第49話 村の惨状
ユキに全速力で走ってもらい黒い煙が出ている方向にあるらしい村へと駆けます。暫くすると森を抜け、その先に村が見えてきました。
塀もあって立派に見える村、門番も立っていない壊れた門から入っていきます。
「これは……酷い」
村に入って目に入って来たのは辺りに倒れ伏している血だらけの人々。
ネイナさんが言っていた通り辺りには様々な獣人族の方達が倒れています。幾つかの住宅は燃えており、窓から炎が吹き出しています。
あまりの光景に呆然としてしまい言葉もありません。後ろから馬車で向かって来ていたメア達が到着した音を聞いて我に返りました。
「……兄様、これは」
「魔物によるものか、人によるものかまだ分からんが、警戒しながら生き残りがいないか探すんだ!」
マクスウェルさんとネイナさんは兄様指示に従って直ぐに生存者を探す為に動き始めますが、私はまだ衝撃を受けており動けずにいました。
「お嬢様、大丈夫ですか? 馬車の中にいた方がよろしいのでは?」
そんな私を心配してメアが話しかけてくれます。ルルも心配そうに私の肩の上で鳴き声を上げています。
病気などで亡くなる方や魔物との戦いで亡くなった方のお葬式で遺体を見た事はありますがこれほど悲惨な光景を見た経験が私にはありません。
「ありがとうメア、大丈夫。生き残っている方が居ないか探さないと」
異常な状況だとユキも感じているのでしょう興奮して落ち着きがありません。
何とかなだめて火が近くで燃えていない場所に繋いでおきます。
兄様に指示を受けて近くで倒れている方の元に急ぎ、息があるかを確認する。
残念ながらこの方は息をしていません。
まだ若い、シスイさんと同い年程に見える狼人族の青年、何かと戦ったのかその手には槍のような物を握りながら悔しいような顔をしながら亡くなっています。
一体何があったのでしょう……
他の倒れた方達も剣や槍などを持ったまま事切れています。切り裂かれたような痕が残っていますが遺体をそのまま放置しているという事は人に襲われたという事でしょうか?
魔物が襲ってきたなら遺体はもっと酷い状態になっているはずですから。
——いや、ゴブリンやオークならまだこういった状態になる可能性はあります。
倒れている一人ひとりに声をかけ、息がないかを確かめていく。
倒れている人々の致命傷となったであろう傷は剣や斧で切り裂かれたものに見える。
中には矢で貫かれて亡くなっている方もいる。
家の前などの道で亡くなっているのは獣人や人間の男性達、その中には女性や子供姿は見えない。
どういう事でしょうか?
「ネイラさん、ここには女性や子供は沢山いましたか?」
生き残りを探す為に近くを駆け回っていたネイナさんを呼び止め、前回来た時のこの村の人達について聞いてみます。
「元気な子供達や若い女性も多く居ましたにゃ、これは恐らく奴隷狩りに遭ったようにゃ」
奴隷狩り、話には聞いていましたが……
そうでしたエルドラン王国では奴隷は禁止されていますが商王国トルネイでは奴隷は合法、ですがあれは犯罪奴隷や生活が出来ない人が自らを売る場合のみのはず、それに奴隷の方の人権は守られていると聞きました。
いや、今はこんな事を考えていても仕方がありません。生きている方を探さないと。
今度は家の中に生き残りがいないかと近くの家に行きます。扉が破壊されていて何者かが押し入ったのが分かります。
部屋中が荒らされていて奥には高齢の男性が倒れていました。心臓を貫かれてしまったようで既に亡くなっています。他の家も探しますが亡くなっている方ばかりで生存者を見つける事が出来ません。
「キュイ!」
突然ルルが走り出したので、もしやと思って追いかけると一人の狸人族の女性が倒れているのを見つけました。
この村に来て初めて見る女性、肩から背中にかけて大きな傷があり、それを見ると致命傷となり得る怪我のようです。
意識はないようですが希望を捨てずに呼吸を確認します。すると小さく息をしていました。
「誰か来てください、生きている方がいらっしゃいます!!」
ポーションを取り出して傷にかけますがあまりに傷が深い為にあまり効果がありません。
それほど酷い怪我のようです。
何とか血を止めないと、
「しっかりして下さい!」
意識を失ったままだとこのまま亡くなる可能性があるので声をかけ続けます。
するとゆっくりと目を開けました。
小さな声で何かを言っているようです。
口元に耳を近付けてその小さな声を拾おうとします。
「……子ど……も……たち……が、攫われ……て、私……達……戦っ……た……けど、駄目……で、助け……て」
子供達が攫われた……やはり奴隷狩り、だから村に子供の姿がないのですか、人によって行われた事なのですね。
「お嬢様ここですか!」
手が血で真っ赤に染まったメアが来てくれました。他にも生きていた方がいて治療をしていたのでしょう。
「メアこの方をお願いします」
治療に関しては私よりも詳しいメアにこの方を任せてその後ろにいる兄様の元へ行き、先程彼女が言っていた事を伝えます。
「何か言っていたかミレイ?」
「はい、子供達が攫われたそうです。村の方達も戦ったそうですが……」
「そうか、何人か生きている人を発見した。話が出来る状態ではないがな、村の中心にある。あの小さな神殿で治療を行おう」
生きている人が見つかったら村の中心にある神殿に、その方が効率よく治療をする事が出来ます。
「家の焼け具合から見て、襲撃から時間はかかっていないかもしれない。ミレイはここで他に誰か生存者がいないか探してくれ」
「分かりました」
兄様とネイナさんはそれぞれ別れて子供や女性達の行方を捜しに行きました。
どうやら奴隷として売るために度々こういった事が起きる事があるそうです。
ネイナさんから聞いていましたが、遺体の数からも分かるようにこの村は獣人が多く住んでいたようです。
彼等はそれぞれが優れた身体能力を持っているため、兵士や冒険者で無くともある程度は戦えるはずです。それにも関わらずこの村を襲ったとなると相当の数でこの襲った可能性があります。
先程の方は決して安定している訳ではありませんが他の事も見なくてはならないのでマクスウェルさんが慎重に運んで行きます。
「ルル、もし他に生きている方が居たら近くにいる人に教えてあげるの、お願いね」
「キュイキュイ!」
ルルにもお願いして、生存している方を探してもらいます。
「誰か? ご無事な方はいらっしゃいませんか」
声をあげながら一軒一軒確認していきます。小さい村と言っても私達の村よりは大きいので隅々まで探していくのは時間がかかります。
ルルの自慢の鼻も血の匂いと焼けた家の匂いで難しいようですが頑張って動き回ってくれています。
これは酷い……ある家に入り生きている方を探していると、高齢の夫婦のご遺体がありました。旦那さんが奥さんを庇うようにして二人が重なり合うように亡くなっています。
これを人がやったというのでしょうか……信じられない。戦えない人達を容赦なく斬りつけて殺すなんて、その後にもお年寄りの方達も沢山殺されているのを見つけました。
抵抗して来た男性達、商品としては売れないと思われるお年寄りの方達は全て殺していったという事でしょうか……
何人かの若い女性も見つけた。
残念ながら皆さん息がありませんでした。
若い女性達は全員商品として連れて行かれたと考えていましたが、その姿を見て何が起こったのか想像がつきました。
身体には暴行された痕がありますが致命傷になる傷は見受けられません。
ですが口から血が流れていました。
自ら命を絶ったようです……涙の跡が残っています。
何でしょうかこの感情は、悲惨な光景を見る度に悲しいのに冷静になっていきます。
後で必ず身体を綺麗にして弔いますと誓って再び生きている方を探しに行きます。
村の奥まで行くと、一人の女性が村の出口で倒れていました。
「大丈夫ですか!?」
私の声に反応したのか、倒れていた狐人族の女性は出口へと向かって這って行こうとしています。
「行か……ないと……子供達が……この先で……待ってる……早く……」
「待って下さい、今動いては駄目です」
私の声が届いていないようで声をかけても止まろうとはしません。意識が朦朧としているみたいです。
「早く……子供が……」
傷を確認する為に仰向けにしました。
見ただけで分かってしまいました。
これは手遅れだと、肩から胸にかけて大きく斬り裂かれ、血が大量に流れています。
その目には私の姿が映っていないようで、手を伸ばし子供達の事を呟きながら私の腕の中で静かに息を引き取りました。
「この先に、奴隷狩りをした者達が」
本来なら兄様達を呼んでからでなければなりません。ですがそんな時間はありません。
メアも先程の方の治療で忙しいはず。
ルルも必死になって生存している方を探している最中でしょう。
マクスウェルさんも賊の馬車が通った跡がないかを探しに行きました。
すみません……兄様、私行きます!
お読みいただきありがとうございます。
書いていたら何となくシリアスな展開になってしまいました。
ミレイとアレク以外は馬車に乗っている設定に変更しようと思います。
 




