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第26話 一人で出来るもん

 食材探しに予想以上の時間がかかってしまったので拠点に戻った私は早速調理を始めた。


「お手伝いしましょうか?」

「いえ、今回は私に任せてください」

「分かりました。ではメアを残しておきます」

「一人でやりたいのですが」

「もちろんです。ですが困った時の助言をくれる者はどのような場合にも必要です」

「なるほど、分かりました。ではよろしくお願いしますメア」

「はい、何なりお聞きください」


 セバスも手伝うと申し出てくれましたが、今日はメアに助言を貰うだけにしようと思う。本当はメアの助言もなしに私の力だけで作りたいところだが不味い料理を食べさせるわけにはいかない。


 さてと、料理は山菜のサラダとイワメの塩焼き、怪鳥二十面鳥の丸焼きと私が一品作ろうと思う。


 まずは二十面鳥の下処理から始める。いつもお肉になってから食べているが今日は一からの調理。


 メアがやってくれると言ってくれたが今日は私がやらなくてはならない。

 とはいえ鳥を捌いた経験がないためやり方をメアに教わりながらやっていく。

 まずは二十面鳥を適当なものに吊るして動かなくなるまで待つそうだ。


「フハハハッ」

「フハハッ」

「フハッ」


 大人しくなったところで恐がらせないよう目を隠すように頭を持ち、なるべく痛みを感じさせないように一瞬で首を落とす。


「!?」


 首を落としても暫く動き続けている。少しずつ動きが鈍くなりやがて動きが止まった。


「大丈夫ですか?お嬢様」


 ヌルッとしたまだ暖かい血に何とも言えない気持ちになる。

 しかし普段生き物を食べて生きている私がこんな事では駄目だ。私の一部になってくれる事に感謝して命を無駄にしないようにしなければ。


「はい、大丈夫です、続けましょう」


 下処理を続けるとやっと普段見る鶏肉の状態になった。毎回こうやって捌いてくれているメアたちに感謝しなければなりません。自分でやってみるとそのありがたみが分かる。


「お嬢様、お上手です。先に二十面鳥の調理をしましょうか、焼きあがるまでに時間がかかりますから」


 メアの言う通り先に二十面鳥の調理をしていく。

 お腹に穀物、味の良い薬草を詰めてから、周りにバター、塩、香草をよく塗り込んで蓋をして焼いていき、あとはこのまま焼き上がるのを待ちます。


 ……ゴクリ


 段々と香ばしい匂いがしてきて思わず唾を飲み込んでしまいました。いつまでもこうしている訳にはいきません。


 その間に他の料理を作っていきましょう。


 次はサラダ。


 山菜をさっと水洗いし湯がいてから水に晒してから香りの良い薬草を千切って混ぜ合わせて完成。


「メア、ドレッシングは何がいいかしら?」


「そうですね、折角なので先程お嬢様が見つけた柑橘系の果物を使ったものを作ってみてはいかがでしょうか?」


 メアに教えてもらいながら柑橘系の果物を絞り、さっぱりしたドレッシングを作っていきます。


 一品完成です。


 メアに教えてもらいながらですが上手く出来ている気がします。


「イワメの塩焼きは昼間に作り方を覚えたので、塩焼きともう一品は私一人で作ります。メアは休んでいて下さい」


「……分かりました。では二十面鳥が焼きあがる頃まで休ませて頂きます」


(お嬢様、ここまでは初めてとは思えないくらい順調に料理を作っていますので、お一人でも大丈夫そうですね)



「よし、メアも驚く美味しい料理をつくりますよ」



  ◇



 怪鳥二十面鳥もそろそろ焼き上がる頃でしょうかね……


 いい香りがします。


「お嬢様、そろそろお料理は完成したでしょうか?」


「丁度出来た所です。皆さんを呼んでおいて下さい」


「皆さん今日の料理は怪鳥二十面鳥の丸焼きと、イワメの塩焼き、山菜と薬草のサラダです。あと一品あるんですがそれはあとのお楽しみです」


 テーブルに並んだ美味しそうな料理に歓声を上げてくれました。自分で作った料理を見てこれだけ喜んでくれると嬉しいですね。


「凄いじゃないかミレイ初めての料理なのにこんなに美味しそうに作って」


「メアに教えてもらいながら作りました。それにセバスとメアが料理していたのを見ていましたから、どうぞ食べて下さい」


 学園で料理の本を読んだこともあるんです。私もやれば出来ます。


「怪鳥二十面鳥なんて食べたことないです」


「やるじゃねぇかミレイ様」


「凄く美味しいです」


「キュイキュイーン」


「凄いじゃんかお嬢様、めちゃ美味しい。これなら直ぐにお嫁にいけ……る……な?」


 ゆっくりとお父様たちに視線を向けて固まるマクスウェルさん。「どうかしたんですか?」とお父様たちに聞いてみると笑顔でなんでもないよと答えてくれました。マクスウェルさんがおかしなのはいつものことですから私の勘違いかもしれませんね。


 そんなことを考えているとマクスウェルさんはお父様と兄様たちにどこかに連れていかれました。


 そして何処からか声が……


「レ、レオン様、じょ、冗談ですよ。や、やめて……ゆ、許して下さ……ああー!」


 数分後、少しボロボロになったマクスウェルさんとスッキリしたような表情のお父様達が戻ってきました。


 もう本当に仲が良いんですから。


 色々とありましたがマクスウェルさん以外の方達は特に何事も無かったように食事を続いていきます。


「お待たせしました。これが最後の料理です!」



 ◇



「…………」


「…………」


「…………」


 今までの料理が美味しかったので最後の料理を楽しみにしていた一同、しかしその料理を見て顔を青くして言葉を無くした。いつの間にかエルザとオコジョは居なくなっていた。その中でレオンが勇気を出して言葉を発する。


「……ミレイ、そ、それは何かな?」


「これは今日集めてきた食材を使ってスープを作ったんです! 美味しそうでしょお父様?」


 満面の笑みを浮かべる娘の姿に何も言うことが出来ないレオン。周りにいる者たちもそれは同じだ。不味そうなんて口が裂けても言えない。


「……あ、ああ、とても個性的で見たことがない……美味しそうなスープだな……」


 そこには真っ黒に染まりグツグツと煮立つ地獄のような液体が鍋一杯に入っていた。とてもスープと言えるような食べ物には見えない。


「……な、何が入っているんだい?」


「美味しそうな蟹を捕まえる事が出来たのでそれで出汁をとってから色々と試行錯誤を繰り返してこのスープが出来ました」


 先程までの楽しそうな雰囲気からうって変わって葬式のように静まりかえる。

 ただ一人嬉しそうにスープをよそうミレイを除いて。


「……メア……お前、お嬢様と一緒に料理を作っていたのではないのか?」


 作り笑いをしたセバスが小声でメアに尋ねる。


「……最後の料理はご自分でお作りになると言われて」


「……そうか」


 ミレイがなぜか毒のある食物を見つけやすいことを知っているディオンとティナは恐怖で手が震え出した。しかしミレイが満面の笑顔を浮かべて見ているので食べるしかない。


 そんな中、レオンは父親として犠牲になるのは俺からだという使命感に燃えていた。

 もし全員がお腹を壊すことになっては命に関わる。しかし食べないでミレイを悲しませる訳にはいかないと。幸いな事にレオンはミレイが毒物を見つけやすいことを知らなかった。


「じゃ、じゃあ私から食べよう」


 周りの者達は改めてレオンが英雄に見えた。かつてない戦場に立ち向かうレオンの姿がそこにはあった。


「い、いただきます」


 スプーンを持つ手が震える。スープをすくうと少しドロッとしている。恐る恐る口に近付き思い切って口に入れる。

 固唾を飲んでレオンを見守る者達、スープを口に含んでから動きが止まったレオンの反応を待つ。


「お、美味しいじゃないか!?」


「本当ですかお父様!」


「凄く美味しいよ、蟹の味もするしこのとろみはジャイモンだな」


「流石お父様、よく分かりましたね」


 それを聞いた者達は一斉に食べ始める。


「本当だ美味しい」


「流石は私の娘」


「キュイ」


 いつの間にか戻っていたエルザとオコジョも皿に入れられたスープを飲んでいる。見た目はともかく味は絶品そのものだ。



「本当だ、美味い! 見た目が悪いからゲロマズかと思った」


 ——そしてマクスウェルは戻って来なかった。




「体に良い食材を沢山入れたので皆さんも元気になると思います。日頃から皆さんにはお世話になりっぱなしなので」


 その言葉を聞き感動する一同、一人欠けてはいるが、食事を楽しみ十分に英気を養うことが出来たのであった。


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