第47話 挨拶回り
お父様から商王国へ行く事の許可をもらった私はその準備をしています。とは言っても次元収納に入れるだけなので特に苦労もしていません。
どれだけの期間、村を離れるか分かりませんが恐らく数ヶ月はかかる筈なので準備を終えたら村の人達に挨拶をしておこうと思います。
「ギムルさん、私、商王国に行く事になったので、少し村を離れる事になったのでその報告に来ました」
「ほお、よくレオン様が許可を出したじゃねぇか、良かったな昔から色んな国に行きてえって言ってたもんな」
幼い時に私が話していた夢をギムルさんも覚えていたみたいで私と一緒に喜んでくれます。
既に村の人達には洞窟の存在と商王国に繋がっている可能性については話してあります。魔晶石については申し訳ないですが隠していますが、
「はい、しかも冒険者になれるかもしれないんです。夢が二つも叶いそうなんですよ」
「それは目出度いな、早く立派な冒険者になって俺に武器の製作依頼をしてくれる事を楽しみにしているからな」
立派な冒険者になるのはまだまだかかると思いますがその一歩は踏み出せそうです。早く武器の製作をして貰いたいですね。
「それはまだ気が早いですよ、まだギムルさんにもらった短剣を使う程の実力もないのに、一歩ずつです」
「俺はあの短剣を今から使ってもらってもいいんだがな、まあお嬢がそうしたいなら仕方がないか……ほら、俺ばかりと話していても仕方がない。他の奴等にも報告に行くんだろ」
「了解ですギムルさん、では帰ってきたらまた会いに来ますね」
あとはティナさん達に挨拶をしに行きましょうか。
「ティナさん、今は大丈夫ですか?」
「お嬢様どうぞ、今は誰も治療に来ている方は誰もいないですよ」
「私、商王国に行く事になりましたのでご挨拶に来ました」
「そうなんですか、またお嬢様が洞窟を見つけられたとか」
「キュイキュイ」
「ルルが見つけてくれたんです。私はただ洞窟の入り口を広げてネイナさんと探索しただけですよ」
我がそう言うと感心した様子でルルを見るティナさん、ルルはそれが嬉しいのか、いつものように踏ん反り返っています。
そんなルルを撫でるティナさん、ルルも色々な人に慣れてきたみたいです。
良い傾向ですね。
「そうなんですか、ですがお嬢様とルルが一緒の時に何かを見つけた事には変わりありませんから、お気をつけて行って来てくださいね。出来たら良い医者を探して来てくれたら助かります」
「分かりました。良い人がいないか探してみますね」
そうして挨拶周りをしていると散歩をしている子供達と会いました。
「ミレイ様だ〜」「遊ぼうよ〜」「ルルもいるよ〜」「また釣りがしたいな〜」「駄目だよ、ミレイ様は釣りが苦手でしょう」「そうだった。一匹も釣れなかったもんね」「悲しそうな顔してたよね」「坊主だった人はみんな悲しい顔をするって父ちゃんが言ってた」「坊主〜?」「ミレイ様は綺麗な髪があるのに〜?」「変なの〜」
子供達の圧倒的な元気さに圧倒されてまだ一言も喋っていませんが今日も元気で大変結構です。無垢な子供達の言葉が私の心をナイフで突き刺して来ますが事実なので仕方ありませんね。
ルルは子供達の姿に気付いた途端、隠れようと私のフードの中に隠れましたが尻尾が丸見えです。
「御免ね、明日から少し、離れた場所に行かなきゃいけないから今日は遊べないの、帰って来たら遊びましょうね」
少し残念そうな顔をしていましたが「はーい」と元気な声を上げる子供達に別れを告げて挨拶回りを続けて行きます。
キールさん、エマさん、ディオンさんはどうやら黒の砦の方に行っているみたい。
そろそろ家に戻りましょう。
「ミレイ気をつけるのよ。商王国は大国だけあって悪い人達も沢山いるからね」
お母様は私が商王国に行くのが心配のようです。あの件があってから少し過保護になってしまいました。
「大丈夫ですお母様、手を出そうとしてきた人には容赦をするつもりはありませんし、少しは強くなったんですよ」
「それは知っているけど……」
そんなお母様を見かねてお父様が安心させる為に声を出します。
「そんなに心配するなエルザ、アレクもついていくしな、それにメアも行かせる事にした。その方が暮らしやすいだろう」
「お供致します。アレク様、ミレイ様」
最近ではセバスとメアも一緒に食事をしているのでメアが返事をします。
私達と一緒に食事をするのを二人は渋りましたがなんとか説得する事が出来ました。
中々、大変でしたけどね。
もう貴族ではないんですから、一緒に住んでいる人とは食事を共にしてもいいと思ったんです。
「頼むぞ」
「よろしくね、メア」
メアが一緒に来てくれるなら頼もしいです。最近ではセバスから指導を受けているようでメキメキと力をつけていて、二人で模擬戦をすると負けてしまいます。元々勝てたことはありませんが、完璧超人セバス二世が誕生しようとしています。
私も負けてはいられません。
「兄上、ミレイをお願いしますよ」
「頼むよ兄貴」
「ああ、任せろ」
……何故でしょうか?
全員が私の心配しかしていないようです。
嬉しいような悲しいような。何とも言えない気持ちになりますが、まあ末っ子なんてそんなものでしょうかね。
その後、商王国での目的についてもう一度お父様から話がありました。
村への行商に来てくれる信頼出来る商人を見定める事、その他優秀な人材がいないかを調べる事、あとはエルドラン王国やヴェルド帝国についての情報収集、それが今回の目的です。
一定の期間を置いてシスイさんも何度か足を運ぶそうです。
私はティナさんに頼まれたお医者さんを探したいですね。
翌日、商王国へ出発する為の準備も終えたので兄様やメアの荷物を預かり、全員でお父様への挨拶を行います。
「では行ってまいります父上」
「お父様、行ってきます」
「アレク、何か問題が起きた時はこれをロンドールの冒険者ギルドマスターに渡しなさい。きっと手助けをしてくれると思うから」
冒険者時代の知り合いか何かなのでしょうか? その辺の事は聞いた事がありませんでした。冒険者ギルドのマスターと知り合いなんて凄いですね。
「はい、母上」
馬に乗りお父様達に手を振っていると村の人達も口々に「お気をつけて」と言ってくれるので挨拶をして村から出て北の洞窟へと向かいます。
あっ、そうそう。元々馬には乗れたんですが最近は馬車のみで直接乗る機会がなかったので何度も練習して感覚を取り戻しました。
それにルルも馬の背に乗ったり、頭の上に乗る練習をしていました。
最初の頃は頭の上に乗られるのを嫌がった馬に吹き飛ばされ、また乗ってを繰り返していましたがどうやら二匹は仲良くなったようで今では頭の上に乗っても嫌がりません。
話が出来るのかは分かりませんが動物同士通じるものがあるのかもしれませんね。
道中、ネイナさんやメアと商王国の話で盛り上がっていると直ぐに北の洞窟にたどり着いた。そこにはシドさんの姿があります。
どうやら私たちを待っていてくれたみたい。
「来ましたな。洞窟の整備はほぼ終了しました。馬車も通れるようにしておいたので安心して行ってくだせえ」
洞窟に入ると随分綺麗に手が加えられています。もう立派なトンネルにしか見えません。魔具の光源も設置されていて奥まで見通す事が出来ます。見た感じだと一本道にしてあるようですね。
「シドさん、他の道は綺麗に隠したんですね」
「ええ、他国の者が通る事を考えるとおかしな動きが出来ないよう、一本道にするのがベストなんでさ、それに手を加える前より随分と時間が短縮する事が出来ましたわ」
「それは助かる、馬にはあまり無駄な体力を使わせたくないからな」
「村で寝て過ごす俺の理想の生活が〜」
マクスウェルさんはお母様の前ではキリッとした顔をしていましたが、本心ではあまり来たくなかったようですね。
まあお母様と冒険者時代色々な場所に行ったでしょうから、新しい場所より落ち着く場所を求めているのでしょう。
マクスウェルさんは残念だと思っているかもしれませんが能力が高いので私は安心出来ます。
「お前……アレク様達について行けるなんて光栄な事だと思えこの馬鹿、他の兵士達にボコボコにされるぞ」
「馬鹿は酷いなシドさん、やる事はやりますよ俺だって、エルザ様から怒られるのはごめんだし」
お母様に怒られるのは嫌だと言うマクスウェルさんの言葉を聞いて兄様と共に苦笑してしまいます。
それを聞いたシドさんは呆れたような表情をしました。
「怒られるのが嫌だから働くのか……何歳だお前……まあいい、これ以上引き留めるのもな、ではアレク様、ミレイ様、お気をつけて、他の者達はお二人を頼むぞ」
シドさんと別れて洞窟を進んで行きます。
明かりのお陰で馬も怖がる事なく、順調に進んで行きます。
この先に何が待ち受けているのかは分かりませんが、楽しみでしょうがありません。
一人称になったり三人称になったりして申し訳ありません。完全に迷走していますm(_ _)m




