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第5話 演説と訓練

 私達フリーデン家がエルドラン王国を離れると街の人たちに伝える日がやって来た。街の人たちがどのような反応をするでしょうか。


 沢山の人達に話を聞いてもらうために街で一番大きな広場で話をすることになった。警護の関係上、私達は広場に馬車で移動することになった。私達が到着するとそこには既に大勢の方が集まっていた。普段私達が顔を見せると歓声が上がるが今日はやけに静かで心なしか元気がないように見える。これからどういった話をするのか分かっているのでしょう。


 お父様が用意されていた壇上に上がった。集まってくれた人々にお父様の話がしっかりと聞こえるように兵士の一人が風魔法を使った。


「集まってくれて感謝している。噂には聞いているかもしれないが、我々フリーデン家はこの国を離れることにした」


 お父様が話を始めるとざわついていた街の方々は静まり返った。私達がこの国を出ると聞いても驚いた様子はない。私が帰って来た時にあれだけの騒ぎになったのですからやはり事情を知っていたのでしょう。


「私自ら王都に赴きその旨を国王に伝える」


 静まり返ってお父様の言葉を聞いていた街の人たちは国王陛下に王国を去ることをお父様自ら伝えに行くと伝えられて大きくざわついた。お父様の身を案じるような言葉を口にしてくれる方々が大勢いる。


「安心して欲しい。何も戦いに行くわけではない。新しく領主となる貴族がやって来た時、最初は何かと問題も起きるかもしれないがそなた達なら上手くやっていけると信じている。今まで通り誰に対しても誠実に接していけば信頼を得ることもできよう」


 新しく領主となる貴族が良い方だといいのですが。

 この地は王国にとって要所、有能な方が派遣されてくるのは間違いないと思うのですがやはり不安だ。こんなことを考えているということはやはり私も王族に対しての不満があったということでしょうね。国王陛下を信頼していない証拠だ。


「我々がもっと上手く国と付き合えればよかったという誹りは受けよう。結局我々は貴族らしい貴族には成れなかったのだから。だが少なくともこの領地だけに多くの被害が出るようなやり方を国も他の貴族も出来なくなるだろう」


 お父様も私と同じような悩みを持っていたんですね。貴族らしく出来ないと。兄様達も言っていましたが私も同じように考えていました。



「では……そろそろ王都へ行ってくる。帰ってきたらまた会おう!」


 それから街の人たちに対しての感謝の言葉が述べられてお父様の話が終わった。お父様たちはこれから王都セルトラムに向かうため私達は一度屋敷に戻ることになった。馬車に乗り込む前に街の人たちを見ると多くの方が涙を流して立ち尽くしていた。


 建国以来この土地を治めてきたフリーデン家が王国を去るということに不安を感じている方も多いでしょう。見捨てられたと考えて私達に不信感を持っている方もいるかもしれない。


 ですがエルドラン王国でもっとも多くの犠牲を強いられてきたこの領地を変えるためにはこれぐらいのことは必要なのだろう。


 帝国は西方の国々との戦争でこちらに構っている暇はない。我々が去ってもすぐに何かが起こることはないでしょう。フリーデン伯爵家が無くなれば王国全体でこの土地をどうするか真剣に考えなければなりません。さもなければ帝国に攻められてエルドラン王国は滅んでしまう。もしそうなったとしても帝国の王も無抵抗な国民に手を出すような真似はしないでしょう。



「貴方無理をしてはダメよ」


「お父様、カイル兄様、シエル兄様、セバス、無事に帰って来てください」


 街の人々に正式に宣言したのでここからは時間との勝負といえる。この街には他領のスパイもいるからだ。彼等が主人に今回の件を伝えて何か行動を起こされるわけにはいかない。

 だが王都に攻め込もうとしていたお父様を見ていたので嫌な想像をしてしまう。カイル兄様もシエル兄様も、セバスだってバレイル殿下の首を獲ろうとしていましたから。


 ですがきっと大丈夫。


 ……大丈夫ですよね?



「安心しろ私も意味のない暴力は嫌いだ」


 本当ですかと思いながらお父様を見ると苦笑しながら私の頭を撫でてくれた。信じろということでしょう。心配しすぎかもしれません。



「少人数だからこそ逃げやすい。何かあったとしても捕まることも無いだろう。王都までの道中には危険も少ないしな。アレク、我々が帰ってくるまでは二人を頼むぞ」


「はい、お任せ下さい父上」


 お父様はアレク兄様の肩を叩くと馬に乗った。私達を安心させるために笑みを見せるとフードを深く被り王都へと向かっていった。



 ◇



 お父様達が王都へ向かっている間に、私はアレク兄様に戦闘の訓練をしてくれるように頼んだ。


「兄様よろしくお願いします。これからの旅で足手纏いにならないように少しでも訓練をしておかないと」


「そうだな……私が守ると言いたい所だが何が起こるかわからない。自分の身を守る術を磨いておくことは必要だな」


 兄様は私の頼みを快諾してくれた。いつまでも家族に甘えているわけにはいかない。私も強くならなければ。


 フリーデン家は代々槍を主たる武器として使ってきた。そのため私も槍や棍などの長柄の武器を得意としている。


 学園でも戦闘の授業があったがやはり学生はまだ未熟な方が多く、私が求める強さを持った方は同級生にはいなかった。学園に入る前に行っていた訓練には遠く及ばず、身体は以前より鍛えられたと思いますが腕が落ちたと感じていた。


 だからこそお父様達が帰ってくるまでの短い間でも時間を無駄にせずに戦いの感覚を取り戻しておきたい。


「それでは、よろしくお願いします」


 アレク兄様は勿論槍を最も得意としているが今回は剣を使った訓練を行ってくれるそうだ。世の中で広く使われているのは剣だから、というのがその理由らしい。剣を構える兄様に向かい棍を構える。


 棍の特徴は間合いの広さ、自分から間合いを変化させねばならない剣とは違い持ち手の位置を変えるだけでその間合いは大きく変化させる事が出来るところだ。その間合いを活かした千変万化の攻撃が棍の長所、それは槍にも通じるところがある。


 それに私のような女性でも遠心力を上手く利用すれば強い力を発揮できる。兄様にどれほど通じるか分からないが今出来る精一杯のことをするつもりだ。


「行きます!」


 深く息を吐いて脱力し、私の間合いまで呼吸を止めて一気に近づく。


「——シッ!」


 短く息を吐き胴体を狙い鋭く突く。

 兄様は動く素振りを見せないのでもしかしたらこのまま一撃を加えることが出来るのではないか、そんなこと考えた途端、剣で棍の軌道をずらされ兄様に当たることはなかった。


 直ぐに棍を引いて振りかぶり上から打ちつける。しかし次の行動が分かっていたかのように兄様が地面を蹴って後ろに下がり避けられてしまった。


 ですが——


「——そこ!!」


 後ろに下がるために体が浮いた所を狙い突いた。しかし兄様は空中で体を捻っていとも簡単に避けられてしまった。

 持ち手を変え体を捻り遠心力を働かせて横薙ぎしますがそれをものともせず剣の腹で受け止められてしまった。一歩二歩先を読んで攻撃したぐらいではやはり兄様には通用しないようだ。


「なかなか良い動きをするな、次はこちらから行くぞ」


 その言葉を聞いてすかさず間合いを取りましたが兄様はゆったりとした動きで間合いを詰めてくる。遅いように見えて隙が全くない。


 素早く棍を回して懐に入らせないようにして兄様の出方を伺う。


「良い判断だが……まだ甘い」


 素早く重い一撃に棍がしなり、回転を維持するのが困難になってしまった。その隙を突かれて懐に入られ一撃を与えられそうになった。


「——っ! ——まだ終わりません!!」


 棍を地面に突きその勢いを利用し跳ね飛んで兄様と距離をとる。それにより何とかギリギリの所で躱す事が出来た。


「今ので終わりかと思ったが腕を上げたんじゃないか?」


「いえ、まだまだです」


 攻め手を変えて足や武器の持ち手を狙いますが、それらも上手く避けられてしまい攻め手を失ってしまった。


 一撃でも与えられるほどの技量が自分にないことを悔しく感じるが、久しぶりの機会に充実感を味わいながら一つひとつの動作を確認しながら訓練を行っていく。



「参りました、アレク兄様」


「ああ、だがいい動きをしていたな。実戦では魔法や氣も使うだろうしもっと攻め手が増えるだろうからもっと手強くなるだろう」


 兄様からアドバイスを貰い訓練を続ける。同じ動きをする事が多いためもっと攻撃や防御の際のフェイントを増やした方が良いとアドバイスを貰った。


 突いてからの次の攻撃の幅を増やすという新たな課題を見つける事が出来た。



 私が訓練を続けているとお母様が様子を見に来て、「そろそろ休憩しなさい」と言われた。どうやら随分と時間が経っていたみたいだ。


「お母様、これから王国を出ることになるわけですが何か知っておく必要のある事はありますか?」


 様々な国を渡り歩いていたというお母様なら私の知らないことを沢山知っているはず、私にはそういった経験はない。


「知っておく必要のある話? ……そうね、魔物と戦う機会も増えるだろうし、為になる話をしてあげるわ」


 魔物についての話ですか、どのような魔物が多いのかや弱点などについてでしょうか? 凄く興味があります。


「お願いします」


「人に害する魔物とも上手く共生することが必要になるのよ」


「魔物と共生ですか?」


 魔物は人にとって害を与える存在のはず。

 魔物の大群により蹂躙された国や強大なチカラを持つ一体の魔物に一夜で滅ぼされた国など、時代を問わず人と魔物は戦ってきた。


 そんな宿敵とも言える存在との共生とはどう言う事でしょうか?



「ええ、人の生活する領域に入った危険な魔物は狩るしかないけどね、この国でも人の手を加えてはならない場所があるでしょ?」


「確かにエルドラン王国内には人の手を加えてはならない場所が多くありますね」


「魔物は人に害を及ぼすけど利益も与えてくれるでしょう? だから弱い魔物でも狩り尽くす訳にはいかない、生態系に影響を与えると何が起こるか分からないのよ。魔物自体にも数が増えすぎると問題が起こるから減らす存在も必要だから私達も魔物の役には立つことがあるの」


 ゴブリンとかはすぐに増えちゃうからねと笑うお母様。その言葉に納得することが出来た。


 魔物はただ人に害を与える存在ではない。それが実証されているのがこの街なのだから。魔物の素材は様々な物に作り変えられて私たちの生活に役立っている。武器や鎧に加工されたり、魔物から採れる魔核は魔具に必要不可欠である。この街はそんな素材を求めてくる商人たちのお陰で成り立っていると言っても過言ではない。


「だから普通は国や冒険者ギルドが魔物の討伐をできるだけ管理するの。それが分からない国が魔物の領域を手に入れようとして滅びたなんて事はよくある話なの」


 歴史を学ぶ意味はそのようなところにあるのでしょう。ただ単に昔魔物に滅ぼされた国があるので注意しましょうではなく、どうすればそれを回避することが出来るのかを考えねばならない。


「今まで魔物と共生しているなんて考えたことなかったです」


 私が感心した面持ちでそう言うとお母様は「そうでしょそうでしょ」と頷いた。

 お母様自身も冒険者として過ごしていく中で色々なことを学んでいったそうだ。それが分かるまでは結構好き勝手やっていたとか、早いうちにそれを教えて頂いて感謝しなければ。



「まあ少し頭に入れておけばいいのよ、戦いになったら倒すしかないんだから、死んだら元も子もないからね」


 私には学ばなければならない事が沢山ある。

 学園で色々な事を学んだ気になっていましたが、やはり実体験をしているお母様の言葉には重みがある。


 勉強になりました。

お読みいただきありがとうございますm(_ _)m

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