第58話 侯爵が住む街エデンス
食事をしてテーブルでゆっくりしていると隣で食事をしていたポコナちゃんとココロちゃんたくさん食べてお腹がいっぱいになったみたいで、こくりこくりと頭を前後に揺らして今にも眠りそうです。
「キュ……キュイ……」
私の膝の上にいるルルは食べ過ぎたみたいでポッコリお腹で苦しんでいます。
ネイナさんはまだ魚料理を食べていますが……
ほとんどの人達は食事が済んだようで、それを見計らってゼレンさんが話を始めました。
「少しは英気を養えたかな、皆には一つの家で暮らしてもらおうと思っている。バラバラに暮らすのは辛かろう」
「……ですが、そんな所を用意してもらうのは申し訳ないです」
「それなら問題ない。今は使っていない建物を持っているからな」
少し前まで宿として使われていた建物を持っているらしく、人が住んでくれた方が建物が傷まなくて済むからありがたいとか、気を遣わせないようにそう言っているみたいですね。
「それとこれからの事なんだが……」
ネポロ村に移住したい方をこれから募集していくそうで、数が集まり次第、村への移住を開始したいそうです。
ですが治療中の数名の男性と女性を除けば現在生き残っているネポロ村の住民は若い女性と子供達だけ。
もし村に戻れるようになっても以前のような生活を送っていけるのか心配だそうです。
確かに……村に戻ったとしてもそれは元のネポロ村ではありません。それに耐えられない人もいるかもしれません。
◇
「こちらでございます」
話も一応終わり、執事の方に案内してもらってネポロ村の方達はゼレンさんが用意してくれた建物に向かっていきます。
私達も預かっている荷物を整理などの手伝いをするために彼女達に同行します。
ゼレンさんにはこの後もう一度会いに行く事になりました。
「結構、大きな建物ですね」
「そのようだな、これなら十分部屋の数もあるだろうし、住めそうだな」
商店が建ち並んでいた場所の一本裏の通りに建物はありました。
石造りの二階建て、建てられてから時間が経っているように見えますが頑丈そうで村の人達が住むには十分な大きさのように見えます。
中に入ると広いフロアがあり、二階に通じる階段が、その横には多くのテーブルやイスが置かれた食事を摂るスペースのような場所があります。
「探検するぞ!」
「「おおー!」」
興味深々といった様子の子供達は皆んなで新しく住む事になるこの建物を探検するみたいで走り去っていきました。
「ココロいこう!」
「うん、 ルルもね」
「キュイ?」
ポコナちゃんとココロちゃんはさっきまで眠たそうにしていたのに、他の子供達が走っていったのを見て急に眠気が覚めたみたいで、私の近くを歩いていたルルを掴んで他の子供達と同じく探検に行きました。
遠くからルルの叫び声のようなものが聞こえてきますが……まあ大丈夫でしょう。
執事さんに案内してもらいながら、私達も子供達同様、一部屋一部屋しっかりと確認していきます。
掃除は行き届いているようで埃一つないようです。室内にはほとんど物がありませんが、ベッドやタンスなどはあるようです。
「荷物は一旦、ここに取り出しましょうか」
「お願いします」
マールさんがテキパキと住む部屋を決めて、荷物を整理していきます。
遊んでいた子供達も呼んで自分の荷物を部屋に運ばせていきます。
「ココロと同じ部屋なの」
「ポコナと同じ」
「良かったね。じゃあ、私はそろそろゼレンさんの所に行かないといけないから、またね」
「どっか行っちゃうの?」
「の?」
「何日かはこの街にいると思うから、また明日会いに来るね」
ネポロ村の人達全員に挨拶をしてから、執事さんに連れられてまたゼレンさんの屋敷に戻ります。
◇
ゼレンさんの屋敷に行くと執事さんに会議室に通されました。そこにはゼレンさんと二人の男性の姿があります。
一人は金髪で長身、黒い瞳の鋭い目をした体格の良い男性、雰囲気からしてチカラのある武人のようです。
もう一人は黒い髪をオールバックにしている表情の読めない男性、どこかシスイさんに似た雰囲気がします。
「村の者達のために何から何まですまないな、本当に感謝している」
ゼレンさんはそう言って私達に向かって頭を下げてお礼を言ってきます。
「こやつらの事を紹介しておこう、これはジライド、そしてこちらがケイレスだ」
ゼレンさんがそう言うと頭を下げて挨拶をしてくる二人、金髪の方がジライドさん、黒髪の方がケイレスさんという名だそうです。
「ケイレス、あれを差し上げろ」
そう言うとケイレスさんが袋を取り出して、私達の方へ持ってきました。
「これは?」
「盗賊の捕縛と村の者達を救ってくれた礼だ。受け取ってくれ」
盗賊を捕まえた事に対する報酬とネポロ村の人々を助けた報酬のようです。
旅の者がお金を受け取らないのは不自然なので兄様はそれを受け取りました。
「アレク、そなた只者ではないようだが、どこかの貴族の者か?」
ゼレンさんは兄様を貴族ではないかと思っているようです。
兄様は「平民です」と答えました。今は間違いなく平民なので嘘ではありません。
「そうか……家名はないのか?」
「フリーデンと申します」
「……フリーデン?」
私達の家名に聞き覚えがあったみたいで聞き返してきました。
素性を隠している私達ですが、兄様は家名を隠す気はないようです。
エルドラン王国の貴族でフリーデンと言えば私達しかいませんでしたが、平民でフリーデンという家名はさして珍しいものではないので問題ないでしょう。
「どこから来たのだ?」
「エルドラン王国から参りました。ロンドールで冒険者にでも成ろうかと思いまして」
「……なるほどな、だが我が街にも冒険者ギルドはあるぞ、少し滞在してはどうだ?」
「はい、ですが折角、商王国に来たのでしばらくしたらロンドールへ行こうと考えています」
あごをさすりながら「残念だな」と呟くゼレンさん、部下にでもしたかったのでしょうか?
◇
ゼレンさんに屋敷に泊まっていっても構わないと言われましたが、流石にそれはお断りして街で宿を探す事にしました。
「そこのイケメンさん、ウチの宿屋に泊まりませんか? 安くしときますよ!」
宿を探して歩いていると兄様が元気な女の子に声をかけられました。
「どの宿屋なんだい?」
「あのボロいのです。ボロいって言っても中は綺麗だし食事が絶品ですよ!」
女の子が自らボロいと指差す宿屋は、確かに古ぼけています。それを見た兄様は私達の方を見てどうするかを聞いてきました。
「私は寝れれば問題ありません」
「俺も、無駄金使って高級宿に泊まる趣味はないし」
「魚が出るなら問題ないにゃ!」
別に高級宿に泊まりたい訳ではないので女の子が勧めてきた宿に泊まる事になりました。
「お客さんゲット! 五名様ご案内!」
元気な女の子ですね。
看板娘といった所でしょうか?
私はメアとネイナさんと同じ部屋で、兄様はマクスウェルさんと同じ部屋をとりました。
私達の部屋は広いので話し合いをします。
「ゼレン様は俺たちを探ってきたな」
「ああ、まあその辺は承知の上で村の人達を助けたのだから仕方がない」
「この後はどうするんですか?」
「この街も中々大きい、良い商人がいないか探ろう。冒険者にもこの街でなってしまおうか、身分証は持っていた方が便利だ」
おお、ついに冒険者になる時が来ましたか、冒険者デビューしたら少しは依頼をしなければならないかもしれませんから、ポコナちゃん達とも一緒にいられて一石二鳥ですね。
「食事の用意が出来ましたよー!」
話し合いをしていると先ほどの女の子、アンナちゃんが声をかけにやって来たので食事をしに一階に降りて行きます。
「アンナちゃんが言っていた通り、確かに美味しそうですね」
「美味しいにゃ!」
「ありがとうございます」
後ろから低い声が聞こえてきたので振り向くと、そこには可愛らしい笑顔のアンナちゃんと身長二メートルはあろうかと言うほどの大男が、……誰?
「これは父ちゃんです。料理は父ちゃんが作っているから、美味しいと言ってもらったのでそのお礼を言いに」
こんな厳つい顔をした大男がこんなに可愛らしいアンナちゃんの父親だなんて……
アンナちゃんは受付をしていた美人の奥さんに似たようで良かったです。
「とても美味しかったです」
アンナちゃんのお父さんにそう言うと怖い顔で笑みを浮かべました。
とても怖い顔をしていて迫力があります。
料理人はお客さんに顔を見せなくてもいいので天職かもしれないですね。
暴れるような人がいれば彼が顔を出せば直ぐに逃げて行くでしょうし、
……ちょっと失礼な事を考えすぎました。
食事を終え部屋に戻ります。
今日はもう特にやる事はないので寝る事にしました。
はあ、明日が待ちきれませんね。
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