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第15話 閑話 新たな領主

「ルザールとエストを至急会議室に呼んでくれ」


 国王との話し合いの後、急ぎスレイド伯爵領へと舞い戻ったルドルフ・フォン・スレイドは息子であり後継であるルザールと弟であり重臣のエストを呼び出した。



「どうされたのですか父上、国王陛下からの呼び出しで王都に行っていたのではないのですか?」


 館内の自室にいたルザールはいち早く会議室へ向かい、父親であるルドルフに何かあったのかと尋ねた。国王に呼び出されたにも関わらずあまりにも帰りが早いことを不審に感じたからだ。しかしエストが来てから話すとそれを制す。



「兄上ただいま参りました」


「揃ったな……これから重大な話をする。心して聞くように」


 珍しく国王に呼び出されたと思ったら急に戻ってきたルドルフ、彼が重大な話をすると聞いて、何か悪い知らせがあるのかと二人は息を飲んだ。真剣な面持ちでルドルフの言葉を待つ。


「国王陛下よりフリーデン伯爵領を新たに治めるに足る人物はいないかと問われ、エストお前を推薦した」


 突然の話に困惑するエスト、急に領主に推薦したと言われても困るのは当然である。



「私が……フリーデン伯爵領をですか?」


「レオン・フリーデンから国を出ると報せが来たことは話したであろう。まさかとは思ったが彼は国王陛下の前でそう宣言したそうだ」


 その時の状況を聞いてエストは耳を疑った。

 伯爵である者が自ら国を出ると国王に宣言するなど聞いたことがない。それに謁見の間で暴れ近衛兵を倒して国王に剣を向けたなど、まるで物語のような話だ。


「なんと大それた事を……いや、流石と言うべきか……」


「……父上、話は分かりました。しかし叔父上は我がスレイド家にとって欠かせない人です! それに彼処は……」


 フリーデン伯爵領がどれだけ危険な場所なのかを知っているルザールは、叔父であるエストが領主となるのを反対した。


「その通りだ、エストの代わりはいない……それに彼処は他の腐った貴族達やその息のかかった王国軍の将からも目の敵にされている」


「ならば!」


「お前はフリーデン領がこの国にとってどれだけ重要な場所かは分かっているな?」


「……はい」


「その土地を信頼出来る者を推薦して欲しいと私におっしゃったのだ。その意味が分かるか?」


 その言葉を聞いたエストはその真意に気がついた。大臣などの要職を務める貴族達ではなく、自分の兄にそれを尋ねた理由に。


「兄上、それは……まさか……」


「そうだ国王陛下が崩壊しかけている我が国の実情に気づかれた……フリーデンの、レオンのおかげで……そしてそれを正すと申されたのだ」


 エストもまたルドルフと同じようにやっとこの時が来てくれたかと万感の思いを抱いた。グッと拳を握り締める。


「国王陛下が……レオン殿の……」


「そうだ、我らは彼等に何もしてやる事が出来なかった。それにも関わらず彼等はこの国がやり直す機会をくれたのだ」


 ルドルフとてフリーデンの為に、国の為に何もしなかった訳ではない。


 国王へ不当に扱われる者達についての陳情書を出したり国王に面会を申し込んだりもした。王城で働いていたスレイド領出身の者に働きかけた事もあった。

 しかし政治を司る重要な地位を全て占めていた者達にそれを全て潰されてしまった。


 王城で働いていた者も厳しい扱いを受け左遷され、奴等の息のかかった王国軍の将との関係が悪化し領民へも被害が及びそうになってしまった。

 あまりの国の中枢の腐敗具合にクーデターを考えなかった訳ではない。

 しかし内乱となれば他国はそれを好機と考えて攻めてくる。他の真っ当な貴族達も仕方ないのかと諦めるしかなかった……



「私に……私に出来るでしょうか?」


「当たり前だ。もし私に何かが起きたとしてもお前がいるから安心していた。お前がいればスレイド領は安泰だと。それだけの能力がお前にはある」


「兄上……分かりました。私はフリーデン家の跡を引き継ぎます」


「……よく決断してくれた。安心しろ、陛下が王国軍からお前の為に兵を派遣してくれる。それに領地の拡大、税の免除もあるだろう。我々も最大限の支援をする」


「それにルザール、お前にも色々とやって貰わなければならない事がある」


 二人の話を黙って聞いていたルザールはこれから王国全体が変わると聞き考え込んでいた。そして父親から自分にもやらねばならぬことがあると聞いて緊張した面持ちになる。話の流れから重要な役割と推測できたからだ。


「……何でしょうか父上」


「私は軍務大臣になる事が決まった」


 その言葉を聞いてルザールは目を見開いた。叔父がフリーデンの地を任されるのは名誉なことだ。だが有能な叔父がスレイド伯爵家から抜けるのは痛い。そう考えていた矢先にスレイド伯爵家現当主である父親が軍務大臣を務めると聞いたのだ無理もない。


「ち、父上が軍務大臣に! それではこの領地は!?」


「安心しろ直ぐに引退する訳ではない、だが陛下から軍務大臣に任命されたなら当分はこの地には戻ってこれない。ルザール、お前にはその間の代理をやってもらう事になる…領主になる心構えは出来ているはずだ、その為に私やエストの側に置いて学ばせていたのだからな」


「……お任せください父上」


「エスト、私は軍務大臣として王国を、そしてお前を支える。フリーデン家が担わされていたものをそのままお前に負わせる真似はしないぞ」


「兄上……」


「私が軍務大臣になれば国を蝕んでいた奴等の息のかかった王国軍の将や近衛兵は一掃する。有能な者を正しい地位に戻すことになる。さすれば帝国にも魔物にも対抗する事は出来るはずだ」


「父上、叔父上、命を粗末にするような真似だけはしないでください」


「分かっている。それとエレナを学園から呼び戻す事にする。人質にでもされたら私は動けなくなるかもしれん。ルザールも身辺警護には念を入れておけ、私も信頼できる者を連れて行く」


 自分達の身に害が及ぶかもしれないと腐敗した貴族達が気付けば何をするか分からないと娘のエレナを呼び戻す事にしたスレイド伯爵。


「分かりました。叔父上をフリーデン領へ護衛する者達とエレナを護衛させる者達を準備させておきます」


「私が軍務大臣になる事と、エストがフリーデン領を治める事を他の重臣達にも伝え、それが済み準備が出来たら直ぐに出発する」



 ◇



「エスト・フォン・スレイド準男爵、そなたを元フリーデン領の領主に命じる。そなたを子爵とし、新たな家名オルドルを授ける。エスト・フォン・オルドル、新たな領主としてエルドラン王国を守り、領民を守る者となるのだ」


「我が命に代えましても」



「そしてルドルフ・フォン・スレイド伯爵、そなたを軍務大臣に命じる」


 突然の発表に周りの貴族達がざわつき、大臣の一人が国王にその説明を求める。


「陛下、我々には何の相談も」


「ああ……それは申し訳ない。だが、今は軍部の実情に詳しい者が必要だ。彼は王国軍の将達にも顔がきく、それに新しく領主となったオルドル卿と親しい間柄である者が軍務大臣になる方が都合がいいのだ」


「そなた達ほどの者達なら分かっておろう、コリンズ侯爵のやり方に不満を持つ将達が多かったようなのだ。このままでは他国に弱みを見せてしまう」


 反論が出来ない言葉で納得させる国王。決して周りの者達を信頼していない訳ではないという風に話し不信感を和らげる。今の段階で斬り崩しにかかっていることを悟られるわけにはいかなかった。彼等にはそれだけのチカラがある。


「……陛下、出すぎた事を申しました。お許し下さい」


「いや、この国を思っての事だろうからな、構わん」


「軍務大臣として、頼むぞルドルフ」


「我が命に代えましても」


(この国の膿を一掃する為に我が命をかけてお仕えいたします陛下)



「エスト頼むぞ、お前の直属の部下達で今回ついて来られなかった者達も準備が出来次第そちらへと向かわせる」


「はい兄上、王都は敵地の真っ只中……私より危険かもしれません。お気をつけ下さい」


「ああ……そうかもしれんな、だが近衛は全て奴等の影響下にない優秀な者たちを選ぶつもりだ。お前は自分の領と領民達の事を考えて最善の行動をとっていけばいい」


「分かっております兄上、そろそろ行って参ります」


「ではまた会おう」



 ◇



 夜中、とある邸宅にて



「糞っ、後手に回っている」


 苛立ちを隠せない様子の男性、手に持っていたグラスを壁に叩きつける。

 他の者達はそれを特に諌めることもしない。彼等も頭にきているのだ。


「ああ、だが今回は仕方がない。コリンズ侯爵の事を言われては返す言葉がない。彼に落ち度があったのは事実だ」


「厳しい立場に置かれたコリンズ侯爵には悪いが今は我慢してもらおう。そのうち我らで引き上げる事も出来るだろうからな」


「ルドルフ・フォン・スレイド……奴を此方に引き込めればな……」


「ですが安易には動けません。彼は名ばかりの伯爵ではありません……危険すぎます」


「今は様子を見るほかないか……」


「フリーデンの方はどうなっている?」


「既に追っては差し向けておきました。じきに報せが届くでしょう」


「……」


「良い報せが来るのが待ちどうしいな」


 彼等の話し合いは夜遅くまで続いた。


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