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第18話 黒の砦

「今日もここを住みやすくしていけばいいですかい大将」


「ああ、頼むシド、だがここはあくまでも仮の拠点だ、そこまでこだわる必要はないぞ。私はアレクとシスイと共に北がどうなっているのかを確認してくる」


 ご先祖様が住んでいた土地への目印となる黒い巨岩にやって来た翌日、お父様達はさっそく言い伝えにある土地を探しに北に向かっていった。

 お父様たちに付いていきたいところだが私にはまだ早い。残った人達で拠点を住みやすいようにしていく。ここに定住する訳ではないからあまりこだわるつもりはない。


「さてやるかぁ、俺は他の巨岩に手を入れていくから他の奴らは部屋の内装を良くしていってくれ、土魔法が使える者は他にしてもらいたい事がある……奥方様、ミレイ様よろしいですかい?」


「はい、私も手伝います」


「もちろん手伝うわ」


 私とお母様も土魔法が使えるので手伝う。私達が了承するとシドさんはマクスウェルさんに視線を向ける。


「俺は眠いので嫌だ」


 マクスウェルさんは頭を掻きながら自分に視線を向けるシドさんに断りをいれた。それを聞いたシドさんは大きくため息をついた。



「オメェの意見なんて聞いちゃいねぇぞ、マクスウェル」


「あっ! それは差別だぞ! よくないな……シドさんともあろう方がそれでは下の者に示しがつかない! ここは俺の意見も聞くべき「マクスウェル」はい、手伝います!」


 どうやらマクスウェルさんには問答無用で手伝わせるつもりだったようだ。マクスウェルさんがシドさんに苦情を言っているとお母様が笑顔で名前を呼んだ。するとマクスウェルさんはピンと背筋を伸ばして手伝うことを了承した。


 誰にでも優しいお母様ですがマクスウェルさんには厳しいような気がする。師匠と弟子の関係だからかもしれない。本当に嫌だったらお母様から離れていくはずなのでそれが二人にとって当然の関係なのかもしれない。



 シドさんが他の岩山に手を加えている間に私達は巨岩の周囲の地面を慣らしていく。それほど難しい作業ではないので私にも手伝うことが出来る。だがシドさんやお母様との差は明確に出てくる。


「この丘にも道を作っておいた方が良いでしょうか?」


「そうね、その方が馬車や荷車も登り下りしやすいしね。真ん中に道を作っておきましょうかマクスウェルお願い」


「面倒な「マクスウェル」了解です!!」


 馬たちも走りやすいように地面をあまり固くしすぎないように調整しながら土魔法を使い、巨岩がある丘の上から下へ向かって道を作っていく。

 


「此処まで来る道も全部通りやすいようにしたら他の方達も来やすいですね」


 沼地の手前辺りから道が出来ていたら馬も通りやすい。道に迷うこともないため他の方達もこの場所に来やすくなるだろう。


「そうね、その内マクスウェルにやらせましょうね」


「……本気かよ」


 此処まで来るまでの道のりを想像したのかマクスウェルさんは嫌な顔をした。そんなマクスウェルさんの表情を見たお母様は満面の笑みを向ける。


「本気よ」



 ◇



 巨岩の周囲の整地を終えた私とお母様は井戸を作ろうかと話し合いをしていた。仮の拠点なのでそこまでする必要はないかもしれないが井戸があった方が便利なのは間違いない。


 そんな話をしていると巨岩に手を加えることにひと段落したシドさんが私達の元にやって来た。


「井戸を作るのは慣れていないと難しいから俺が作りやす。見ていてくだせぇ」


 そう言うとシドさんは井戸作りを始めた。本格的な村づくりを始めたらまた作ることになるだろうからしっかりと作り方を学ぶ。

 水が出そうな場所を探して土魔法で穴を掘っていき、周りが崩れて生き埋めにならない様に周りを固めながら慎重に掘り進めていく。


「シドさん何かお手伝いできることはありませんか?」


 深く掘り進めるとやがて土に水気が多くなって粘土状になってきた。段々と泥水が増えてきているように見える。


「そうだなぁ……この濁った水を取り除いてくれると助かりますわ」


 シドさんに手伝える事を指示してもらい、泥水を水魔法で取り除いていく。

 更に掘り進め砂利が多くなって来た所で、石を砕いた物を小さい順に入れていき井戸の内部は完成した。


「よし後は囲いと屋根をつければ完成だ」


 後は井戸の中に枯葉や雨水などが入らないように囲いと屋根をつけて完成した。

 後は時間が経って水が溜まったらもう一度浄化すれば使える様になるそうだ。


「魔法使いは本当に凄いですね。あの岩山も住めるようにして井戸も作って、普通の人なら数日掛かっても出来ませんよ」


 ディオンさんがそう言って笑顔を見せながら声をかけてきた。確かに魔法がなかったら何日もかかってしまうだろう。

 魔法を発動させてくれているという精霊には感謝しなければならない。


「本当に頼りになります」


「魔法使いじゃなくたって頼りになるだろうがよ、ディオンお前もな、それに大将やセバス殿を見てみろや、あの方達と本気で戦うことになったら俺は逃げるね」


「私もですよ」


 もしもお父様やセバスのような力の持ち主と戦うことになったら逃げるかもしれない。いや、絶対に逃げる。まあ、そんな人に目を付けられたらもう諦めるしか無いだろうが。


「自分ができる事をやりゃあいいだろ、大将だって一人で全てが出来るわけじゃないしなぁ、その為に俺たちがいるんだからよ」


「流石シドさんいい事を言う、まさにその通りだ!! だから俺は皆んなを頼っているんだ。さぼっている訳じゃない。だから俺は部屋で寝る事にするから後は「マクスウェル」冗談です!!」


 整地を終えた後、井戸作りをする私達の直ぐ近くに座っていたマクスウェルさんが話に便乗して休もうとしていた。だが「貴方にはまだ仕事があるでしょう」とお母様に連れていかれてしまった。私とシドさんに助けを求めるように手を伸ばしてきたが目を背ける。



 巨岩に近い木は森の奥が見やすくなるように切り倒して内装に使うように加工し、端材は薪に使うように集める。


 そろそろお昼ご飯の為に休憩な皆さんも入るためオコジョさんの怪我の様子をティナさんに診てもらうことにした。


「ティナさん、オコジョさんの怪我の具合はどうですか?」


「見てみましょうか」


「キュイ!」


 ティナさんが薬を塗って包帯を巻いている足に触れようとするとオコジョさんは嫌がって暴れて触らせないようにする。


「ダメですよ。足に薬を塗ってくれたのはティナさん何ですからそんな態度をとったら、早く歩けるようになりたいでしょ?」


「……キュ」


 そう嗜めるとオコジョさんは仕方ないという仕草をして大人しくなった。素直にティナさんに足の様子を見てもらっている。


「大分良くなって来ていますね。もうすぐ歩けるようになるでしょう。薬を塗り直して新しい包帯を巻いておきますね」


「ありがとうございます」


「それにしてもさっきの反応といい、凄く頭の良い動物なんですねぇこの子は」


「そうみたいですね、私達の言葉を理解しているように見えます」


 少し頭が良すぎる気もするが犬も人の言うことを聞くし、馬も人の気持ちを理解し感じとる事が出来るというから考えすぎる事もないと思うことにした。


 ◇



「流石だなシド、もう砦のようじゃないか」


 昼過ぎになってお父様達は帰ってた。

 先程襲ってきたゴブリンや他に危険な魔物などは近くにはいなかったらしい。

 巨岩が住みやすくなっているのを見たお父様がシドさんの事を褒めている。


「褒めすぎですよ大将、見晴らしのいい展望台といった所でさ」


「これで十分だ。巨岩の上から見張りも出来るし……これならゴブリンの大群が攻めてきても戦えるな」


「……それはどうですかねぇ……ぶっ壊されたりして……」


「お前は……素直に褒められろシド」


 お父様から褒められるシドさんだが、素直にその言葉を受け入れようとはしない。

 シドさんは褒められると背中がむず痒くなるから苦手らしい。実際今も背中をぽりぽりとかいている。


「それとその東の巨岩の向こうに川を見つけたぞ、魚もとれそうだ」


 それは良い知らせだ。食料を集める際にも便利になる。ここは目的地を見つけるまでのいい拠点になりそうだ。

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