第25話 料理は食材探しから
「今日は皆さんの為に料理を作ろうと思います! 晩御飯は楽しみにしていて下さい」
私が不甲斐ないばかりに皆さんに心配をかけてしまったので、そのお詫びと日頃の感謝を込めて料理を作ることにした。美味しい料理を作りたいので食材から探しに行こうと思う。感謝の印なので本当は一人で食材探しに行きたいが襲われたばかりでそんな無理は言えない。申し訳ないが誰かに同行を頼むしかない。
「食材から集めようと思います。申し訳ないですが、ディオンさん、ティナさん、ついて来てくれますか?」
「「勿論ですお嬢様」」
「あと一人料理に詳しい人がついて来てくれると助かるんですが……」
ふとエマさんを見ると慌てた様子で明後日の方向を見て口笛を吹き始めた。どうしたんだろうと首を傾げるとディオンさんが苦笑しながら近付いてきて小さな声でその理由を教えてくれた。
「エマは料理が苦手なんです。今回は見逃してあげて下さい」
なるほど、そういうことでしたか、誰にでも得意不得意はありますからね。私だって料理が得意というわけではありません。
他の料理が出来そうな人は……
「メアついて行って差し上げなさい」
「分かりました父上」
セバスからメアを推薦されたのでありがたくついて来てもらう。メアは旅を始めてからセバスと共に料理を作ってくれているので安心だ。
「私も行きましょう。お嬢様、狩りなら私にお任せ下さい」
四人で食材探しに向かおうとしているとキールさんが自分も行くと言ってくれた。キールさんの弓の腕は凄いですから動物や鳥の狩りはお任せしましょう。
◇
「お嬢様、今晩の料理は何をお作りになられるんですか?」
「まだ決めていないんです。食材を探しながら決めようと思います。食材を見ながらメアも意見を聞かせてくれると助かります」
「はい、お嬢様」
「ティナさんは身体に良くて食べれる薬草を教えてください」
「お任せを」
「ディオンさんは私が変な食べ物を取らないように監視をお願いします」
私は何故か変なものばかり見つけてしまうようなので誰かに監視しておいてもらわないと、毒の入った物を料理に入れてしまったら困りますから。
それを聞いたディオンさんは苦笑しながら了承してくれた。ティナさんも口元を押さえながらクスッと笑っている。少しは否定してもらいたかったのですが事実なので仕方ない。ディオンさんとティナさんには私が失敗しているところを何度も見られてしまっている。
「あ、変な鳥がいました!」
「フハハッ、フハハハッ!!」
「どこですかお嬢様」
「えっ、あれ?さっきあそこに変な鳥がいたんです。派手というか何というか……仮面のようなものを着けているように見えました」
おかしな鳥がいた場所をキールさんに教えようとしましたがすでにその姿はない。どうやら逃げてしまったようだ。あんなに目立つ格好をしていたのに不思議だ。
「あの特徴的な鳴き声は怪鳥二十面鳥ですね」
「怪鳥二十面鳥?」
「逃げるのが得意ですぐに逃げていくんです。その鳴き声も特徴的で馬鹿にされている様で腹が立つと有名なんですが凄く美味しいんです」
怪鳥二十面鳥は全長百二十センチほどの大きさの鳥らしい。
長距離を飛ぶことは出来ないが飛行速度はかなり早くまた地上を走るのも早い。魔物ではないため大きな危険はないがその味は鳥類最高と言われているとか。
特徴は独特な鳴き声と、顔に仮面のような模様で、逃げるのがとても上手く周囲の色に変化して溶け込み気配を消す。
熟練の狩人でも狙って狩ることはまず不可能と言われている珍しい鳥で、市場に出た場合かなりの高値がつくとか。そんな珍しい鳥だったなんて、残念ですが諦めるしかないですね。
「お嬢様、こちらは料理に使えるでしょうか?」
「いつの間に、もちろんです。ありがとうございます」
気落ちして食材探しに戻るとキールさんがすかさず弓を射て立派なイノシシを狩ってくれた。メアによると臭みのないとても美味しいイノシシらしい。流石はキールさん、怪鳥二十面鳥は残念だったがお肉はこれで十分。あとは野菜類、バランスの良い食事を作りたい。
巨大な木々が生い茂る森ですが日光が地面まで差す場所が至る所にある。そこには薬草であったり食べることの出来る食物が多く生えている。そんな場所を見つけては雑草をかき分けて何かないかと期待しながら探していく。
「この薬草は体にも良く香りも良いです。料理に使えるのではないでしょうか?」
植物の匂いを嗅いで食べれるか迷っているとティナさんが青々しい葉をした植物を持ってきてくれた。確かに良い香りがする。味ばかり気にしていたが料理には香りも重要だ。
「これはジャイモンですよねディオンさん?」
「そうです、葉など地上に出ている部分には少し毒があって頭痛や下痢になりますが、地下茎を食用としてよく食べますね」
「これにも毒があるんですかぁ」
ジャイモンは様々な料理に使えるので気を良くして次の食材を探していく。
「あっ、これはどうですか?ジャイモンと同じように地下茎が膨らんでいます」
「……それは猛毒があるんで料理に入れたら全員死にますね」
……おお、危ないところでした。質問しておいてよかったです。料理人も大変ですね、変な食材入れたら皆んな死んじゃいますから責任重大です。
(この前も感じたがお嬢様はやけに毒を持つ植物を見つけてくるようだな、これは気を付けて見ておいた方がいいかもしれない)
◇
お父様が言っていた岩山の裏にある川にも足を運ぶことにした。川魚を捕ろうと思う。前の場所よりも大きくてゴツゴツした石がいっぱいある。
「ここには美味しい魚が沢山いそうですね」
「そうなんですか?」
「川の水が凄く綺麗ですからね」
なるほど……魚については詳しくないがメアがそう言うなら間違いないだろう。美味しい料理の一つになるかもしれない。以前使った釣竿があるので頑張って釣りましょう。
「魚からはいいダシも出ますし、ここなら蟹もいるかもしれないですね」
蟹ですか、それも美味しそうですね。是非とも夕食の一品に欲しい所です。釣りが終わったら蟹を探すことにしましょう。
「釣れない……」
「お嬢様も釣りが苦手でいらっしゃるんですか?実は私も苦手なんですよ」
何でも器用にこなすキールさんにも苦手なことがあると初めて知った。当然といえば当然だが親近感がわく。
「少し森に行ってきても良いでしょうか?」
「どうぞ、私も一旦釣りはやめて蟹を探そうと思います」
中々魚を釣ることの出来ない私は、魚釣りを他の方に任せて蟹探しに変更することにした。
この辺りの石は大きくて重いので身体強化をして石をどかしながら蟹を探していく。
「大きい蟹見つけました!」
「良かったですねお嬢様」
私が喜んでいると、キールさんが声を掛けてきた。何やら細い矢を持っているので何をするのだろうと眺めていると水面から飛び跳ねた魚を射抜いた。
「凄いです!」
矢に糸をつけていたようで手繰り寄せて魚をとっている。キールさんによるとそれほど難しくはないそうだ。キールさんだから出来ることだろう。私には無理だ。
「お嬢様、魚も沢山とれましたのでそろそろお昼にしましょう」
お父様達には出かけ先でお昼ご飯を食べてくると言ってきたので、皆さんでお昼ご飯にする。今日のご飯は魚の塩焼きを作ってくれるらしい。
メアが焼いてくれる。
内臓とエラを取り出し木の枝で作った串を口から入れ背骨を巻き込むように刺していき、全体に塩をまぶして背びれ、胸びれ、尾びれにたっぷりと塩を塗って焼いていく。
しばらくすると美味しそうな匂いがしてきた。
「焼けましたよお嬢様、どうぞお食べになって下さい」
「わあ、美味しいです。今まで食べた魚の中で一番美味しいです。塩をかけて焼いただけなのに凄い」
「これはイワメという魚です。水が綺麗な場所にしかいないんですよお嬢様」
「晩御飯にもこれを作っても大丈夫ですかね?」
「いいと思いますよ」
「美味しいですからね。何か違う味付けをしてもいいかもしれませんね」
なるほど果汁で味を変えるのですか、これも晩御飯に出すことにしましょう。
料理の一つに決定ですね。
しっかりと下処理をしてしまっておけば問題ないはずです。
「あとは果物が欲しいです。もう少しお手伝いお願いします」
「勿論です」という返事をくれたので食事を終えて少し休憩してから果物を探し始めた。木々に跳び乗って実がなっていないかを探していく。すると幾つかの赤く熟した甘い匂いのする果実を発見する事が出来た。
「これはどうですか?」
「……それは毒がありますね」
「この毒々しい赤色の実はどうですか?」
「……それも猛毒がありますね」
「この爽やかな香りのする実はどうですか?口に入れた感じでは大丈夫なんですが」
「お嬢様……出来たら先に私に聞いてから口に入れていただけると助かります。それは柑橘系の実ですね。美味しいですよ、よく見つけることができましたね」
(私が不用意に舌で毒があるかの判別をする方法を教えたのが悪かった。まさかこれほど毒を持つ食物を見つけるとは)
◇
「あっ、またいました! さっきの変な鳥です——えいや!」
「フハハッ、フハ——グハッ!?」
気づかれるとすぐに逃げてしまうと聞いたので咄嗟に落ちていた石を投げてみる。すると見事に命中して地面に落下していくのが見えた。駆け寄ってみると大きな鳥が目を回していた。
「やはり怪鳥二十面鳥です。やりましたねお嬢様、お手柄です」
あまり美味しそうには見えないがキールさんがこれほど言うのなら味に間違いないのでしょう。どのような味がするのか楽しみだ。
「お嬢様、怪鳥二十面鳥は味もいいので丸焼きにしたらいいかもしれません。先程の香りの良い薬草を使うのもいいと思います」
メアからも良い食材になるとお墨付きを貰ったのでこれでもう十分。これから戻って晩御飯を作っていこうと思う。私、頑張ります!