第50話 アジトを探して
先程の狸人族の女性が行こうとしていた門から村を出ます。
兄様達が追ってこれるように地面にサインをつけながら全力で走ります。
何故だか分かりませんが普段思うように操る事の出来ない氣を自在に操る事が出来、氣を操る事で普段の何倍もの速度で移動出来ているのが自分でも分かります。
一歩踏み込むごとに速度が増して周りの景色が過ぎ去っていきます。
どれほどの距離が開いているか分からないですが、子供達や女性を連れて移動しているならば移動速度は私よりも遅いはず。
かなりの数を連れて移動しているなら本来なら跡がもっと残っていてもいいはずなんですが、商王国がきっと綺麗に街道を作ったのでしょう。硬い道で跡が残りにくいみたい。
馬車での移動を多くする商人の方達は便利なのでしょうが今回はそれが仇になってしまっているようですね。
それに幼い子供を連れて行くなら馬車か何かを何台も使うはず、攫った後にどこに向かうのでしょうか、手の加えられた街道をいつまでも通るとは限りません。
商王国でも村を襲って奴隷にするのは違法なはず、もし街道を通っていて、商王国の兵にでも見つかったら捕まる可能性が高い。
一般人に見つかった場合にも討伐兵が送られる場合があるでしょう。
そう考えると道を逸れる可能性があります。
「この速度で移動しながら、馬車が移動した跡も探さないと」
街道を行きながら馬車が通った跡を探します。全身の感覚を研ぎ澄ませて、もし子供の声が聞こえる距離にいるならそれを聞き取れるようにしないと。
もしもアジトがあるとすれば同じ道を通っている可能性があります。
森の中、山の近く、アジトになりそうな所が近くにあれば見逃さないようにしなければ。
暫く駆けて行くと少し深そうな森が見えてきました。
小さな山もいくつか見えます。
ここなら子供達や女性が連れていき隠す事も可能性かもしれません。
おそらくこの周辺にいるはずです。
そう思い速度を少しだけ緩め、馬車などが通った跡がないか慎重に探していきます。
彼等も馬鹿ではないでしょうから、商王国から追っ手を出されるリスクを考えれば細心の注意をしてアジトに向かっているはず。
森の中の道を進んでいると周りには木々が多くて馬車が通れそうもないような場所が続いています。
その中で怪しい場所を見つけたので足を止めました。
あれは獣道? 枝が道にかかっていて奥が見えないようになっていますが、馬車が入っていけそうに見えます。
あそこが怪しい。
地面は石がゴロゴロしていて跡がつかない。今までの道ならそれて森に入れば草や土に車輪の跡がついているはず。
ここなら後始末も楽。
通り過ぎた後に不自然にならないように石をならしておけばいい。
草木をどうこうするより簡単なはずです。
枝を掻き分けその道を進んで行きます。
そうすると枝が何本か不自然に折れている箇所があります。動物や魔物が折ったにしては少し高い、ちょうど馬車の高さほどの位置のようです。
可能性が高くなってきました。
この先がアジトの場合、見張りがいる可能性があるので慎重に進んで行きます。
監視から姿を隠すために木から木へと足音を立てずに移動して、暫くして背の高い草に隠れた小屋のような物を見つけました。
そこから誰かの話し声がしてきます。
やはり間違いないようですね。
「ここに村の人達はいる」
小屋を通り過ぎて行きます。
彼等に手を出して予想外の抵抗をされてしまい、私の存在が知られると村の人達に危険が及びます。小屋のことは一旦、放っておきましょう。
小屋の先に進んでいくと小山に近付いてきました。木々が減ってきて開けた場所があります。
「見つけた」
小山の近くに何台もの馬車が置いてあり、その中には幼い子供や女性達が身を寄せ合って震えているのが見えます。
その周りには酒盛りをしながら笑い合っている盗賊達の姿があり、随分とご機嫌な様子。仕事が上手くいったからでしょうか?
小山には洞窟があるみたい。
彼処が彼等のアジトという事でしょう。
あれだけの何の罪も無い人達を殺しておいてあんなに楽しそうにお酒が飲める人がいるなんて信じられません。
彼等は同じ人なのでしょうか?
テーブルに置かれたお酒がまだ少ししか減っていないように見えます。それにまだあまり酔っているようにも見えません。
どうやらこの場所に辿り着いてまだ間もないようです。
兄様達は私の残したサインに気付いて直ぐに駆け付けてくれるでしょう。
洞窟の中からは女性の声は聞こえてきません。どうやら洞窟の中に連れられた女性はいないようです。
ですが彼等のあの様子ではいつ女性達に危害が加えられるか分かりません。
村で亡くなっていた若い女性達と同じ道を辿らせる訳にはいきません。
兄様達を待っている時間はないようです。
ですが彼等に気付かれないように村の人達を逃すのは少し無理がありそう。
馬車の位置的にも逃げようとすれば直ぐに気付かれてしまうでしょう。
それに一度でもパニックを起こしてしまえば、全員を傷付けずに助けるのは不可能になってしまう。
バラバラに逃げてしまったら私にはどうする事も出来ませんから。
——戦って助けるしかないようです。
木から大きく跳躍し、子供や女性が捕まっている馬車の上へと音もなく跳び乗る。
周りで酒盛りをしている方達はそんな私に気付く事もありません。
隣の馬車にいた二人の幼い女の子が私に気付いて目をまん丸にしている。
怖がらせないように笑顔を見せて、人差し指を口の前に持ってきて静かにするようお願いする。
すると力強く頷いてくれました。
盗賊は今、馬車の方に目もくれないでお酒を飲んでいるので気付かれないよう移動して女性に話しかけます。
「静かにお願いします。助けに来ました、少し戦闘になると思いますが安心して下さい」
「貴女が? 逃げて下さい。貴女のような若い方を巻き込むわけにはいきません」
まだ子供の私を心配して逃げろと言ってくれます。
こんな状況にも関わらず他人の心配をするなんて……。
私だけではないと安心させないと……。
「安心して下さい、他にも人が来ていますから、他の方達にも伝えてください。少し暗くなりますが安心して座っていてくださいと」
数台の馬車に閉じ込められている人達に声をかけていく、すると先程の二人の女の子が声をかけてきた。
どうやら狸人族と狐人族の女の子のよう。
幼くても状況はしっかりと分かっているようで小さな声で話しかけてくる。
「お姉ちゃんが助けてくれるの?」
「そうなの?」
おそらく涙のせいでしょう、赤くなった目をした二人は手を繋ぎながら聞いてきました。
「ええ、安心して待っていてね」
「分かった頑張る。お姉ちゃんも頑張って」
「頑張って」
小さいこの子達は小さな手を握り締め震える声で応援してくれました。
そう言われて、力が漲る。
あの子達の顔にはどこか見覚えがある。
村で最初に見つけた来て狸人族の女性と、ここを教えてくれた狐人族の女性によく似ている。
——いや、それは助けてから考えましょう。
今は無事に子供達や女性達を救って村に帰してあげるのが先決です。
馬車の上に戻り魔法を使います。
『土魔法・四重壁』
村の人達を守る為に大きな土壁を幾つも生み出して彼女達が閉じ込められている馬車を完全に隔離しました。
それと同時に洞窟の穴を塞ぎ、これ以上盗賊が増えるのを防ぎ、酒盛りをする盗賊達が逃げる事が出来ないように辺りを土壁で囲みました。
突然現れた土壁に驚き、飲んでいた酒を投げ捨て武器を取り出す盗賊達。何が起こったのか分からず辺りを見渡しているが、土壁の上にいる私に気が付いたようです。
「何だテメェは!!」
「降りてこい! 可愛がってやる!」
土壁の上に立ち、それを見下ろす私に向かって武器を向けて汚い言葉をかけてきます。
ですがそんな彼等に構うことなく私は一つの宣言をします。
「私の名前はミレイ・フリーデン、貴方がたとは縁も所縁も御座いませんが、人としての一線を越えた貴方がたには罰を受けて頂かなければなりません」
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