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第43話 成人

 フリーデン家の先祖が暮らしていた土地であるエル・リベルテに新たな村を作り、アラドヴァルから人々を迎えてから月日は流れた。


 山々に囲まれたエル・リベルテにも雪が降り、真っ白なルルが雪と戯れる姿はまるで雪の妖精のように見える。聖なる日には家族からプレゼントを貰った。お父様からは貰ったのは何やら凄い槍で今の私には到底扱えるものではなかったがまた一つ目標が出来た。


 厳しい冬が過ぎ去り、命の芽吹き出す暖かな季節の兆しが見えてきた頃、自室のベッドに横になっていた私はこれからのことについて考えていた。


 私は明日で十五歳になる。

 人生においての一つの区切りであり、成人と認められる年齢になるということだ。


 伯爵令嬢だった一年前のこの日、まさかこのようなことになろうとは思いもしなかった。

 貴族として恥ずかしくないよう修練に励み、勉学でも人に遅れをとらないよう努力をしてきたつもりが、結局は王国を離れることになってしまった。どれだけ努力しても上手くいかないことはある。それは理解していがこのような未来が待っているとは。


 いま考えても学園での態度には問題があったのだろうと後悔はある。


 しかし今のこの生活に不満はない。この生活を避けることが出来たのかもしれないが国を出るという選択が間違っていたとは思わない。


 私達が新たに作った村は長閑で魔物に襲われる危険も少なく、帝国の兵士が攻めてくることもない。いつか危険が訪れるもしれないが、その時は命を懸けてでも村を守る覚悟は出来ている。


「ルル、私は明日で十五歳、成人になります。何か特別なことをしないといけないですかね?」


「キュ……キュイ」


 私の横で仰向けになって大の字に寝転んでいるルルに質問してみた。コロリと転がったルルはうつ伏せになり少し考えると『今まで通り皆んなで協力していけばいいんじゃないか』と答えてくれた。


 ルルの言う通りかもしれない。


 貴族だった頃は一人でなんとかしないといけないと思い込んだ結果があれだった。一人で何かをしようと考えすぎない方がいいのだろう。一人で出来ることなどたかが知れている。幸い私には家族や村の人たちが居てくれる。困ったことがあったら彼等に助けを求めよう。




 暖かな日差しを受けて目を覚ました私はリビングに向かった。食卓には家族全員が揃っていました。私が起きて来るのを待っていたようだ。


「おはようございます。寝坊してしまいましたか?」


 挨拶をしてそう質問すると丁度いいタイミングだと言われ座るよう促された。最近は村も落ち着いてきたので家族全員で朝食を摂るようにしている。もちろんセバスとメアも一緒に。


「「誕生日おめでとう」」


 セバスたちが朝食の準備をしてくれて皆んなが席に着くと声を揃えて私の誕生日のお祝いをしてくれた。

 それぞれがお祝いの言葉をくれて思い出話に花を咲かせる。そんな会話をしながら食事をしているとアレク兄様が話題を変えた。


「ミレイ、今日は黒の砦の方へ顔を出してから、村までの道の確認に行こうと思っているんだが一緒にどうだ?」


 最近はエルドラン王国から村までの道を使う人もいないので確認が必要かもしれない。何か問題があった時のために土魔法を使える人がいた方が良いでしょうし。


「分かりました」


 食事を終えると準備を整えてアレク兄様と一緒に家を出る。会う人会う人みんなが口々に「お誕生日おめでとうございます」と言ってくれる。やはり誕生日というのは良いものです。


 ゴブリンの襲撃から特に大きな問題は起こっていやい。もちろん度々魔物は出現しているが黒の砦および村の入り口周辺は念入りに警戒しているので魔物は近付かないようになってきた。魔物だって命知らずという訳ではありませんから。


「「ミレイ様、お誕生日おめでとうございます」」


 黒の砦に着くと常駐しているキールさんや兵士の皆さんが全員でてきて祝ってくれた。魔法が使える方は空に魔法を打ち上げて花のような綺麗な紋様を描いてくれている。


「ミレイ様、無事成人の日を迎えられ、誠におめでとうございます」


「ありがとうございます。エルドラン王国を出ることになってもついてきてくれた皆さんのおかげです」


 キールさんが代表ということで一歩前に出ると私にお祝いの言葉を掛けてくれた。私が感謝の気持ちを伝えると皆さんは目に涙を浮かべてしまった。泣かせてしまうつもりはなかったのだが、何とどんな時でも冷静沈着なキールさんまで目に涙を浮かべている。こんなに喜んでいただけるなんて。


「そろそろ道の確認に行こう。じゃあ皆で監視の方を引き続き頼む」


 挨拶を済ませると私達は黒の砦を後にした。木の上を駆けながら道の状況を確認していく。

 山森の中に作った道なので、中には土砂が崩れてしまって道をふさいでいたり、木が倒れている場所もあるかもしれないからだ。


 途中昼食をとって沼地までの状況を確認したが特に問題はないようだ。道に沿ってかなりの距離を移動したが魔物にも出会わなかった。


「さて、そろそろ帰ろうか」


 再び黒の砦に向かう。

 警備をしてくれている皆さんに手を振って挨拶をしてからエル・リベルテに帰る。


 トンネルを抜けた頃には辺りは薄暗くなっていた。天を仰げば星々が瞬き始めていた。今日は雲ひとつない天気だったので星も一段と綺麗。


 村に目を向けるといつもよりも明るく見える。

 不思議に思いましたが、先を歩いていた兄様が呼んでいるので小走りで駆け寄る。


 村に到着すると、まるでお祭りのように料理が用意されており、村中の人たちが集まってた。


「主役のご到着だ!」


 私に気付くと村の皆さんは声を上げた。

 歓声が上がり大きな拍手の音が辺りに響き渡りました。どうやら誕生日の宴を開いてくれるようだ。いつの間にと思いアレク兄様の方を見ると笑顔でウィンクをしてきたので、どうやら内緒で準備を進めるために私を村の外に連れ出したみたい。


「改めて誕生日おめでとうミレイ」


 お父様がお祝いの言葉を言ってくれ、お母様が抱き締めてくれた。兄様たちはもうこれからは子供扱いは出来ないなと言ってどこか寂しそう。妹には変わらないと言うと凄く喜んでくれた。


「皆さん、今日はこのような祝いの席を設けていただいてありがとうございます。今日で私は十五歳、成人となりました。成人になったからといって何かが急に変わるわけではありません。ですが今まで以上に皆さんと協力してこの村を良い場所にしたいです。これからもよろしくお願いします」


 そう言うと拍手をしてくれた。村中の皆さんがコップに飲み物を入れてパーティが始まった。


 一人ひとり私に「おめでとう」と声を掛けてくれる。メア、セバス、シドさん、マクスウェルさん、シスイさん、ティナさん、エマさん、ディオンさん、キールさんは砦の方にいますが昼間に祝ってくれた。


 最初は十五人だったのに先祖の土地を見つけ村を作りこれだけの大所帯になったことにはやはり感慨深いものがある。


 周囲を見渡せば笑いながら料理を味わい、お酒を飲んだりと楽しそうにしている。

 子供たちも辺りを駆け回って楽しそう。ネイナさんは魚料理に夢中、ルルは肉料理に夢中です。シドさんは何やら鉄板を持ち出して麺を焼き始めた。本当に何かのお祭りのような雰囲気になってきた。


「お嬢、十五歳の誕生日おめでとう」


 見ているだけで幸せだと考えているとギムルさんがお酒の入った瓶を片手に話しかけてきた。お酒に強いドワーフのギムルさんが顔を赤らめているので相当飲んでいるようだ。


「ギムルさんありがとうございます」


「あんな小さかったお嬢がもう成人するとはな、時間が流れるのは早い」


 ギムルさんは幼い頃から私を知っている。泣きはらした顔も煤で真っ黒にした顔も、そう考えると少し恥ずかしい。ギムルさんから私の幼い頃の話を聞いているとお父様が何かを話し始めた。


「今日はミレイの誕生日祝いをしてくれてありがとう。こんな幸せな日を迎えることが出来たのも全て皆のおかげだ。感謝している。思えばあの御転婆だったミレイが——」


 珍しく酔っ払っている様子のお父様が皆さんに感謝の気持ちを伝え、私が生まれてからのことを話し始めた。


 恥ずかしい。これはかなり恥ずかしいです。

 皆さん、楽しそうに話を聞いているので止めるわけにもいきませんし……


 あっ、泣き出しました。


 夜も遅くなると子供たちとその母親は家に帰って行きましたがお父様の話はまだ終わっていない。そこに兄様たちが加わり、アンセラーさんにギムルさん、それにセバスまで、男性の方たちはお酒を飲みながらテーブルを囲んでいる。


 お母様は「どうせ話は終わらないだろうから適当なところで貴女も帰ってきなさい」と私に言うと片付けを手伝ってから家に戻っていった。その通りになってしまったので私もそろそろ帰ることにしよう。ルルもお腹いっぱいお肉を食べてそろそろ眠そうにしているから。


 今日は皆さんにお祝いをしてもらい嬉しかった。それに応えるために明日からまた頑張りましょう。

お読みいただきありがとうございますm(__)m

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― 新着の感想 ―
[一言]  二回ほどエゾオコジョを見たことがあります。  幅2cm 長さ15cm くらいの大きさで、ちっちゃ可愛いものでした。  しろとちゃいろだったかと。  人に危害を受けたことがないのか、キョ…
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