第35話 兄弟と兄妹
「やはりゴブリン共に命令を与えている上位種がいるな、それぞれが隊になっているようだ」
ゴブリンナイトの首を撥ねるアレク、移動しながら敵の指揮官を倒していく。しかしそれはゴブリンナイトやゴブリンメイジなど、それよりも上位種が存在すると考えて探していく。
「私とセバスは南、カイルとシエルは南西、ディオンとエマは南東を頼む」
アレクに指示を受けた者達が自分の役割を果たす為に分かれ森の中に消えていく。アレクの指示を受けてゴブリンを倒しながら、指揮をとっているものを探して奥へと進んでいくカイルとシエル。
「カイル……あのでかいのは指揮官じゃないか?」
「ああ、そのようだな……あれはゴブリンジェネラルだな……周りにも多くのゴブリンナイトやゴブリンメイジがいるな……やるかシエル」
ゴブリンジェネラルを見つけた二人は素早い動きでゴブリン達を撹乱しながらゴブリンの命を刈り取りながら近づいていく。
それに気づいたゴブリンメイジとゴブリンアーチャーが遠距離から攻撃を仕掛けてくるが当たることはない。
「うざいな……俺がやる」
「大いなる風の精霊よ、風を操り虎となりて我が敵を切り裂かん【風牙猛虎】」
風が虎を形取り現れる。そして一陣の風となり敵に近付き、その爪はゴブリン達を切り裂き、その口からは圧縮された空気を吐き出し、敵を吹き飛ばす。
「シエル……お前王国軍に入ってから口が悪くなってないか?」
シエルは元々は兄達のような言葉遣いをしていたのだが、王国軍では気取った言葉遣いだと仲間達から言われる事が多かったので、彼等と同じように話すようになった。
それが習慣付いたようである。
「もう貴族じゃないんだからいいだろう……ほら見ろ、流石にあのデカイのは簡単には倒せないようだぞ」
ゴブリンジェネラルの前を重装備をしたナイトが取り囲み魔法から守ったようだ。
だが他のゴブリンメイジやゴブリンアーチャーの多くは切り裂かれ、吹き飛ばされて既に息絶えている。
「ヤリヨルナギ……ザマラ、ダガツギハワ……レラノバンタ!」
ゴブリンナイトを連れ立って、ゴブリンジェネラルが素早く近づきカイルとシエルがいた場所へ巨大な斧を振り下ろす。
大きな音が鳴り響き斧が振り下ろされた場所は爆発したように抉れ吹き飛んでいる。
あまり手入れが施されているようには見えないその大斧だが威力はあるようだ。
「うぉ! 本当にゴブリンにもこんな事出来る奴がいるんだな、オークの群なら王国軍で狩った事があるが、ゴブリンの群は初めてだからどうせ只の雑魚しかいないと思っていたぜ」
「確かにオークよりは弱いとされている種族だろうが、上位のゴブリンだからな」
「ギザマラ!!」
その話を聞いていたのか怒りに震えながら、地面を踏み鳴らし向かってくるゴブリンジェネラル。自身の体重と大斧の重量で歩くたび地面が砕けるほどなのだが、思いの外その動きは早い。
「シエル、お前が失礼な事を言うからゴブリンジェネラルが怒ってしまったじゃないか」
「事実なんだからいいだろ、来るぞ」
頭に血が上りカイルとシエルを狙って暴れ回り辺りを破壊する。それを軽々と避けながら周りのゴブリンナイトから倒していく。
「食ラエ!」
急に動きを止めたカイルに向かい斧を振り下ろすゴブリンジェネラル。
カイルが剣で防御しようとする。
自分の力に絶対の自信を持ち、向かい合っているのは自分よりも小さく非力に見える。このまま潰れて殺せるとほくそ笑むゴブリンジェネラル。
その威力に辺りには土煙が舞い上がり、倒したはずの相手の姿は見えない。
確かに命中した筈だが違和感が残る。
土煙が晴れると自分の会心の一撃を受けたにも関わらず、斧を剣で受けて平然と立っている姿があった。
それを見たゴブリンジェネラルは混乱する。
「イテテ……流石だな、カイル見みろよ足が埋まっちまった、中々良い力をしてるぜ、俺も試してみよう……」
平然と話す姿に驚くゴブリンジェネラル、シエルがジャンプして剣を振りかぶってきたので大斧で防御する。
先程の立場が逆になったように見える。
混乱しながらも自分がこんなチビに負ける筈がないと考えるゴブリンジェネラル。
「せいッ!!」
その一撃を受けたゴブリンジェネラル、先程よりも大きな音と土煙が舞い上がる。
やがてそれが治るとそこには一人立つシエルと大斧ごと頭から真っ二つに切られ、倒れ伏すゴブリンジェネラルの姿があった。
「悪いが俺の勝ちだな……お前も中々のもんだったよ」
「シエル……さっきから良いところを持って行ってないか?」
「敵はまだまだいるだろ? 次だ次……」
◇
「兄上、数が多いですね」
ギャア
「ああ、ゴブリンの群だったのが唯一の救いだな、これが他の種族も巻き込んだ群だったら流石に逃げるしかなかった」
グエッ
会話しながらゴブリン達を斬り伏せていく。
「避けろエマ!」
その瞬間にエマがいた場所が炎で焼き尽くされる。エマは炎が放たれた場所を見ると、多くのゴブリンナイトに囲まれたゴブリンメイジがいる。
「何だ? あんな火力の魔法を使うゴブリンメイジは初めて見たな……」
「あんなに多くのゴブリンナイトに囲まれた姿もです。あの二種は本来同格のはず……余程あのゴブリンメイジが優れているのか……隣に一段と体の大きなゴブリンナイトもいますね」
通常ゴブリンナイトとゴブリンメイジは同格の存在である。ゴブリンナイトは棍棒などの原始的な武器ではなく、自分達で作り出したもの、もしくは人が持っていた武器や盾を使い戦う。
ゴブリンメイジは、高火力の魔法は使えないが、通常使えない魔法を使い、頭も良い為、只のゴブリンより何倍も厄介な存在である。
成り立ての兵士や低ランク冒険者にとってはだが……
「それに他のゴブリンにも人が住む領域のゴブリンよりも遥かに強い者達が混ざっているな……流石、魔の森の近くで生きるゴブリンという訳か……」
「私達の敵にはなり得ませんがね兄上」
当然だというように笑いゴブリンの元へと向かうディオンとエマ。
「モエツキヨ……カエンノゴウカ二……ツツマレテ【フレアストーム】」
向かってくるディオンとエマに向かって魔法を使い辺りは炎に包まれる。森で広範囲の火魔法を使う事などあり得ないが、彼等にとってはどうでも良いらしい。
敵を倒せれば何でもいいのだ……
それが彼等が人に近い姿をしながら魔物に属する所以でもある。
「「「グガッ!?」」」
ディオンとエマは盾を正面に構えて物凄い速度で炎の中を抜けて来た。その行動にはゴブリン達も驚いたのか声をあげている。
彼等の戦いのスタイルは兵士というより近衛兵に近いものがある。
何故なら彼等は元々は王国の近衛兵として王に尽くしてきた一族の出である為である。
王国の貴族が腐敗し始め、国王すらも愚鈍となり近衛兵の質もどんどんと低下していく中で、近衛兵という一種の特権を棄て、フリーデンに仕えるようになった。
炎を抜けて飛び出して来たディオンとエマから周りのゴブリンナイト達がゴブリンメイジを守る陣形を取る。
「【剣氣穿孔】」
二人は氣を高め自身が剣となり、盾を構えた敵に向かって進んでいく。
しかし盾などまるで意味を成さず、貫通し敵はバラバラに吹き飛んで行く。
一段と身体が大きく装備も整ったゴブリンナイトもその攻撃を防ぐ事は出来ず、吹き飛び残ったゴブリンはゴブリンメイジのみ。
「貴様を守る者はもういない二度と向かってこないと約束するなら見逃してやってもいい」
エマは最後に残ったゴブリンメイジに言い放つ。明らかに知識があるように見えるこのゴブリンメイジならば今の状況が理解出来ると考えた為だ。
「ダマレ…ゲセンナニンゲンメ…ワガホノオニツツマ…レテシネ【フレアウェーブ】」
炎の波がディオンとエマを包みこむ。それは辺りの木にも燃え移り火は消える事がない。
ディオンとエマが居た場所には何も無くなっており、ゴブリンメイジは炎に包まれて姿形も残さずに死んだと思い邪悪な笑みを浮かべる。
「全く……これ以上燃え広がったら大変だ……よく考えて魔法を使って欲しいものだ」
「ギィ!?」
ゴブリンメイジの首にはディオンとエマの剣が左右から向けられており身動きが取れなくなる。
「モウナ……ニモ……タス……ケテ」
その言葉を聞き剣を引いて火のついた木を消すために動き出す。それを見たゴブリンメイジは気付かれないよう魔法の詠唱を始める。
「ーーーーーシネ!!」
「だと思った」
火を消していたディオンの姿はいつの間にか消えており、ゴブリンのすぐ近くに現れる。
「マテ!「三度目はない」グアッ!!」
ゴブリンの胸に剣を突き立てその命を奪うディオン。そのまま剣を引き抜き、火が広まらないように作業を行うエマの手伝いに行く。
「……ゴブリン退治より火の始末の方が厄介でしたね兄上」
「ああ、そろそろ戻るか……」
敵が弱いと主人公達が悪役に見えますねヾ(´ω`)