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第39話 後片付け

「皆んな良くやってくれた。お前たち良く来てくれた。助かったぞ。シスイご苦労だったな」


 二度に渡るゴブリンの襲撃を退け、長い戦いがようやく終わるとお父様が戦闘に参加した人たちを労い、ここまでやって来てくれたシスイさんたちに感謝を伝える。シスイさんたちが来てくれて本当に助かった。


「……もう少し早く来るべきでした。まさかゴブリンの大群と戦闘を行っているとは」


「それは仕方無かろう、私が遣いに出したのだ。其方に責任は無い」


 どうやらシスイさんはゴブリンの群との戦いに加わるのが遅れたことを後悔しているようだ。

 だがお父様の言う通りそれは仕方のないこと。ゴブリンの襲撃を予期することなど不可能ですから、それどころかこれほど早く兵士の皆さんを連れて来てくれたことには感謝しかない。


「しかし、最後の幕切れには驚いたな」


 お父様がそう言うと皆さんの視線が私の肩に乗っているオコジョさんに集まった。


 確かに、オコジョさんが魔法を使ったのには驚いた。瀕死の状態だったとはいえゴブリンキングの硬い皮膚を切り裂いたということはかなりの威力があったということだからだ。

 ゴブリンキングに襲われて逃げ出すことが出来たと聞いた時も驚いたが、まさか魔法を使うことが出来たなんて。だからゴブリンキングのような強い魔物から逃げることが出来たのですね。


「はい、オコジョさん魔法が使えたんですね」


「……キュ、キュイキュ」


 オコジョさんは申し訳なさそうにしながら何故黙っていたのかを話してくれた。ちなみに何故か私以外はオコジョさんの言っていることが分からないようなので皆は不思議な顔をしている。



「なるほど…… そうだったんですね」


 どうやらオコジョさんは魔法が使えることが私達に知られてしまうと、魔物のように扱われるのではないかと心配していたらしい。


 オコジョさんは生まれてからしばらくして魔法が使えるようになったそうだ。それによって仲間に恐れられることになってしまい一匹で暮らしていたらしい。


「そうか…… 他の者と違うというのは辛い場合もあるからな」


「……キュキュ」


「大丈夫ですよ、オコジョさん、私はそんな事でオコジョさんを怖がって嫌いになる事なんてありません」


 そう言うとオコジョさんは安心したように大きなため息を漏らした。他の皆さんも怖がっている様子はない。


「それにしてもどうして魔法が使えるのかしらね」


「稀に普通の動物が魔素の影響を受けて特別な個体が誕生する場合があるそうです。オコジョ殿はそういった稀な個体なのでしょう。他のオコジョと違って季節に関係なく毛皮が白いのも、保護色を必要としない強さを持って生まれたからなのかもしれません」


「なるほどな。だがこれで普通の動物よりも知性を感じられた理由が分かったな。分類としては魔獣というより、幻獣といった方がいいかもしれん」


 幻獣と魔獣の区別は人によって違うかもしれない。本能に勝る知性があり人に好意的かどうかで決まる場合が多いと聞いた。


 愛らしい姿なのでオコジョさんは魔獣として扱われる可能性は低いでしょうね。珍しくて狙われる可能性はあるかもしれませんが。


「あの、お父様、これからもオコジョさんと一緒にいて構わないでしょうか?」


 お父様が以前、危険ではないだろうから一緒にいてもいいと言ってくれたことを思い出した。

 だが魔法が使えるなら話は別かもしれないと考え尋ねる。オコジョさんも心なしか不安そうな表情をしてお父様の方を見ている。


「……私は構わないと考えている。隠していた魔法を使ったのもミレイを守るためだろうしな、皆はどう思う」


「いんじゃないんですかい」


「私も一緒にいて良いと思いますよ父上。私の不手際でミレイの方向に吹き飛ばしまったゴブリンキングにトドメを刺してくれましたし、ミレイの良い相棒になってくれるのではないですか?」


 お父様がオコジョさんについて尋ねると皆さん反対意見はないようだ。ネイナさんに至ってはオコジョさんが気になるようで触ろうとして私の周囲をクルクル回って来る。


 相棒ですか……オコジョさんもあれ程戦えるとなれば良いコンビになれるかもしれません。


「良かったです。オコジョさんこれからも一緒にいれますね」


「キュイ」


 どんな魔法を使えるのか聞いてみたら、風魔法とその派生の雷魔法が使えるそうだ。身に纏って素早く動いたり、敵を斬り裂いたり出来るらしい。

 だが流石に一匹でゴブリンキングと群の相手は出来ずに傷を負いながらも何とか逃げ出したそうだ。


 オコジョさん問題が一区切りついたところで、このような辺鄙なところまでやって来てくれた兵士の皆さんにお父様が話を始める。


「ここまで来てくれた皆に先ず言っておかなければならないこもがある」


 真剣な表情を浮かべたお父様にシスイさんを始めとした皆さんが真剣な表情になった。何を話すつもりなのかは分かるが何も緊張感を出さなくてもいい気がする。


「我々は目的の地を発見した」


「「「おおっ!!」」」


 その言葉に歓声が上がった。それを見てお父様が表情を崩した。普段感情を表に出さないシスイさんも僅かに口元を緩めている。


「そこは魔物も住んでいない平和な場所だ。安全な村を作れるだろう」


 お父様の話が終わり、元いた兵士の皆さんと笑顔で様々な話をしている。やはりシドさんは慕われているようで沢山の人が集まっている。ディオンさんは若手ということもあって仲間にバシバシと背中を叩かれている。元々一緒に戦ってきた仲間なので話したいことも色々あるのだろう。


「よし、疲れているところ悪いがさっさとゴブリンの遺体を処分してしまおう。やっと戦いが終わったのにこれ以上、魔物に来られると面倒だからな。次元収納が使える者はゴブリンキングなどの上位種を回収しておくように」


 また同じ作業の繰り返しだがやらなければならない。土魔法で幾つかの穴を作ってその中に魔核を回収したゴブリンを入れて燃やしていく。

 昨日よりもさらにゴブリンの数が多いので片付けるのは中々大変です。



 ◇



「よし今日はこれぐらいで良いだろう、砦に戻って休もう、悪いがシスイは後で報告をして欲しい」


「……かしこまりました」


 会議室に元いた十五人全員が集まって話を聞く事になった。駆けつけてくれた兵士の方達は休んでいいとお父様が言ったが念のためにと見張りをしてくれている。


「アラドヴァルはどうであった?」


「……はい、あの男が言っていたことは誠で御座いました。エスト・フォン・オルドル子爵が新たな領主となった模様です。兵士も増員され、領土も増えるそうです。中々出来る方だとアンセラー様が申されておりました」


「そうか……彼ならば任せられる。良い貴族が跡を継いでくれて安心した」


「……詳しくはアンセラー様より手紙を預かっております」


 アンセラーさんはちょっと怖い感じのする重臣だ。その雰囲気と違って凄く優しいが何と言うか威圧感が凄い。私のお爺様の片腕として戦場を駆けていたと聞いている。


「何と書いてあったのですかお父様?」


「概ねシスイの説明通りのようだ。王国軍もスレイド伯爵が大臣になってから随分改革が進み、連携が取れそうだと書いてある。あとは早く目的地を見つけて私を呼んで下さいと細かく書いてあるな」


 どうやら私達が国を出た事で良い良い方向に進んでいるようだ。

 目的地は既に見つけましたし、アンセラーさんも直ぐに呼ぶ事が出来そうだ。


 話が終わったので見張りをしている方達の元へと向かう。


「皆さん来て頂いてありがとうございます」


「とんでもございませんミレイ様、遅くなりまして申し訳ありません」


 皆さん謝りますね……


 やはり兵士としての誇りの問題でしょうか、そこをこれ以上話しても仕方ないですかね。本当に感謝の気持ちしかないのですが、


「いえ助かりました。ネイナさん、先程は援護助かりました」


「お嬢様お一人でも大丈夫そうだったにゃ、随分と腕を上げられましたにゃ」


「そうでしょうか? 相手がゴブリンだったからではないでしょうか」


「違いますにゃ、幾ら相手が自分よりも弱いと言っても相手が集団にゃら話は別ですにゃ、あれ程の大群を前に冷静に戦っておられたのは凄い事にゃのですにゃ」


「でも皆さんが来てくれたお陰でもっと村作りが捗ります。美しい場所なので早く皆さんにも見せて差し上げたいです。私達のご先祖様はそこをエル・リベルテと呼んでいたそうです」


「楽しみです」


「早く行きたいにゃ、所で……そこでは魚は食べられそうですかにゃ?」


 ……魚? ああ、ネイナさんは猫人族、魚が大好物でしたね。



「ええ、大きな湖があって魚も沢山います」


「やったにゃ、楽しみにゃ!」


「……皆さんから見た新しい領主になったオルドル子爵はどうでしたか?」


「そうですね、有能そうな方でしたね。レオン様達の為に何もしてあげられなくて申し訳なかったと言っておられました」


「あの方なら街の方は任せられます、それにあの土地を守る事がフリーデン家に尽くす事だと考える兵士も沢山おりますので、彼等がいれば安心出来ます。御心配なさらずにお嬢様」


 兵士の方達から見てもオルドル子爵は有能で良い方のようだ。

 エレナさんの叔父様なら大丈夫だと思ってはいましたがやはり不安はありましたから、これでやっと安心する事が出来ました。

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