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第33話 来襲

 ゴブリンが砦を偵察するような行動を取った理由はオコジョさんの話からから知ることが出来た。ここ数日変わった様子は見られず、普段通りの生活を送っている。


 村作りは順調に進み、ある程度の環境は整ってきた。あとは実際に暮らしてみて安全であれば兵士以外の人達も呼べるようになる。

 畑を作りジャイモンを植えて育てている。他にも様々な食物の種を持ち込んでいるため育てていくつもりだ。


「あれからゴブリンが来る様子はありませんね」


「ああ、オコジョくんの勘違いだったのかもしれんな、流石に群を率いる程の者がそんな事で危険を冒して森中を探す程馬鹿ではなかったという事だろう」


「そうですね、そこまで根に持つ訳がないですよね」


 人型の魔物で力が強い個体は人語を話すほどの知恵を持つ者が多いと聞いている。魔の森の端とは言っても、ゴブリンという弱小の魔物を率いてこの場所で群を形成するほどの個体なら流石に小動物に仕返しをする為に馬鹿な真似はしないと筈だ。


 そうであれば無駄な争いをしなくて済む。後はシスイさんが無事に帰ってきてくれれば。



「ゴブリンの群だ!!」


「……お父様」


 先程までの話は何だったんだろうとお父様の顔色を伺うと、


「ああ……残念ながら馬鹿だったようだな……」


 お父様も私と同じような微妙な顔をしている。タイミングが非常に悪い。ため息をつくと表情を変えて外へと向かっていった。


「キュキュ」


 オコジョさんも戦いたそうに拳を握って敵を殴る仕草をしている。ですが危ないのでここにいてもらいましょう。


「オコジョさん、危ないのでここにいて下さい、私はちょっと行ってきますね」


「キュ……」


 私は様子を確認するために急いで砦の上に登る。そこにはキールさんの姿があり弓を構え矢を放っている。


 既に数え切れない程のゴブリンの群が草原を駆け上がって来ていのが見える。そのあまり数に振動が伝わって来る。それほど大きな群なのだろう。見えるだけでも千体を優に超える数のようだ。


 キールさんの正確無比な彼の矢は尽きる事がない。その矢筒が魔具で、魔石の魔力を元に減った矢が充填されていくからだ。


 次々とゴブリンの急所を射抜き砦に近づけさせない。


「どんな様子ですか?」


「つい先程から襲撃が始まりました。今のところは只のゴブリンが攻めてきています」


 砦付近では既にシドさんが砦を守るために陣を作り、一定距離からゴブリンは近付くことを許さない。シドさんとキールさんが砦の防衛を担当しているらしい。お父様達が撃ち漏らしたゴブリンを刈っている。


 私もただ見ている訳にはいきません。


「行きます!」


「お嬢様!?」


 身体強化をした私は砦の上から飛び降りる。頭上からキールさんの驚く声が聞こえたが心配は無用。岩肌を蹴りながら着地してその衝撃を殺す。


「うぉ!?」


 私が突然上から現れたのでシドさんがビックリして声を上げた。


「全く無茶をして……」


 あそこから飛び降りてきたのかと砦の上を見つめるシドさん、キールさんも上から心配そうに見ている大丈夫だと知らせる為に手を振ってから状況を尋ねる。


「どんな具合ですか?」


「まるで蟻のように……今アレク様達ご兄弟がどの程度の規模か調べに行っとりますわ」


 そうですか、兄様達が調べに……


「私も戦います!」


「見える範囲でお願いしますぜ。怪我でもされたらお父上に怒られてしまいますからね」


 私はシドさんが作った陣を越えてゴブリン達がいる方へと向かう。お父様がそれに気付いたようで近づいて来た。


「ミレイか……陣からあまり離れるなよ」


 グサッ、ギャ……


「はい!ここで戦います」


 グエッ、ガッ……


 話しの最中にもゴブリンはやって来ているので倒しながら会話をする。


「私はもう少し奥に行く、あまり奥にはいかないで砦の防衛を任せる。気を付けろよ」


 そう言ってお父様は森へと消えて行った。お父様について行きたいところだが砦は守らなければならない。これか私の役目だと納得して仕事に移る。


「来なさい!」


 私の声に反応し向かってくるゴブリン達。攻撃をいなして急所を確実に狙い、命を刈り取っていく。だが一体一体を相手にしていくにはあまりにも数が多すぎる。


ならば、


「【千本石槍】」


 数え切れない数の槍がゴブリンを貫き、シドさんが作っ陣の外にもう一つの陣を築きあげる。

 これでゴブリン達の攻撃の勢いを弱める事が出来るはずだ。


「ミレイ、ちょっと私ゴブリン引き連れて川原の方に行くからここお願いね」


「はい! お母様」


 少し離れた場所で魔法を使いながら戦っていたお母様がのんじりと近づいて来てそう言った。「ちょっと数を減らしておくわね」とのんびりとした口調で言うと砦の周りにいたゴブリンは凍り付き、黒炭に変わった。圧倒的すぎて笑えてくる。何でもないように手を振ると川原へと向かって行った。


 それからも暫く戦い続けるとアレク兄様達が帰ってきた。


「ミレイ、お前も戦っていたか……父上と母上はどうした?」


 辺りを見渡して、お父様とお母様がいない事に気付いたアレク兄様が尋ねてくる。


「お父様はこの奥に、お母様は川原に向かわれました」


 そう言うと呆れた顔をした。


「全く……もう少し待っていてくれても良かったのに……」


 ここにいる仲間に声が届くようカイル兄様が魔法を使い、アレク兄様がゴブリンの群の規模のこれこらの戦いについて話し始めた。


「周辺にいるだけでもかなりの規模だ、前回の比ではない、今は只のゴブリンだけだが、上位種も多くいた。姿は見えなかったが間違いなく王がいるな」


 王が……ならこの群を倒すのには時間がかかりそうですね。


 ——ドーンッ!!


「「「何だ!?」」」


 お母様が向かった方向から物凄い爆音が聞こえてきた。


「恐らくお母様でしょう」


 ああ、と納得した様子で頷いた皆さん。


「母上なら問題ないだろう」


 アレク兄様もお母様のやったことだと聞いて納得している。


 ……しかしそれ程の群なら多数の方向から攻めてくるのも時間の問題ですね。



「キールが砦の周りを全方位カバーしているが時が経てば囲んで攻めてくるだろう、そうなったら面倒だ。先に攻めるぞ、キール、シド、ティナ、マクスウェル、メア、そしてミレイはここを任せる。後の者は父上達のように暴れて敵の指揮官を狩り連携が取れないように動け、以上だ、頼むぞ」


 その話を聞いて、攻め手に選ばれた方達は素早く森へと向かって行った。


 シドさんは変わらず陣を守りつつ攻撃し、マクスウェルさんは辺りが見渡せる場所に移動し魔法を使いゴブリンを倒し始める。


 私とティナさん、メアはそれぞれのことを見える距離まで離れて戦い始めた。


「はぁ!」


 向かってくるゴブリンの首を突き刺し、そのままその後ろにいたゴブリンを突き刺し蹴り飛ばす。


「真空の刃よ敵を斬り裂け【風刃】」


 風魔法を使い、真空の刃で一定の範囲にいるゴブリンの首を一斉に撥ねる。


 ガフッ、グ、ガ……


 まだ風魔法は未熟なので中には首が撥ねきれないで苦しむ者もいるためトドメを刺す。襲撃者と言え無駄に苦しめる必要はない。


 周りにゴブリンが少なくなったので他の人の戦いに目を向ける。


「シッ!」


 メアは二つの短剣を両手に持ち、素早い動きで相手の懐に入り首と心臓を正確に狙い倒していく。

 敵の攻撃を利用し、振り下ろされた武器を仲間のゴブリンに当たるように逸らし、その隙にまた急所を突いていくその動きには無駄がない。


 メアはセバスの娘、並の兵士では勝てない力を持ち、その素質も計り知れないものがある。いずれはセバスの後を継ぐつもりなのかもしれない。


 ティナさんは格闘術を使って戦っている。相手の動きを完全に読んでいるようで、流れるように喉を突き、投げ、首を折っていく。

 そして触れるだけで関節を外す事が出来るようで腕や足がだらんとして苦しんでいるゴブリンもいる。動けなくすればその後はどうとでもなる。わざわざトドメを刺さなくても動けなくしてしまえば後はどうとでもなるということだろう。やはり私とは違い戦い慣れている。

 円を描くように動き敵を倒しつづけていき、そして敵を倒し終えると次の集団へと向かっていった。


 氣を上手く使えるようになればあのような事が出来るのでしょうか?



「ーーシッ!!」


 グエッ!


 私が敵を倒している間に陣を抜けろうとするゴブリンはすぐさまキールさんの矢が眉間を貫通し倒れていく。

 砦の一番高い場所で全方位の敵を射抜いているにも関わらずあの正確さは凄いとしか言いようがない。そのおかげで安心して目の前に集中する事が出来る。


「グギィ!!」


 私の元にゴブリンナイトがやって来た。前回戦いましたが以前のゴブリンナイトよりも体が大きく、剣や鎧も良いものを装備しているようだ。それにまた多くのゴブリンを引き連れて来ている。


「またゴブリンナイトですか……」


 前回はゴブリンに足止めされましたが今回はそうはいかない。ブラッドティグルと戦いで学び、守りが固い相手に対しても攻撃が通じるよう練習した技がある。


「ガァ!!」


 ゴブリンが先に私に向かって走ってくる。そして私も走り出し……


「グギ?」


 先頭のゴブリンの頭を踏み台にゴブリン達を跳び越え、ゴブリンナイトに向かって槍を振り下ろす。

 重厚な盾を使い私の槍を防ごうとするがその威力で後ろへと吹き飛んでいく。

 間髪入れずにその勢いのまま追撃し、


『虎吼廻天』


 地面を踏み鳴らし、伝わる力を槍に乗せ、さらに回転を加え全ての力を一点に凝縮し攻撃を加える。


 私の攻撃はゴブリンナイトの盾と鎧を貫いた。


 ゴブリンナイトは自慢の盾と鎧が貫かれた事が信じられないらしい。貫かれた盾とお腹を見て信じられないという表情をしながらゆっくりと倒れていく。


 それを見ていたゴブリン達は慌てた様子で逃げ出していく。

 勝てないと思ったのか、このゴブリンナイトがこの辺りの指揮をしていたのかそれは分からない。このまま諦めてくれればいいのですが。

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