第42話 命名
私はオコジョさんを肩に乗せて森の中を駆けていく。最近増えた村の方達の為に食料となる動物、魔物を探しているのだ。
「如何したミレイ、さっきから黙り込んで、何か心配事でもあるのか?」
考え事をしながら移動していたのを兄様に気付かれてしまったらしい。
「いえ、オコジョさんの名前を考えていたんです。そろそろ付けてあげたいのですが、良い名前が思い付かなくて」
「名前か…… 大切だからな、色々な人達に話を聞いてみるのも一つの手かもな、何か思い浮かぶ切っ掛けになるかもしれない」
成る程、人に聞いてみるのもいいかもしれない。早速何かいい考えがないか聞いてみることにしましょう。
「兄様はオコジョさんに似合う良い名前はどんなものがいいと思いますか?」
「私はそういうのは苦手だからな、そうだなアイレというのは如何だ? 風という意味だ。風魔法が得意らしいからな。まあ、ゆっくりと考えると良い、特徴でもいいし、どんな性格をしているのかでもいいかもしれないな」
「ありがとう御座います兄様、参考になりました」
兄様にお礼を言って、オコジョさんの特徴を思い浮かべてみる。
オコジョさんの特徴といえばもふもふで真っ白の毛、胴長で脚が短く尻尾の先が黒いぐらいだろうか。
性格は少しやんちゃですが凄く頭が良い。思いつく特徴と言えばその位でしょうかね。
「ほら、ミレイ彼処に森猪がいるから狩って来なさい」
そんな事を考えていると森猪を発見したので直ぐに首を落として血抜きをしてから収納魔法を使う。
「兄様、もう何匹か狩っていきますか?」
「ああ、だが動物を狩るのはもうよそう、あとは魔物を数匹狩っておくか、あまり考えすぎて油断するなよ」
注意を受けてしまった。
幾ら兄様と一緒にいるからって油断してはならない。私にはまだ油断していいような高い能力はないし、それが一番怖いものだと学んだばかりですから。
更に森の奥へと進んで行くと小さな洞窟の前に数匹のオークがいるのを発見した。獰猛なオークは人を見つけるとすぐに襲い掛かってくる。決して共生出来る魔物ではない。
気付かれないよう声を出さずに合図を出して狩り向かう。兄様が声を出さずに指示を出してきたので私は左手にいる二匹のオークを狩る。
私の存在に気付く前に一匹のオークに向かって槍を突き出す。兄様が先に一匹のオークを倒した事に気付いたのかギリギリでその攻撃を躱されてしまった。外れてしまったと言った方が正しいかもしれない。私の姿を見て驚愕したのが見てとれたから。
「ブヒッ!! ピグァァァァァァ!!」
「ピグゥゥゥ!」
仲間が殺され、自分もあと少しで殺されていたかもしれない事実を知りオークは怒りを露わにする。
「ミレイ、此方は終わった、落ち着いて戦うんだぞ」
私が一匹を狩る前に兄様は三匹のオークを狩ってしまったらしい。流石としか言いようがない。兄様からの助言に敵から目を離さず槍を構えたままで答える。二体のオークは仲間が一瞬で殺されてしまった事に動揺している。
「はい、お兄様、オコジョさんいきましょうか」
「キュイ」
私はオコジョさんと連携して動く。
オコジョさんは小さな体に稲妻のようなオーラを纏い、目にも留まらぬ速さでオークの目を切り裂いた。
仲間のオークがオコジョさんに攻撃を向かって棍棒を振るったが小さな体で素早い為当たることはない。
目から血を流したオークは怒りで血が上っているようで闇雲に暴れ回っている。こうなってしまえばオークなど相手ではない。足音で居場所を気付かれないようにしがらオークの首元を一突きにする。
「あと一体!」
仲間を倒されたもう一匹のオークが怒りの声を上げながら私に武器を振るってきた。意識が私に向いたところでオコジョさんが手元を切り裂いた。オークは痛みから棍棒を落としてしまった。
オコジョさんに向かって何度も拳をふるうが軽々と避ける。そのおかげでオークは隙だらけになった。私はオークの目を狙い槍を振るう。それは奥深くまで達し体を震わせながらゆっくりと倒れていった。
「良い連携だな、毛皮を使えるように出来るだけ傷を付けないようにしたようだし、文句はないな」
「ありがとうございます。今回はオコジョさんとの連携を確認するために大きな技などは使わないようにお互いしてみました」
「そうか、そのうちカイルとシエルのような意思疎通が出来た戦い方が出来るようになるだろう、食料の確保も出来たし、そろそろ帰ろうか」
村に帰ってきた私たちは何を狩ってきたのかをお父様に報告する。いちから村を作ったので、貨幣などより現在は食料などの必要性が高く、村人の為の備蓄が必要だ。
自分たちが作ることの出来ない日用品が必要になっま場合は、シスイさんやネイナさんなどの斥候兵だった方が売れる物を持って街へ行き換金してきて必要な物を買ってきてくれる。
「お母様、今オコジョさんの名前を考えているんですが何か良い考えはありますか?」
「そうねぇ〜 ミレイに助けられてとても運が良いから、ラッキーとかで良いんじゃない? 」
「……キュイ」
オコジョさんは嫌そうな顔をした。お母様の考えた名前が気に入らなかったらしい。
だが自身も幸運だという事を理解しているのか腕を組んで唸っている。すぐに決まる必要もないから何人かに意見を聞いていく事にしましょう。
「オコジョの名前? そうだな、小さいのに度胸があって小さな巨人って感じだからティタンとか如何ですかい?」
「名前ですか…… 可愛らしいのでプクとか如何でしょうか?」
「意外と頭が良いから、ワイズとかはどうっすかミレイ様」
様々な人達に相談する中で色々な名前を考えてくれる。中々オコジョさんが気に入る名前は出てこない。
私と同じように腕を組んで唸っています。
ギムルさんの家にも行って、話を聞いてみる。如何やら今は休憩中らしくて、いつも聞こえてくる規則的に響く音が聞こえてこない。
「ギムルさん、今良いですか?」
「ああ? お嬢か、如何した? 槍の調整でもしに来たのか?」
「いえ、このオコジョさんの名前を考えていまして、何か良い考えはないかと思いまして」
「その白い動物のか? 俺はそういうのは苦手だからな、他の人に聞いた方が良いと思うぞ、それより折角来たんだから槍を見てやるから出してみろ」
ギムルさんの言う通り槍を出して見せる。
「少し痛んでいるな、研いでやるから待っていろ、直ぐに終わる。その間に考えればいい」
ギムルさんは直ぐに槍の穂先を綺麗に研いでくれる。御礼を言って村での仕事について聞く。
最近は村の守りについている方達の武器の手入れの他に村人達の農具や調理器具の手入れや作成もしているらしい。
街では武器以外は扱わなかったらしいですが今の仕事も以外と楽しいそうです。
次はセバスに聞いてみましょう。
オコジョさんの事も知っていたし何か良い考えを聞かせてくれるかもしれません。
「オコジョ殿の名前ですか? そうですね、オコジョは大地の神の遣いと言われる事もある動物なので自然に関係した名前などは如何でしょうか、それと、ミレイ様ご自身で考えられた名前ならオコジョ殿も納得すると思いますよ」
「キュイキュ」
オコジョさんはその通りだと言うように頷いた。
名前を考えて欲しいというのは嬉しいですが中々思いつかない。
最初に名前をつけていればこんなに思い悩むことはなかったかもしれない。長く接し過ぎたせいで逆に名付け難くなってしまったみたい。
「ありがとうセバス、考えてみますね」
湖のほとりで座りながらオコジョさんの名前を考えてみる。虫を追いかけて遊ぶオコジョさんを見ていると、ネイナさんが釣竿を持ってやって来た。
「お嬢様こんな所で如何したんだにゃ?」
「オコジョさんの名前を考えていたんです」
「オコジョさんの? では私も一つ提案をしますにゃ、オコジョさんは肉が好きみたいにゃので、ミートとか如何ですかにゃ?」
「……ギャウ、グルグル」
オコジョさんは幾ら肉が好物だと言っても流石にミートと言う名前は嫌なようだ。今迄に出した事のない声を出して否定している。流石に私もそれはないと思う。
「嫌かにゃ? 私は魚の名前なら喜ぶんだけどにゃ〜? お役には立てなくって申し訳にゃいですお嬢様、その代わり沢山の魚を釣って来ますにゃ」
魚釣りを始めたネイナさんを見ながらまた考え始める。
セバスは大地の神の遣いと言われる事もあると言っていました……大地……
大地の神ルルケレス様の名前からいただくのはどうでしょう……
『ルル』は如何でしょうか?
「オコジョさん、ルルって言う名前は如何ですか? 大地の神ルルケレス様の名前からいただいて考えてみたんですが」
オコジョさんに自分が考えた名前を言ってみる。
私の声を聞いて草の中からぴょこっと顔を出したオコジョさんはキラッと効果音がするような鋭い目つきでこちらを見た後、腕を組んで目を瞑り考え始めた。
そんな姿に緊張しながらオコジョさんの反応を待っているとゆっくりと目を開けて、小さな親指をグッと立てた。
「キュイキュキュイーン」
如何やら気に入ったらしく、オコジョさんはバク転を繰り返している。
「じゃあ、改めてこれからも宜しくね『ルル』、もっと二人で色々な所を見てみたいね」
「キュイ」
手を挙げてそれに応えるオコジョさん。
他の方達にもルルという名前に決まった事を報告しないと。
「良い名前じゃないか、これからも宜しく頼むぞルル、ミレイを頼むぞ」
オコジョさんに面識のある方達もルルと言う名前を聞いて良い名前だと褒めてくれた。これからはルルが私の相棒の名前だ。




