第36話 現れた王
ゴブリン達が黒の砦から撤退してから暫くして、森に散っていた方達が帰ってきた。
日が暮れようとしている時にゴブリンは攻めてきたので辺りはもう真っ暗になっている。
見張りをキールさんとシドさんに任せて他の方達全員でゴブリン達について話し合いをすることになった。
「どうだ、どんな奴がいた?」
「此方には通常より強いゴブリンメイジとゴブリンナイトがおりました」
ディオンさんとエマさんは強いゴブリンメイジとゴブリンナイトと戦ったそうだ。ゴブリンメイジにも強い個体がいるのですね。
私が戦ったゴブリンナイトも前に戦った個体よりも大きくて装備も立派でしたが……
「ほう、通常より強いゴブリンか……」
「父上、此方にはゴブリンジェネラルがおりましてシエルが仕留めました」
「其方にもゴブリンジェネラルがいたか、私の方にもいたぞ」
「あら、私もゴブリンジェネラルと戦ったわよ。川原で大勢のゴブリンと待機してたわ」
お父様とお母様、シエル兄様はゴブリンジェネラルと戦ったのですか…… 。確か前に戦ったブラッドティグルと同じ危険度の魔物です。
あれは危なかった……お父様がいなければ私は死んでいました。あの戦いのおかげでさらに強くなれたと思いますが、私にはまだ戦うのは早い相手でしょうね。
「ゴブリンジェネラルが三体に通常より強いゴブリンメイジとゴブリンナイトか……相当大きな群だな、流石この場所にいる事のできるゴブリンの群という訳か」
「砦の方には何か来たか?」
「お嬢様が良い装備したナイトを倒したら逃げて行きましたよ大将」
シドさんが私が戦ったゴブリンナイトのことをお父様に伝えた。確かにあのゴブリンナイトを倒してから他のゴブリン達は混乱した様子でここから逃げ出したように見えた。
「……そいつらに先に攻めさせてからジェネラル達が三方向から攻撃するつもりだったのかもしれんな……」
私達に戦いを仕掛けてきた理由はオコジョさんにちょっかいを出して反撃されたからという馬鹿らしい理由ですが戦い方はしっかりしていますね。
「まあいい、私が戦ったジェネラルが後から王が来ると言っていた。そのうち来るだろうなら此方から探す必要はないかもしれん。王を討ち取ればゴブリン共は逃げるだろうからな」
ジェネラルとそんな話を?
「お父様、よくジェネラルがそんな事を話しましたね」
「会話の出来る相手だったからな。挑発して理性を失わせてから、私を追い詰めたと勘違いさせたら話してくれたよ」
人を相手にするような方法が魔物に有効な場合があるのですね。知性が中途半端にある分、扱いやすいと……
「しかし、これだけ攻めてくると後の片付けが大変で御座いますなレオン様」
セバスは執事らしくこの戦いが済んだ後の片付けの事を心配しているようだ。砦周辺には数え切れないゴブリン達の死体がそこら中に転がっていますから。
少なければ放置しても構わないがこの数となると血の匂いで魔物を呼びかねない。腐れば病が蔓延する可能性もあります。その悪臭が周囲に広がれば生活への影響はあるでしょう。
「ああ、厄介な奴らだ…だが文句を言っても仕方がない、沢山の魔核が自分からやって来たと考えよう」
魔核は新たな村を作る上で重要な資源になってくる。今はそれほど魔具は使っていないが、部屋に設置する照明には魔核を必要とする。他にも魔核を必要とする魔具は多いので、あって困ることはありません。
「さて、見張りの者以外は寝るんだ、疲れを癒せ、交代は三時間ずつにしよう」
◇
朝がやって来た。
ゴブリンは未だ姿を現さない。
あれほどの数が死んだのだ。自分達が手を出してはいけない相手と戦っていると理解して手を引いてくれればいいのですが……
朝日が昇り辺りの光景がよく見えるようになると、それは凄まじい光景が広がっていた。おびただしい数のゴブリンの亡骸が丘を埋め尽くしている。思わず目を見開いて固まってしまった。
それから砦の周りのゴブリンだけは片付けることにした。天気がいいため、これ以上ゴブリンを放置すればすぐに腐ってしまいその死臭が漂い、他の魔物を呼ぶ可能性があるから。
「お父様、ゴブリンの死骸は燃やしますか? それとも地中に埋めますか?」
「あまり多くの死骸を埋めると地下水に影響する可能性があるな。燃やすことにしよう。どうせゴブリン達には場所は知られている。他の魔物達もゴブリンの焼ける匂いでは寄ってこないだろう」
お父様の指示に従い魔核を回収してから土魔法で幾つかの穴を掘り、そこにゴブリンを集めて燃やしていく。ゴブリンナイトなど上位種の装備は焼き直せばまた使えるので回収しておく。そうは言ってもほとんどの装備は使えないので一緒に燃やしていく。
「……臭いです」
しばらくすると我慢出来ない臭いが漂ってきて思わず鼻をつまんでしまった。お父様の言う通りこれなら他の魔物が近付いてくることはなさそうだ。風向きが変わらないことを祈る。
「ジェネラル達の素材は使える部位があるし、魔石もそれなりに大きいから回収したい、偵察も兼ねてセバス、カイル、シエルで回収に向かってくれ、場所は昨日言った通りだ」
「「分かりました父上」」
「お任せを旦那様」
◇
暫くして兄様達とセバスは帰ってきた。
「素材の回収は行えました。ですが、川原にいたジェネラルはバラバラで素材にはなりませんね、周りのメイジやナイトも黒焦げか体の一部のみで、池のような物も出来ていましたよ」
それを聞いてお母様に視線を向けた。
そういえば戦いの最中、物凄い爆発音を聞きました。一体どれほどの魔法を使ったのでしょうか?
「ちょっと数が多かったのよ、それに気に入らない事ばかりするんだもの、だからちょっと吹き飛ばしちゃった! テヘッ!!」
やり過ぎちゃったと戯けるお母様、いい歳なのですが似合っているので何とも言い難い。
「テヘって、エルザ様もいい歳なんだからさ、そんな可愛い子ぶっ「ドーン!」
バタッ!
言ってはいけないことをさらっと言うとマクスウェルさんが黒焦げになって倒れていく。生きはいるようでピクピクと動いている。お母様は満面の笑みを浮かべながら周りの人達を見渡した。
「「「「…………」」」」
「何か?」
「……いや、あまり無理はするなよ」
「ええ、分かっているわ」
マクスウェルさんは凄いです……あの後何事もなかったように見張りに戻っていきました。何か特別な力があるのでしょうか?
◇
「大将!おびただしい数のゴブリンが集まって来やがった」
ゴブリンの片付けを終えて自分の部屋でのんびりと休んでいるとシドさんの声が聞こえた。慌てて装備を身に付けて砦の外に駆け出す。
するとそこには昨日戦った以上のゴブリン達が続々と集まっている。
しかし攻めてくる様子はない。それどころか訓練された兵士のように綺麗に整列しているように見える。これほど統制のとれた魔物の行動を見たことがなかったので唖然としているとその中心が開いて道が出来た。
そこを今までのゴブリンよりも圧倒的な存在感を放つ顔に大きな傷のある大きなゴブリンがゆっくりと歩いていく。
その左右にはゴブリンジェネラル二体、ゴブリンナイト、ゴブリンメイジ、ゴブリンアーチャーと続いていく。
「「「貴様ラ、我ガ部下ヲ殺シタナ」」」
「また一段と大きな声で……大将、敵さんの王様のお出ましだ」
いつの間にか近くにいたシドさんがお父様に敵の正体を話す。あれがゴブリンキング、有名な魔物ではありますが初めて見た。
「アノ獣ヲ出セ貴様ラト一緒ニ消ス」
獣を出せという言葉を聞いた私はオコジョさんのことを言っているのだと気付いて頭に血が上っていく。
「オコジョさんは渡しませんよ、自分が悪い癖に何を言っているんですか」
「……貴様カラ殺シテ殺ロウカ……アノ獣ガ生キテイルト思ウトコノ傷ガ疼クノダ」
ゴブリンキングはそう言うと自分の顔に出来た大きな傷を触り凄まじい怒気を放った。
あの傷はオコジョさんが?
油断していたとはいえ、オコジョさんがゴブリンキングにあのような大きな傷を付けることが出来るのでしょうか?
「キュキュ」
「オコジョさん!?」
「出タナ獣……貴様ヲ殺シニ来タ……周リノ者共ト共ニ死ネ!!」
いつの間にか砦の外に出てきていたオコジョさんが声を上げるとゴブリンキングが怒声を上げてゴブリンたちに指示を出した。それに従いゴブリン達が一斉に私達に向かって駆け出してきた。
それを見て槍を構えるとオコジョさんが私の肩に飛び乗ってきた。どうやら砦に戻る気はないみたい。
「もう、仕方がないですね、オコジョさん……私の側にいて下さいね」
「キュイキュ」
「アレク、ゴブリンキングは任せる。良い経験になるだろう。見た所ただのゴブリンキングではないようだ」
「お任せを父上」
「皆で露払いをしてくる、行くぞ!!」
あんまり王様が目立ってない気がする|´・д・)σ




