第13話 毒物を見つける才能?
沼地を越えてから数日が経過した。焚き火を囲んで食事を始めてしばらくするとお父様が今後の予定について話し始めた。
「ここからは黒い巨岩が三角に位置している場所を探す」
安全と思われる場所を見つけることが出来たのでこの場所を拠点として留まり、目的地への目印をとなる巨岩を探すことになった。
魔の森が近いと言ってもここはその端、そこまで強大なチカラを持つ魔物はいないはずだ。しかし魔物の中には気まぐれに移動するものもいるためお父様達ほどの実力者でも油断する事は出来ない。そのため私は拠点探しに加わる事は許されなかった。
「私とアレクは東、カイルとシエルは北、セバスとシスイは西を調べてほしい。少し開けた場所にあるらしい、それらしき巨岩を見つけたら報告してくれ」
お父様達が目的地への目印となる巨岩を探す間、私も自分にできる事をするつもりだ。
「では行きましょう」
とりあえずこの周辺の安全は確認している為、食材になりそうなものを探しに行く事にした。
私、ティナさん、エマさん、ディオンさんが付いてきてくれるそうなので四人で辺りを探索しに行くことになった。
ディオンさんはエマさんのお兄さんで若手の中では一、二を争う実力の持ち主だそうだ。道中に何度か訓練をしてもらったが剣と盾を使った騎士のような王道の戦い方で凄く勉強になる。近衛兵にはディオンさんのような方がなるべきだと思う。以前見た近衛兵には私でも勝つことが出来るような気がしたから。
歩き出して直ぐに赤く色付いた木の実が目に付いた。
「それは食べる事が出来ます。食べれるかどうか分からない物があった場合は舌で舐めてみて、痺れがあるかないかで確認する事が出来ますよ」
手に取って匂いを嗅いでみると甘い匂いがする。だが食べられるか否かの判断が出来ずにいるとディオンさんが答えてくれた。
成る程、体が勝手に判断してくれるということですか、
「分からないことがあれば私やティナさんに聞いて下さい。毒性の強い物や口の中に傷がある場合などは危険もありますから」
何事も勉強ですね。知らないことを恥ずかしがらずに聞きたいことがあれば直ぐに質問することにしましょう。
「あっ、ここにも見た事のないものが、甘い匂いがするので果物みたいです」
ディオンさんにいい事を教えてもらったのでこの見た事もない果物で試してみることにした。都合のいいことに初めて見る木の実が見つかった。
「お嬢様!! その果物は猛毒を持っております。お口に入れるのはおやめ下さい」
木の実をとって口に含もうとするとディオンさんが大声を上げた。ティナさんが慌ててやって来て詳しい説明をしてくれる。見た目はブドウのようだが口に含んだだけで呼吸困難になってしまう猛毒をもっているそうだ。
ふぅ、危ないところでした。
聞いたことを実践するにもやはり最低限の知識が必要ですね。自分で判断せずに毒があるかだけは先に聞くことにしましょう。
◇
「山で採れる食物はかなり集まりましたね、後はもう少し下った先に川がありましたのでそこで魚を捕って戻りましょうか」
十分に収穫することが出来たため、今度は川で新たな食材を探すことにした。
「はい、そうしましょう」
「どうやって獲りましょうか?」
そういえば今まで魚を自分で捕った経験はないですね。網はないですし、釣り道具もありません。あとは……槍?
「紐や針の代わりになるものはありますので、その辺で良さそうな木を切って釣りをしましょうか」
そんなことを考えて首を傾げているとディオンさんが周囲のもので釣竿を作ろうと提案してくれた。道具がないなら作ればいいという発想はなかった。
「この木などは良さそうですね」
エマさんが釣竿に適した頑丈でしなる植物を見つけてくれた。枝を切って釣竿を作っていく。釣り糸の代わりとなるものは収納してあるため問題はない。
初めての釣りですがビギナーズラックという言葉を聞いたことがあるのでもしかしたら沢山釣れるかもしれません。
◇
「……」
沢山釣れると考えていたがそう甘くはなかった。周囲を見渡してみると釣れていないのは私だけ、ディオンさん達は沢山釣っているのに私には釣りの才能がないのかまったく釣れない。餌を突いてくる気配すらしない。
「お嬢様、シスイが話していたでしょう。緊張や力みは伝わると、魚にも伝わっているのですよ。初めて釣りをする者によくある事です」
魚が釣れなくて落ち込んでいるとディオンさんがアドバイスをしてくれた。確かにシスイさんもそのような話をしてくれた。
「やっと釣れました!」
「おめでとうございますお嬢様」
「そろそろ帰りましょうか、あまり遅くなると奥様達が心配されます」
「エマさん、ディオンさんは優しいお兄さんですね」
「そうですね……普段は優しいのですが訓練の時は物凄く厳しいのですよ」
「ディオンさんがですか?」
「はい、ですがそのお陰で私は強くなれましたので感謝しております。私の家系は代々兵士をしておりますが、私は小さい頃は身体があまり丈夫ではなかったのです」
「エマさんが……」
「兵士になろうと稽古をする兄を見て、私もと必死で稽古をしましたら少しづつ体が強くなっていきまして、フリーデンの兵士になる事が出来たのです」
「そうなんですか……」
幼い頃から努力して、こんなにも強くなってフリーデン伯爵家を支えてくれていたんですね。
「私が兵士になると言った時は兄に物凄く反対されました」
ディオンさんが……心配だったんですね。
「それを無視して兵士になったんですが……兄はそんな私とよく訓練をするようになりました。これぐらいで根をあげるようなら辞めろと……今では何も言いませんがね」
本当は兵士などという危険な仕事を妹にはしてほしくはないのだろう。いつ命を落とすか分からないのが兵士だ。それでもエマさんの意思が変わらないことを知って身を守る術を教えることにしたのだ。
「やっぱり優しいお兄さんですね」
◇
「お嬢様、帰りの道中で薬草なども探していいでしょうか?」
ティナさんが薬草を探したいそうなので手伝う事にした。
彼女は薬草を調合しポーションや薬を作る他に、氣を使い人の自然治癒力を高めて体調を直したり怪我の完治を早めたりする事が出来る。
様々な医学知識を学ぶ事で人体の構造や弱点を知り戦闘にも応用することが出来るようになったらしい。
魔物にも通じるものがあるらしく私も基本的な医学知識の習得を勧められた。
本当なら回復魔法を使いたかったらしい。だが彼女は獣人。獣人は魔法を使うのが苦手と言われている。獣人でなくとも回復魔法の使い手は少ないのに魔法の適正を持つ者の少ない獣人が回復魔法を使えることはほぼないといっていい。
「薬草ですか?私も手伝います。学園で本を見て調べましたので少しは知ってるつもりです」
とは言ったものの中々雑草と薬草の区別が付かず見つける事ができない。
「——んん〜実際に探してみると雑草と薬草の違いが分からないものですね」
「そうですね、私は嗅覚が鋭いので匂いで薬草を見つけやすいのですが、様々な植物の中から薬草を見つけるとなると知識だけでは難しいかもしれないですね」
やはり経験がものをいう。経験なき知識は役に立たないことが多い。全く役に立たないとは言わない。だが私は教師ではないのだ。実践出来なければ意味がない。
「あっ、これは薬草のゴモギです。これを調合して薬を作れば止血効果のある薬を作れます。食べる事も出来るんですよ」
「これがゴモギですか、分かりました。探してみますね」
ティナさんに薬草を見せてもらいそれと同じ物を探し始める。すると陽の当たる場所で似たような葉を持った植物を発見した。
「あっ、見つけましたこれですか?」
「それですお嬢様、それ以外にも自分の知識で覚えている物も探してみてください。何事も経験ですから、見つけたら私に聞いてください」
ティナさんにそう言われて学園で調べてこれだと思う物を見つけては確認してもらう。
「ティナさんこれは薬草ですか?」
「お嬢様、それは毒草ですね。これによく似た薬草がありますが葉の形が微妙に違うんですよ」
これは毒があるんですね。
覚えておきましょう。
「じゃあこれは?」
「お嬢様、それも毒草ですね」
「これは薬草でしょ?」
「……お嬢様、それも毒草です」
「これは?」
「……お嬢様、それは猛毒を持っています」
んん〜変ですね、さっきから毒草しか見つけていない気がしますね。この辺には毒草が多いのでしょうか、薬草と毒草、それに食用の食物を探すのは中々どうして、上手くいきませんね。
(お嬢様……ある意味凄いです。これほどの草花が沢山ある中で、的確にしかも死の危険のある毒草を探すなんて……)
「これは如何ですか?」
「お嬢様……それも……いや、こっ、これは、凄く貴重な薬の材料になります!凄いですよく見つけられましたね」
「本当ですか? 良かった」
やっぱりさっき毒草ばかり見つけてたのは偶々だった様ですね。ティナさんに褒められてしまうほどの貴重な薬草を見つけることが出来たので、
「あっ、これはどう?」
「……お嬢様、それは毒草です」
「兄上、ミレイ様は随分と明るくなられましたね」
「そうだな、フリーデン伯爵家の立派な令嬢であろうと気を張っていらっしゃったんだろう。直接お話しする機会はなかったが、幼い頃は今のようによく笑っていらっしゃったからな」
◇
「今日は見つからなかった、これからは暫く此処から捜索していこう」
今日探しに行った皆さんも発見には至らなかったらしい。残念だがそう簡単に見つからないことは分かっていた。根気強く探すしかない。
「ここはもう我々の先祖が住んでいた辺りだろう、この場所で実際に暮らしていたのかもしれないな」
このようなところで……
この辺りは比較的魔物が少ないが開けた平原と違い危ない場所には変わりない。おそらく私たちの先祖は強かったのだと思うが何故このような所に住んでいたのだろうか。
「どうしてこのような所で暮らしていたのでしょうか?」
「当時は小国が乱立して戦争が頻発していたらしい、このような森の中の方が安全に暮らせたんだろう。魔物より人の方が恐ろしい存在だったのだろうな」
お父様が当時のことを教えてくれた。
魔物より人が恐ろしかった時代があったのですか……悲しい話ですね。
今は……どうなんでしょうか……。
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