第14話 怪我をした小動物
お父様達が目印である巨岩を見つけるまでは氣を操る訓練をしたり食材を探して周辺を散策する日々が続いている。毎日新しいこと知ることが出来ているため私個人としては充実している。
「どうでしたか?」
「それらしき巨岩は見当たらなかった。それと、東は魔物が多いな、かなりの数のゴブリンの群れもいた。あの群には王がいるかもしれないな、何かを探しているようだったが……」
ゴブリンは単体ではそれほど強敵ではないが群になるととても恐ろしい魔物に変わる。そして群れが大きくなるとそこに王が誕生することがあるという。王がいる群れは統率がとられ国を滅ぼすまでに至る場合もあるという。
「西もです。強い魔物も多かったですし、巨岩は多数ありましたが……それぞれが離れて点在しておりました」
お父様達とセバス達が調べていた方面には今日も目的の巨岩はなかったらしい。そしてやはり強力な魔物が多いようだ。セバスが強いという魔物なら相当のチカラを持っている筈だから恐らく今の私では敵わない。
「どうやらカイルたちも戻ってきたようだな」
兄様達は少し遅れて戻ってきた。心なしか表情が明るいように見える。もしかしたら目印を発見したのでしょうか? そうだといいのですが、
「北にそれらしき巨岩がある場所を見つけました。開けた場所にあり、魔物もあまりいないようでした」
カイル兄様とシエル兄様はそれらしき場所を見つけたらしい。まだ確定したわけではないが皆は歓声を上げた。二人が見つけてくれた場所が目印であれば一歩、いやそれ以上に目的地に近付くことになる。
「そうか……よく見つけてくれた。明日はそこを確認に行こう」
お父様はどこか安心したようにも見える。最悪の場合を考えていたのかもしれない。
「お父様、村になる場所が見つかって住める状態になったらすぐにこちらに来たい人達を呼ぶんですか?」
「そうだな……出来たら呼びたいが、あまり多人数は無理だな……」
確かにいくら村が出来たと言ってもおいそれと来れる場所ではない。暫くは周囲の安全を確認しながら生活しなければならないだろう。
それに街の方には案内役と護衛も必要になるでしょうから、慎重に行動しないと、無理をしたら命に関わりますね。
ギムルさんを呼ぶのはまだ先になりそうです。
「そうですか……でも今あの領地がどうなっているのか気になります……」
新しい領主の方は来たのでしょうか?
「そうだな私も気にはなっている。とりあえず村と呼べるほどの場所が出来たら連絡をとってみるか」
「……レオン様、その場合は私が一人で行って参ります」
シスイさんが自分が行って来ると言いました。
「……それは流石に危険ではないか?」
「……いえ、もしこちらに来たい者がいる場合は案内が必要ですしそれには私が適しています。それに街に新たな貴族が来ている場合、他の者は顔を多くの者に知られているので気づかれやすいかもしれません。もしもの時を考えると戦力になる者はこちらに残しておいた方が危険は少ないかと」
「……そうだな……その時が来たらまた話し合う事にしよう。今は拠点探しだ、しっかり休んでくれ」
◇
「では今日も行って来る」
「皆さん気をつけてください」
お父様達は昨日カイル兄様とシエル兄様が巨岩を見つけたという場所の確認に出かけていった。兄様たちは間違いないと確信しているようなので私もそう信じている。目的の目印の巨岩だったらいいのですが、
私がもっと強かったら私も一緒に探せるのに馬や馬車を守る人は必要ですがここには恐らく私を守る人もいます。
……今そんな事を考えても仕方ないですね。
「今日は何をしましょうか?」
「食料はいくらあっても困りませんから、昨日と同じように食料を集めては?」
「そうですね、そうしましょう」
今日はディオンさんとエマさんがついて来てくれました。
動物を狩り、疲れて帰ってくるであろうお父様達のために果物などを集めていく。
「ミレイ様、あまり奥に行かれると危険です」
「御免なさい、もう戻ります——あれ、あれは何かしら?」
夢中になって食料を集めているとエマさんに注意されてしまった。最近は魔物にも遭遇していないため油断していたかもしれない。反省しながらエマさん達の元に戻ろうとすると森の奥に何かが見えた気がした。動きを止めてじっと見つめる。
「「ミレイ様?」」
向かった先にある木の根元には傷だらけの小さな動物が倒れているようだ。
背中が全身が真っ白な動物だ。
胴が長く足が短くて可愛らしい丸い顔をしている。まるでぬいぐるみのよう。
可愛い……
「お嬢様どうされました?」
「可愛らしい動物が倒れていたんです。怪我をしているみたいで」
「見たことのない動物ですね、兄さんは知っていますか?」
「どうだろう……フリーデン領近くでは見たことないな……ミレイ様どうされますか?」
「怪我の手当てをしてあげたいです」
「では、そろそろ帰りましょうか」
私には怪我を治してあげる事は出来ませんがティナさんならきっと、そう考えて野営地へと戻る。
「ティナさん、怪我を見て貰いたいんですが」
「誰か怪我をしたんですか!?……この小動物ですか……体中に怪我をしていますね、見てみましょう」
私の言葉が足りなくて誰かが怪我をしたと勘違いさせてしまったようでティナさんを慌てさせてしまった。
ですがティナさんは優しく動物を見てくれます。その様子を見ているとやはり全身に痛々しい傷がいくつもあります。
「傷だらけですが命に別状はないですね、足の怪我が一番大きなものなのでそれが原因で動けなくなって衰弱していたのでしょう」
「足の怪我は治りますか?」
「はい、大丈夫ですよ。薬を塗っておきましたので直ぐに治りますよ」
「ありがとうございます」
馬車の中に運び、籠に布を入れて寝床を作る。まだ目を覚ます様子はないのでそのまま寝かせておいてあげましょう。
「お父様、皆さんお疲れ様です! どうでしたか?」
「ああ、間違いないようだ、開けた場所に黒い巨岩が三個、それぞれの位置を繋げてみると綺麗な三角形になっていた」
「本当ですか! 良かったです。では明日その場所へ移動ですね」
「ああ、そうしよう準備が出来たら明日出発だ」
「お父様達、疲れたでしょう。今日も食べ物を皆さんと集めて来ました。果物もあったので食べてください」
「ああ、ありがとう」
戻ってきた者達と食事をしながら、目印である巨岩が見つかった事を喜び合う。
その時あの小動物の事を思い出したのでその事をお父様に話す。
「お父様、そういえば怪我をした動物を見つけたんですが怪我が治るまで私が面倒を見てもいいでしょうか?」
「怪我をした動物?」
お父様はその動物を見てからだと言うので馬車へと向かいその姿を見てもらう。きっとお父様も可愛いと言うに違いありません。
「これは……見たことのない動物だな、セバスは知っているか?」
「そうですね……見た所ヤマイタチではないかと……珍しいですね。確かこの大陸の北に住んでいる動物だったはずです。オコジョとも呼ばれていたかと」
「オコジョですか可愛い名前ですね」
「確かその見た目の可愛らしさとは異なり気性が荒かったと思います。しかし、我々に害を与えるほどの動物ではないですから、問題ないでしょう。しかしこの時期は毛色は茶色だった筈ですが……」
セバスが言うにはこの時期は茶色の毛色をしているそうだ。珍しい個体なのかもしれない。 それにしてもこんなに可愛いのに気性が荒いとは。だが野生の動物なのでそれも仕方がない。それでも人に慣れてくれる動物だったら嬉しいのだが、
「そうか……危険がないなら構わないか、好きにしなさいミレイ、だが責任を持ってしっかりと面倒を見なさい」
「ありがとうございますお父様」
足の怪我が治ったら直ぐに逃げちゃうかもしれないですが、お父様の言う通りしっかりと面倒を見てあげようと思います。
お読みいただきありがとうございますm(_ _)m




