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第23話 悪夢からの目覚め

「ん……んん……」


 ベッドで横になっているミレイは顔を歪ませて苦しそうな対価を漏らしていた。彼女は夢を見ていた。いつもの楽しい夢ではなく悪夢を……


 自分がメフィストに人質にされたせいで思うように動くことの出来ないレオン達が傷付き命を散らしていく。泣き叫んでも状況は好転しない。


「お父……ま……私……は、……から、戦……く……さい」


 そしてついにレオンがミレイを救い出した。だが大きな怪我を負ってしまいレオンは倒れ伏した。ミレイは涙を流し父親を抱きしめながら周りを見渡す。倒れ伏し動かないディオンやティナ、血を流しながら少ない人数で懸命に戦う兄達。


 ミレイを庇って負った傷でレオンが倒れて目の前で命が尽きようしている。力強かった鼓動がどんどん小さくなる。自分のせいで。自分が弱いせいで。



「……父……達が、私……で、死……」


「ミレイ、大丈夫! ミレイ」


 うなされて涙を流すミレイを起こそうと母親であるエルザが声をかける。するとミレイはビクッと震えて目を開けた。パッと起き上がると怯えたように周囲を見渡した。呼吸は荒く大量の汗をかいている。すぐ側でエルザとオコジョが心配そうに自分を見ていることに気がついて夢だったと安堵して大きなため息をついた。


 (あれは、夢だったんですね)


 現実にも思えるほどの恐ろしさを感じたあの出来事が夢だったことに安堵したミレイは自然と涙が溢れてきた。


「大丈夫よ、大丈夫ミレイ」


 エルザがミレイを抱きしめ落ち着かせる。現実のような夢に心臓を激しく鼓動する。


「もう大丈夫ですお母様、心配をかけてしまいましたね……」


 昨日のことを思い出すとミレイはまだ身体が震えた。当然のことだ。初めての経験、兵士ならば誰しもが通る道ではあるがその相手が悪かった。


 父親であるレオンはあんな者たちとも渡り合ってきたのだと思いを巡らせる。背後にいたことに全く気付くことの出来ない相手、手の届く距離にいたにも関わらず何もすることが出来なかった。


 (……これが今の私の実力なんですね)


 自分の実力のなさ、そして不甲斐なさを感じてぼんやりとするミレイをエルザが抱きしめた。そして優しく頭を撫でる。エルザの心臓の鼓動が恐ろしい夢を見て冷え切ったミレイの心を溶かしていく。


「ミレイごめんなさいね、貴女を危険な目に遭わせてしまって」


「……私が油断していたんです。あの人にも意識を失う前に言われました。そんなに気を緩めていると長生きできないと」


「あんな奴のいうことを間に受けちゃダメよ」


「いえ、あの人の言っていたことは事実なんです。私は気が緩んでいました」


「そう……でも貴女には夜襲で命を狙われる経験なんて無いんだから仕方ないわ」


「ですが本当なら私は昨日死んでました……訓練ではないのですから」


「ミレイ……まだ朝早いわ、もう少し寝なさい」


「……はい、お母様」


 昨日の出来事はやはりミレイの体力を相当奪っていたのだろう。エルザに声を掛けられながら横になるとすぐに眠りについた。


 先ほどとは違い安心したような表情で寝息を立てるミレイを心配気に撫でるエルザ、自分も幾たびもの視線を乗り越えてきたが覚悟を決めていた所での話である。

 だがミレイはレオンやエルザなど守ってくれる強者がいる場で殺されそうになってしまった。

 それにミレイはまだ十四歳、あのメフィストという闇の稼業の者の殺気は尋常なものではなく、ミレイに耐えられるものではなかった。


 エルザ自身が戦って勝てるという確信を持てないような相手に殺されかけたのだ。ミレイのこれからに影響が出ないかと心配して夜深くなるまで愛娘を撫で続ける。



 ◇



 二度目の目覚めは悪いものではなかった。その理由は周りを見れば分かる。お母様が私の手を握ってくれておりオコジョさんも枕元にいてくれていた。


「……心配をかけてしまい申し訳ありません」


「良いのよ。今日はゆっくりしていなさい」


 私が起き上がるとお母様は頭を撫でてくれる。どうやらずっと起きて私のことを見ていてくれたらしい。優しい笑みを浮かべているが疲れているように見える。それも当然のことだ。お父様に匹敵するような者に襲撃され、娘である私が意識を失っていたのだから。不甲斐ない自分が許せなくなる。しばらくするとメアが朝食を部屋まで運んで来てくれた。


 ……こんな時でもセバスとメアの作ってくれる料理は美味しいですね。元気が出ます。


「ありがとうメア、元気が出ました」


「いいえ、そう言って頂けるだけで料理の作り甲斐があります」


「キュイ?」


「オコジョさんのお肉も用意しておきましたよ」


 料理の匂いに起きてきたオコジョさんがメアの所まで行き自分の分はないのかとせがんだ。するとそれを予期していたメアはオコジョさん用の肉を取り出した。オコジョさんは目を光らせると出てきたお肉に飛びついた。

 昨日撫でさせて貰えたのを思い出し、お肉を食べるオコジョさんに手を伸ばしてみると逃げる様子もなく触らせて貰えた。


「お母様、オコジョさんが私に気を許してくれたみたいです」


「良かったわねミレイ」


 いつもより長く眠ってしまったのでオコジョさんとお母様と散歩に出る。

 部屋から出るとカイル兄様とシエル兄様が部屋の見張りをしていてくれていた。


「カイル兄様、シエル兄様、私の部屋を守っていてくれたんですか?」


「少し前まではティナとエマがやっていたんだけどね。交代したんだよ」


「ミレイはもう平気なのか?」


「はい、体は何ともありませんので。少し外の空気を吸いに行こうかと思います」


「そうか……私達もついて行こうか?」


「私が行くから大丈夫よ、沢山人がいたらリラックス出来ないでしょう?」


「そうですか母上……分かりました」


「気をつけていけよミレイ」


 砦を出て外に行くとまだ朝早いのに多くの人が起きて家の前や囲壁の上で警戒していた。皆んないつも通りの笑みを浮かべて挨拶をしてくれたがやはり心配そうな表情をしている。



「皆さん昨日はご迷惑をお掛け致しました」


 昼食時、今回の旅についてくれた人達全員が集まっている時に昨日のことを謝罪した。みなさんには随分と心配させてしまったと思う。


「私……皆さんに甘えていたんだと思います。だから油断してしまったんです」


「ミレイ……」


「私はもっと強くなります。すぐには無理かもしれませんが私が一人でも皆さんが安心出来るくらいに、そしていつかは皆さんを守れるようになりたいです」


 あの悪夢を現実になんてさせません。させないだけのチカラを得て見せます。



 ◇



 昼食を食べている時にお父様が昨日あの人が話していた王国の情報についての話を始めた。


「奴が言っていた情報が事実なら、スレイド伯爵家当主の弟であるエスト・オルドル子爵が私の後を継いで新たな領主となった。フリーデン……いや、今はオルドル領か、彼なら安心して任せられる。彼とは私も面識があるからな」


 確かにそれが事実なら良い情報だ。スレイド伯爵家当主の弟さんならエレナさんの叔父様、ならば安心して領民の皆さんを任せることが出来る。


「そしてその兄であるルドルフ・スレイドが軍務大臣になったのが事実なら領民も以前より安全だ」


「そこで一度オルドル領に使いを出そうと思っている」


「……レオン様、私が一人で行ってまいります」


「……」


「……私以上に相応しい人はおりません」


「セバスと二人で行く方法もあるが」


「……セバス殿は私より強く速いでしょうが、だからこそ今はここを守ってもらったほうが良いかと」


「私もそう思います。シスイなら問題なく街へと到着するでしょう」


 セバスは教え子であるシスイさんを随分と信頼しているようだ。一人でも全く問題がないとお父様に告げた。


「そうか……そうだな頼むシスイ、目的は街に住む者達の現状の把握だ。来たいという兵士がいたら連れて来てもいいが、無理に連れてくることはないぞ」


「……畏まりました」


 シスイさんがオルドル領に行く事が決まった。シスイさんがオルドル領に行ってしまうその前に皆さんにご迷惑をかけてしまったので何かをしてあげたい。


 何がいいでしょうか?



 オコジョさんと散歩しながら考える。もうすっかり足は治ったようで辺りを歩き回っている。


「オコジョさん皆さんに迷惑をかけてしまったので何かしたいんですが、私に何か出来ますかね?」


「キュキュキューイ」


 そう聞くと、オコジョさんは私に何かを伝えようとジェスチャーを始めた。


「キュ」


「キュキュ」


「キューイ」


 必死に何かを伝えようとするオコジョさんの姿はとても可愛らしく見ていて和む。なんて考えているとオコジョさんがちゃんと話を聞けとでも言うように唸った。謝ってもう一度教えてほしいと頼むと仕方がないというジェスチャーをしてから話を始めた。


「料理を、作って、食べさせろ……ですか?」


「キュイ」


 なるほど、皆さんに料理を作ればいいんですね。いいかもしれません。私はセバスとメアの料理を食べたら元気が出ました。



「……なんでオコジョの言うことが分かるのかしら……私、ミレイのことが心配……」


 昨日の今日で母親に心配事の種をまた一つ増やしたことをミレイは知らない。

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