第20話 招かれざる客
「今日は一日休もう、やっと手ががりを発見して落ち着ける場所も出来たのだからな」
旅の目的地への目印である巨岩を見つけてから何日もかけ行った拠点作りもひと段落した。お父様が一日休もうと提案して今日は休むことになった。
皆さんは何をするのだろうと気になった私は一人ひとりに話を聞いてみることにした。お父様とお母様は荷物の整理、兄様たちは馬の世話、セバスとメアは掃除と食材の仕込み、ティナさんはエマさんと共に森で薬草探し、シドさんは日曜大工、キールさんとディオンさんは狩り、シスイさんは訓練も兼ねて周辺の警戒、マクスウェルさんは一日寝て過ごすそうだ。
マクスウェルさんを除いた皆さんは普段と同じ仕事をしているようにしか思えない。場所が場所だけに仕方がないかもしれないが。
それに、マクスウェルさんがのんびりしてくれるお陰で私も気兼ねなくのんびりと過ごす事ができます。
もしかしたらそれが狙いなのでしょうか?
……いや、違いますね。
「オコジョさん、今日はこの拠点を散歩しようと思うんですが一緒にどうですか?」
「キュイキューイ」
私は怪我が大分良くなって歩けるようになったオコジョさんとお散歩に出かけることにした。オコジョさんも早く歩きたかったのだろう。声を掛けると嬉しそうに鳴き声をあげた。
仕方ない行ってやるよといった感じの仕草をしてから、私の体をよじ登って肩の上に乗った。
肩に乗ってもらえるとは思っていなかった私は心を許してくれたのだと思い嬉しくなる。撫でようと思い手を伸ばすと避けられてしまった。
「……触るのは駄目なんですね」
オコジョさんから私を触るのはいいみたいだが私から触るのは駄目らしい。どうやらまだ気を許してくれたわけではないようだ。
気を取り直してお父様達に声をかけてから散歩に出かける。拠点の外ではシドさんが持ち込んだノコギリを使ってテーブルや椅子を作っていた。
「シドさん休めてますか?」
「ミレイ様、ええ、中々楽しいもんですよ。こんな自然の中で暮らすってのも中々経験出来るもんじゃないですからねぇ」
「……私達について来て後悔はないですか?」
「後悔? そんなこたぁ全くないですねぇ、強制されてついて来た訳じゃないから。誰も後悔してねぇんじゃないかと思いますよ。どちらかと言うと楽しんでると思いますがね」
煙草を吹かしながら答えてくれます。
「そうですか……なら良かったです。そんなことを勝手に思ってたら逆に失礼ですね」
「ミレイ様も楽しめばいいんですよ、幼い頃は何にでも目を輝かせてたでしょう? あんな感じにね。そういえばそのオコジョはもう怪我はいいですかい?」
「オコジョさん大分良くなったんですよ。そろそろ走れるようになると思います」
シドさんに挨拶をしてまた散歩に戻ります。
オコジョさんも周りをキョロキョロと見回してこの場所に興味があるようです。
暫く丘の草むらで動き回るオコジョさんを見ながらのんびりしているとメアがお昼ご飯にお弁当を持ってきてくれたので一緒に食べることにしました。
「わざわざありがとう」
「いえとんでもありません、オコジョさんにもお弁当を持ってきましたよ」
オコジョさんの小さなお弁当を開けるとお肉がたっぷり入っています。それに気づいたオコジョさんはすぐに戻ってきて食べ始めました。
そんなオコジョさんをメアは自然に撫でています。オコジョさんも特に嫌がる様子もなく肉を食べ続けています。
これは……どういう事でしょうか?
「……メア、オコジョさんに触っても大丈夫なの?」
「ええ、時々お肉を食べさせてたら撫でさせてくれるようになりました」
その事実に衝撃を受けてしまいました。私はまだ触らせて貰えてないのに……もしかしたら今ならと思いゆっくりと手を伸ばしてみます。
するとそれを察知したのかオコジョさんは残りの肉を加えて私との距離を取りました。こうなることは薄々分かっていました。分かっていましたよ。
「ミレイ様?……どうかなさいましたか? ……ミレイ様?」
「大丈夫よ……メア、そろそろ戻りましょうか」
「分かりましたミレイ様」
再び肩に乗って来たオコジョさんと共に部屋に戻り……ふて寝をしました。
他の方達も帰って来たので一緒に夕食を食べて今日の事を話しました。
やはり久々の休みは楽しかったようです。
見たところ皆さん普段通りと同じ事をしている様に見えましたけど、使命感や義務感でやる事と自由に時間を過ごした事の違いなのかもしれません。
◇
深夜、皆が寝静まっている頃。
「……レオン様」
人の気配を感じ、手元に置いてあった剣をとって警戒していたレオンはシスイの声に安堵して剣を置く。
「シスイか……どうした?」
「……周囲に人の気配がいたします。巧妙に隠しているようですが、これは私と同じ斥候か闇の稼業の者かと」
「そうか……逃げられると面倒だ。砦の中で仕留める。他の者にも知らせてくれ、それとミレイには誰かをつけておいてくれ」
「……かしこまりました」
◇
「……お嬢様、起きてください」
「……んん、もう朝ですか? でもまだ暗いや……あれ、シスイさん?」
「……何者かが侵入しようとしています。ご準備をお願いします」
「え! 本当ですか!?」
「……お静かにお願いします。侵入して来てから制圧いたしますので」
「すいません……分かりました」
「……こちらには人を呼んでおきますので、そのままお待ちください」
シスイさんが去ってから暫くして私の部屋には動きやすいように軽めの装備を身につけたアレク兄様がやって来ました。
「ミレイ、これから敵がやって来る。恐らく我々を襲うつもりだ。相手は殺す気でやってくるぞ、制圧出来るならそれでもいいが、もしもの時はお前も躊躇するなよ」
「……はい」
兄様が私の代わりにベッドで寝て囮になるそうです。私はオコジョさんと共に静かに隠れています。
暫くすると私の部屋に黒ずくめの格好をした二人組が入って来ました。それぞれ剣を手に持っています。
一人が扉近くに待機してもう一人がベッドに近づき寝たふりをするアレク兄様に剣を突き立てようとしました。しかしその瞬間にアレク兄様は相手の胴に拳を入れました。どうやら気絶したようで崩れ落ちて動かなくなりました。
残りの一人が兄様に暗器か何かを投げました。それと同時に踏み込んで素早く近づき兄様のお腹に剣を突き立てようとしましたが、兄様は最初に投げたかられた暗器を身に付けていた籠手で弾き、突きを半身をそらして避けると剣の持ち手を掴んで捻り投げました。そして一緒に回転してそのままお腹に肘を入れて気絶させました。
「ミレイ、もう大丈夫だ。大した奴らではなかった。この程度の者なら怪我人もいないだろうが様子を見に行こう」
流石はアレク兄様です。
相手に何もさせずに捕まえる事に成功しました。二人とも大したことがない者達で、一人目は寝ていると勘違いしてを確実に殺せると思い込んだようで油断していて無防備になっていました。
二人目は一人目がやられた瞬間に逃げ出していれば無事に逃げ出せていたかも知れませんが、その力量差も分からずに正面から向かって来たので簡単に片付いたようです。
気絶した二人組を逃げられないように縛り上げて、とりあえず廊下に放置しておきます。あの様子だと他の人たちも平気でしょう。
「オコジョさんもう大丈夫、安心して眠っていてください」
「……キュイ」
部屋から出るとお父様達も敵を捕まえたようで廊下に投げ捨てていました。少し乱暴な気もしますが人を殺そうとしたのですから仕方ありませんね。
家の外に出るとシスイさん達が捕まえた敵を縛り上げて集めていたので、アレク兄様が先程気絶させた敵も連れてきました。
「離れていろミレイ」
私に離れているように言い、何の目的で私達を襲って来たのかを問いただす為にお父様が気絶している者の一人の顔に水をかけ目を覚まさせました。
「貴様は何者だ? なぜ我々を襲った?」
「……」
「質問に答えろ」
「………」
黙り込み質問に答えようとしない為、シスイさんがお腹に拳を入れてから剣を首に当てもう一度質問を繰り返しました。
「……命を狙われる理由なら心当たりがあるだろうが貴様らには」
「……王国からの追っ手か?」
「……大物からのご依頼だ、俺たちを消しても次々と刺客が現れるだろうさ、ざまーないぜ! ハッハッハ」
開き直ったのか、先程の様子からはうって変わって話し始め笑い出しました。
少し離れた場所でその話を聞いていた私はエルドラン王国から追っ手が来たという話に少なからずショックを受けてしまいました。
覚悟はしていましたがやはり現実に生まれ育った国に命を狙われるのは辛いものがあります。本当に自分がエルドラン王国から出たんだという実感を今になって味わった気がします。
「……そんなに気を緩めていると長生きできませんよ、お嬢さん」
突然背後から聞き覚えのない男の声が聞こえました。襲撃してきた者達があれで全てだと思い込んで気を抜いていたのか、私はすぐ背後にいた男に気がつきませんでした。
距離をとる為に動こうとしますが……
「さようなら」
尋常でない殺気を感じると同時に背中に僅かな衝撃を感じると目の前が霞んで闇に包まれていきました。僅かにお父様たちの声が聞こえましが全てが闇に包まれて意識を失いました。
それぞれの話にタイトルをつけました。これから内容を見直していこうと思いますm(_ _)m