第28話 嵐の後に
私が探索を許されてから数日が経った。だが目的地を発見するには至っていない。
「今日はやけに天気が悪いな、風も強い……シド……どう思う?」
空には鉛色の雲が広がって来ており、太陽の暖かな光は地上には届いていない。
僅かに溢れる光が神秘的にも見えるがシドさんはそれを険しい顔で見ている。
「大将……雲の動きが異常だ。嵐のようになるかもしれぇ……備えた方がいいかもしれない」
シドさんの忠告の通りに皆んなで嵐が来た場合に備えて準備をすることになった。しばらくするとシドさんの言葉通り徐々に風が強くなってきて今は外を歩くことが出来なくなった。
さきほどオコジョさんが外に出ようとしたら飛ばされそうになって必死に草につかまっていた。何とか私が尻尾を掴むことができたが、間に合わなかったら吹き飛ばされていたと思う。
焦った様子のオコジョさんは中々可愛かったですが。
「皆んな今日は目的地探しは中止だ。これは酷い嵐になりそうだ。木が折れて飛んでくるかもしれないから、部屋に補修用の板も準備しておけ」
それから天気はより酷くなり、時が経つにつれて大きなる雨粒、外を見ると暴風が木々を揺らして枝を折るほどに強くなってきた。
「凄い音ですね」
砦の中にいてもその雨風の音が鳴り響き、時折雷の轟音が鳴り響き砦が揺れている。
巨岩に住んでいて良かったかもしれない。造りの甘い家なら吹き飛ばされていただろうし、飛ばされてきた枝などによって何処かが破損していたかもしれない。
◇
それから三日間、雨風は鳴り止まず拠点の中にいるしかなかった。
幸いなことに砦に被害は及んでいない。雨漏りなどもなく安全は確保されている。
とはいえやることもなく、オコジョさんも暇そうにしていたので一緒に遊んだり、魔力を操る練習をしたり、氣を操る練習をして過ごしていた。
「やっと天気が良くなりました」
外に出て辺りを見ると嵐の凄まじさを感じさせる光景が広がっていた。折れた枝などが散乱しており、中には根元から倒れた木もある。
それらの後片付けをしてから鈍った体を動かすために目的地の探索に行く。
お父様達は既に探索に出ているので危険な場所には行かないことを条件にお母様から探索に行くことを許可してもらいました。
雨をたっぷりと含み地盤が緩んでいる可能性があるので最初から奥深くに行くつもりはない。北側がどうなっているか確認に行くだけ。
嵐であまり動けなかったので砦の周りを駆け回っていたオコジョさんも一緒について来てくれるみたい。
「やっぱり土砂崩れが起きている所が幾つかありますね」
北に向かっていくとそり立つ壁のような山々がそびえ立っている。その幾つもの箇所で土砂崩れが発生している。
やはりあの嵐の影響で地盤が緩んでいるらしい。出来るだけ近づかないよう距離を置きながら散歩をする。
「キュキュ」
「——えっ!?」
そんなことを考えながら歩いていると突然オコジョさんが走り出した。私は慌ててその後を追い駆ける。オコジョさんは小さいのに脚がとても早い。野生の動物というのは中々凄い。
「オコジョさん待って下さい!」
ようやく追いつくとそこには崖崩れが起こった跡があった。オコジョさんはそこに向かって走っていく。土砂崩れがあったであろう場所にはオコジョさんがやっと通れるような小さな穴がある。
「そんな所に入ると危ないですよ、崩れるかもしれません」
「キュキューイ」
私の制止も聞かずにオコジョさんはその穴に入っていった。大丈夫だろうかと心配しているとオコジョさんは穴から顔を出して私を手招きした。どうやらあの小さな穴の先に来て欲しいようだ。だが私が入るにはいささか小さすぎる穴だ。
「どうしてもですか?」
「キュイ!」
「分かりました。土魔法でその穴を広げてみますから離れていて下さい」
「キュイキュイ」
お母様との約束を破ってしまう気がして本当は嫌だったが土魔法で慎重に穴を広げていくと、そこには奥深くに続く洞窟があった。
「こんな所に洞窟が……」
この辺りを私は探索したが前回は見つからなかった。いや、無かったと言うべきだろう。嵐で土砂が崩れて現れたようだ。
「キュキュキュ〜」
「あっ! ダメですよオコジョさん!」
周囲を見渡しているとオコジョさんは再び洞窟の奥へと走り出した。ここから先に進むのは間違いなく約束違反。この先に行ったと知れたら間違いなく怒られると思う。だがオコジョさんを放っておく訳には行かない。
覚悟を決めて進むことにしましょう。
洞窟の中は暗いので魔法で明かりを灯しながら進んで行く。足元に気を付けながら慎重に歩いていると何処からか風を感じた。どうやら外に道は続いているようだ。
「オコジョさん〜、何処ですか〜?」
「キューイ」
声が聞こえた方へと向かって行く。
すると光が見え始めた。
あれが出口のようだ。
そこから出ると……
「綺麗な場所」
洞窟を抜けた先には切り立った崖に囲まれた綺麗な草原が広がってた。大きな湖があり、その中心が小島のようになっていて一本の大きな樹が立っている。素晴らしい景色だ。今までに見たことのない。
「キュキュ」
「こんな所にいたんですか? 勝手に走り出したらダメですよ」
「キュイキュイキューイ」
お前達が探していたのはここだろ。見つけてやったんだから感謝しろ。とでもいうような仕草をしながら踏ん反り返っているオコジョさん。
それを見て気付きました。
「……もしかしてここが」
「キュ……」
今気付いたのかよとツッコミを入れる仕草をするオコジョさん、やれやれとでも言うかのように手の平を上に向けて首を振っている。
「早くお父様達に伝えないと、行きますよオコジョさん」
目的地を見つけたとを皆んなに知らせなければならないと思いオコジョさんを肩に乗せて急いで砦に戻る。
だが一旦洞窟に戻って土魔法で入り口を塞いでおくことにして。魔物が入ったら大変ですから。
「お父様! 皆さん!!」
私が大声を上げると砦にいた皆さんが焦った様子で表に出てきた。襲われた件もあり不用意な行動だったかもしれないと脳裏によぎったがそれよりも早く皆さんに伝えなければ。
どうやらお父様や兄様達はまだ探索から戻って来ていないみたい。とりあえずここにいる皆さんに伝えましょう。
「目的地を見つけたんです!」
「「「えっ!?」」」
私が目的地を見つけたと言うと皆さん声を揃えて驚きの声を上げた。まさか散歩に出かけた私が見つけてくるとは思わなかったようだ。
「本当なのミレイ?」
「はい、オコジョさんが走り出して追いかけたら洞窟があって……そ……あ……ぬ……」
慌ててしまい呂律が回らない。
「落ち着いて話しなさい」
セバスが水を持って来てくれたのでそれを飲んでから深呼吸をして落ち着いて見つけた経緯を話す。
オコジョさんが走り出したので追いかけたら小さな穴を見つけた事、そこにオコジョさんが入ってしまったので止む終えず魔法を使い穴を広げて中に入って進んで行き出口にたどり着き、その先の景色を見るとお父様が言っていた通りの山々に囲まれ草原が広がっている場所を見つけたと。
「良くやったわミレイ」
「お手柄じゃねぇか!」
「やるなお嬢様」
皆さん喜んで私を褒めてくれた。
オコジョさんが服を引っ張って自分もとアピールするので皆んなで褒めると満足げな表情をした。
「……本当に良くやったわミレイ。……でも一人で洞窟に入ったのね?」
私は満面の笑みを浮かべたお母様に拠点の中に連れて行かれた。何やら大事な話があるそうだ。
それにしてもまさか目的地を見つけることが出来るなんて思いもしませんでした。
何の話をするんでしょうか?
何かご褒美があるのでしょうかね。
そうなことを考えてワクワクしながらお母様について行きます。ですがその途中すれ違ったマクスウェルさんの表情を見てこれから私の身に起こることが分かった。
……私はお母様にこってり絞られました。
「ああ、お嬢様にもエルザ様の雷が落ちてしまいましたか……嵐の後なのに……ぷっくく、嵐の後なのに、晴れているのに雷が落ちるなんて……」
そんな私を見て慰めてくれるのかと思いきや、何が可笑しいのかマクスウェルさんは自分で言った言葉がツボに入ったようで笑っている。
その背後には説教を終えた万面の笑みを浮かべるお母様が……
「なんだ? 皆んな嬉しそうなのにミレイだけ……ではないようだが……随分と気落ちしているな?」
少ししてお父様達が探索から帰って来て私に声を掛けてくれた。倒れて動かないマクスウェルさんをチラッと見ましたが、それは見なかったことにしたようだ。
とても話す気分にはなれない私の代わりにお母様から目的地を発見したと話してくれた。それを聞いてお父様達は驚き喜んでいる。すると表情が一瞬厳しくなった。
どうやら私のことを聞いたらしい。今度はお父様に怒られるのか。そう思うと気が滅入った。
「ミレイ……彼処は一歩間違ったら魔の森に通じている場所をなんだ……分かっているな?」
「はい……ごめんなさい」
「だが、良くやった……お前のお陰で探していた場所を見つけることが出来た」
お父様も一人で洞窟に入ったことを怒りましたが、お母様に怒られていた事を考慮してくれたのか、それ以上に目的地を見つけたことを褒めてくれた。
先祖の言い伝えがふわっとしていたので、目的地を探すための目印になるものを書き足してそれに合わせて書き直しましたm(_ _)m