃん、これからどこへ行くんだい?」
意気揚々と門の外へ向かって歩いていると門番をしている真面目そうな顔をした兵士さんがどこへ向かうのかを聞いてきました。
「冒険者になったんで、これから初依頼をこなしてきます」
「そうか、気をつけてな、上手くいくといいな」
そう言ってくれた兵士さんにお礼を言って外へ向かいます。この街を訪れた時と同じく人の往来が多いですね。何かが詰め上げられた荷馬車を護衛する冒険者や、何かを背負った行商人のような方がいます。
商人の子供なのか荷馬車にのった子供が手を振ってきたので笑顔で手を振り返します。そう離れていない場所に森があるのでそこに向かって歩いて行きます。
「綺麗な森だねルル」
「キュイ」
そう言うとルルは昼寝に良さそうな木が沢山あると言いました。
とりあえずティナさんに教えてもらった薬草を探して、気になった植物があったらついでに持っていこうと思います。薬草の中に少しぐらい雑草が混ざっていても多分怒られないでしょう。
「あっ、これはゴモギですね。確か止血効果があるってやつです。おっ、チユシ草もあります」
薬草探しを始めてすぐに採集したことのある薬草を発見しました。やはりティナさんたちに教えてもらっておいて良かった。あの時は色々と失敗をして恥ずかしかったですがあの経験が役立っています。もっとたくさん探して依頼主に高評価をいただきましょう。
採集したことのある薬草から探していると見たことのない植物を発見しました。
紫色で黒い斑点のような模様があります。香りを嗅いでみるとティナさんが煎じてたような薬のような香りがします。毒草だったら弾いてくれはずなのでこれも採集しておきましょう。
「ルルも、探してくみますか?」
「キュイ!」
肩に乗っていたルルは草むらにダイブして背の高い草に隠れてその姿が見えなくなりました。時々辺りを見渡すために立ち上がって顔を出すのでどこにいるのか分かります。ルルは野生の動物だったので身体に良い植物を見分けることが出来るかもしれません。
そんなことを考えているとさっそく何かを見つけたようです。飛び跳ねてここに来いと合図をしてくれているようです。
「これは見たことがありませんが身体に良いんですか?」
「キュイキュ」
ルルはそうだと頷きました。
大きな四枚の葉っぱ、真ん中に紫色の花が咲いています。引き抜いてみると根が太くて芋のようで、人が悲鳴をあげているような形をしていますね。
「流石ですねルル、もっとお願いしますね」
ルルは次々と薬草らしきものを探してくれます。私も負けてはいられません。
◇
依頼にあったチユシ草は十束集まりましたし他の薬草も結構採れたので街に戻ることにしました。ルルらお腹が空いたようなので無事に依頼を達成出来たらお祝いに何か美味しいものを食べさせてあげましょい。
「お嬢ちゃん、依頼は上手くいったかい?」
街に入ろうとすると先ほど話しかけてくれた兵士さんが私に気付いたようで声をかけてきました。
「多分上手くいったかな?」
「多分? まあ怪我もないようだしな」
どうやら初めての依頼で外に出たので少し心配してくれていたようです。そんな兵士さんにお礼を言って依頼主の元に歩いて行きます。
「おいガド、綺麗な子だから声をかけたのか?」
「馬鹿言うな、俺の娘ぐらいの子だぞ。背中にカゴを背負って小さな短剣一本腰に装備しているだけに見えたから心配になっただけだ」
「何だつまらん」
後ろで楽しそうな話し声が聞こえてきたので振り向いてみると先ほどの兵士さんがお仲間の兵士さんと仲良さげに話していました。
私が視線を向けたことに気付いたのか、お仲間の兵士さんが手を振ってきたので手を振り返してから薬屋さんに向かいます。
チユシ草は見つけたので依頼自体は大丈夫だと思います。あとは私とルルで同じ位の薬草を採取したのでこれがどういった評価をもらえるか楽しみですね。
お読みいただきありがとうございます。再び薬草探しをする展開です( ´ ▽ ` )ノ