第52話 探し者
今回はミレイが一人で村人達の救出に向かった後のアレク達の話になります。
「こちらではないみたいだな、どの痕跡も賊のものとは違うようだ」
アレクはネイナと二手に別れて村人達を拐ったと思われる盗賊を探していたが見つからず、苛立ちを隠せずにいた。
村への出入りは多かったのだろう、馬車の車輪の跡も多く、その中から一台を追跡して探すのも難しかった。
家が燃えていた感じから見て恐らく朝方を狙われたと思われるがそれは夜襲では闇に紛れて逃げられる可能性があるからではないだろうか、戦える男達はともかく、お年寄りまで襲ったのは自分達の存在を知られるのを防ぐ為に違いない。
奴隷として売られるであろう子供達はまだ無事の可能性が高いが、村で暴行を受けた若い女性の亡骸を見る限り、危険に晒される可能性が高いと考えてアレクは焦りを感じていた。
このまま闇雲に探すよりは助けられる可能性が高くなると考え一旦村へ戻っていく。
ミレイやメアが他の生き残りを探して情報を得た可能性がある為だ。
村へ戻り、中央の神殿に行くとそこではメアが懸命に数名の村人達の治療を行っていた。
生き残りが少しでもいてくれた事に安心したのだろうか、アレクは安堵した表情が浮かべる。
「他にも何人か生きてくれていたようだな」
「はい、ルルが探し出してくれました。かなり厳しい状態ですがまだ息はあります」
「キュイキュ!」
凄いだろと偉そうな態度をしながら足元にやってきたルルの頭を良くやったと撫でる。話せる状態の者がいないかを尋ねるが皆意識がなく話せる状態ではなかった。
「ミレイはどうした?」
「姿を見ておりませんが、まだ生き残りを探しておられるのではないでしょうか?」
そうかと返事をして、その場はメアに任せて外に出るアレク。
ミレイがまだ戻ってきていないと聞いて何か嫌な予感がしていた。
表に出るとネイナが村へと戻って来た所のようだったので話しかける。
「どうだった?」
そう聞くが浮かない表情をしている彼等を見て発見できなかった事を察する。
「見つかりませんでしたにゃ、誰か怪我をしていれば血の匂いがすると思ったのですが、連れ去った者に危害は加えていないようにゃ」
「奴等にとっては商品だからな、抵抗した女性は何人か殺してあとは無理やり連れて行ったのだろう」
◇
「アレク様、お嬢様を見ました? 姿が見えないけど」
アレクよりも先に村に戻っていたマクスウェル、辺りにミレイの姿がない事に気付いて探していたようでその行方をアレクに聞く。
「ああ、それが姿が見当たらないんだ」
それを聞いたマクスウェルは眉間に皺を寄せて考え込む様子を見せる。
彼はミレイが幼い頃から何かに巻き込まれる体質であり、そして自ら問題に巻き込まれていく性格である事を知っていた。
母親もそうだったのだ。
彼女の弟子として様々な出来事に巻き込まれる事になった彼はそんなミレイの姿だけが見えない事に嫌な予感を感じた。
「……嫌な予感がする」
「やはりマク兄もそう感じるか、皆で探してみよう」
三人は別れてミレイを探す。
「アレク様こっちにゃ!」
ネイナの声がする方へと向かっていく。
するとそこには一人の女性の遺体がある。
「これは、ミレイが?」
亡くなっている狐賊の女性は介抱された後なのか胸の前で手を組んでいる。
「恐らくそうですにゃ、亡くなってから時間があまり経っていないようですから亡くなる前に何かを聞いた可能性がありますにゃ」
「という事はこの方向に行った可能性があるという事かお嬢様は」
「私は後を追う。ミレイも馬鹿ではない、緊急だからと一人で向かったのだろうが、何か目印になるようなものを残しているはずだ」
「マク兄はここに残ってくれるか、血の匂いで魔物が来る場合がある。メアにも状況を伝えて欲しい」
「あいよ」
「行くぞネイナ「キュイキュ」とルル」
女性の遺体があった場所の方角から村を出て街道を進み、何か目標になるものが残されていないかを探していく。
斥候として追跡も得意とするネイナがルルを肩に乗せて先行して行く。
「キュイ!」
鼻を鳴らしたルルがネイナの肩から飛び、素早くある場所へと向かっていく。
それを追って行く二人。
「ありましたにゃ、これはお嬢様の足跡と槍の跡に違いありませんにゃ」
そこにはミレイの足跡のようなものがくっきりと残っていた。
全力で駆けている証拠だろう、地面が凹んでおり、その横には槍で地面に付けたような跡が残っている。
「ミレイがどこに向かっているかは分からないが急ごう」
その目印を追って先を急ぐ、すると木々が辺りに増えてきて深そうな森に入る。
小山も幾つかあり、盗賊が根城にするにはもってこいの場所のように見え、二人は賊のアジトは近いと感じていた。
◇
「お嬢様は大丈夫でしょうか」
中央にある神殿に戻ってきたマクスウェルに事情を聞いたメアは村人達の介抱をしながら心配そうに呟く。
「ああ、大丈夫だろう、エルザ様の娘だ。あの時よりも強くなっているし、フリーデン家の者はキレたら怖い、成長したらエルザ様みたいにならなければいいけど」
それを聞いていたマクスウェルが大丈夫だと応える。多少心配そうにしているが、メアを不安にさせない為だろう、冗談を言って場を和ませる。
「そうですよね、ですがエルザ様はマクスウェルさん以外には優しいですよ?」
「そう思わせておいてガンと来るのがあの人なんだ、気をつけたほうがいいぞ」
「そんな事ばかり言っていると、告げ口をしてしまいますよ」
「おい、やめてくれよ、俺を殺す気か?」
メアに今までに言った事をエルザに告げると言われ本気で焦るマクスウェル。
「ふふふ、冗談はさておき、包帯を変えるので手伝って下さい」
「お前もいい性格になって来たな、怖い冗談を言う所なんてセバスさんそっくりだ」
「ありがとうございます」
尊敬する父親に似ていると言われて礼を言うメア、それを聞いたマクスウェルは少し嫌な顔をして言う。
「褒めていないけどな」
◇
「お嬢様はこっちに行ったようですにゃ、何故なのか闇雲に探したような感じではないですにゃ、追跡の経験なんてないはずにゃのに」
「我が一族は異様に冷静になり物事を瞬時に判断出来る時があるそうだ。私はまだ経験していないがな」
ミレイが第三王子に婚約破棄をされた時にレオンが王都に攻め込もうとしたしたが、それを超えた怒り、メフィストにミレイが襲われた時はレオンはその状態だった。急に何倍も強くなるわけではない。その時に発揮できる最大のチカラが使えるようになるだけだ。
「まあ、元々武の傾向が強い我々フリーデン家にあの母上の血が入ったのだからな、その中でも両方の特性を色濃く受け継いだミレイだからこそかもしれないが」
全力で駆けながらミレイが何故迷いなく進んでいるのかを話し合って進む。
心配しながらも会話をする事で冷静さを保っているのかもしれない。
そのまま先に進むと背の高い草に隠れている小屋を見つけた。
中には人の気配がある。
ミレイはこの小屋を無視して先に進んだ事にすぐに気が付き、その理由に察しが付いた二人だったが、自分達なら音も立てずに制圧出来る為、視線を交わしネイナにそれを任せてアレクは先に向かう。
音を立てないよう先に向かうと小山近くを石壁に囲まれた場所を発見した。
叫び声がその中から聞こえてくる。
石壁の中の様子が伺える場所に移動するアレク。中では多くの盗賊が倒れ伏す中で体格の良い男がミレイと戦っている姿があった。
炎を纏った斧を持つ大男、側から見れば一人の少女が殺されそうになっているようにしか見えないだろうが、そんな場面を見ているアレクは手を出そうとはしない。
危なければ直ぐに手を出そうと考えていたアレクだが、問題なさそうなのが見て取れたので、盗賊との戦いはミレイにとって良い経験になると思ったのだろう。
そんな冷静なアレクの肩の上に居るルルはミレイの元へと行き共に戦いたいのか、パンチをする仕草を繰り返している。
「問題ないみたいですにゃ」
背後からネイナが姿を現す。
どうやら何事もなく見張り小屋の盗賊の始末は済んだようだ。
怪我をした様子もない。
「そのようだ、あの男は多分盗賊の頭のようだ。中々動きが速いみたいだが、今のミレイなら問題ないだろう」
ミレイが盗賊の頭と戦っているにも関わらず手を貸さずに二人は会話をしているが、何もしていない訳ではない。
壊れた壁から逃げ出してくる盗賊達を昏倒させていたのだ。
盗賊はどの国でも討伐の対象であり、殺しても構わないのだが、どうやらミレイが誰も殺さずに済ませているようなので昏倒させるだけで済ませている。
逃げて来る盗賊もいなくなり、石壁の中が静かになったのに気付き、戦いの様子を見ればミレイが盗賊の頭の首元に槍を突きつけている所だった。
「終わったな、行くぞ」
「了解ですにゃ」
「キュ!」
やっと50話までたどり着けました。ここまで読んで頂きありがとうございますm(_ _)m