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第37話 参戦する者達

「シスイ、砦はそろそろなのか?」


 オルドル領から三十人の元兵士を引き連れたシスイは黒の砦まであと少しという所まで来ていた。

 それぞれの兵士が精鋭ということもあり襲ってくる魔物なども問題にせずに進んでいく。既にかなりの距離をハイペースで進んでおり、疲れているはずだがレオン達の元に行くことが出来るからかその足取りは軽い。


「……はい、沼地を超えたので順調にいけばもうすぐ到着します」


 道案内をするシスイは道中、レオン達とどのような旅をして来たのかを聞かせて欲しいと言われ、これまでの話をしながら歩いていた。

 表情もあまり変化がなく声も大きくはないが普段無口のシスイがしっかりと話をしてくれるのが意外だったようで兵士達は興味深げに耳を澄ませて聞いていた。


 その話を興味深げに聞いていた一人の兵士が羨ましそうな表情をしながら口を開いた。


「いいにゃ〜シスイは、レオン様一家のお役に立てて、私もあの時お腹の調子が悪くなかったら一緒に行けたかもしれなかったにゃ〜」


 そう言ったのはピクピクと動く耳が可愛らしい猫人族の女性兵士。彼女の名はネイナ、シスイと同じ斥候兵である。


 猫人族の特性である優れた運動能力や嗅覚、夜目が効くのでレオン達と旅に出る候補だったのだが直前に彼女は見たこともない魚を食べてお腹を壊して動けなくなってしまったため、候補から外されてしまったのだ。優秀なのだが少し間が抜けているというか天然というかそんな感じの不思議な性格をした女性だ。


 雨が降ったせいで沼地の様子が変化しており前回通った道を歩くのは危険とシスイは判断して避けて来たのだがさして時間はかかっていない。



「……様子がおかしい」


 順調に歩みを進めていると突然シスイの足が止まった。それに続いて他の兵士達も足を止めた。警戒するシスイに先程までの穏やかな雰囲気は一変して武器に手をやり辺りの警戒をする。辺りから血の匂いが漂っていることに気付いたシスイは表情を変えた。それと同時にネイナが声を上げた。


「死臭がするにゃ!」


 他の獣人の元兵士達も辺りに漂う血の匂いに気付いた。その濃い血の匂いに多くの何かが死んでいることを感じた。


「ーー急ぐぞ!」


 レオン達が何かに襲われている可能性があるため急いで砦へと向かう。疲れた姿で主人の前に現れてはと考えていたが、そこからは全力で移動していく。



「これは、ゴブリンの死体だ」


 辺りには多くのゴブリンの死体が散らばっていた。その数は少なくとも数百体はありそうだ。死体の損壊具合から見て剣や槍などの攻撃によって死んでいるのが分かる。つまり人と交戦したということだ。この辺りに住む者はレオン達以外には存在しないはず。つまりレオン達が大きなゴブリンの群に襲われている可能性が高い。


「こんなに……かなり大きな群だな」


 進むにつれその数が増えてくる死骸。その中にはゴブリンの上位種であるナイトやメイジの姿もある。


「シスイ急げ!」


「……こっちです」


 シスイたちは枝を踏みしめて木々の上を駆け抜けていく。



 ドーンッ!!


「「「!?」」」


 突然聞こえた爆発音で現在もゴブリンとの戦闘が続いていることを知る。それを聞いたシスイらはより速度を上げて移動する。

 レオン達がゴブリン如きに負けることなどありえないと思っているが、ここは魔の森のすぐ近く……いや、既に魔の森に入っているかもしれない場所である。何が起こるか分からない。


 自分たちと同じ方向に走るゴブリン達の姿が見えてきた。だがシスイらは足元に蠢くゴブリンたちに構うことなく進んでいく。それに気付いたゴブリン達が威嚇し声を上げ始めた。


 木を登ろうとする者や石を投げてくる者もいるがそんなものは当たるはずがない。

 遠距離攻撃を行うことの出来るゴブリンメイジとゴブリンアーチャーが攻撃を仕掛けてくる。矢と魔法が辺りから彼等を狙って放たれる。


 しかし彼等はそれを避け、武器で逸らしながら主人の元へと急ぐ。


「こいつら当たりもしない攻撃ばかり仕掛けてきて邪魔ニャ!」


 ゴブリンの数が増えるにつれその無意味とも言える攻撃は多くなってくる。

 レオン達の姿が一向に見えない焦りとゴブリン如きに好きに攻撃をされている事で苛立ちが募ってくる。


「無視しろ!先にレオン様の元へ急ぐぞ」


 視界を防いでいた森を抜けると開けた草原に出た。ようやく砦の近くに到着したのだ。そこでは激しい戦闘が繰り広げられていた。


 ゴブリン達の怒声と叫び声がそこら中から響き渡り、夥しい数の亡骸が一面に広がっている。新兵であったならばその臭いを嗅いだだけで吐いてしまうような濃い血の匂いと肉が焼けた臭いが漂っている。

 おそらく魔法によるものなのだろう。辺りには煙が立ち込め閃光が見えて爆音が轟く、まさに戦場といった光景であった。そしてその中で戦うレオンの姿を見つけたシスイ。それを元兵士の者達にも伝える。


「レオン様!!」


 すぐさまレオンの元に駆け付けて周囲にいるゴブリンを命を刈り取る。そして到着した事を報告する。


 グエッ!ギャア!!


「お前達、来てくれたか」


 レオンはまるで虫を払うようにゴブリンを倒しながら兵士たちに声をかけた。その圧倒的な姿に自然と笑みがこぼれてくるが主人の前でそのような姿を見せるわけにはいかないと気を引き締める。そんな中でネイナだけはニッコリと笑みを浮かべていた。


 グアッ!


「……レオン様お待たせ致しました。三十人の兵と共に戻って参りました」


 数人の兵士はゴブリンが近づいてこれないよう近づいてくるゴブリンを倒していく。それ以外の者達はレオンの元に行き跪く。


 未だ衰えることのないゴブリン達の猛攻が続く中、不思議な光景がそこにはあった。

 仕えている主に跪く勇敢な兵士達の姿、戦場の真っ只中で見られる光景ではない。それは絵画のようにも見受けられた。



「よく無事で帰ってきてくれたシスイ、皆もご苦労だったな、とりあえずゴブリン達の始末をしてから詳しく話そう。王がいる大きな群だ頼むぞ」


 シスイ達が無事帰ってきた事を喜びながらも戦闘中という事もあり挨拶は軽く済ませ、それぞれの者達に指示を出していく。


「「「はっ!」」」


 レオンの言葉を聞いた三十人の元兵士達とシスイはそれぞれゴブリンを倒す為に分かれていき次々とやってくるゴブリンを狩っていく、それを先程までの倍に戦力が増えた為、倒すペースが上がっていく。

 積み上がる屍を踏み越えて向かってくる敵に容赦などしない。


「ゴブリン如きがレオン様達に手を出すなんておこがましいにゃ」


 ネイナは先程まで好き放題に攻撃されていた鬱憤を晴らすように戦闘に加わった。腰に差していた二本の短剣を抜いて素早い身のこなしで心臓を確実に貫いて倒していく。同じゴブリンを何度も攻撃するような真似はしない。一撃必殺の攻撃だ。

 次々にゴブリンを倒していると同じようにゴブリンと戦う黒髪の女性の姿が目に入った。


(あれはミレイ様、援護しに行くにゃ)




「ミレイ様、援護に参りましたにゃ」


 特徴のある語尾の女性の声を聞いてゴブリンを倒しながら目を向けるミレイ。そこには先程まではいなかったネイナの姿があった。辺りを見渡すと他にも来てくれている兵士達の姿に気が付いた。


「ありがとうございますネイナさん、来てくれたんですね。ゴブリンキングとはアレク兄様が戦うそうなので私達は後ろにある黒い砦にゴブリン達を近づけないように戦いましょう」


 ここまで来てくれたことに対する感謝の意を伝えながらも現在の状況の説明をするミレイ。


「畏まりました」


(ミレイ様……街を出てからお強くなられたようにゃ、ゴブリン相手とは言えこの数を相手に冷静に対処されているにゃ、流石はレオン様のお嬢様にゃ)


 ミレイに近付くゴブリンを倒しながらチラチラとミレイに視線を向けるネイナ、すると見覚えのない何かがミレイの肩に乗っているのが目に入った。それが気になったネイナは戦いながら質問した。


「ところで…… ミレイ様の肩に乗ってる真っ白いのは何なのでしょうか?」


「新しく仲間になったオコジョさんです」


「キュキュ」


 ミレイが紹介するとオコジョは手を上げて挨拶をした。素早い動きでゴブリンの目を引っかいたり気を反らせたりしてミレイの手助けをしている。


「オコジョさん、中々やるにゃ、負けていられないにゃ」


 オコジョの活躍を見たネイナは驚いたのか目を見開くとすぐにそれは笑みに変わった。オコジョに負けるものかと素早い動きで敵を撹乱しながら倒していく、ゴブリンはその動きについて行くのとが出来づに混乱する。そこをミレイが一気に刈り取って行く、ネイナが来てくれたお陰で強い魔法を使う隙も多くなり戦闘が楽になった。


 勿論、そこにはキール、シド、マクスウェルの援護も入っている為、次第にゴブリン達はその勢いを失っていった。

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