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第30話 閑話 とある貴族の予感

 私はエルドラン王国の貴族であり、由緒正しい子爵家の当主をしている。


 このエルドラン王国は実際には国王ではなく一部の貴族達によって支配されている。私の一族は彼等に何世代も従うことで彼等の仲間に入ることが出来た。


 随分と汚い仕事も行ってきたらしい……彼等に気に入られるために……


 我々は国王となる者を幼い頃から扱いやすいよう教育していくことで王国を支配してきた。


 それは終わらないと思っていた……


 我々の力は絶大だ。その多くが国の要職を務め、国王陛下からの信頼も厚く、領地も経済の要地にあり大きい。その影響力は計り知れないものがある。


 我々は次代の国王として二人の王子を教育してきた、一人目は残念ながら失敗してしまったがもう一人は順調に育っていた。


 計画通りに進んでいると考えていた……しかし彼は余りにも尊大な性格になってしまった。だがそれでも扱いやすい人形には変わりなかった。公の場に出すにはあまりに無能だがそばに我々の手の者がいれば幾らでもフォローすることは出来る。


 そんなある日、彼は婚約者であった一人の令嬢を侮辱して国王の許可もなく婚約を破棄してしまった。元々そうさせるつもりだった。だがそれは国王の許可を得た正式なものとしてだ。


 それからだ……


 私が不安を感じるようになったのは……


 王子が婚約を破棄した相手は、あのフリーデン伯爵家の令嬢だった。


 彼等はエルドラン王国の貴族達の中でも異質。


 領地を減らされても、手柄を奪われても、そして捨て駒のように扱われてたとしても我々に屈することがない。そう、我が一族が汚い真似をしてまで手に入れようとした物に見向きもしなかった連中だ。


 他の者達は戦う事しか能のない下賎な者達と蔑んでいたが、私は何処かで彼等を恐れていた。


 私達には無いものを持っている気がして……



 そして事は起きたフリーデン伯爵が国王のおられる謁見の間において王国を出ると宣言した。そこで暴言を吐いた貴族達に我慢が出来なかったのか、言い合いになり怒った国王に命じられた近衛兵が彼を捕らえようとした。


 伯爵は近衛兵に囲まれても一向に動かない。


 周りを見ると薄ら笑いを浮かべている者が殆どだった……


 私は……笑えなかった。


 何かとんでもない事が起こるのではないかという予感がした……


 そしてその予感は的中した。


 彼を捕まえようとした近衛兵が最初に吹き飛ばされた……


 近衛兵は国王陛下の守りを第一に考え、その鎧や盾は通常の兵士より数段上のものを使用している。

 だがそれらの装備を次々と破壊され、その鋼鉄の破片が凄い勢いで壁に突き刺さる。

 私は何とか柱の陰まで逃げ、それらから身を守っている。次々と近衛兵達が吹き飛ばされ周りにいた貴族達はそれにぶつかり気絶していく。


 とてもではないが、周りの者に助けを差し伸べる余裕などない。


 その後も多くの近衛兵が彼に向かっていく、しかしそこに彼の息子達も加わり、彼一人に成す術のなかった兵士達は次々と倒されていく。


 彼は国王へとゆっくり近づいていく。


 私はこの時、何故我々が王国を支配している絶対者の如き考えをしていたのかと思っていた。


 何倍もの敵を倒し国王の元へと向かうこの一人の男を見て、我々は大きな勘違いをしていたのだと気付いたのだ。


 幾ら我々が彼等フリーデンを邪険に扱ったとしても彼等は我々に無関心で手を出されなかったことがなかった為に、手を出されないことを当たり前のように考えてしまっていた……


 我々に不満を持つ者達が多く存在していることは分かっていたが、もし彼等が我々に反旗を翻した場合、どうなっていたのだろうか……


 帝国という共通の敵の存在が彼等を思いとどまらせていただけではないのだろうか……


 我々は薄氷の上を進んでいる事に気付いていなかっただけではないのか……


 考え過ぎだとは思う……だがそう思わずにはいられなかった。



 伯爵はそのまま国王陛下へと剣を振り下ろした……


 国王陛下の命は奪われたと思った。


 だが彼は国王陛下の命を奪わず、宰相に警告を与えるとその場から去っていった。私は自分の命が救われたことに感謝していた。自分たちを危険な目に合わせたといった怒りは微塵も浮かんでこなかった。ただ自分の心臓が鼓動していることに、呼吸をすることが出来ていることに感謝していた。


 そこから状況は一変した……



 国王陛下は我々が意見を言うといつもすんなり頷いていた。だがあの事件以来、国王陛下は変わった。


 国王陛下自身の意見を押し通すようになった。


 そして我々の中の一人が職を追われた。領地も縮小されてしまったので今までのような豪勢な生活は出来なくなるだろう。我々は王国を出たフリーデンに対して刺客を送った。


 他の者達は彼等が死ぬと思い、醜悪な笑みを浮かべながら笑いあっていた。

 だが何故あれ程の武力を見せつけられて彼等を殺すことが出来ると安心出来るのだろうか、私には理解出来なかった。それこそ王国軍の一個大隊でも送らなければ相手にもされない予感、いや確信があった。しかし私は末席に座る身だ。余計な口出しは無用。



 我々の一員が失った職はエルドラン王国にとって重要である。我々は誰がその職を担うべきか話し合っていた。


 しかし陛下は我々に相談することなくご自身でお決めになった。我々は仲間が処分されたことよりも大きく動揺した。


 このようは重要なことを我々に相談しなかったことは今までに一度もない。

 そして今度は我々が次代の国王にするべく教育してきた王子が王位継承権を取り消され、王都から追放されることになった。

 これ程の失態は我々が王国を支配するようになってから起こった事がない。


 我々は失敗したのだ。


 その後、王都の城壁には我々が放った刺客が酷い拷問を受けた姿で発見された。我々に向けてのメッセージなのか、顔には一切の傷を付けずに……


『彼等』はこのような真似をしないだろうが、何人かの貴族達は狼狽えている。やっと自分達は狩る側ではなく狩られる側だと気付いたのだろう。


 だが気付いた所で如何すれば良いのだろうか……我々はもう後戻り出来ない場所まで進んでしまっている。


『彼等』は既にはこの国を去り、まだ我々の仲間の一人と次代の王として教育していた王子が処分されたにすぎない。


 しかし……


 我々の終わりの始まりは既に訪れているのではないだろうか……


 そう不安を覚えずにはいられない。


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