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第4話 帰ってきた者達

 貴族の地位を捨て王国を出ることを決めてからお父様たちは日々忙しくしている。残念ながら私に手伝えることはない。


 この頃の私はこれから必要になるであろう知識を得るために本を読んでいる。周辺国の情報や地理、魔物の生態など様々なことを勉強中。もしかしたら学園にいた時よりも勉強しているかもしれない。


「「「ミレイ!」」」


「!?」


 区切りの良いところまで読み終わったので先ほど家令が運んでくれたお茶を飲んでいると、突然私の名を呼ぶ大きな声が部屋の外から聞こえてきた。


 驚いて思わずお茶をこぼしそうになってしまったが、その声の主が誰であるのか直ぐに分かり自然と笑みが溢れた。部屋から飛び出してその声の元に走り出す。


「きゃっ!」


「あ、御免なさい」


 廊下を曲がったところで家令にぶつかりそうになってしまった。済んでのところで避ける。振り向いて謝りそのまま走り続ける。

 二階から玄関ホールを見下ろすとそこには先ほどの声の主、私の三人の兄様たちがいた。その側にはセバスの姿もある。


 かなり急いで帰って来たのだろう。セバスを報せに出してから半月も経っていない。兄様たちが帰って来るまでにはもう少し時間が掛かると思っていた。


「お帰りなさい兄様方、心配をかけてしまい申し訳ありません」


「良いんだ。それよりも大変な目にあったな」


 最初に話し掛けて来たのは一番上の兄、フリーデン伯爵家の跡継ぎであるアレク兄様。

 お父様に似た圧倒的な武力を持ち、指揮能力や領地などの運営能力も高く天才で次期領主として期待されている。


「家名にドロを塗ってしまいました」


「ドロは奴自身だ。お前は我が家に付きそうだったドロを払っただけだ」


「ああ、王国に害をもたらすドロを払ったのは良い判断だ」


 エルドラン王国の第三王子であるバレイル様をドロと称したのは瓜二つの容姿をしている双子の兄達、次男のカイル兄様と三男のシエル兄様。

 二人ともアレク兄様同様に天才と言われており、カイル兄様は戦略を立てる指揮官としての能力が優れており冷静沈着、シエル兄様は戦闘技能が優れており、やや好戦的な性格をしている。


 王国軍に入ってからは会える機会は少なくなっていたが幼い頃から可愛がってくれた優しい兄様たち。


 学園に入る前、バレイル様との婚約話が出た時、兄様たちは三人とも婚約に反対していた。お父様が自分で決めて構わないと言って下さったので私は自分なりに考えた結果その婚約を受け入れることにした。だが結局はダメになってしまった。こうなってしまうのならばバレイル様との婚約の話は断っていた方が良かったかもしれない。


「アレク、カイル、シエル、帰ってきたのね」


 そんなことを考えて気落ちしていると嬉しげな声が聞こえてきた。声の聞こえた方向に視線を向けると笑みを浮かべたお母様の姿があった。


「母上、戻って参りました」


 兄様たちはお母様に頭を下げて挨拶をした。一人ひとりを抱き締めて頭を撫でていく。お母様も兄様たちに会うのは久しぶりでしょうから嬉しいようだ。


「また格好良くなったわね。女の子たちからモテモテで大変だったでしょう」


 兄様たちは恥ずかしそうな、でも嬉しそうな何とも言えない表情を浮かべた。兄様たちはもう二十歳を越えていますからね。気恥ずかしいのは分かる。やめてほしいと言ったところでお母様がそれを聞くわけがないため受け入れるしかない。我が家の序列一位はお母様ですから。


「皆様、お話はそれまでに、旦那様がお待ちのはずです」


「そうね。レオンのところに行きましょう」


「そうですね。父上にご挨拶しなければ、聞きたいこともありますので」


 一歩引いて私達の話を聞いていたセバスに促されて兄様達と共にお父様の執務室へ向かう。久しぶりにあった兄様たちはやはり優しく、「また綺麗になったな」などと言って私を笑顔にしようとしてくれる。


「帰ってきたかお前たち」


 お父様の執務室に入ると何かの書類を読んでいたお父様が兄様たちに視線を向けた。僅かに口元が緩んでいるのでお父様も兄様たちに会えて嬉しいのでしょう。


「父上お久しぶりです。王国を出ると聞きましたが、第三王子の首を獲りにはいかないのですか?」


(親父、ミレイを侮辱されて何もしない気じゃないだろうな!? )


「ミレイが兵士や領民を巻き込むのが嫌だと言うのでな、それがなかったら獲り行っていたのだがな」


(黙れ! ミレイがやめてほしいと言ってきたんだ! そうでなければ首を獲ってたわ!)


「そうですか、ミレイは優しいですからね」


 話を始めるなりアレク兄様がとんでもないことを言い出した。私は驚いてしまい思わず声を上げそうになった。兄様たちは冗談を言っているつもりはないようで真剣な表情をしている。


 私の話を聞いて直ぐにバレイル殿下の首を獲ろうとしたお父様と似たような反応をした。やはり血の繋がった親子ということでしょう。



「ところでお前たち軍はどうしたんだ。こんなに早いとは思わなかったが」


「セバスに話を聞いてすぐに辞めてきました。上官には考え直すよう言われましたが守る価値のない国のために命を懸けることは出来ませんので」


 現在幹部の方々は随分と慌てていることでしょう。

 何せ三人ともその実力から将来は王国軍を率いる存在になるのではないかと噂されるほどでしたから、学園にいた私の耳にも入ってきていました。


 実際にはある程度の経験を積んだら領地に帰ると言っていましたから、将軍などになることはなかったと思いますが。


「そうか……彼等にも迷惑をかけてしまったが仕方がないか。カイルとシエル、早く帰ってきてもらって悪いがお前たちは私と共に王都に行ってもらう。そこで私は王に直接、国を出ることを話そうと考えている」


「何故ですか? 反対されるのは目に見えている気もしますが」


「領民に害が及ばないようにするためだ、我々だけの判断で動いたと思われた方が良い」


「なるほど、確かにその方が領民に害悪が及び難くなりますね」


「それに逃げ出したと思われるのも癪だしな」


「ふふ、そうですね。分かりました」


 お父様は満面の笑みを浮かべると何かあったらぶっとばすぞと身振り手振りでそれを伝えた。あまりに拳を振るう速度が速いので空気の破裂音が聞こえる。カイル兄様とシエル兄様は笑顔でそれに答えた。気のせいでしょうか、嫌な予感がします。


「レオン、この子達も疲れているでしょうし、詳しい話はまた明日したら?」


「そうだな。今日はこれくらいにしておこう」


 ひとまずお父様の話が終わり、兄様たちは身体を休めるためにそれぞれの部屋へと戻っていった。今日はもう時間も遅くなってしまったので私も兄様たちとお話するのはまた明日、


「セバスもお疲れ様」


「勿体無いお言葉です、お嬢様」


 兄様たちを呼び戻すために王都まで行っていたセバスはかなりの距離を休みなく移動してきたはずなのに疲れた様子を微塵も見せない。


 流石は完璧執事ですね。


「ではお父様、お休みなさい」


 お父様に挨拶をしてから私も自室に戻る。ベッドに腰掛けましたが兄様たちが帰って来てくれたからなのかまだ眠れそうもない。眠気が襲って来るまで部屋の片付けをしましょうか。


 もうすぐ貴族ではなくなるので綺麗に着飾る必要もなくなる。これからはドレスのような体を締め付ける服を着る必要がなくなるのは貴族でなくなる良い点だ。


 伯爵令嬢といってもフリーデン家では自衛のために戦闘技術を学ぶ。その時のための服があるので用意しておきましょう。


 実は昔からドレスは嫌いだったんです。


 動き難いんですよ?



 ◇



「セバス、よく息子たちをこれほど早く連れ戻してくれた……特に問題は起こしていないか?」


 賑やかだった執務室が静まり返るとレオンは部屋に残っていたセバスに声を掛けた。


「勿体無い御言葉でこざいます。幸いなことに御三方が王都内におりましたのですぐに見つけることが出来ました」


 王国軍の任務は国境の監視、強力な魔物の討伐、王都の警備など様々あり、その派遣先はエルドラン王国全土に渡る。そうなればセバスといえど三兄弟を呼び戻すのにはかなりの時間が掛かっただろう。アレク達が王都にいたのは幸運だった。


「旦那様の事付けを伝えましたが、なぜだと理由を聞かれました。出来ればミレイ様の事は話さない方が良いと思ったのですが……今回の件を聞いて王子を消すと大変お怒りになられました」


 セバスからこれまでの経緯を聞いたレオンは「思っていた通りであったか」と呟いて溜息を漏らした。


「私も人のことを言えた義理ではないが、やはりそうなっていたか、よく止める事が出来たな」


「ミレイ様に嫌われますよと言いましたらすぐに冷静になり領地にお戻りになると」


 長年フリーデン家に仕えているセバスは三兄弟の性格を熟知していた。どう言えば思った通りの行動をとってくれるかなどセバスにかかれば造作もないことだ。それを聞いたレオンはため息を吐いてから困ったような笑みを浮かべた。


「……そうか、親子だな……いや血筋か」


 フリーデン家に生まれてくる子供は男児の割合が非常に高い。女児は数百年に一人生まれるかどうかといった非常に貴重な存在だ。だからこそ女児が生まれてくるとそれはそれは大事に育てる。


 そういった事情もありフリーデン家に数百年ぶりに生まれた女児であるミレイは大事に大事に育てられてきた。そんなミレイを傷付けた者をレオンを始めとした一族の者達が許すはずがなかった。ミレイが止めていなければバレイルの命はもう無かっただろう。


「セバス、ご苦労だったな。もう休んでくれ」


「旦那様もほどほどになさって下さい」


「ああ……」



  ◇



 翌日、朝食後にお父様が兄様たちにこれまでに話しあった内容を話しました。領民の処遇や私達が国を出た後で向かう場所など、それらは特に問題はないようでいくつかの質問をしただけでお父様の判断に従うようです。話し合いがひと段落したので兄様たちにこれまでのことを聞いてみました。


「兄様たちは王国軍ではどの様な仕事をしていらっしゃったんですか?」


「私は中隊を任されていたのでそこで指揮を取っていた。カイルとシエルとは別の部隊だ」


「私はシエルとは同じ部隊で小隊を指揮していたよ、兄上とは今回たまたま王都に戻っている時に会ってね。その時にセバスから話を聞いたんだ。驚いたよ」


「御免なさいご迷惑をお掛けして」


「いや謝らなくていい、潮時だったんだ。そもそも貴族には向いていなかったからな私達は、軍の同僚にも貴族らしくないと言われていたしな」


 シエル兄様がそう言うとアレク兄様が自分も貴族らしくないと言われたと笑いました。王国軍では様々な経験を積むことが出来たそうです。

 兵士たちの指揮や様々な魔物との戦い方を学び、お父様のようなチカラを持つ方に稽古を付けてもらったとか、戦い方が全員違って随分と勉強になったそうです。


 魔物の討伐では共闘した冒険者にも多くの知り合いが出来たらしいです。羨ましいですね。



「冒険者ですか、幼い頃はお母様が話していた旅の話を聞いて私も世界の色々な所を見てみたいと夢見たことがありますが、もしかしたら冒険者にもなれるのかもしれないんですね」


「そういえばミレイは幼い頃、母上の冒険者時代の話が好きでよく話をせがんでいたな。それが原因で街に出るようになったしな」


「恥ずかしいです」


「もう少し落ち着いたら、お前は冒険者にでも何にでも成れるな」


 兄様の言葉を聞いてハッとしました。この国では無理かもしれませんが貴族でなくなれば何にでも成れるんですよね。私が冒険者に……いつか……なれるでしょうか……

お読みいただきありがとうございますm(_ _)m

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