第17話 目印の巨岩
「そろそろ着くぞ、あの辺りだ」
ゴブリンを倒してから三時間ほど進むと徐々に木々が少なくなってきた。それからしばらくして草原が広がる丘に出た。
膝あたりまで伸びる草が生い茂った丘を上がっていくと平坦に広がった場所があり、そこには黒く巨大な岩が三つそびえ立っていた。その位置を見れば確かに綺麗な三角形になっている。
「やっとここまで来れたな……目的の場所はこの北にあるらしい」
……北?
「ですがお父様……北には山々があの崖は登れそうもありませんが」
北には森が広がっていてその奥にはそり立つ壁のような山々がそびえ立っている。頂上は雲で隠れており窺い知ることは出来ない。あの山を越える事など無理なのではないだろうか。少なくとも私には無理だろうし、馬を置いていかなければならないのは私にも分かる。
「……何か方法があるのだろう……そこへ至る道があるのかもしれない」
確かに……言い伝えが嘘な訳がありません。
信じないといけませんね。
「よし……ここを目的地を探すまでの最後の拠点としよう。シド出来るか?」
「任された大将、やっと俺の活躍できる時が来やがったか」
シドさんは戦闘工兵で、地形を利用して味方を守るための陣地を構築したり、橋や道路を作ったりすることが得意と聞いている。
戦闘はもちろんのこと、本人が言うには攻めよりも守りが得意ということだ。土魔法が得意でここまで来る間にも馬車が通りにくい地面を整地したりとサポートしてくれていた。
ついて来てくれた兵士の中では一番年上で彼等のリーダー的な存在である。
先程も戦いながらも馬の多くを土魔法を使いながら守ってくれた。
私も幼い頃から知っていて、性格的にはおおらかで頼り甲斐のあるおじ様という感じだ。口は少し悪いですが仕事はしっかりとこなすタイプでギムルさんと少し似ている。
ギムルさんの方が口は悪いですが。
いつもくわえ煙草のような者を吸っているので昔、注意した事があったが身体に害のある物ではないそうだ。薬草を包んだものを煙草のようにしているだけだそうでむしろ身体には良いらしい。「兵士は身体が資本だからな」と言っていたのを今でも覚えている。
「ここの岩は内部もしっかりしているようだしなぁ、今日は大将達の家と俺たちが寝泊まり出来るようにしていくからな」
シドさんは土魔法を使い北の岩の内部を住めるように作り変えていく。
「ミレイ必要になりそうな物を出してくれ」
【次元収納】に入れていた資材を取り出す。私の次元収納は他の人よりその容量が大きいためこの旅に必要になりそうな物を沢山収納している。
そこにはお父様達が愛用している武器なども入れてある。ギムルさんにもらった短剣も今は次元収納の中、早くあの短剣に見合うだけの力をつけたいものだ。
次元収納は珍しい魔法ではあるがお母様が使えるおかげなのか私も使用することが出来る。この魔法は非常に便利ですが万能という訳ではなく、効果は人それぞれでその中に入れられる物は限られている。
時の流れが緩やかで物が劣化しにくいが食料などは時が経てば腐ってしまう。
似たような効果を持つ魔具もある。アイテムボックスと呼ばれる物で、その効果は千差万別、そこは魔法と変わらない。貴重な品で誰でも持っている訳ではない。
お父様も幾つか所持しており、使えそうな資材を出している。
私達はシドさんから指示を受け木材に良さそうな木を切り倒していき、生活するのに必要になりそうな物を作ってくことにした。といっても私はテーブルやイスも作ることが出来ないので気を切り出すのがメインとなる。
「——ふう疲れたぜ、戦闘の後だからキツイわ。とりあえず形は出来たか……レオン様、如何ですかい?」
「流石だなシド……良くやってくれた、皆もお疲れ様」
「何言ってるんですかい大将、まだまだ始めたばかりですから、もっと期待していてくださいよ」
◇
「ここが私の部屋ですか、良いお部屋です」
部屋自体はあまり広くはなく、まだ何もない為殺風景だがやはり落ち着ける場所が出来るのは嬉しい。
「オコジョさんここが当分の間、私達が住む場所ですよ」
「キュイキュイ」
あまり奥に部屋を作ると息苦しくなるということで螺旋を描くように階段が作ってあり、登っていくと最初に物置部屋、食料庫、その後が広間、あとはそれぞれの部屋で屋上まで続いている。
今日はとりあえず目的地を発見出来たお祝いということでいつもより豪華な食事が出された。
私も手伝おうと思ったのですが……料理はまだ勉強中なので、具材を切っただけで後の味付けや何やらはセバスとメアがやってくれた。
作れない訳ではありませんよ?
「皆んな、よくここまで頑張ってくれた。突然王国を出ることになったが本当によくついて来てくれたな、感謝している」
とりあえず私達の目的地であるご先祖様が住んでいた土地への目印を発見出来たこともあり、突然ながら国を出た私達に付いてきてくれた皆さんにお父様がお礼を言った。お礼を言うだけでは足りないぐらい彼等には感謝している。私達のために母国を捨てることになったというのに、今でも変わりなく慕ってくれているのだから。
「一刻も早く先祖から言い伝えられている場所を見つけよう。一般の民も呼べるような村を作れればいいな」
早く形にして沢山の人に来てもらいたい。
機嫌が良いからなのか普段よりも良く喋るお父様の話を聞いてから、見張りをしてくれているマクスウェルさんとキールさんに料理をもっていく。
「おっ、ミレイ様、飯ですか、ありがとうございます」
「お嬢様、感謝致します」
マクスウェルさんは魔法使いでお母様の弟子である。お母様が冒険者をしていた時に拾ったと言っていた。
彼は有能な魔法使いで様々な魔法を操る。私も何度か指導してもらったことがあるのだが、マクスウェルさんはお母様に匹敵する魔法使いなのではないかと思っている。本人はそれを否定していたがお母様に準ずる実力は持っているはずだ。
優秀で何かあった時には頼りになるが普段は怠け癖のあって少し不思議な面白い人だ。
キールさんは弓兵で氣を矢に乗せて射ち敵を打ち抜いていく。
ゴブリンとの戦いでも馬や馬車に近づく敵を射抜き、ゴブリンを指揮していたナイトやメイジの多くも近づく前に倒し、相手を混乱させてた。
凄く真面目な方で忠義心が厚く、フリーデン家がエルドラン王国に仕えるようになってからずっと支えてくれている一族の出身で、今回も一族を代表してついてきてくれることになったらしい。
「フリーデン領には凄い人が沢山いた気がします」
思わずそう呟くと、それをキールさんが聞いていたようで応えてくれた。
「ミレイ様、英雄の元には強者が集うものです」
「英雄……お父様の事ですか?」
「勿論レオン様もです。ミレイ様のお爺様も素晴らしい方でした。フリーデンの一族は英雄と呼ばれるに相応しい方々が多くいます」
お爺様は私が生まれる前に帝国との戦争で亡くなったと聞いている。とてもお強かったらしく戦死するなんて誰も想像していなかったらしい。
お父様が一度も勝つことが出来なかったと言っていた。あのお父様が、ぜひとも会ってみたかった。
「そうなんですか……」
「ミレイ様もその素晴らしい血を受け継いでおります」
「……」
お父様も兄様達も凄く強くて頼りになる。確かに英雄と呼ばれるに相応しいのかもしれない。
ですが私は……
「ミレイ様、無理に英雄になろうとする必要はありません。なろうとしてなるものでもありません。私達が支えたいと思った理由はそこではないのですから、かつては力が強くない方達もいらっしゃったのですよ」
「そうなんですか?」
「ええ、ですがその方達も多くの人々に慕われ愛されていました。それだけの優しさと心の強さを持っていました。人と比べてはなりません、自分がどう生きるかが大事なのです」
「キールさんありがとうございます」
貴重な話を聞かせてもらったお礼を言いその場を離れる。
「オコジョさん今日はお肉を持ってきましたよ、食べてください」
「キュイーン」
やはりオコジョさんは肉が好きだったようだ。至福の表情をしながら肉を食べる姿が可愛らしい。
それを見ながらキールさんが言っていた事を思い出す。無理に英雄になる事を望んでいるわけでは無いと、それでも私はお父様達のように守りたいと思った者を守る事の出来る存在になりたい。それだけは諦める事は出来ない。
◇
「キール、ミレイ様にはまだああいった話は難しいんじゃないか?」
「……そうかも知れない……だがフリーデン家の人間は頑張りすぎる。今のうちに無茶をする必要はないと思っていただいた方がミレイ様の為になるのではないだろうか」
「そうだな……だが、変わらない気がするがな」
「分かっている……変わらないからこそのフリーデンだ……だから心配なんだ」
「だが前よりは危険は減っただろう。また違った危険はあるかも知れないが今度は何かあったら逃げてもいいんだから、ある程度生活が安定したら楽し放題だろ」
「お前はぶれないな」
「当たり前だろ、王国という余計な重荷はもうないんだ。フリーデン家と自分の為だけに働いて何が悪い」
マクスウェルはそもそもエルドラン王国の出身ではないためフリーデン家と領民に対してはともかく国に対しての愛着は皆無であった。
「そうだな、その通りかもしれない。だが私にはお前の様な生き方は出来んだろうな」
「お前はお堅いからな」
「お前が自由すぎるんだ、あまり目に余る様だと奥方様に怒られるぞ」
「……それは困るなマジで怖い」
「奥方様を怒らせるのはお前ぐらいなものだよ」
登場キャラの口調を変えていこうかと考えています。まだ考え中で決めてはいませんが、突然の変更でキャラのイメージを損なう事があったら申し訳ありませんm(_ _)m




