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第27話 目的地を探せ

 シスイさんがオルドル領へ向かう日がやって来た。見送るために砦の前に皆んなが集まる。シスイさんは心配げな様子のティナさんと話しをしてからお父様の方へとやって来ると片膝をついた。


「頼むぞシスイ、気をつけろよ」


「……お任せ下さいレオン様」


 二人は短い言葉を交わした。お父様はシスイさんのことをそれだけ信頼しているのだろう。


「いってらっしゃいシスイさん」


「……行って参りますお嬢様」


「お土産買ってこいよ!」


「……」


 マクスウェルさんの声を聞くとシスイさんは返事をする事なくすぐに行ってしまった。マクスウェルさんは愛想のないやつだなと愚痴を言って眉をひそめたがその姿が見えなくまで見送っていた。


 無事に帰ってきてくれればいいのですが。



「よし、我々は引き続き北を探索する。渓谷や多くの道があるが、慎重に進んでいけ、道を誤れば魔の森のど真ん中に出る可能性が高い」


 お父様は目的地の探索にあたっての注意点を確認していく。道を間違って魔の森のど真ん中に出てしまうなんてことは嫌ですから。


「言い伝えによれば、我々の目的地は高い山々に囲まれ魔物は入ってこれない場所らしい、草原が広がりそして大きな湖があるそうだ。シスイが帰ってくるまでに探し出すぞ!」


 今日は私も探索に参加することが許された。今まで危険だからと許されなかったが、この間の出来事で私が危険な目に遭ったのと、私の考えを聞いてもっと実戦経験を積ませることを決めたらしい。


「ではミレイ行くぞ」


 私はお父様と行動を共にすることになった。お兄様たちは心配そうにしていたがお母様は普段と変わらない様子で見送ってくれる。拠点を出て森の中に入って行く。


 こういった森の中では木の枝から枝へ跳びながら移動するのが速い。やったことのなかった私も挑戦してみる。


 足を滑らせてしまうのではないかという不安はあったが実際にやってみると意外にも出来てしまった。


 ある程度慣れてから先に進んで行くとお父様が立ち止まってある方向を指差しました。


「あそこに魔物がいるのが分かるか?」


 どうやらお父様が指差す方向に魔物がいるようだ。姿は見えないが確かに何かがいる気配がする。木々も少し揺れている。何が現れるのだろうと緊張しながらジッと見ていると大蛇が現れた。


「あれはフォレストバイパーという魔物だ。大して強い魔物ではないが、全身の筋肉で敵を締め付けて骨を粉々にして捕食する凶暴な蛇型の魔物だ」


 お父様は大したことがないと言ったがそれはあくまでもお父様から見てという意味であり、私から見れば十分強そうに見える。だからといって逃げようとは思わない。


「魔法を使えば簡単に終わってしまう。相手の動きをよく観察しながら弱点を見つけ戦ってみろ」


 魔法を使えばそれほど苦戦しないかもしれないと考えていた私の耳にお父様の声が入ってきた。魔法は禁止、それでもまだ私の存在は気付かれていない。こちらが優位な立場にある。お父様に向かって頷くと私は槍を持つ手に力を込めた。


 枝を蹴り体重を乗せて槍を振り下ろす。これで仕留めることが出来れば最良だが、相手の動きを阻害するだけのダメージを与えることが出来れば良い。だが表皮が硬くて深くは刺さらなかった。

 突然の攻撃に怒りの声を上げたフォレストバイパーは上半身を上げて威嚇してきた。


 これからが本番だ。


 どう倒そうか考えていると向こうから跳びかかってきた。それほどの速度はなく難なくそれを避けることが出来た。続けて尻尾を振り回して攻撃してきたがしゃがんでそれを避ける。背後から大きな音がして視線を向けると気が倒れていた。どうやらかなりの威力があるらしい。


 見たところ地面に接している部分はあまり硬いようには見えない。顎下、もしくは腹部が弱点かもしれない。単調な動きをしているため上手くやれば難なく倒せるかもしれない。


 そんなことを考えていると願ってもない行動をとってくれた。再び私に向かって飛び掛かってきたのだ。どうやら大した相手ではないと私を侮ってくれたらしい。


 顎下から相手の勢いも利用して突き刺しすぐに避ける。フォレストバイパーはその勢いのまま木に突っ込んで激突した。


 暫くしても起きる気配はないので倒せたようだ。


「どんな魔物にも弱点がある。闇雲に攻撃するのではなく観察しながら戦うんだ」

「はい、分かりました」

「また何か来たな。ミレイ離れろ」


 話をしているとお父様がある方向に視線を向け私に離れるよう声を掛けてきた。言われた通りに木の上に移動する。しばらくして大きな魔物が現れたと思ったら倒したばかりのフォレストバイパーに食らいついた。突然のことに目を瞬かせているとその魔物は私達に構うことなく食事を始めた。


「お父様、あれは?」


 鋭い牙と爪を持つ肉食獣のような姿をした魔物。白い体に黒い模様があり、目が血のように赤い。


「あれはブラッドティグルだ。獰猛で血の匂いに敏感、他の魔物が狩った獲物だろうが血肉を喰らう為なら戦う」


 ブラッドティグル……確かに強そうに見える。


「あれは中々強い、……お前にはまだ早いかもしれないな、そこで待っていろ」


 お父様にはまだ早いと言われてしまったがいつまでも弱い敵とばかり戦っている訳にはいかない。


「お父様、私にやらせて下さい」


「……分かった、私は危険だと感じたらサポートしよう。全力で戦ってみろ」


「はい」


 フォレストバイパーに夢中になっていたブラッドティグルですが、私が敵意を向けたことに気付いたのか食事を中断して唸り威嚇をしてきた。


 身体強化をして素早く近づき槍で刺そうとしましたが軽々と避けられ、逆に爪で切り裂こうとしてくる。


「土魔法【土壁】」


 咄嗟に創り出した土壁はすぐさま破壊されてしまった。だがそんなことは想定済みだ。私の姿を見失っている隙に腹部へ攻撃を加える。しかし岩を突いたよう音がして全く傷を与える事が出来ない。フォレストバイパーよりも硬いようだ。


「魔法なら!」


 魔法に弱点があるかと思い、様々な属性の魔法を使ってみる。だが効果はあまりないようだ。


 私の攻撃を受けて大した相手ではないと思ったのか、ぎりぎり避ける事が出来る攻撃を繰り返し私を傷付けて楽しんでいるようだ。自分に実力がないのは分かっていますが少し頭に来る。


「水魔法【水牢】」


 攻撃が効かないならばとブラッドティグルの顔を水で覆い、呼吸が出来ないようにした。魔法が効かずともこれならば効果があるはず。魔物とはいえ呼吸をせずに生きていくことは出来ない。思いもよらない攻撃だったのか苦しみ暴れている。


 呼吸が出来ない混乱から私への警戒が緩んだその瞬間に渾身の力を槍にのせて殆どの生物の弱点である目を貫いた。

 痛みに叫び声を上げてすぐさま爪による攻撃を加えてきたが槍を手放し避けた。本来なら武器を手放すべきではないのかもしれないが避けるのが精一杯だった。そのまま暴れ続けているので隙を見て近付き目に突き刺さったままの槍を思いっきり蹴り込む。

 より深く突き刺さった槍が致命傷を与えたのか暫く苦しみ暴れ回っていたがやがて倒れて動かなくなった。


「お父様、倒しました」


 身体中傷だらけになってしまったがどうにか倒せた。目に突き刺さったままの槍を引き抜きお父様の方へ向かう。


「まだだミレイ!」


 お父様の声にすぐに背後を見ると既に目の前にブラッドティグルの鋭い爪が振り下ろされていた。直ぐに槍で防御しようとしたが、まともに攻撃を受ければ折られてしまうはず。油断してしまった。このまま殺られてしまうと思ったその時……


 突然、振り下ろされようとしていた腕が切り飛ばされ、ブラッドティグルはその痛みに声を上げのたうち回った。


「ミレイ途中までは良かったが油断しては駄目だ、このぐらいの魔物は簡単には死なない」


 お父様が腕を切り落としてくれたようだ。

 私への助言をする中、ブラッドティグルはその背後でいまだにのたうち回っている。


「は、はい!ごめんなさいお父様」


「次からは油断するなよ」


 私に注意を続けるお父様の背後から怒りの形相で近付いてきたブラッドティグルがお父様の頭を噛み砕こうとしている。


「危ない!」と叫ぶと、お父様が振り返ったと思ったらブラッドティグルは動きを止めた。そしてお父様は何事もなかったようにこちらに歩いてきた。


 何が起こったのか分からず、動きが止まったままのブラッドティグルを見ていると、暫くして頭が落ちて静かに倒れた。


 頭を落とされたことをまだ理解出来ていないのか、その顔は戸惑ったように動き、しばらくして目から光が消えていった。


「凄いです……」


「お前も初めての強敵によくあそこまで戦ったな……だが奴が最初から全力で戦っていたらお前は殺されていた可能性が高かった」


「……はい、私もそう感じました」


「いくつか魔法も使っていたが、もっと鍛錬が必要だな、エルザに習うといい戦いの幅が広がる」


「……はい」


 幾つかの裂け目があり慎重に目的地への道を捜索していく。急に道幅が狭まり行き止まりになっている道や、奥に行くことが出来ても明らかに異様な雰囲気の森に出たりと発見するには至らなかった。

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