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第59話 閑話 ゼレン・フォン・アキンドー

今回はゼレン目線の話です。

「ゼレン様!」


 私が新たな事業を行うための思案をしていると突然執事が私の執務室へと駆け込んで来た。普段このような姿を見たことはない。


「どうした?」


「ネポロ村が盗賊に襲われ村人の多くが亡くなったと報せが」


 突然の凶報に言葉を失ってしまうが、それが間違いのない事実なのかまだ分からない。

 脳裏には古くから付き合いのあるネポロ村の住人達の幸せそうな姿が思い浮かぶ。


「……それは事実なのか?」


「はい、村の方が直接お越し下さいました」


「案内しろ!」


 その報せを聞いて直ぐに執事に案内をしてもらい、その村人の元へ話を聞きに行く。

 案内された先、接客用の扉を開いて見ればそこに居たのは見知った顔、ネポロ村の村長オーロの孫娘であるマールの姿がある。


 隣に座っている男の顔は知らないが、彼女自らが来たということは……



「マール……事実なのか?」


「はい……ネポロ村は賊に襲われ、……ほとんどの人が亡くなりました。祖父や私の家族も……」


 まさか……オーロが亡くなってしまったというのか……幼い頃、父とネポロ村を訪れた際に私を可愛がってくれたあのオーロが……


「……生き残ったのは僅かで、若い女性と子供は攫われました」


「直ぐに救わなければ!」


「ご安心ください。すでに賊は捕らえ、若い女性と子供は救い出しました」


 直ぐさま兵を送るために人を呼ぼうとすると、先ほどから私達の話を黙って聞いていた見知らぬ男がすでに助けた後だと言ってきた。


「そなたは?」


「マクスウェルと申します。仲間たちと旅の途中、村に立ち寄った所で異変に気付きまして、捜索した所、捕まっていた村の方達を発見したのです」


「そうか……」


 助けられた後であったか……奴隷として売るために村ごと襲ったという事か……あの辺りの盗賊は全て討伐したと思っていたが、私のミスだ。



「現在、賊を仲間が見張っていまして、村も荒らされてしまったので兵を送って頂けないかと」


「ああ、直ぐにネポロ村に兵を送る。私も行こう」


「ゼレン様自らいらして頂けるのですか?」


「ああ、オーロには昔から世話になっていたからな、それに亡くなった者の弔いもしなければならない」



 ◇



 ネポロ村につくと、そこには整った顔立ちをした男と、綺麗な顔をした年若い娘がいた。


「こちらは仲間のリーダーであるアレク、その妹のミレイといいます」


 マクスウェル殿が彼等を紹介してくれる。

 彼等もこの村の者達を救ってくれた者達か、礼を言わねばならないな。




「ーーそれに盗賊を倒して女性や子供を助けたのは私の隣にいる妹のミレイでして」


「この子か?」


 獣人が多いこの村を襲った賊をこんな年若い娘が倒したと言うのか……信じられない。


 何者なのだこやつらは……



「お話はまた後で、ネポロ村の様子をご覧になった方がよろしいのではないでしょうか?」


 マクスウェル殿がそう言ってくる。

 確かにその通りだ、そんな事は後で考えればよい。


 今は村の者達の状況を確認するのが先だ。



 マールに案内され中央の神殿に歩いていく、辺りには壊された家や燃やされた家がある。

 神殿の中に入れば、そこには多くの村人達の遺体が並んでいた。



「何という事だ……こんなにも大勢の者達が……ほとんどの村人達が……」


 その中には肩から胸にかけて大きな傷を負ったオーロの遺体もあった。

 すまないオーロ、私が何か手を打てていれば……


 神殿を出ると助かった者達がいた。

 若い女性と子供達だけ、一人ひとりに声をかけて回るが子供達には逃げられてしまった……



 アレク殿達に詳しい話を聞いていく、まだ信じられないがやはりミレイ殿が盗賊達を倒したそうだ。


 聞けばまだ十四歳だとか、鍛えてもらったというアレク殿はどれほど強いのか……


 盗賊達の元へはアレク殿が案内をしてくれるそうで直ぐに兵を送った。


 その後、これからの事を話し合い。


 マール達には一旦エデンスに来てもらう事にした。やむを得まい、今の状態で生活する事は出来ないだろう。



「ゼレン様、盗賊を連れた兵士が戻ってきました」


 しばらくすると、盗賊達を連れた兵士が戻ってきたという報告を受けた。

 この目でこれほどの事を成した者達を見なければなるまい。



「貴様ら、何故あのような事を!」


「……俺があんな……ガキに……何故」


 賊のリーダーだと思われる者に話を聞こうとするが、ぶつぶつと何かを呟いて話にならない。


「覚悟しておく事だ」


 生き残った者達にこやつらを見せる訳にはいかいため、直ぐに兵に命じて街へ移送させた。


 街に戻ったらそれ相応の報いを受けさせる。



 ◇



 翌日、葬儀が行われた。


 若い女性と子供達が家族のそばで泣いているのは見ていて辛い。


 幼い狸人族と狐人族の女の子が魔法を両親に見せていた。確かミレイ殿が幼い子供に魔法を教えていると話していたな。


 狸人族と狐人族の者は初めて魔法が使えようになると家族でお祝いをすると聞く。


 それがこのような形で見せる事になるとは……



 すると彼女達が使った魔法が幾つも増えて、光が亡骸の元へ行き、その光は家族の元へ行き上昇して消えていった。

 まるで彼等の魂が家族に寄りそうように。

 オーロの遺体の上にあった光はマールの元でしばらく漂ったあと私の元へも来た。


 私にはそれがマールを、村の者達を頼むと言っているように感じた。


 任せろ……オーロ。



 アレク殿達はその後も村の者達のために色々と手伝ってくれている。子供達も彼等に懐き、女性達も信頼しているようだ。




「無事、到着したな」


「はい、閣下」


 エデンスに辿り着き、村の者達には今後何かに使おうと考えていた元宿屋だった建物で生活してもらう事になった。


 若い女性とまだ幼い子供達はネポロ村が再建出来るようになった時、あそこに戻る事が彼女達の幸せなのだろうか?


 生活は厳しくなるだろう、新たな人間関係も築いていかねばならない。



「旦那様、アレク様御一行が戻られました」


 ネポロ村の者達が新たに住むことになる家に行き、その手伝いをしてくれたアレク殿達が戻って来たようだ。



「ジライド、ケイレス、彼等をよく観察していてくれ」


「「かしこまりました」」


 ジライドとケイレスは私の最も信頼する部下、ジライドは武を担い、ケイレスは智を担ってくれている。こ奴らならば彼等について気付くこともあるだろう。


 ネポロ村の命の恩人を疑うようで悪いが領主として「はいそうですか」で済ます訳にはいかない。



「村の者達のために何から何まですまないな、本当に感謝している」


 彼等に感謝を伝える。

 これは紛れも無い本心、アレク殿達が居なければ今頃マール達がどうなって居たのかを想像するのは容易い。


 彼等に盗賊を捕縛とマール達を救ってくれた礼をする。


 アレク殿はそれを受け取ってくれた。

 下手に断るようなら何か疑ってしまうところだが、そんな事はないのだろうか?



「フリーデンと申します」


 家名を聞けば躊躇なくフリーデンだと答えた。フリーデンと言えば、最近エルドラン王国を出たと噂の武人達と同じ家名、出身もエルドラン王国だと平然と答える。


 彼等とは無関係なのだろうか?

 いや、まだ分からない。


 目的が冒険者になる事なら、この街で冒険者になってもらうのも良いかもしれない。

 もし彼等があの名高いフリーデンに関係のある者ならば伝手を作っておくのは悪くない。


 それにもし無関係だったとしてもチカラを持ち、信頼に値する者達ならば縁を結んでおくのは良い事だろう。



「はい、ですが折角、商王国に来たのでしばらくしたらロンドールへ行こうと考えています」


 そう言って彼等は街に泊まる宿を探しに行くと、出て行った。



 ◇



「あやつらをどう思った?」


 彼等が屋敷から出て行くのを確認してから、ジライドとケイレスに彼等についてどう思ったのかを聞く。



「……かなりのチカラの持った集団のようですね。特にあのアレクという男、私と同等かそれ以上のチカラの持ち主のように見受けられました」


「……そうか」


 ジライドはかなりのチカラを持っている。

 この商王国でも有名な武人。

 そのジライドが自分よりも強いかもしれないと言うあのアレクという男……


「何か隠し事があるようでしたが、特に危険人物ではありそうもありませんね」


 ケイレスは危険な人物ではないと判断したようだ。私もそう感じた。



「フリーデンだと言っていたな……彼等は……」


「間違いないでしょうね」


「冒険者でもなく、兵士でもない。傭兵や他国のスパイのようにも見えませんでした。あのような者達がただの旅人のはずがありません」


「そうか、エルドラン王国が盾を失ったとは聞いていたが、我が国に来ていたか……」


 やはり、彼等はあのフリーデンであったか、確証はないが、先ず間違いないだろう。



「ケイレス、陛下に我が国に盾が来りてと報せを出せ」


「かしこまりました」


「それと彼等が我が民を救った命の恩人である事もな」


「承知しております」


 我が国にフリーデンが来たならば陛下に伝えない訳にはいかない。この国の民を守ったと伝えれば悪いようにはしないだろう。


 まあ、悪いようにして困るのは我々の方かもしれないがな。



お読みいただきありがとうございますm(__)m

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