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第53話 村へ

「あの、その〜ですね、ええと……」


 兄様達が私の方へやって来ました。私の前まで来て何も言わずに腕を組んでこちらを見ています。ネイナさんに助けを求めようと目をやりましたが、首を横に振っているので助けてくれそうもありません。


 黙ったまま私に視線を向ける兄様、肩の上にいるルルも置いて行ったことを怒っているようで腕を組んでほっぺを膨らませています。可愛いので怖くはありませんが、心配をかけてしまったようです。



「一人で勝手に動いた事については後で話し合う事にしよう。今は攫われた村の人達をどうするかが先だ」


「そうですね」


 やっぱり後で怒られてしまうみたいですが仕方ありませんね。ロープを出して盗賊達が暴れたり逃げたりしないようにしっかりと縛ります。


 この時に暴れたり抵抗する人達もいましたが、兄様がその中の一人のお腹に一撃を入れて気絶させました。それを見て盗賊達は大人しくなりました。

 一撃を入れられた人は吹き飛んで土壁に叩きつけられていたので、ああはなりたくなかったのでしょう。


 死ぬほどの怪我をした人はいませんがとりあえず止血を行い、私が土魔法で作った牢の中に入っていてもらうことにしました。


 洞窟内も確認して村の人達の目に盗賊の姿が入らないようにしてから村人たちを守るために土魔法で作った壁をなくしていきます。


 壁がなくなると捕まっていた村人たちは眩しくて誰が外にいるのか分からないのか震えて心細そうにこちらを見ています。


「皆さんもう大丈夫です。盗賊は全て倒しました」


 そう言うとホッとしたように息を吐きました。中には泣いている人もいます。張り詰めていた糸が切れたのでしょう。彼女たちを閉じ込めていた牢の鍵はネイナさんが探してくれたので、すぐに彼女たちを解放しました。


 牢から出てきた彼女たちはまだ盗賊に怯えているようで辺りをキョロキョロと見回しています。それに私達が本当に自分たちを助けにきたのか信じられないようで私たちと距離をとっています。


 するとそんな方達を見かねたアレク兄様が皆さんが彼女たちに近付いていきました。


「皆さん、我々が誰が分からず信用出来ないかもしれませんが今は信用して下さい。私達は旅の途中でして、村の惨状を見て何とか皆さんを救えないかと思い助けにきました」


 そう言われても信用出来ないようで不安げな視線を交わし合っています。それも当然のことでしょう。平和な日常が突然壊されて大事な人達が大勢殺されてしまったのですから。


 どうしたものかと悩んでいると盗賊と戦う前に話しかけてくれた狸人族と狐人族の女の子二人が私の方に駆け寄って来ました。



「お姉ちゃん助けてくれてありがとう」


「ありがとう」


 幼い二人は私を見上げるとお礼を言ってくれました。無邪気な子供の方が素直にこの状況を受けて入れてくれたようです。頭を撫でると二人はくすぐったいそうに微笑みました。

 そんな二人を見たからなのか他の子供達もやって来てお礼を言ってくれます。



「申し訳ありません。助けていただいたのにお礼も言わないでこんな態度をとってしまって」


 子供達がお礼を言ってくるのを見て一人の女性が私達の方にやって来て先程までの態度を謝りました。それを見て次々とお礼を言って下さいました。


「いいんですよ、当然の反応ですから」


「助けていただいて本当にありがとうございます」


 私達の事を信用してくれたようなので、これからの事について話していきます。



「皆さん、ご存知かもしれませんが村は酷い状態でした。お辛いかもしれませんがこれから村に帰りましょう」


 皆さんそれは分かっているようで静かに涙を流しています。生き残ったのはここにいる若い女性達と子供達、それに村で治療を受けている何人かの方達、さぞ辛いでしょう。


 盗賊を村に連れて行くわけにはいかないので洞窟に閉じ込めておくことになりました。


 洞窟の中には大きな牢屋があり、そこに閉じ込めておく事が出来そうだったためです。念のためにネイナさんが残ることになりました。


 彼等には全員に手錠をかけ、足を鎖で繋いでおいたので逃げる事は出来ないと思いますが、もし何かがあれば命をとって構わないと兄様はネイナさんに伝えていました。


 洞窟内にあった財宝などは村の人達の今後に必要でしょうから全て回収しました。盗賊の討伐を行った者にはその権利が与えられるので特に問題はありません。


 女性や子供が乗せられていた牢を移動させ、ただの荷車に変えてそれに乗ってもらい村へと戻って行きます。



「お姉ちゃんは冒険者さんなの?」


「なの?」


 御者をしていると後ろに乗っていたあの二人の女の子が話しかけてきました。


 二人はとても可愛らしいのですが、狸人族の女の子の後に少し歳下に見える狐人族の女の子が話してきて何だかとても可愛らしいです。


 金髪で好奇心の強そうな雰囲気をした狸人族の女の子はポコナちゃん、銀髪の物静かな雰囲気をした狐人族の女の子はココロちゃんという名前だそうです。


「まだ違うんですよ、ロンドールで冒険者になる予定なんです」


「冒険者じゃないのに強いの?」


「の?」


「訓練を沢山しましたから、少しは戦えますね」


「そうなんだ」


「そうなの」


 それを聞くと二人は私の肩にいるルルが目に入ったようでじっと眺めています。


「この子はルルっていう名前なの、とても頭が良いから仲良くしてあげてね」


「キュイキュ」


 そういうとルルは二人に手をあげて挨拶をします。

 どういう状況にあるのか頭の良いルルは分かっているのでしょう、普段子供と接するのを嫌うのに優しい態度です。

 二人に連れられて他の子供達の中に入って行きました。ルルと遊ぶ子供達の顔には笑顔が浮かんでおり、それを見ている女性達も笑みが浮かびます。少しの間でも悲しみが和らいでくれたようで私も嬉しいです。


 ルルには後でお礼を言わないと。


 ここにいる若い女性や子供たちのご両親の多くは亡くなってしまっていると思われます。私たちがずっとそばに居てあげられるわけではありません。誰か助けになってくれる方はいるのでしょうか?



 馬車に揺られること数時間、ようやく村が見えてきました。子供たちは村に帰って来れたことを喜んでいますが若い女性たちには笑顔は見えません。これから現実を目の当たりにしなければならないからでしょう。


 村に到着すると、皆さんは同じ方向に向かい走って行きます。生き残った人達は中央の神殿で治療を行っている事は既に伝えてあります。おそらくそこへ向かったのでしょう。


 私も中央の神殿に向かいます。

 神殿の前には亡くなった方のご遺体が運ばれていました。若い女性や子供達は、既に冷たくなってしまったご遺体にすがりつき泣いています。


 ココロちゃんも一人の女性の前で大きな声を上げて泣いています。彼女が泣きついていたのは盗賊の行く先の手掛かりをくれて亡くなったあの女性でした。


 似ているとは思いましたが、

 残念でなりません。




「お姉ちゃん……お父さんとお母さんが死んじゃったの」


 しばらくしてココロちゃんは私の元にやって来て抱きついて来ました。どのような言葉を掛けていいのか分からず、ただ抱き締めてあげることしか出来ませんでした。ポコナちゃんの名を呼び始めたので一緒に探すことにしました。


 神殿の外にはポコナちゃんの姿が見えないのでココロちゃんと手を繋いで神殿の中に向かいます。


 周囲を見渡すと横になっている女性のそばにポコナちゃんの姿がありました。ココロちゃんが駆け寄っていきます。私もその後を追うと横になっていたのは私が最初に見つけた女性でした。どうやら彼女はポコナちゃんのお母さんだったようです。

 顔は青ざめていますが何とか助かってくれたようです。しかしポコナちゃんの顔には笑顔はありません。


 彼女は私に気付いたようで辛そうに息を吐きながら話しかけてきました。


「ああ、貴女はあの時の、娘を助けてくれてありがとうございます」


「いいえ、いいんです。当然のことをしただけですから」


「ココロ、お父さんとお母さんは?」


 ポコナちゃんのお母さんがそう聞くと、ココロちゃんは悲しそうな顔をしながら首を横に振りました。それを見て辛そうな表情をするとココロちゃんの頭を優しく撫でました。


「そう、辛かったわね。ポコナ、お姉ちゃんなんだから、ココロの面倒をしっかりと見るのよ」


「うん、お母しゃん」


 ポコナちゃんは泣きながら返事をしました。

 近付いてきたメアに気付き、どういう容態なのか目で聞いてみましたが静かに首を横に振りました。


 二人に優しく話しかけるポコナちゃんのお母さん、暫くすると苦しそうに息が荒くなってきました。



「ずっと見ているからね、ポコナ、ココロ。コロンと一緒に見守っているから……幸せに……なって……ね」


 涙を流しながら静かに目を閉じました。

 メアが容態を確認しましたが残念ながら息を引き取ったようです。ポコナちゃんが泣いてお母さんに抱きついています。ココロちゃんも一緒に泣いてポコナちゃんの側にいます。


 コロンさんというのはココロちゃんのお母さんの名前なのでしょう。家族ぐるみで仲が良かったようですね。



「……残念です。お嬢様、連れ去られた方は無事に助けることが出来たようですね。お怪我もないようで安心しました」


 ポコナちゃんのお母さんの容態を確認したメアが私に近付いて来て話しかけてきました。どうやら私が一人で盗賊のアジトに向かったことを知っていたようす。



「ええ、何とか、心配かけてゴメンなさい。助かりそうな方はいる?」


「ええ、数名の方が、息があった方もほとんど亡くなってしまいました」


 それでも……生きていてくれる方がいて良かったと思うべきなのでしょうね。それほど酷い惨状でしたから……


 神殿の中には悲しみの声が響いてきます。

 ポコナちゃんとココロちゃんは泣き疲れて眠ってしまいました。そんな二人をこの子達をよく知っている若い女性に預けました。




「ルル、今日は辛い一日になってしまいましたね」


「キュイ」


 ルルを撫でながら今日一日にあったことを思い返します。私達の村によく似た場所に来れると思えば多くの亡くなった方の姿、しかもそれを行ったのは人、どうすればあのようなことが出来るのでしょうか。


 私には理解出来ません。


 戦争でも人は死にますがそれは守るべき者のために行うことです。個人の利益のために行うことではありません。互いの守るべき物のため、正義のために争うのです。それもやはり悲劇ではありますが、それならば理解することが出来ます。


 ですが今回の出来事はただの虐殺に他なりません。何の罪もない人々を奴隷として売り飛ばしてお金を手にするために行われたこと。


 彼等も最初からこのようなことをする悪人ではなかったはずですが、私にもそのような心が隠れているのでしょうか……

お読みいただきありがとうございます。


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