第54話 村人達の為に
「全く、エルザ様そっくりなんだからお嬢様は、猪突猛進、短慮軽率、困ったもんだよ」
「お母様とそっくり? ありがとうございます」
村に戻ってきて食事を済ませた私たちはこれからどうするか話し合いを始めました。最初はやはり私の無茶な行動に対するお積極。兄様からすでに叱られましたが今度はマクスウェルさんの番のようです。
自分の軽率な行動を反省して小さくなっていましたがお母様とそっくりと言われて嬉しくなってしまいました。昔からよくお母様を知っているマクスウェルさんが言うんだから間違いありません。
「……褒めてないけどな、……昨日同じ様な話をしたような」
そういうとマクスウェルさんはメアの方を見ました。
「エルザ様に似てミレイ様はお優しいですからね」
メアはそう言うと笑みを浮かべました。それを見たマクスウェルさんはため息をつきました。
何でしょうかね?
「あのな、今は説教をしているんだから……まあいい、今回はミレイのおかげで若い女性と子供達は助かったからな、だが次は誰かと一緒に行動するんだぞ」
「はい兄様」
どうやらメアのおかげでマクスウェルさんは叱る気が失せてしまったようでお説教は終了しました。
◇
「でだ、本題はこれからどうするかという事だ。どうしたい?」
兄様は私達を見回してそう言うと私に視線を向けました。もちろん私の答えは決まっています。
「村の方達のために何かしたいです!」
「私もそれに賛成です」
「俺も構わないですよ。自分もそうしたいんでしょう?」
「まあな、では村の人達の為にできることをしようか、とりあえずネイナに盗賊を任せているから早く何とかしなくてはいけないしな」
ネイナさんは大丈夫でしょうか?
一人であの方達と一緒にいる訳ですが……
「始末すればいいのに」
マクスウェルさんは頭を掻きながらそう言いました。当然の意見ですね。当然を始末したところで罪にはなりません。それどころか報奨金を貰えますから。だけど、さっさと殺してはい終わりというのは彼等のためではなく殺されてしまった村の人たちのためにもならない気がします。
簡単に楽にしてなるものかと考えているのか、彼等のように人をすぐに殺したくないのか、自分でもよく分かりません……
「ただ始末するより国に渡した方が対策を講じてくれる可能性が高いからな」
「まあ確かに」
「その辺のことも生き残った人達と話し合おう。では行こうか」
とりあえず村のために予定を遅らせることは決まったので村の人たちとこれからのことを話し合います。
盗賊に連れ去られた方達は若い人ばかりですが、その中に村長のお孫さんのマールさんという方がいるので彼女と話をすることになりました。彼女は私と変わらないぐらいの女性ですが亡くなってしまった村長さんやご両親のために気を張っているようです。色々とお手伝い出来れば良いのですが。
「皆さんが安全な暮らしを取り戻せるように手助けがしたいのですが、この後どうされるおつもりですか?」
「助けてもらってそこまでしていただくのは……」
「せっかく助ける事が出来たんです。私達の為と思ってる最後まで手伝わせて下さい」
「……分かりました。ありがとうございます。隣街エデンスに住む領主様に連絡しようと思いますので、その護衛をして頂けると助かります」
隣街にはこの辺り一帯を治める領主が住んでいるそうなので、村が襲われた事を知らせれば兵士を派遣してくれるそうです。
それに隣街にはこの村の出身者が多く住んでいるそうなので手助けをしてくれる方が多くいるようです。彼女たちに頼れる方がいて良かった。
お葬式は治療中の方の意識が戻ってから行いたいそうです。ご遺体が腐ってしまわないか心配をしていますが、私が氷魔法を使ってご遺体の状態を維持すると言うと喜んでくれました。
ご遺体は中央の神殿に移動させ、治療中の方は近くの民家に移動してもらうことになりました。
マクスウェルさんが隣街に行ってしまう前に手伝ってもらい治療中の方を民家に移動させ、神殿内にご遺体を移動させていきます。村中の人々の遺体を移動させるのは重労働ですが無下に扱うことは出来ません。
移動させ終わると神殿内を閉め切り、氷魔法を使い神殿内の気温を下げてご遺体の側にも氷を作っておきました。
これでご遺体の損傷は防げるはずです。
「マク兄、護衛を頼めるか、私はネイナの様子を見てこようと思う」
「了解、兵士が来てくれれば盗賊の方の問題も解決するだろうから直ぐに行ってくる」
普段怠けているマクスウェルさんも今回は文句も言わず様々なことを率先してやってくれています。とりあえずご遺体の件が片付くとマクスウェルさんとマールさんは馬に乗り隣街エデンスへ、兄様も食料品などを持ってネイナさんの様子を見に行きました。
私とメアは村に残り村の人たちの手伝いと盗賊や魔物を警戒をすることになりました。とは言っても村の外に出ることは禁止されてしまったので村の中で出来ることをしたいと思います。
……私に出来ることは何でしょうか?
聞いてみるのが一番かもしれません。
助かった皆さんは幾つかの大きな家に住んでいるので声をかけに行こうと思います。
「すいません、何か手伝える事はありませんか?」
ドアをノックして声をかけるとドタドタと子供達の足音が聞こえて来ます。
「お姉ちゃんだ!」
「だ!」
「「ルルもいる!」」
ポコナちゃんとココロちゃん、それに沢山の子供達が私を囲みました。
皆んな沢山泣いたようで目の周りが真っ赤になっていますが、昨日よりは少しだけ元気そうに見えます。
私の肩にいたルルは直ぐに子供達に捕まってしまい家の中に入って行きました。
逃げる様子もないので遊んであげようと考えているのでしょう。
「何しているの?」
「の?」
「何か手伝える事はないかと思って聞きに来たんですよ」
「ふーん、そっか、じゃあわたし達のお手伝いをして〜」
「して〜」
何をするのか聞いてみると子供達はこれから畑に行って手伝いをするそうです。
まだ幼いのに自分達で出来ることはやろうとしているようですね。
村の中にある畑に行くと子供達は近くにある井戸から水を汲んで来て野菜に水をやったり、収穫をしたりしています。
魔法を使えば簡単に済んでしまいますが、それは何か違う気がしたので皆んなと一緒に井戸から水を汲んだり、野菜の収穫を手伝います。
「そろそろ昼食にしましょうか?」
子供達と畑仕事をしていると若い犬人族の女性が昼食を食べようと声をかけて来ました。
それを聞くと子供達は皆んな「ゴハンだ!」と声を上げて家の方へ向かっていきます。
「お姉ちゃんも一緒に食べよう?」
「食べよう?」
ポコナちゃんとココロちゃんが私の手を握ってきて一緒に昼食を食べようと誘ってきます。
どうしようか悩んでいると他の子供達が後ろから押して来て一緒に昼食を食べる事になりました。
幸い食料などは盗賊達に奪われる事も無かったそうなので、先ほど採った新鮮な野菜を使った料理が用意してありました。
子供達の食べる様子を見ていると、小さな子供の面倒を見ながら食事をしたり、随分と面倒見のいい子達ばかりです。
「凄いでしょう。あの子達を見ていると私達も頑張らなきゃって思うんです」
「ええ、凄いですね」
料理を用意してくれた方が話しかけてきました。こんなに小さいのに協力しあって、凄いですね。
獣人の方達は仲間意識が凄く強いと聞いていますが、子供達もそうみたいです。
その中にいる少数の人族の子供達も同じように協力しています。
昼食を食べ終えると子供達は疲れたのか、目を擦りながらフラフラしています。
もう既に寝てしまっている子もいます。
中にはお皿の上に顔を突っ込んでいる子やイスの上から落ちずに反り返っている子の姿も、一体どうやって落ちずにあの態勢で寝ているのか分かりません。
ポコナちゃんとココロちゃんもテーブルに突っ伏して寝てしまっています。
起こさないよう気をつけながらこの子達のベッドまで連れていってあげます。
「おかあしゃん」
ポコナちゃんは亡くなった両親の事を夢見ているのか涙を流して寝言を言っています。
他の子供達も同じように涙を流している子達が沢山います。昨日の今日ですから、気を張って我慢しているんでしょうね。
あの子達なりに平和な日常を取り戻そうとしているのかもしれません。
皿洗いなどの手伝いをして家を後にします。
他に何か出来ないかと辺りを見回っていると兄様が戻って来ました。
「ネイナさんは平気でしたか?」
「ああ、何人かネイナを侮ったようでボロボロになっていたが特に問題ないようだったよ」
やっぱりそうでしたか、お父様が信頼するチカラを持っているネイナさんにはあのぐらいの盗賊なら問題ないのでしょうね。
「近くに川を見つけたみたいでな、のんびりと魚釣りをしていたよ、意外と快適そうだったな」
……流石ネイナさんですね。
お読みいただきありがとうございます。
ハイファンタジー、ローファンタジーって初めて聞いた言葉ですΣ(゜Д゜ノ)ノ